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第一章

22.新しい友達

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 その日以来、さくらはほぼ毎日、果物と本を持ってドラゴンの洞窟に出かけていった。
 二人で池の前に腰掛けて一緒に果物を食べる。その後、ドラゴンは昼寝、さくらはその横で読書をして時間を過ごすようになった。

 さくらはこの新しい習慣に夢中になった。
 相手は人間でなくても一人で過ごしているよりよっぽど楽しかった。ましてやこのドラゴンは、喋る事はできないが、人の言葉は理解できているようだ。ちょっとした話し相手になる。

 ある日、さくらは横で寝ているドラゴンをしげしげと観察してみた。

 自分の世界のドラゴンは金を好むといわれているが、この世界も同じのようだ。ドラゴンは首に大きな太い金の首輪をしている。そして同じような金の腕輪を四つの足全部にはめていた。体の皮膚は爬虫類の皮膚のようにゴツゴツして硬そうだ。

 今までドラゴンに遠慮して触ったことはなかったが、今日はどうにも気になる。この皮膚は本当に硬いのだろうか? 冷たいのか温かいのか? 
 さくらはそっとドラゴンの背中に触れてみた。とても硬い。岩のようだ。ゴツゴツした背中を撫で、そのまま次は翼を触ってみた。

 その時、ドラゴンが目を覚ました。顔を上げるとさくらが自分の全身をベタベタ触っているのに驚き、慌てて立ち上がると、急いでさくらから離れた。触れられることに慣れていないらしい。

 さくらは驚かせたことを謝り、また自分のそばに座るように手招きした。しかし、ドラゴンは怪訝な顔をして、少し離れたとことに座り直し、そのまま寝そべった。

 嫌がっているドラゴンのことなどお構いなしに、さくらはまた近づいて、体を触り始めた。ドラゴンはちょっと怒ったように顔を上げ、向こうに行くように頭でさくらを押しやった。だが、今度はその自分に向けたドラゴンの顔を捕まえて、目や鼻などをじっと覗き込んだ。

 ドラゴンの目はヒスイのような美しい緑だった。その瞳に自分顔が映っている。頭を見ると爬虫類のような姿なのに耳がある。三角に尖りピンと立っている。
 さくらはふと犬が耳の後ろを掻いてやると気持ちよさそうにする事を思い出し、ドラゴンでそれを実験してみた。
 すると、ドラゴンは今まで嫌がっていたのにじっと大人しくなった。そして気持ちよさそうに目を瞑った。さくらは嬉しくなってたくさん摩ってやった。

 この日から、ドラゴンはさくらに触れられることを嫌がらなくなり、さくらもドラゴンにくっついて傍を離れなくなった。


☆彡


 ある時、さくらはドラゴンに寄りかかって本を読んでいた。
だんだん眠くなってきたので、本を置いて空を見上げた。いい天気で青空に白い雲がゆっくり流れている。その間を小鳥たちが渡っていく。それを見てあることを思いついた。
 ガバッと起き上がると、振り向き、ドラゴンにしがみついた。

「ねえ! 私を背中に乗せて空を飛べる?」

 ドラゴンは気だるそうに顔を向けた。

「私、宮殿から一歩も外に出してもらえないでしょ? お前ならみんなにばれないように外へ連れ出す事ができるわよね?」

 ドラゴンは大きく首横に振った。

「一度でもいいから、お城の外がどんな街並みか見てみたいのよ」

 ドラゴンはもう一度首を振ると、また寝てしまった。

「ねぇってば! お願いだから!」

 さくらはドラゴンの体をゆすったが、まったく顔を上げようとしない。終いには咽の奥をゴロゴロと鳴らし始めた。咽の奥を鳴らすのは怒っている合図だった。

「ちぇ~・・・」

 咽の音を聞いて、さくらもこれ以上は無理と諦めるしかなかった。ドカッとドラゴンの背中に寄りかかると、ふて腐れたまま目を閉じ、そのまま眠ってしまった。

その日の夜中、バルコニーでドスンという物音がした。その音に驚き、さくらは目を覚ました。恐る恐るバルコニーを見ていると、ユラユラ動いているカーテンに月明かりでシルエットがくっきり映っている。

「ドラゴン!」

 さくらは飛び起きて、バルコニーに走った。暗がりの中ドラゴンが座っていた。さくらが近寄ると、ドラゴンは顎で自分の背中を指した。

「乗っていいの!?」

 さくらはドラゴンに飛びつき、背中によじ登ろうとした。しかし、なかなか登れない。ドラゴンが頭でさくらを押し上げてもらい、何とか登ることができた。

「この首輪を持っていい?」

 ドラゴンは頷いた。さくらがぎゅっと首輪とつかむと、ドラゴンは翼を大きく広げた。その光景にさくらは目を見張った。大きな羽ばたき音と風が起こった次の瞬間、もう空の上に飛び立っていた。

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