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第一章
26.不安
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そんなさくらたちが露店を楽しんでいるとき、イルハンはやきもきしながら自分の持ち場についていた。
王妃自体が極秘の存在のため、彼が日常王妃の警護(というよりも監視)に当たっている事を知っている者はごく僅かであり―――普段、彼女が第一の宮殿から一歩も外に出られない状況下であるお陰で、通常の任務の合間をぬって様子を見に行けているのである―――今回も誰にも悟られぬように、通常任務の合間にさくらの様子を見に行かねばならない。
(いつもより警備の数も倍の上、トムテ殿が付いているから問題ないと思うが)
しかもトムテの護衛兵士はかなり腕の立つものを選んでいると聞いている。だから大丈夫だと何度も自分に言い聞かせてはいるが、通常とあまりにも違う人の群れに、この目でさくらを確認しないと落ち着かない。
(万が一の事があっては、絶対にならない)
そう心の中で呟いたとき、
「イルハン隊長。交代時間であります」
同じ近衛隊の部下が走ってきて、イルハンの前で敬礼をした。
「よろしく頼む」
イルハンも敬礼で返し、すぐに中庭に向かった。
中庭に降り、マーケットの入り口の前に立つ。上から監視していたよりもかなりの人混みに感じられる。イルハンは人の群れを押し分け、中へと押し進んでいった。
(どこにいる?)
周り注意深く見渡しながら、どんどん進んでいった。無遠慮に進むイルハンに、何人もの人がすれ違いざま屈強な彼にぶつかり、よろけたり、転びそうになる。その度に、慌てて詫びながら相手を支えた。
相手の方は一瞬ムッとなり、男性であれば文句を言おうと口を開きかけるが、近衛隊の制服を見て慌てて口を閉じ、逆に頭を下げてそそくさと離れる。女性であれば、端正な顔立ちにがっちりした体格の男性に支えられホーっと見惚れる。中にはそのままお茶に誘う女性までいる。イルハンはそれをサラッとあしらい、さらに進む。そしてまたぶつかる。そんなことを繰り返いしながら、中庭の半分辺りまでやってきた。
ここまでくると人混みも落ち着いてきた。混んではいるが人にぶつかることなく、ゆとりを持って歩くことができた。
(ここまでの間に見つけられなかったが、見逃しただろうか?)
イルハンは立ち止まって辺りを見渡した。
(できたら、これ以上先に行って欲しくはないのだが・・・)
この先にもまだ露店は続く。しかしこの先の奥は宮殿の門だ。門は解放されている。当然、門の周りの方が露店の数は多く、賑わいも大きくなる。今うちにさくらを捕まえ、これ以上先に行かないように、そして宮殿寄りのマーケットだけで楽しむように忠告しないといけない。
イルハンの胸に焦りと苛立ちが募ってきた。そんなところに一人の女性が彼に声をかけてきた。
振り向くと、一人の侍女を伴った美しい女性が立っていた。華美ではないものの、一目で高級と分かる清楚で品のあるドレスに身を包み、可憐な顔立ちではあるがどこか儚げな感じのある女性だった。
「リリー様」
イルハンは女性に頭を下げた。リリーと呼ばれた女性は優雅な足取りでイルハンの傍までやってきた。
「お久しぶりでございます。イルハン様」
リリーはイルハンに挨拶をすると、ジッと訴えるような、縋るような眼差しを向けて押黙ってしまった。
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が流れる。イルハンはリリーが口にしていいのか思い悩んでいる内容をすべて理解していた。分かってはいたが、自分からその事を口にすることを避け、相手に任せた。自分でも卑怯だと思わず自嘲した。
「あのお方・・・」
とうとう痺れを切らしたリリーの方から口火を切った。
「あのお方にはまだお会いできないのでしょうか?」
王妃自体が極秘の存在のため、彼が日常王妃の警護(というよりも監視)に当たっている事を知っている者はごく僅かであり―――普段、彼女が第一の宮殿から一歩も外に出られない状況下であるお陰で、通常の任務の合間をぬって様子を見に行けているのである―――今回も誰にも悟られぬように、通常任務の合間にさくらの様子を見に行かねばならない。
(いつもより警備の数も倍の上、トムテ殿が付いているから問題ないと思うが)
しかもトムテの護衛兵士はかなり腕の立つものを選んでいると聞いている。だから大丈夫だと何度も自分に言い聞かせてはいるが、通常とあまりにも違う人の群れに、この目でさくらを確認しないと落ち着かない。
(万が一の事があっては、絶対にならない)
そう心の中で呟いたとき、
「イルハン隊長。交代時間であります」
同じ近衛隊の部下が走ってきて、イルハンの前で敬礼をした。
「よろしく頼む」
イルハンも敬礼で返し、すぐに中庭に向かった。
中庭に降り、マーケットの入り口の前に立つ。上から監視していたよりもかなりの人混みに感じられる。イルハンは人の群れを押し分け、中へと押し進んでいった。
(どこにいる?)
周り注意深く見渡しながら、どんどん進んでいった。無遠慮に進むイルハンに、何人もの人がすれ違いざま屈強な彼にぶつかり、よろけたり、転びそうになる。その度に、慌てて詫びながら相手を支えた。
相手の方は一瞬ムッとなり、男性であれば文句を言おうと口を開きかけるが、近衛隊の制服を見て慌てて口を閉じ、逆に頭を下げてそそくさと離れる。女性であれば、端正な顔立ちにがっちりした体格の男性に支えられホーっと見惚れる。中にはそのままお茶に誘う女性までいる。イルハンはそれをサラッとあしらい、さらに進む。そしてまたぶつかる。そんなことを繰り返いしながら、中庭の半分辺りまでやってきた。
ここまでくると人混みも落ち着いてきた。混んではいるが人にぶつかることなく、ゆとりを持って歩くことができた。
(ここまでの間に見つけられなかったが、見逃しただろうか?)
イルハンは立ち止まって辺りを見渡した。
(できたら、これ以上先に行って欲しくはないのだが・・・)
この先にもまだ露店は続く。しかしこの先の奥は宮殿の門だ。門は解放されている。当然、門の周りの方が露店の数は多く、賑わいも大きくなる。今うちにさくらを捕まえ、これ以上先に行かないように、そして宮殿寄りのマーケットだけで楽しむように忠告しないといけない。
イルハンの胸に焦りと苛立ちが募ってきた。そんなところに一人の女性が彼に声をかけてきた。
振り向くと、一人の侍女を伴った美しい女性が立っていた。華美ではないものの、一目で高級と分かる清楚で品のあるドレスに身を包み、可憐な顔立ちではあるがどこか儚げな感じのある女性だった。
「リリー様」
イルハンは女性に頭を下げた。リリーと呼ばれた女性は優雅な足取りでイルハンの傍までやってきた。
「お久しぶりでございます。イルハン様」
リリーはイルハンに挨拶をすると、ジッと訴えるような、縋るような眼差しを向けて押黙ってしまった。
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が流れる。イルハンはリリーが口にしていいのか思い悩んでいる内容をすべて理解していた。分かってはいたが、自分からその事を口にすることを避け、相手に任せた。自分でも卑怯だと思わず自嘲した。
「あのお方・・・」
とうとう痺れを切らしたリリーの方から口火を切った。
「あのお方にはまだお会いできないのでしょうか?」
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