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第一章

25.好転

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 しかし、思わぬ方向に事態は好転した。
 さくらを不憫に思ったルノーがトムテ博士に相談したのだ。

「私とテナーが王妃様の傍を一時も離れず、お守りしよう」

 こうトムテからの申し出があり、さくらは念願のフェスタを見に行くことが許されたのだ。

 ダロスもガンマも反対であったが、ルノーの必死の訴えとトムテの口添えで「第二の宮殿内でも遠くに行かない」という条件で渋々了承した。

 それでもイルハンに至っては、断固反対を唱えた。

「いくら通常の倍の警備を配しているとは言え危険過ぎます。自分は陛下の側近として世間に顔が知れております。その自分が明らかに一人の女性を護衛するような行動は、その女性の素性が割れてしまう可能性があるため出来かねます。とは言え、自分が護衛できないという事態はありえません」
 
 自分が護衛できないのであれば、一歩も外に出ることは許さないというイルハンに対し、

「だから私が丁度いいのでしょう。私自身に数名護衛が付きますからね。さくら様は私の姪ということで同行していただきましょう。ああ、姪を連れて歩くということにして、私自身の護衛の数も増やしましょう」

 もはや心配はないと言うように、トムテは片手を振った。

「しかし・・・」

「確かに、我が王妃には必要ないことかもしれませんね、我が国のフェスタなど。そのようなことよりも、なによりご無事で末永くこの国に留まっていただければならないお方なのですから・・・。でもそれだけでは、あまりにも不憫ではありませんか。ただでさえご自身が望まれないのに王妃になってくださったお方です。私はあのお方のお気持ちを楽にして差し上げたい。できたらこの国のことも知っていただきたい。好きになっていただきたい。私はそう思いますよ」

 今度は諭すように優しく言われ、イルハンは言い返すことができなかった。

(確かに、この国を嫌いになっては欲しくない・・・)

 そう思い、口をぎゅっと結んだ。

「では、そういうことでよろしいかですかな?」

「承知いたしました。くれぐれもお気をつけて」

 イルハンはそう言うとトムテに一礼をして、去っていった。


☆彡


 フェスタの日は晴天だった。

「うわあああああ・・・・!!」

 さくらは両手を頬に当て、目を輝かせて叫んだ。

「すごい!すごい!すごい!」

 そう叫び名ながら、第二の宮殿の階段の上から、目の前に広がる壮大な庭園を眺めた。

 遥か向こうにある入り口の門から宮殿にまっすぐ伸びる大きな道を中心に、たくさんの露店が立ち並び、中庭が大きなマーッケットに変貌していた。

 普段は立ち入れない宮殿の中庭には、ここぞとばかり、街中の人が押し寄せている。あまりの人の多さに酔いそうだ。ああ、でもこんな人混み何時ぶりだろう!

「もう降りていいですか?」

 興奮冷めやらぬ状態で、トムテに振り返り、マーケットを指差した。

「そうですね、参りましょう」

 トムテはにっこり微笑むと、お先にどうぞと優しくさくらを促した。さくらとテナーは仲良く腕を組み、階段を駆け下りた。二人とも少し綺麗なドレスを着ており、一見ちょっとしたところのお嬢さん二人組だ。
さくらはテナーを引っ張るようにマーケット内に入っていった。

「すごい人混みですね。離れないで下さいね、さくら様」

 テナーは、腕を組んでいるさくらの腕に反対の手をさらに重ねて言った。

「うん」

 返事はするものの、さくらは露店に夢中で、まったくテナーを見ていない。目を輝かしてきょろきょろしているさくらに、テナーは呆れつつも、微笑ましくて頬が緩んでしまう。

「さくら様、このネックレスなんてどうですか?可愛くありませんか?」

さくらを落ち着かせようと、一つのアクセサリーの露店に目を向けさせた。

「きゃー! 超かわいー!」

「チョウ??」

「こっちのイヤリングもー! ヤバーい! めっちゃかわいー!」

「・・・・ヤバイ?・・・」

 テナーはかなり興奮しているさくらの言動に戸惑いつつも、一緒になってアクセサリーを互いの首元や耳元にあてがい合いながら、楽しく露店を見て回った。もちろん、そのすぐそばにトムテが、そしてトムテの護衛が付かず離れずいることを確認することを怠らなかった。

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