感情喪失少女

夢李の逃走作戦

夢李の母親……？

彼女の手を引いたまま僕は夢李の家の前に来た。
「あ、あのさ……やっぱり辞めない？！」
「いや、ちゃんと理由は話すから。」
「え……っと？飴彩君知ってるの…？なんで？」
「良いから僕に任しとけって！」
「あぁ、ちょっと？！」
僕は勢いよくインターホンを押した。
「はーい…」
女の人の声…お母さんだろうか…？
「あの僕…夢李さんのクラスメートの悠崎飴彩って者なんですけれど…」
「……夢李なら入院中ですが…。」
「夢李さんが…ここに居るって…信じます？」
「……えっ……？夢李……が……？」
その途端バタンと扉が開く。
綺麗な女の人が出てきて夢李を見て目を見開く。
「……あんたって子は…馬鹿なの？！
また人様に迷惑かけて！？
あんたなんか出て行きなさいよ！！」
そう夢李に向かって怒鳴ると夢李に近付き頬を叩いた。
パシンッ。パシンッ。パシン。
乾いた音が響き続ける。
何故こうなった？？理解出来ないまま声を上げる。
「ちょっ！？待って下さい！夢李の話も聞いてあげて下さい！」
「良いわ。こんな子と話す事なんてひとつも無いわ！どうせ自分勝手な理由で逃げ出したに違いないわ！」
「だからって、子供の意見聞かなくていい訳じゃないでしょう。それとも自分の娘の話など信用ならない……とでも？」
僕は悪い笑みに浮かべてにんまりと笑う。
何故か僕はやけに冷静だった。
それ故か悪い笑みを浮かべる余裕さえあった。
「もう……良いよ…」
夢李がぽつりと言った。
「……今なんて？」
「もう……良いよって……言ってんの！！」
彼女はそう言うと叫び出した。
「お母様はいつもそうじゃない！！私の話も意見も何も聞かずに自分の予想で全て決めつけて！私の言ってくれたこと理解してくれたことなんて無いでしょう！！私がどれだけ頑張って言葉を伝えようと良く考えて言葉を紡いでもお母様は適当に流すだけじゃない！お母様がそんなんだから私がこんな病気になったのよ！！お母様が私を苦しめ続けたから私がこんな病気になったんじゃない！！私の人生を狂わせたのは紛れもないお母様なのよ！！自覚があるの！？いい加減にして欲しいのよ！私だって人間なのよ！子供は人間じゃないの？！子供だって人間なんだから意思はあるのよ！辛い事は辛いのよ！痛い事は痛いのよ！」
彼女は長く言葉を紡いだせいか息が荒くなっている。
息を整えるとまた彼女は盛大に叫んだ。
「こんな所一生帰ってくるか！！
死んでも帰らない！お母様なんて大嫌い！
貴方は私の悪魔！」
そう叫ぶと今度は彼女が僕の手を引いた。
そして小さく呟いた。
「ごめんね飴彩君…でもあんな所帰りたくないよ…意地でも…ね…」
僕はもう良いと思った。彼女が帰りたくないのなら。無理に帰らす必要は無い。そう考えたのだ。そして僕は言った。
「ねぇ、俺んち来ない？」
この時俺は初めて、僕では無く俺と言った。
そんな俺を見て彼女は一瞬目を丸くしたがすぐに満面の笑みになり言った。
「ありがとう……飴彩君」
この時俺は彼女に惚れた……