転生騎士見習いの憂鬱

鍋底の米

文字の大きさ
5 / 21

演習 《相談》

しおりを挟む
 食べ終えてしばらくした後、おもむろにルーイが口を開いた。

「その…は従魔なんだけど…。従魔が居る人って珍しいでしょ?…魔獣を従えることができる能力が珍しいのには理由があるんだ」

 ルーイ以外には実際に会ったことも無いし、周囲にそんな能力を持った者が居るという話も聞いたことがないくらいに珍しい。

「この能力は制御できれば魔獣を従えることが出来るんだけど…大抵は制御出来る前に死んじゃうんだ。…周りの人も巻き込んで。…だから…珍しいんだ」

 俯いて暗い顔で語る。
 この能力を持つ人は、魔獣が好むフェロモンみたいなものが体から放出されており、制御出来ていないとそれが垂れ流し状態となる。赤子や幼子は当然制御できるはずもなく。魔獣を引き寄せる危険な忌み子として捨てられるか、両親や周囲の人も巻き込み惨事となるか、どちらにしても悲惨な末路を辿ることが多い。
 ルーイの場合、襲ってきた魔獣から両親に庇われた。そしてルーイ自身にも魔手が届く寸前に、後に養い親となってくれた騎士にたまたま助けられたのだ。
 死の間際の親に赤子を託された騎士は、ルーイを守り育てる為に騎士を辞めて冒険者となる。

 そのような経緯を経てルーイは能力を制御できるようになるまで養い親に守られ鍛えられたそうだ。

フランは力を制御できた証で養父ちちが騎士であることを捨ててまで育ててくれた証で、両親が命をかけて守ってくれた証でもあるんだ」

 従魔のフランに対する思い入れが並大抵ではない様子だったのはこういう経験があってのことだったのか。

 なんと声をかけたら良いか分からずただ静かに聞いていた。

「それでその…本題なんだけど…」

 聞き入って忘れてしまっていたが、ルーイが人に心を開かせる何かのことを聞いていたのだったな…

「漏れ出していたフェロモンの魔獣に対する効果は完全に制御できてはいるんだ。…けど、フェロモン自体はまだ少し漏れてて…。それが人間に効果を及ぼしてるみたいで…」

 チラリと俺に視線を向ける。

「その…魅了とか誘惑効果みたいなのがあるみたいで…」

 ええっ?!魅了?!

 想像していたのとは違っていて驚いてマジマジとルーイの目を見てしまう。

「人によって受ける強さも影響も違ってて、大抵の人には『ちょっと好感が持てるな』くらいみたいだし強く効いても告白されて断ったら諦めてもらえる程度で…」

 二人の目線がしっかりと合う。

「この能力の影響に気づいたのはヴィルが初めてだよ。それになんだか効きかたも違うようだし…」

「効き方が違うってどう違うんだ?」

 ルーイの説明によると、いつも通りに強く効いていた場合は、こうして目が合ったりしたら、相手は焦点が合わないような瞳になり顔を赤らめ見惚れるような表情になるらしい。

 恋する者の眼差しというやつだな。

「ヴィルはその…僕にときめいたりは…してないよね?」

「していないな」

 頷いて即答する。

 ルーイに対して多大なる好感を抱いてはいるが、恋をしているという感覚は全くない。ジストナーに対しての想いとは全く違う。

「だよね、全然反応が違うもん」

 ルーイは少しホッとしたように表情を緩める。

「でも…何らかの影響は出てるんだよね?騙されたって怒ったりする?『フェロモンで操った』とか…」

 申し訳なさそうに首をすくめながら、こちらを伺うように見ている。

 能力の影響は確かにあって、俺の硬い口の蓋を緩めまくってはいる。けれどルーイに対する好感の全てがそれによるものではない。影響をしっかりと感じ取っているのでそこの線引きは出来た。
 能力の影響がない部分で、ルーイの人柄自体に好感を持っているとはっきりと言える。

「怒っていない。むしろ有難いと思っている」

 話したくても話せなかった俺にとっては有難い能力と言えるだろう。この能力の影響があってやっと人並みに話せているという有様ありさまなのだ。俺の望みを補助する形になっているだけで害など感じない。

「話せることも嬉しいし、騙されたとは思っていない。…その…友と思ってもかまわないだろうか?」

 俺の反応が余程意外だったのか、目を丸くして固まっている。

「能力の影響とは関係なくルーイの人柄を好ましく思っている」

 ルーイの大きく見開いたまま固まっていた目に喜びの色が浮かぶ。

「うん!うん!友達!嬉しい!僕もヴィル大好き!」

 俺も嬉しい。
 これでボッチ生活も卒業かと思うと非常に感慨深い。

「えへへっ、ヴィルも何かあったら何でも相談してね、僕も力になりたいから」

 友達だもんねっ、とニコニコ顔のルーイを見つめる。

 もしかしてこれ、例の悩みを、相談してもいい流れなのか?
 いやいや、ルーイの悩みとは次元が違い過ぎる。何より品がない。せっかく出来たばかりの友人を失う訳にはいかない。

「有難う」

 今は見送り、また機を見て相談出来たらいいかと、礼だけ言って終わらせようとしたが、その様子を見たルーイが首を傾げた。

「今何か話そうか迷わなかった?」

 うっ、鋭い!

「話しただけで気が楽になることもあるよ!何でも聞くから話してみてっ」

 気遣うように顔を覗き込んでくる。

 き…気まずい…

「いや…くだらないことだから…」

 体を引きながら言い淀む俺にグイグイと迫ってくる。

「ちょっとした事でも何でも大丈夫!」

 力付けようとでもしてくれているのか、俺の左手の甲はルーイの両手に包まれ、ギュッと握られた。

 ぜ…善意が眩しい!断り難い!

「その…本当にくだらないし、おかしなことなんだが…笑わないか?」

 真正面からぶつけられる好意と善意に圧倒されながら確認する。

「笑わないよ。どうしたの?」

 これは腹を括るしかなさそうだ。
 しかし、どう言えばいいのか…

 気遣うような眼差しを向けられて、考えがまとまらないまま、軽くなっている口の蓋を開いてしまった。

「その…ルーイの股間が見てみたい」

 ……………。

 ……………。

 ……………。

 あっ!


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者 地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。 乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。 新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。 だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。 冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ… そう思っていたのに─── 「ご自身を大事にしない分、私が守ります」 「あなたは、すべて私のものです。 上書きが……必要ですね」 断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!? 護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい? 警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。 一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...