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「ねぇ、ミズタン。ここは、どちらに行けばよろしくて?  」

 指輪に問いかけると、にゅーっと触覚が伸びてきて方向を指し示してくれた。

 今、アクヤは水場に向かっている。
 朧気な記憶の中で、お兄様が魔物は水場が苦手だと言っていたのを思い出したからだ。

 しかし、そうなるとミズタンは何なのだろうか?  魔物でも水が得意な奴もいる?
 あの風貌で水が苦手とかはないだろう。

 お兄様は魔物は人を襲うとも、言っていた気がする。
 ミズタンが襲ったのは、宝石と芋だ……。

 やはり、ミズタンはタダの水?
 いやいや、水はミズタンの一部であって、芋もミズタンの一部になって、ただのミズタンの芋は……。

 アクヤは思考を放棄した。

 では、なぜ水玉、改めミズタンが、指輪に嵌っているのかというと、反省の意味が篭られているらしい。本ミズ曰く。

 二度目の覇王の逆鱗に触れたミズタンは、水の精製スキルにより覇王を鎮めた。

 実際問題として、何時間も水を口にしていない状態で大量の汗をかき、ズブ濡れになりながら探し物に勤しんだアクヤにとってそれは、最高のご褒美だった。

 ご機嫌斜めのアクヤが、そっぽを向いて座っていると、岩陰から伸びてきた触覚に肩をツンツンとされた。

 即、全力で【覇王の威圧】を解放しようとするアクヤを、目の前に出現した水の玉が制する。

 ミズタンの触覚と繋がっているにも関わらず、その水の玉は、とても美味しそうだった。
 アクヤの顎を上に向け口を開けさせると、ミズタンが水の玉をそっと手放した。

 途端に口の中で水が弾ける。
 とてもまろやかな、口当たりの優しい味わいに溺れそうになった。
 たったその一口で満ち足りたアクヤは、ミズタンを許すことにした。

 しかしながら、ミズタン自身がそれに納得しなかったのだ。
 アクヤが許すと言っても頑なに、触覚を顔?  の前でぶんぶんと振り、ぺこぺこと頭?  をさげる。
 その押し問答を何度か繰り返す内に、ミズタンがアクヤの指輪をツンツンと啄いた。

 よく分からぬまま頷くと、ミズタンが指輪の台座に吸い込まれていった。
 綺麗に収まると、表面のカット加工まで、緻密に再現しだした。この際、元の宝石にカット加工が施されていなかっことには、触れない。
 何故だか、アクヤはそのときふっと力が抜ける気がした。慣れないミズタンの相手に、疲れがでてしまったのかもしれない。アクヤはそう結論づけた。

 ミズタンの殊勝な心掛けにより、ナビゲーション機能とウォターサーバー機能を搭載したミズタンリングがここに完成された。

 ただ、アクヤはその殊勝な心がけについても疑っていた。
 ミズタンは台座に残る宝石の残り香を、密かに楽しんでいるだけなのではないか、と。
 そして、実は歩くことも嫌いなのではないか、と。

 いずれにせよ、アクヤの迷宮攻略において、ミズタンリングが多いに貢献したことは、言うまでもない事実であった。




「ミズタン!  水の音が聞こえてきたわ!  」

 ミズタンが指輪から飛び出した。飛び跳ねながら駆けて行く。

 後を追うと、広めの空間に行き当たった。中央に大きな岩が鎮座しており、その割れ目から水がこんこんと湧き出している。岩の周りは1段低くなっていた。水が溜まっていない所をみると、うまい具合に捌け口が設けられているようだ。

「とりあえず、今日はここで休憩しましょう。交代で睡眠をとるわよ」

 アクヤの提案に、ミズタンが頷く。
 ミズタンが大きく膨らんだ。
 上に乗るようにジェスチャーする。

 お言葉に甘えて、ミズタンにダイブした。
 ぷよぷよしていてとても気持ちいい。

 あれっ、この体制では一緒に寝ちゃうんじゃー…………

 そこまで考えて、アクヤの意識はプツリと途絶えた。



 ─とあるS級冒険者の鑑定眼─

【名前】  ミズタン  Lv.1

【種族】  魔族水操玉スライムもく  液晶えきしょう水操玉スライム
         
【ステータス】 覇王の眷属、水操玉スライムの進化系

【スキル】  鉱石鑑定、二足歩行逃避 
          じゅうたん探索、消化・吸収
          鉱石擬態、ナビゲート、聖水精製
          ウーォターベッド



 S某「……進化しただと?  」
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