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「アクヤちゃん、おかえり。
あらあら、また、とんでもないモノを連れてきたねぇ」
巣窟の入口を開けてくれたお婆ちゃまが、可愛らくし微笑んだ。
「こちらは、骸骨戦士です」
アクヤの後ろで、片膝をついたスケさんが頭を垂れる。
その隣には、舌を出し地面にへたばるボスモフと、その上で目をグルグルと回ながら気絶しているベビリンが、控えていた。
ここに至るまで、スケさんに散々追い回されたらしい。
この薄暗い迷宮を、黄金に輝く骸骨に追い回されるなど、考えただけでもゾッとする。
それもスケさんの走り方が恐怖を誘うのだ。
直角に曲げられブンブンと勢いよく振られる腕。
これまた直角で、高々と掲げられる太腿。
そして、その走り合わせカツカツと一定のリズムを刻む顎。
宛ら、ホラーだった。
スケさんの頑張りに免じて、自由奔放なベビリンと、返答のなっていないボスモフを許して上げることにした。
「早くお入り。ちょうど、お客人が来ているところだったんだ」
お婆ちゃまが促す。
「……ええ」
頭に流れ込んでくる念仏に苦笑いしながら、アクヤは、それに応じるのだった。
(Yes, your Majesty! Yes, my Lord! )
◇ ◇ ◇
広間の中央に、ワニのような頭の爬虫人が胡座をかいて座っていた。その後ろにその眷属の兵士達が控えている。格好は、小鬼のそれに近かった。
向かい側には黒い狼が伏せており、こちらも、眷属が数匹その後ろに控えている。
ボスモフらとは犬犬の仲のようで、視線があった瞬間、バチバチと激しく火花を散らせていた。
小鬼はオニオーを先頭に、三者が三角形に居並ぶ位置に陣取っていた。
アクヤとボスモフもその隣に並ぶ。いつもは、ワラワラと自由奔放な小鬼が、オニオーの後ろで大人しく縮こまっていた。
「お前がそこの坊主から王座を奪いとったという娘か? 見たところ、青臭い小娘ではないか」
爬虫人が尊大にいった。
「まぁ、誰が小鬼の頭になろうと、俺様の知ったこちゃねーがな。
そんじゃ、役者が揃ったみてーだから、単刀直入にいくぜ。
おい、階層守護者、てめーは何、女の尻を追っ掛けて仕事をほっぽり出してやがんだ? あぁっ?
お陰で、死霊ノ王が暴れだして、こっちが迷惑してんだよ。この落とし前はどう付けるつもりだ、あぁっ? 」
そう言いながら、小鬼の後ろに控えているシェフに凄む。
「ぁあっ? 骸骨戦士が、なんでこんなところに、いやがるっ? 」
さらに、シェフの隣に佇むスケさんをみて、爬虫人が憎たらしげに言った。
「わたくしを守ってくださることになったのです」
今にも、蛮刀に手をかけそうな爬虫人の機先を制し、アクヤがそう言い放った。
「ふんっ!
どいつもこいつも、腑抜けたバカばっかりだなっ!! 」
「言葉を慎みなさいっ!
誰がどう行動しようと、それは、そのモノの自由です。貴方に、それをとやかく言う資格はありませんっ! 」
「なんだとぉぉおっ!! 」
「それに、今、こんなところでいがみ合っている場合では無いのでは?
死霊ノ王さんが、貴方方のお仲間を害されているのでしょう? 」
「ぐぬぬっ……」
やはり、切実なのだろう。爬虫人が悔しそうに押し黙った。
「ところで、死霊ノ王さんとは何方なのです? シェフとはどう言ったご関係なのですか? 」
「この迷宮は、──」
アクヤの質問を受けて、オニオーが答えてくれた。
この迷宮は、ざっくりと上層、中層、下層の3階層に分けられるらしい。そして、下に下れば下るほど、魔衆も強力になる。
大体の魔衆が縄張りをもって生活しており、余り、縄張り争いは起こらない。
しかし、過去には縄張りの拡大を狙った下層の魔物が、上層階を蹂躙し迷宮内の生態系が乱れたことがあったのだそうだ。
そこで、出現したのが階層守護だ。
最下層には、迷宮の意志たる魔晶石が眠っているという。
その魔晶石が迷宮の秩序を保つために階層守護を生み出したのだと、ダーリンさんが言っていたそうだ。
ちなみに、この魔晶石は冥王と呼ばれる守護者に守られているらしい。実質、その冥王様が、この洞窟の主にあたるそうだ。
階層守護は中層階を徘徊し、上層の魔物が下層に迷い込んだり、下層の魔物が上層を蹂躙しないよう見守る役目を担う。
そして、現在の階層守護者がシェフなのだ。
そして、『あのバカさん』とは、死霊ノ王のことで、スケさんの元上司らしい。下の上層を縄張りにしているそうだが、野心家で冥王になることを夢みているという。
「階層守護者が、うろちょろしているせいで、死霊ノ王がまた冥王になるべく動き始めやがったんだよっ!
さっさとアイツの所に行って、上層に上がって来ねーよう食い止めてこいっ! 」
「冥王になる為に、どうして上層階に来るのです? 寧ろ、逆なのでは? 」
「死霊ノ王は名前の通り、死体を使役して戦う。冥王に挑むために、上層階で駒集めをしてんだろ」
オニオーが答える。
「説明は終わりだ。早くその階層守護者を、中層階に向かわせろっ! 」
爬虫人が吐き捨てるようにいった。
シェフが動こうとする。
「いいえ、シェフが行く必要はありませんわっ! 」
アクヤがその動きを制する。
「ぁあっ? てめぇ、ふざけ── 」
「それが、ヒトにモノを頼む態度ですかっ?
そもそも自然界は、強者が制するもの。魔晶石の意思だかなんだか知りませんが、己の身を守れぬものは滅んで当然です。
見返りもなく、勝手に階層守護者に選ばれたシェフ一人が、その身を削る必要は1ミリもありませんわっ!! 」
「ほぉーーっ、ソレがお前の考えって訳だな? 」
爬虫人が不気味に、そう言った。
「それなら、てめぇが最初に死ねっ!! 弱っちぃ人族の女風情さんがよぉぉおっ! ! 」
そう叫びながら、爬虫人は、蛮刀を振りかざしアクヤに飛びかかってきた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼──
【名前】 スケさん Lv.36
【種族】 魔族死霊目 骸骨戦士
【ステータス】近衛兵
【スキル】 不死身、女王狂、猛追
【名前】 爬虫人 Lv47
【種族】 魔族爬虫目 爬虫人
【ステータス】爬虫ノ王
【スキル】 威圧、話術
あらあら、また、とんでもないモノを連れてきたねぇ」
巣窟の入口を開けてくれたお婆ちゃまが、可愛らくし微笑んだ。
「こちらは、骸骨戦士です」
アクヤの後ろで、片膝をついたスケさんが頭を垂れる。
その隣には、舌を出し地面にへたばるボスモフと、その上で目をグルグルと回ながら気絶しているベビリンが、控えていた。
ここに至るまで、スケさんに散々追い回されたらしい。
この薄暗い迷宮を、黄金に輝く骸骨に追い回されるなど、考えただけでもゾッとする。
それもスケさんの走り方が恐怖を誘うのだ。
直角に曲げられブンブンと勢いよく振られる腕。
これまた直角で、高々と掲げられる太腿。
そして、その走り合わせカツカツと一定のリズムを刻む顎。
宛ら、ホラーだった。
スケさんの頑張りに免じて、自由奔放なベビリンと、返答のなっていないボスモフを許して上げることにした。
「早くお入り。ちょうど、お客人が来ているところだったんだ」
お婆ちゃまが促す。
「……ええ」
頭に流れ込んでくる念仏に苦笑いしながら、アクヤは、それに応じるのだった。
(Yes, your Majesty! Yes, my Lord! )
◇ ◇ ◇
広間の中央に、ワニのような頭の爬虫人が胡座をかいて座っていた。その後ろにその眷属の兵士達が控えている。格好は、小鬼のそれに近かった。
向かい側には黒い狼が伏せており、こちらも、眷属が数匹その後ろに控えている。
ボスモフらとは犬犬の仲のようで、視線があった瞬間、バチバチと激しく火花を散らせていた。
小鬼はオニオーを先頭に、三者が三角形に居並ぶ位置に陣取っていた。
アクヤとボスモフもその隣に並ぶ。いつもは、ワラワラと自由奔放な小鬼が、オニオーの後ろで大人しく縮こまっていた。
「お前がそこの坊主から王座を奪いとったという娘か? 見たところ、青臭い小娘ではないか」
爬虫人が尊大にいった。
「まぁ、誰が小鬼の頭になろうと、俺様の知ったこちゃねーがな。
そんじゃ、役者が揃ったみてーだから、単刀直入にいくぜ。
おい、階層守護者、てめーは何、女の尻を追っ掛けて仕事をほっぽり出してやがんだ? あぁっ?
お陰で、死霊ノ王が暴れだして、こっちが迷惑してんだよ。この落とし前はどう付けるつもりだ、あぁっ? 」
そう言いながら、小鬼の後ろに控えているシェフに凄む。
「ぁあっ? 骸骨戦士が、なんでこんなところに、いやがるっ? 」
さらに、シェフの隣に佇むスケさんをみて、爬虫人が憎たらしげに言った。
「わたくしを守ってくださることになったのです」
今にも、蛮刀に手をかけそうな爬虫人の機先を制し、アクヤがそう言い放った。
「ふんっ!
どいつもこいつも、腑抜けたバカばっかりだなっ!! 」
「言葉を慎みなさいっ!
誰がどう行動しようと、それは、そのモノの自由です。貴方に、それをとやかく言う資格はありませんっ! 」
「なんだとぉぉおっ!! 」
「それに、今、こんなところでいがみ合っている場合では無いのでは?
死霊ノ王さんが、貴方方のお仲間を害されているのでしょう? 」
「ぐぬぬっ……」
やはり、切実なのだろう。爬虫人が悔しそうに押し黙った。
「ところで、死霊ノ王さんとは何方なのです? シェフとはどう言ったご関係なのですか? 」
「この迷宮は、──」
アクヤの質問を受けて、オニオーが答えてくれた。
この迷宮は、ざっくりと上層、中層、下層の3階層に分けられるらしい。そして、下に下れば下るほど、魔衆も強力になる。
大体の魔衆が縄張りをもって生活しており、余り、縄張り争いは起こらない。
しかし、過去には縄張りの拡大を狙った下層の魔物が、上層階を蹂躙し迷宮内の生態系が乱れたことがあったのだそうだ。
そこで、出現したのが階層守護だ。
最下層には、迷宮の意志たる魔晶石が眠っているという。
その魔晶石が迷宮の秩序を保つために階層守護を生み出したのだと、ダーリンさんが言っていたそうだ。
ちなみに、この魔晶石は冥王と呼ばれる守護者に守られているらしい。実質、その冥王様が、この洞窟の主にあたるそうだ。
階層守護は中層階を徘徊し、上層の魔物が下層に迷い込んだり、下層の魔物が上層を蹂躙しないよう見守る役目を担う。
そして、現在の階層守護者がシェフなのだ。
そして、『あのバカさん』とは、死霊ノ王のことで、スケさんの元上司らしい。下の上層を縄張りにしているそうだが、野心家で冥王になることを夢みているという。
「階層守護者が、うろちょろしているせいで、死霊ノ王がまた冥王になるべく動き始めやがったんだよっ!
さっさとアイツの所に行って、上層に上がって来ねーよう食い止めてこいっ! 」
「冥王になる為に、どうして上層階に来るのです? 寧ろ、逆なのでは? 」
「死霊ノ王は名前の通り、死体を使役して戦う。冥王に挑むために、上層階で駒集めをしてんだろ」
オニオーが答える。
「説明は終わりだ。早くその階層守護者を、中層階に向かわせろっ! 」
爬虫人が吐き捨てるようにいった。
シェフが動こうとする。
「いいえ、シェフが行く必要はありませんわっ! 」
アクヤがその動きを制する。
「ぁあっ? てめぇ、ふざけ── 」
「それが、ヒトにモノを頼む態度ですかっ?
そもそも自然界は、強者が制するもの。魔晶石の意思だかなんだか知りませんが、己の身を守れぬものは滅んで当然です。
見返りもなく、勝手に階層守護者に選ばれたシェフ一人が、その身を削る必要は1ミリもありませんわっ!! 」
「ほぉーーっ、ソレがお前の考えって訳だな? 」
爬虫人が不気味に、そう言った。
「それなら、てめぇが最初に死ねっ!! 弱っちぃ人族の女風情さんがよぉぉおっ! ! 」
そう叫びながら、爬虫人は、蛮刀を振りかざしアクヤに飛びかかってきた。
─とあるS級冒険者の鑑定眼──
【名前】 スケさん Lv.36
【種族】 魔族死霊目 骸骨戦士
【ステータス】近衛兵
【スキル】 不死身、女王狂、猛追
【名前】 爬虫人 Lv47
【種族】 魔族爬虫目 爬虫人
【ステータス】爬虫ノ王
【スキル】 威圧、話術
応援ありがとうございます!
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