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192.エディブルフラワーⅠ
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先の旅行で気まぐれに訪れた流木アート展によって、俺たちには芸術を理解する感性が備わっているらしいと判明した。
流木の良さが分かる。凄いことだ。俺達はもはや無敵も同然。なので今日は電車に乗って生け花展に繰り出すことにした。
本当はストーンアートを探したのだが、石がメインの自然系アートで見つけたのは直近でも来月末だった。美術館も展示会も山程あるのに意外と少なかったストーンアート。
なので来月末の前哨戦として、見繕ってきたのがお花の集いだ。
俺だって花屋のいち店員。切り花や鉢植えとは日頃から触れ合っている。
瀬名さんだってチョビとローズを毎日我が子のように愛でているのだから、流木の良さを感じられる俺たちが草木の奥深さを見出せないはずがない。
そう意気込んで生け花展に入った。来場者は多いものの静かで落ち着いているその会場。
入り口に足を踏み入れた時まで、俺も瀬名さんも自信満々で熱く語り合うつもりしかなかった。
ところが、現実は甘くない。神という存在は子羊たる俺達に大いなる試練を与えた。
清楚で可憐な草花を前にして、場違いにも呆然とする他なかった。
「……あの……綺麗なのは、分かりました」
「そうだな……色合いとか良かったと思う。鮮やかで」
「うん。なんか……はい」
「ああ……なんつーか……」
「ねえ……?」
「おう……」
「…………」
「…………」
無敵ではなかったかもしれない。びっくりするほど理解できない。
俺たちが芸術の良さを理解できるらしいというのは、どうやらただの勘違いだった。
「……ストーンアート……どうします……?」
「どうしような……」
「うん……」
「…………遥希はどうしたい」
「……なんか……」
「なんかな……」
「…………」
「…………」
「…………」
「やめねえか」
「俺もそれがいいと思います」
どうにもこうにも分からなかった。アートはとても難しい。
不可解だ。理解不能だ。俺達には背伸びすらできそうにない。
生け花。なんて難解な文化だろうか。人々が刀振り回してた時代からあんなものがあったという事実が心の底から不思議でならない。
だが冷静になって考えてみれば、俺がそう感じるのも致し方ないだろう。
思えば初めて生け花というものの存在に触れたのは小六のはじめ。
変な時期に転入してきた添田くんのお母さんが生け花教室の先生をしているという話題でクラスがワッと盛り上がった。金持ちっぽいとか清楚っぽいとかワイワイキャイキャイ興味津々で、添田くんはクラス中から一斉に囲まれることになった。
俺ももちろん添田くんを取り囲んだうちの一人だ。お花の先生。カッコイイ。なんかよく分かんねえけどスゲェ。
そんなことがあった日だった。新しい友達ができた嬉しさを抱えつつ、家に帰って玄関を開けるなり母さんのところに飛んで行った。
「ねえッ。母さんは生け花やったことあるっ?」
それは小学生の男の子が投げかけるいたって純粋な質問だった。どんなものか詳しくは知らないけれど生け花はなんとなく素敵っぽい趣味。友達のお母さんは華道の先生。俺の母さんは花とか好きだろうか。
ワクワクしながら見上げて聞いた。たくあんかじりながら台所に立って晩飯の用意をしていた母さんは、俺を見下ろしてあっさり返した。
「何言ってんのアンタ。そういうのは心とお財布に余裕のある優雅な人たちに任せておけばいいんだよ」
小六男子の繊細な心に、ピシッとヒビが入った瞬間だった。純粋だった俺が受け取ったのはそれ。非常にガサツで現実的な回答。
なんとも言えない気分になりながらたくあんを一切れもらった。ポリポリ齧りつつ微妙に肩を落としてガーくんの所にトボトボ歩いた。たくあんはいつもよりしょっぱく感じた。
そんな家系だ。ウチなんて所詮そんなもんだ。我が母ながらあの反応はさすがにショックがデカかったから今でも鮮明に覚えている。
その血を引いているガサツな俺に、華道の何たるかが分かるはずがない。そのうえストーン展。はっ。笑わせるな。
マユちゃんさんなら華道でも茶道でも書道でもなんでも似合いそうだが、その息子の瀬名さんは俺と同様に華道を理解できない人だったようだ。よかった。
お互い分かんなかったと共感できれば腹も減ってくる。キッパリ開き直ろう。
「にしても分かんなかったあ。全っ然、見事に分かんなかった」
「同じく」
「考えてみりゃ俺らに花が理解できるはずないんですよ」
「もっと冷静になるべきだった。今回はいい勉強になったと思う」
俺はその辺で勝手に逞しく咲いている草花とかで十分。
美しく可憐な花よりも、雑草みたいな奴らの方が生き物との親和性は高い。ヨモギ摘んでくれば草餅作れるし。ミツバチに任せておけばハチミツ恵んでもらえるし。
なんとも微妙になった気分をいったん綺麗にサッパリさせるべく、生け花会場になっていたホテル内のレストランにそのまま立ち寄った。
素晴らしい庭園を見渡せるレストランだ。昼はビュッフェで営業している。
「俺このポタージュなら鍋一杯分食い尽くせる」
「花より団子ってタイトルで絵を描いたらお前が額縁に飾られることになるな」
「花見てても腹は膨れません。ポタージュ食ってりゃ数時間はタプタプです」
「本当になんだって俺らみてえなのが生け花なんか見に来ちまったのか」
「人間は時たま血迷うんですよ」
血迷った結果がこれだ。美味いものが食えたのだから、血迷ってみた甲斐はあるってもんだ。
ところでここのピザは本格派の窯焼きだそうだ。これが一番のウリのようで、入り口に全面写真の立て看板が飾ってあった。
ビュッフェスタイルのランチではあるが、スタッフのお兄さんとお姉さんたちが焼き立てピザを皿に乗せながら十数分おきに各テーブルをぐるっとゆっくり回ってくる。
最初にテーブルのすぐ近くを通りかかったお姉さんにはシラスのピザを一枚もらった。次に来たお姉さんが運んでいたのはマリナーラとクワトロチーズ。もちろんもらった。全部最高だった。
次に来たお兄さんもまた違う種類のピザを持っている。すごく気になる。
早く来ねえかなとお兄さんをガン見していたら熱意が伝わったのかもしれない。俺達のいるテーブルにもすぐに来てくれた。
いかがですかと言われる前から軽く手を上げてほしいですアピール。そうして取り分けてもらった本格仕様の熱々ピザ。二種類。
俺の皿に二枚を移すとお兄さんは丁寧に去っていった。
眼下にあるピザを凝視する。遠目から眺めていた時点から、なんかカラフルだなとは思っていたが。
「……花乗ってる」
「乗ってるな」
片方のピザは普通のマルゲリータ。もう片方には、皿の上ではそうそう見かけない植物がすましていた。
香ばしいピザの上に、散らしてある。花が。新鮮な花が。色とりどりのお花がふわっと。
赤っぽいのとか青っぽいのとか黄色っぽいのとか白っぽいのとかが、慎ましくもふんわりと。
「花……え、何これ。食えんの?」
「食えんじゃねえのか、ピザに乗ってんだから」
確かにこれを持ってきてくれたお兄さんも、えでぃぶるふらわー、のピザとかなんとか爽やかに言っていたと思う。
エディブル。まんまだ。食える花だ。怪しい。
半信半疑だけど、もう貰っちゃったしな。皿に取ったくせして残すというのは、ビュッフェにおける大罪であり死罪でもあると俺は思ってる。
やむを得ない。食おう。死にはしないだろう。ただのカラフルで綺麗な花だ。
見た目がフワッとしている三角の先っちょに、パクリと大きくかじりついた。
「…………」
「美味いか」
「……うーん。うん……ん? うん。花」
「何一つとして伝わってこねえ」
伝わらなかった。でも不味くはない。味はなんというか、花っぽい。ピザ生地は香ばしくて普通にウマい。
花びらが時々シャキッとした歯ざわりだ。知ったような食感。ああ、あれだな多分。焼いたフランスパンにレタス挟んで食ってるみたいな。
慣れてくると結構いけるかも。エディブルな花をモクモクと食う。それを瀬名さんが真顔で見てくる。
「……昔ど深夜にやってたテレビなんだけどな」
「はい?」
「北海道の自然映像をただただ流しとくだけの番組があったんだよ」
「あー……それ知ってるかも。たぶん今も時々やってると思います」
高三の時の受験勉強中にそういうのをよく見ていた。落ち着いた音楽を背景にしながら垂れ流される自然映像。ナレーションも何も入らないから、静かすぎない環境を作り出したいときにも最適。
テレビ画面にそれを映し出しながら居間で赤本を開いていると、母さんが煮込みうどんを作って持ってきてくれるのが恒例だった。母さんは受験生の息子の勉強の進捗より動物たちの方が気になるようで、モモンガ飛んでる可愛いー、などと自由に発言してから去っていく。
「春夏秋冬の映像を順々に流してくやつでしょう? 深夜だし誰も見てねえだろうし他にやる番組もねえからとりあえず放送だけしてるって感じの」
「それだそれ」
「たぶん使い回し映像なんでしょうけどあれ結構可愛いんですよね。小動物もいっぱい出てきて」
「そうなんだよ。何気に面白いし癒される。作業中にもちょうどいい」
「同感です」
「それでその春の映像を何気なく見てた時、岩陰から出てきたエゾナキウサギが野花を見つけてモフモフ食ってた」
「うんうん」
「のを、今お前見てたら急に思い出した」
「悪口?」
「モフモフ食ってた」
悪口だ。
「花をモフモフ食うのは小動物の習性らしい」
「なんで俺見てそれ言うの」
完全に悪口だった。
俺はパンダでもネコでもなければエゾナキウサギでももちろんないけど、えでぃぶるふらわーピザは最後まで食いきった。花だけどなかなかに悪くなかった。
意外と花って美味いんだな。当然か、植物だもんな。ホウレンソウだってそんな変わんねえだろ。ニンジンなんか花が咲くと普通に花として可愛いし。
植物はだいたい食える。当然の教養を再認識し、マルゲリータピザも食いきってからビュッフェ二周目に出陣した。
その後さらにもう一周。エディブルな物を集めてくる俺を、瀬名さんはずっと観察していた。
流木の良さが分かる。凄いことだ。俺達はもはや無敵も同然。なので今日は電車に乗って生け花展に繰り出すことにした。
本当はストーンアートを探したのだが、石がメインの自然系アートで見つけたのは直近でも来月末だった。美術館も展示会も山程あるのに意外と少なかったストーンアート。
なので来月末の前哨戦として、見繕ってきたのがお花の集いだ。
俺だって花屋のいち店員。切り花や鉢植えとは日頃から触れ合っている。
瀬名さんだってチョビとローズを毎日我が子のように愛でているのだから、流木の良さを感じられる俺たちが草木の奥深さを見出せないはずがない。
そう意気込んで生け花展に入った。来場者は多いものの静かで落ち着いているその会場。
入り口に足を踏み入れた時まで、俺も瀬名さんも自信満々で熱く語り合うつもりしかなかった。
ところが、現実は甘くない。神という存在は子羊たる俺達に大いなる試練を与えた。
清楚で可憐な草花を前にして、場違いにも呆然とする他なかった。
「……あの……綺麗なのは、分かりました」
「そうだな……色合いとか良かったと思う。鮮やかで」
「うん。なんか……はい」
「ああ……なんつーか……」
「ねえ……?」
「おう……」
「…………」
「…………」
無敵ではなかったかもしれない。びっくりするほど理解できない。
俺たちが芸術の良さを理解できるらしいというのは、どうやらただの勘違いだった。
「……ストーンアート……どうします……?」
「どうしような……」
「うん……」
「…………遥希はどうしたい」
「……なんか……」
「なんかな……」
「…………」
「…………」
「…………」
「やめねえか」
「俺もそれがいいと思います」
どうにもこうにも分からなかった。アートはとても難しい。
不可解だ。理解不能だ。俺達には背伸びすらできそうにない。
生け花。なんて難解な文化だろうか。人々が刀振り回してた時代からあんなものがあったという事実が心の底から不思議でならない。
だが冷静になって考えてみれば、俺がそう感じるのも致し方ないだろう。
思えば初めて生け花というものの存在に触れたのは小六のはじめ。
変な時期に転入してきた添田くんのお母さんが生け花教室の先生をしているという話題でクラスがワッと盛り上がった。金持ちっぽいとか清楚っぽいとかワイワイキャイキャイ興味津々で、添田くんはクラス中から一斉に囲まれることになった。
俺ももちろん添田くんを取り囲んだうちの一人だ。お花の先生。カッコイイ。なんかよく分かんねえけどスゲェ。
そんなことがあった日だった。新しい友達ができた嬉しさを抱えつつ、家に帰って玄関を開けるなり母さんのところに飛んで行った。
「ねえッ。母さんは生け花やったことあるっ?」
それは小学生の男の子が投げかけるいたって純粋な質問だった。どんなものか詳しくは知らないけれど生け花はなんとなく素敵っぽい趣味。友達のお母さんは華道の先生。俺の母さんは花とか好きだろうか。
ワクワクしながら見上げて聞いた。たくあんかじりながら台所に立って晩飯の用意をしていた母さんは、俺を見下ろしてあっさり返した。
「何言ってんのアンタ。そういうのは心とお財布に余裕のある優雅な人たちに任せておけばいいんだよ」
小六男子の繊細な心に、ピシッとヒビが入った瞬間だった。純粋だった俺が受け取ったのはそれ。非常にガサツで現実的な回答。
なんとも言えない気分になりながらたくあんを一切れもらった。ポリポリ齧りつつ微妙に肩を落としてガーくんの所にトボトボ歩いた。たくあんはいつもよりしょっぱく感じた。
そんな家系だ。ウチなんて所詮そんなもんだ。我が母ながらあの反応はさすがにショックがデカかったから今でも鮮明に覚えている。
その血を引いているガサツな俺に、華道の何たるかが分かるはずがない。そのうえストーン展。はっ。笑わせるな。
マユちゃんさんなら華道でも茶道でも書道でもなんでも似合いそうだが、その息子の瀬名さんは俺と同様に華道を理解できない人だったようだ。よかった。
お互い分かんなかったと共感できれば腹も減ってくる。キッパリ開き直ろう。
「にしても分かんなかったあ。全っ然、見事に分かんなかった」
「同じく」
「考えてみりゃ俺らに花が理解できるはずないんですよ」
「もっと冷静になるべきだった。今回はいい勉強になったと思う」
俺はその辺で勝手に逞しく咲いている草花とかで十分。
美しく可憐な花よりも、雑草みたいな奴らの方が生き物との親和性は高い。ヨモギ摘んでくれば草餅作れるし。ミツバチに任せておけばハチミツ恵んでもらえるし。
なんとも微妙になった気分をいったん綺麗にサッパリさせるべく、生け花会場になっていたホテル内のレストランにそのまま立ち寄った。
素晴らしい庭園を見渡せるレストランだ。昼はビュッフェで営業している。
「俺このポタージュなら鍋一杯分食い尽くせる」
「花より団子ってタイトルで絵を描いたらお前が額縁に飾られることになるな」
「花見てても腹は膨れません。ポタージュ食ってりゃ数時間はタプタプです」
「本当になんだって俺らみてえなのが生け花なんか見に来ちまったのか」
「人間は時たま血迷うんですよ」
血迷った結果がこれだ。美味いものが食えたのだから、血迷ってみた甲斐はあるってもんだ。
ところでここのピザは本格派の窯焼きだそうだ。これが一番のウリのようで、入り口に全面写真の立て看板が飾ってあった。
ビュッフェスタイルのランチではあるが、スタッフのお兄さんとお姉さんたちが焼き立てピザを皿に乗せながら十数分おきに各テーブルをぐるっとゆっくり回ってくる。
最初にテーブルのすぐ近くを通りかかったお姉さんにはシラスのピザを一枚もらった。次に来たお姉さんが運んでいたのはマリナーラとクワトロチーズ。もちろんもらった。全部最高だった。
次に来たお兄さんもまた違う種類のピザを持っている。すごく気になる。
早く来ねえかなとお兄さんをガン見していたら熱意が伝わったのかもしれない。俺達のいるテーブルにもすぐに来てくれた。
いかがですかと言われる前から軽く手を上げてほしいですアピール。そうして取り分けてもらった本格仕様の熱々ピザ。二種類。
俺の皿に二枚を移すとお兄さんは丁寧に去っていった。
眼下にあるピザを凝視する。遠目から眺めていた時点から、なんかカラフルだなとは思っていたが。
「……花乗ってる」
「乗ってるな」
片方のピザは普通のマルゲリータ。もう片方には、皿の上ではそうそう見かけない植物がすましていた。
香ばしいピザの上に、散らしてある。花が。新鮮な花が。色とりどりのお花がふわっと。
赤っぽいのとか青っぽいのとか黄色っぽいのとか白っぽいのとかが、慎ましくもふんわりと。
「花……え、何これ。食えんの?」
「食えんじゃねえのか、ピザに乗ってんだから」
確かにこれを持ってきてくれたお兄さんも、えでぃぶるふらわー、のピザとかなんとか爽やかに言っていたと思う。
エディブル。まんまだ。食える花だ。怪しい。
半信半疑だけど、もう貰っちゃったしな。皿に取ったくせして残すというのは、ビュッフェにおける大罪であり死罪でもあると俺は思ってる。
やむを得ない。食おう。死にはしないだろう。ただのカラフルで綺麗な花だ。
見た目がフワッとしている三角の先っちょに、パクリと大きくかじりついた。
「…………」
「美味いか」
「……うーん。うん……ん? うん。花」
「何一つとして伝わってこねえ」
伝わらなかった。でも不味くはない。味はなんというか、花っぽい。ピザ生地は香ばしくて普通にウマい。
花びらが時々シャキッとした歯ざわりだ。知ったような食感。ああ、あれだな多分。焼いたフランスパンにレタス挟んで食ってるみたいな。
慣れてくると結構いけるかも。エディブルな花をモクモクと食う。それを瀬名さんが真顔で見てくる。
「……昔ど深夜にやってたテレビなんだけどな」
「はい?」
「北海道の自然映像をただただ流しとくだけの番組があったんだよ」
「あー……それ知ってるかも。たぶん今も時々やってると思います」
高三の時の受験勉強中にそういうのをよく見ていた。落ち着いた音楽を背景にしながら垂れ流される自然映像。ナレーションも何も入らないから、静かすぎない環境を作り出したいときにも最適。
テレビ画面にそれを映し出しながら居間で赤本を開いていると、母さんが煮込みうどんを作って持ってきてくれるのが恒例だった。母さんは受験生の息子の勉強の進捗より動物たちの方が気になるようで、モモンガ飛んでる可愛いー、などと自由に発言してから去っていく。
「春夏秋冬の映像を順々に流してくやつでしょう? 深夜だし誰も見てねえだろうし他にやる番組もねえからとりあえず放送だけしてるって感じの」
「それだそれ」
「たぶん使い回し映像なんでしょうけどあれ結構可愛いんですよね。小動物もいっぱい出てきて」
「そうなんだよ。何気に面白いし癒される。作業中にもちょうどいい」
「同感です」
「それでその春の映像を何気なく見てた時、岩陰から出てきたエゾナキウサギが野花を見つけてモフモフ食ってた」
「うんうん」
「のを、今お前見てたら急に思い出した」
「悪口?」
「モフモフ食ってた」
悪口だ。
「花をモフモフ食うのは小動物の習性らしい」
「なんで俺見てそれ言うの」
完全に悪口だった。
俺はパンダでもネコでもなければエゾナキウサギでももちろんないけど、えでぃぶるふらわーピザは最後まで食いきった。花だけどなかなかに悪くなかった。
意外と花って美味いんだな。当然か、植物だもんな。ホウレンソウだってそんな変わんねえだろ。ニンジンなんか花が咲くと普通に花として可愛いし。
植物はだいたい食える。当然の教養を再認識し、マルゲリータピザも食いきってからビュッフェ二周目に出陣した。
その後さらにもう一周。エディブルな物を集めてくる俺を、瀬名さんはずっと観察していた。
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