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207.とある二十四時間の詮索Ⅰ
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エイリアン疑惑が浮上した彼氏を早急に究明する必要性が出てきた。
すでに母さんは取り込まれている。放っておいたらどうなるか分からない。これ以上被害を広げないためにも、瀬名恭吾の生態について一刻も早く解き明かさねば。
見たところ指は五本だ。でも擬態かもしれない。高度な文明を保持している種族ならこっちの視覚を完璧にごまかす装置の一つや二つくらいあるのでは。
人間の言語をいくつか話せるがそれも特殊能力の一つである可能性が高まってきた。猫カフェの猫さんたちを異様に惹き付け、吸い込むみたいに引き寄せるのももしかすると宇宙人スキルかもしれない。
あれこれ仮説を立てれば立てる程どんどん怪しくなってきた。
研究しよう。まずは観察が重要だ。恋人がエイリアンかどうか確認するついでに、この際だから彼氏の好みも確実に把握しておきたい。
もうすぐ六月。今はまだ五月に入ったばかりだけれど、瀬名さんの誕生日がすぐそこに迫っている。去年は直前の直前までああだこうだと頭を悩ませたから、今年は前回の教訓を生かしてちょっと早めに下調べしよう。
瀬名さんの欲しいものとは。恋人が求めるものとは何か。
分からない。ていうかあの人に物欲なんてものはあるのだろうか。
プレゼントを贈りたい相手の欲しいものが検討もつかない場合、趣味嗜好から捉えてみるのがオーソドックスな手段だろう。
知っている範囲で瀬名さんの好みを並べてみる。タバコは吸っていたけどやめた。俺と付き合いだしてから。酒も飲めるけど飲まなくなった。俺の前で泥酔状態を披露したために。
免許は持っているし運転も上手いけど実家のお父さんとは違って車には特に興味なさそう。ぼっちの休日を使って電車でぼんやり過ごせるタイプの人ではあるが、満員電車は死ねるレベルでマジで無理と前に言ってた。
虫は嫌い。モフモフは好き。実家の猫を溺愛している。俺にぬいぐるみを明るく買い与える。反対に俺が机に置いたハートホヤと深窓のバラには毎朝声をかけて愛でている。
なんだあの男。頭おかしいんじゃねえのか。考えれば考えるほど変な人だ。
難しいな。あそこまで難解な人を見たことがない。言動はいちいち不可解であっても何をしようと様になる。基本的に規則正しく、夜寝るのが何時だろうと瀬名恭吾の朝は早い。
それは世の中が連休に入っても例外なしだ。前の晩は俺の方が先に寝たはずなのに、土曜の朝に目覚めたついさっき隣に瀬名さんの姿はなかった。
のろのろ起きながらキッチンに向かえば、バターの香ばしい匂いに満たされている。
「……おはようございます」
「おはよう」
「すみません。寝坊しました」
「何言ってんだ休みだぞ」
「…………」
寝坊してもいい休日の朝からフライパン持ってた男に言われる。
席を促されて腰かけるとすぐ、目の前には牛乳の入ったコップと焼き立てのオムレツプレートが出てきた。
「目を覚ましたタイミングはいい。これは今食うのが一番うまい」
「……いただきます」
食った。うまい。相変わらずオムレツの出来だけは素晴らしい。
ふかふかした黄色いご馳走をモグモグと。ドロドロにならないマッシュポテトも最近になって窮めたようで、黄色に添えられたチーズ入りの乳白色もモグッと頬張る。最高だ。
満足げに俺を観察しながら、同じ内容の朝食プレートに瀬名さんもフォークを寄せた。音も立てずに美しく食す。自分で作ったオムレツの出来栄えには心から納得したようだ。
コップの中身ももちろん俺のと同じ。ただ牛乳飲んでるだけなのに、フランス映画のワンシーンに出てくる朝の風景みたいだった。
「この後ちょっと出かけねえか」
朝食を終えてからようやく寝巻代わりのシャツを脱いだ時、後ろからスルッと腹の前に腕を回しながら言われた。
この男はしばしばなんの気配もなく俺の背後を取りやがる。これもなんだか宇宙人スキルな気がしてきた。ステルス能力でもあるんじゃないのか。
「……どこに?」
「どこにでも。遥希の行きたいとこ」
「うーん……」
行きたい所。それはつまり俺がしたい事に関わる場所だ。
今の俺が何よりもしたい事は、瀬名恭吾の解明だ。
すでに母さんは取り込まれている。放っておいたらどうなるか分からない。これ以上被害を広げないためにも、瀬名恭吾の生態について一刻も早く解き明かさねば。
見たところ指は五本だ。でも擬態かもしれない。高度な文明を保持している種族ならこっちの視覚を完璧にごまかす装置の一つや二つくらいあるのでは。
人間の言語をいくつか話せるがそれも特殊能力の一つである可能性が高まってきた。猫カフェの猫さんたちを異様に惹き付け、吸い込むみたいに引き寄せるのももしかすると宇宙人スキルかもしれない。
あれこれ仮説を立てれば立てる程どんどん怪しくなってきた。
研究しよう。まずは観察が重要だ。恋人がエイリアンかどうか確認するついでに、この際だから彼氏の好みも確実に把握しておきたい。
もうすぐ六月。今はまだ五月に入ったばかりだけれど、瀬名さんの誕生日がすぐそこに迫っている。去年は直前の直前までああだこうだと頭を悩ませたから、今年は前回の教訓を生かしてちょっと早めに下調べしよう。
瀬名さんの欲しいものとは。恋人が求めるものとは何か。
分からない。ていうかあの人に物欲なんてものはあるのだろうか。
プレゼントを贈りたい相手の欲しいものが検討もつかない場合、趣味嗜好から捉えてみるのがオーソドックスな手段だろう。
知っている範囲で瀬名さんの好みを並べてみる。タバコは吸っていたけどやめた。俺と付き合いだしてから。酒も飲めるけど飲まなくなった。俺の前で泥酔状態を披露したために。
免許は持っているし運転も上手いけど実家のお父さんとは違って車には特に興味なさそう。ぼっちの休日を使って電車でぼんやり過ごせるタイプの人ではあるが、満員電車は死ねるレベルでマジで無理と前に言ってた。
虫は嫌い。モフモフは好き。実家の猫を溺愛している。俺にぬいぐるみを明るく買い与える。反対に俺が机に置いたハートホヤと深窓のバラには毎朝声をかけて愛でている。
なんだあの男。頭おかしいんじゃねえのか。考えれば考えるほど変な人だ。
難しいな。あそこまで難解な人を見たことがない。言動はいちいち不可解であっても何をしようと様になる。基本的に規則正しく、夜寝るのが何時だろうと瀬名恭吾の朝は早い。
それは世の中が連休に入っても例外なしだ。前の晩は俺の方が先に寝たはずなのに、土曜の朝に目覚めたついさっき隣に瀬名さんの姿はなかった。
のろのろ起きながらキッチンに向かえば、バターの香ばしい匂いに満たされている。
「……おはようございます」
「おはよう」
「すみません。寝坊しました」
「何言ってんだ休みだぞ」
「…………」
寝坊してもいい休日の朝からフライパン持ってた男に言われる。
席を促されて腰かけるとすぐ、目の前には牛乳の入ったコップと焼き立てのオムレツプレートが出てきた。
「目を覚ましたタイミングはいい。これは今食うのが一番うまい」
「……いただきます」
食った。うまい。相変わらずオムレツの出来だけは素晴らしい。
ふかふかした黄色いご馳走をモグモグと。ドロドロにならないマッシュポテトも最近になって窮めたようで、黄色に添えられたチーズ入りの乳白色もモグッと頬張る。最高だ。
満足げに俺を観察しながら、同じ内容の朝食プレートに瀬名さんもフォークを寄せた。音も立てずに美しく食す。自分で作ったオムレツの出来栄えには心から納得したようだ。
コップの中身ももちろん俺のと同じ。ただ牛乳飲んでるだけなのに、フランス映画のワンシーンに出てくる朝の風景みたいだった。
「この後ちょっと出かけねえか」
朝食を終えてからようやく寝巻代わりのシャツを脱いだ時、後ろからスルッと腹の前に腕を回しながら言われた。
この男はしばしばなんの気配もなく俺の背後を取りやがる。これもなんだか宇宙人スキルな気がしてきた。ステルス能力でもあるんじゃないのか。
「……どこに?」
「どこにでも。遥希の行きたいとこ」
「うーん……」
行きたい所。それはつまり俺がしたい事に関わる場所だ。
今の俺が何よりもしたい事は、瀬名恭吾の解明だ。
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