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通信
しおりを挟む「てか、今更ですけど何かあったんですか?」
大して興味もなかったがあまりにも酷い顔色なので話くらいは聞いてあげようとした。
「実は……」
アキレアはここにくるまでの経緯を話し始める。
事情がわかれば、力を貸して貰えるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて簡潔に説明する。
神殿にいた神官達が何者かに襲われ意識不明の重体でたまたま外に出ていた神官達の安否がわからないので確認し、もし無事なら神殿に行かずに王宮に来るよういい対策を考えようとしていたことを話した。
「そういうことでしたか。ですが、これを使うには条件が揃っていません。せめて、その神官達の神聖力でも感じることができるものがあればなんとかなるかもしれませんが」
本来は顔を知っていなければ動かすのは難しいが、神官なら神聖力でもなんとかなるのではないかと少し前から考えていた。
それを試そうと国王に今日くらいお願いしに行こうと思っていたのに、まさかの出来事にもう少し早く願いにいけばよかったと後悔した。
「その人の神聖力があればなんとかなるのですか」
「多分ですが、やったことはないのでなんともいえませんが」
「これはどうですか。先月ヘリオトロープ様が使徒に御守りとしてくださったものですが」
使徒の務めは大変なので、毎年この時期になるとヘリオトロープが神聖力を注いだ御守りを全員分くれる。
「まぁ、一応やってみましょうか」
期待はしないでくださいね、と一言添えて魔法石が組み込まれた機械の装置を起動させる。
ゴオオオーーン。
機械から大きな音が鳴ると光を発し動きだす。
イベリスが指を高速で動かし機械を操縦する。
「あの……」
よくわからず声をかけると「うるさい。集中できないから黙っててくれない」と言う。
二人はイベリスの邪魔をしないよう口をつぐむ。
暫くの間イベリスが機械を動かす音だけが聞こえていたが、小さな声が聞こえ始めた。
「すみません。私の声聞こえますか」
イベリスの声が部屋に響く。
「誰だ?」
何処からかヘリオトロープの声が聞こえる。
初めて聞く声にイベリスのことを警戒しているのが声から伝わる。
「私は王宮専属魔法石研究員のイベリスと申します。なんか今大変な状況でして国王の命令で貴方に通信しました。失敗する確率の方が高かったのですが、成功してよかったです」
語尾が伸びた話す方をするので力が抜けていく。
「国王の?どう言うことだ」
「詳しい事は私もよくわからないので二人から聞いてください」
どうぞ、と言って二人に場所を譲る。
「ヘリオトロープ様!」
同時にヘリオトロープの名を呼ぶ。
「シンシアとアキレアさんか。一体何があったのだ」
二人の自身を呼ぶ声が必死でこれはただ事ではないと察する。
「それが神官達が何者かの術によって意識不明の重体なのです」
「……呪術師の仕業か」
シンシアからの報告に暫く黙っていたヘリオトロープが口を開いたと思ったらとんでもない事を言い出したのでイベリスとシンシアは目を見開きあり得ないという顔をする。
アキレアだけは少し前にサルビアが呪術師についての報告していたのを聞いていたので、やっぱりそうかと納得した。
「あり得ません。だって、呪術師は二百年前に一人残らず処刑されたではありませんか」
神殿で働く使徒の一人として呪術師の存在など認められない。
「そうだよ。二百年前に国王とそのときいた聖女の代理人が呪術師はいなくなったって発表したよね。君神官だよね。そんなこと言って大丈夫なの?」
遠回しに自分達が仕える主である歴代の代理人と国王を否定して大丈夫なのかと。
「大丈夫なんじゃない?事実なら。それに、神官相手にそんなことするのもできるのも呪術師以外いないと思うけど」
確かにその通りだ、と三人はヘリオトロープの言い分に納得する。
「とりあえず、今無事な神官は誰がいるかわかる?」
「今わかっているのはヘリオトロープ様だけです。後二人はわかりませんが、残りの十四人は神殿に居たため」
「意識不明の重体ということか」
シンシアが続きを遮るように言葉を被せる。
「他の二人の安否は確認したのか」
「いえ、まだできていません。確認したくてもイベリスさんが御二方の顔を知らないので連絡できないのです」
「ん?それならどうして私にはできたのだ?私は会ったこと無いはずだが?」
イベリスの声が頭の中で聞こえたとき知らない声で誰だ、とそう思った。
職業柄のせいか顔と声が一致したら忘れない。
「それはヘリオトロープ様の神聖力で無理矢理繋げたので普通の通信の仕方では無いのです。もしかしたら、いきなり通信ができなくなるかもしれません。まぁ、本来の通信の使い方ではないのでそうなっても仕方ないですね。なるべく早く本題に入った方がいいと思いますよ」
いきなり会話にはいってきたと思ったら、一番大事なことをなんでもないように言う。
アキレアとシンシアは目を点にして「それ今言うか?最初に言うべきだろ」と顔をする。
二人のことなど気にする素振りもなく鼻歌をし始めた。
「私の神聖力なんて持っていたのか?」
先月の御守りを配ったことなど忘れていた。
「はい。先月ヘリオトロープ様が御守りをくださったので、それを使いました」
シンシアにそう言われ「ああ、そういえば配ったな」とその日のことを思い出した。
それにしてもよくあんな微量な神聖力でできたな、とイベリスの腕前に感心する。
それと同時にあの微量は神聖力ではこれ以上通信するのは難しいと判断し、今から自分がやらないといけないことを確認する。
「そういうことか。わかった、二人には私から連絡しよう。これ以上通信が難しいのなら他に伝えたい事はあるか」
「では、私から国王からの伝言を伝えさせていただきます」
シンシアに目で何か伝えることはあるかと聞くと大丈夫ですと首を振るので遠慮なく残りの時間をもらうことにした。
「ヘリオトロープ様達は神殿に戻らず王宮に来るようにと。今こうして通信ができていると言うことはヘリオトロープ様は襲われた感じがないので、間違いなく神殿にいる神聖力を持った者を狙ったのでしょう。ですので、まずは王宮に来るようお願いします」
「わかりました。そうします」
「それともう一つあります」
「なんでしょうか」
「今ヘリオトロープ様はどこにいらっしゃいますか」
「テオールですが、それがなにか?」
場所を気にするなんて何かあるのか。
質問の意図がわからず困惑する。
「では、王宮に戻る前ににアングレカム行って欲しいのです」
「アングレカム?どうしてですか?」
アングレカム。
確かそこはブローディア家が親がいない者、生きるのが困難な人達を救う為に作った町があるところだったはず。
ブローディア家が王宮に何か頼み事でもしたのだろうか。
この家だけ他の貴族達とは違うと思っていたのにやっぱり貴族は貴族だな、と失望する。
「その町が呪術がかけられたのです」
「は?……はあ!?それは一体どういうことですか」
理由を聞こうとしたが、話している途中で通信が切れた。
「ちょっ、ここで!?……くそっ!繋がらない」
神聖力を使って話しかけるも繋がらない。
「ギルバート!今すぐ陣を書いてくれ!場所はアングレカムだ」
陣で一瞬でそこに移動しようとする。
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