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「うっ!あ痛たた…」
シェリルが急に苦しみだした。
「どうしたんだ?」
「最近体の調子が悪くて…別室に置いてきたカバンのなかに、お薬が入ってるの。マルフィナさん、取りに行ってくれない?」
なぜ態々自分に頼んだのか?
マルフィナは小首を傾げる。
「ごめんなさい。男の人には見られたくない、デリケートなものが入ってるの。」
テオバルトの友人グループということもあり、この場にいるのはシェリルとマルフィナを除いて全員男性だ。
「とってきます。」
マルフィナは急いで別室に行き、彼女のカバンらしき派手な女物のそれを見つけて開ける。
「っ!!」
目に飛び込んだのは、折りたたまれずに広げられた、テオバルトからシェリルへの恋文だった。
それにはテオバルトがいかに王女との婚約を不服としているか、どれほどシェリルのことを想っているか、もしあの王女との婚約を破棄できたら何をしようか、そんな旨の文の他に、ふたりが既に関係を持っていることも明記されていた。
「これで分かったでしょ?」
振り返ると、部屋の出入り口のそばにシェリルが立っていた。
「テオはね、アンタと結婚する前どころか、あのお姫様の婚約者になる前から、私のことを愛していたの。あの女のせいでまだ叶わないけど、将来を誓って、たくさん愛し合って、今でもそう。ラッキーで彼と結婚できただけのアンタに、はなっから居場所なんかないってわけ。大体あんなに美形でエリートで優しい彼が、アンタみたいな元ブスと釣り合うわけないじゃない!」
シェリルは踵を返す。
「あ~あ、アンタの手垢が付いちゃった。その手紙、欲しいなら持ってっちゃって。家にいくらでもあるから。」
彼女は部屋を去り、後にはマルフィナひとりが取り残される。
「……」
マルフィナは別室を出て、パーティー会場に引き返した。
「シェリル!体はもう大丈夫か?」
「ええ!マルフィナさんのおかげで、もうす~っかり!」
彼女を取り囲んでいた男性たちは、戻ってきたマルフィナを目に入れると、にやついた笑いを浮かべる。
そしてテオバルトが唐突にマルフィナの手を取った。
「マルフィナ!少しきてくれないか?」
彼の誘導で会場の中央にまで連れられると、一斉にクラッカーが鳴る。
「受け取ってくれ。」
テオバルトはマルフィナに花束を突きつけた。
「?」
マルフィナが狐につままれたような顔をすると、彼はイタズラが成功したような得意顔で笑う。
「結婚式だよ。今度こそ本当に、変わらぬ愛を誓い合おう。」
そこで茶番の意図を理解した彼女は、驚いて周囲を見回す。
男性陣は満面の笑顔で「おめでとう」「お幸せに」と囃し立てる。
シェリルはマルフィナと同様に、何事かと目を大きくして周囲を見回している。
恐らくマルフィナを一時的に会場から追い出すよう頼まれただけで、詳細は聞かされてなかったのだろう。
彼女のテオバルトへの好意と、マルフィナとの結婚を良く思っていなかったことは、傍目からでも察せられた。
だから隠していたのだろう。
マルフィナは慌てて抗議した。
「わたくしたちの結婚は王命によるもの。結婚生活での条件は、そちらには一切干渉しないことのはずです。」
私に干渉するなと吐き捨てたあの初夜を忘れたのか?
その旨をやんわりと告げた。
「ああ、あのことならもう気にしなくていい。」
だがテオバルトには通じていないようで。
「たしかに初めて会ったときの君は、お世辞にも見れた顔ではなかった。だがそれから僕に相応しいレディになるべく努力し、あの女の鼻を明かしてくれた。僕は今なら君を、正式に妻として迎え入れてもいいと思ってるんだよ。」
彼の妻になりたい、愛されたい女性は、貴族令嬢のみならず市民にも数え切れないほどいるのだろう。
だがマルフィナはまったく嬉しくない。
むしろ失望した。
新婚時代にやってきた仕打ちを謝罪するでもなく、過去の自分を悔やむでもない。
やっぱりこの男は、あの初夜から何も変わっていない。
マルフィナはキッパリと言い放った。
「申し訳ございませんが、お断りさせていただきます。」
シェリルが急に苦しみだした。
「どうしたんだ?」
「最近体の調子が悪くて…別室に置いてきたカバンのなかに、お薬が入ってるの。マルフィナさん、取りに行ってくれない?」
なぜ態々自分に頼んだのか?
マルフィナは小首を傾げる。
「ごめんなさい。男の人には見られたくない、デリケートなものが入ってるの。」
テオバルトの友人グループということもあり、この場にいるのはシェリルとマルフィナを除いて全員男性だ。
「とってきます。」
マルフィナは急いで別室に行き、彼女のカバンらしき派手な女物のそれを見つけて開ける。
「っ!!」
目に飛び込んだのは、折りたたまれずに広げられた、テオバルトからシェリルへの恋文だった。
それにはテオバルトがいかに王女との婚約を不服としているか、どれほどシェリルのことを想っているか、もしあの王女との婚約を破棄できたら何をしようか、そんな旨の文の他に、ふたりが既に関係を持っていることも明記されていた。
「これで分かったでしょ?」
振り返ると、部屋の出入り口のそばにシェリルが立っていた。
「テオはね、アンタと結婚する前どころか、あのお姫様の婚約者になる前から、私のことを愛していたの。あの女のせいでまだ叶わないけど、将来を誓って、たくさん愛し合って、今でもそう。ラッキーで彼と結婚できただけのアンタに、はなっから居場所なんかないってわけ。大体あんなに美形でエリートで優しい彼が、アンタみたいな元ブスと釣り合うわけないじゃない!」
シェリルは踵を返す。
「あ~あ、アンタの手垢が付いちゃった。その手紙、欲しいなら持ってっちゃって。家にいくらでもあるから。」
彼女は部屋を去り、後にはマルフィナひとりが取り残される。
「……」
マルフィナは別室を出て、パーティー会場に引き返した。
「シェリル!体はもう大丈夫か?」
「ええ!マルフィナさんのおかげで、もうす~っかり!」
彼女を取り囲んでいた男性たちは、戻ってきたマルフィナを目に入れると、にやついた笑いを浮かべる。
そしてテオバルトが唐突にマルフィナの手を取った。
「マルフィナ!少しきてくれないか?」
彼の誘導で会場の中央にまで連れられると、一斉にクラッカーが鳴る。
「受け取ってくれ。」
テオバルトはマルフィナに花束を突きつけた。
「?」
マルフィナが狐につままれたような顔をすると、彼はイタズラが成功したような得意顔で笑う。
「結婚式だよ。今度こそ本当に、変わらぬ愛を誓い合おう。」
そこで茶番の意図を理解した彼女は、驚いて周囲を見回す。
男性陣は満面の笑顔で「おめでとう」「お幸せに」と囃し立てる。
シェリルはマルフィナと同様に、何事かと目を大きくして周囲を見回している。
恐らくマルフィナを一時的に会場から追い出すよう頼まれただけで、詳細は聞かされてなかったのだろう。
彼女のテオバルトへの好意と、マルフィナとの結婚を良く思っていなかったことは、傍目からでも察せられた。
だから隠していたのだろう。
マルフィナは慌てて抗議した。
「わたくしたちの結婚は王命によるもの。結婚生活での条件は、そちらには一切干渉しないことのはずです。」
私に干渉するなと吐き捨てたあの初夜を忘れたのか?
その旨をやんわりと告げた。
「ああ、あのことならもう気にしなくていい。」
だがテオバルトには通じていないようで。
「たしかに初めて会ったときの君は、お世辞にも見れた顔ではなかった。だがそれから僕に相応しいレディになるべく努力し、あの女の鼻を明かしてくれた。僕は今なら君を、正式に妻として迎え入れてもいいと思ってるんだよ。」
彼の妻になりたい、愛されたい女性は、貴族令嬢のみならず市民にも数え切れないほどいるのだろう。
だがマルフィナはまったく嬉しくない。
むしろ失望した。
新婚時代にやってきた仕打ちを謝罪するでもなく、過去の自分を悔やむでもない。
やっぱりこの男は、あの初夜から何も変わっていない。
マルフィナはキッパリと言い放った。
「申し訳ございませんが、お断りさせていただきます。」
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