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28話 動き出す謀りごと
しおりを挟む「あら?…ちょっとお待ちなさい」
ロズウェルの部屋へ向かっていたマリアは、廊下ですれ違った執事の腕の中に何やら荷物が抱えられているのが目に留まった。
時は、ロズウェルのもとにリンドから大量の婚約者候補の書類が送られてきたあの朝に遡る。
「はい、マリア様。おはようございます。いかが致しましたか。」
と、執事は緊張の面持ちで礼をする。
マリア様は普段は物腰柔らかくお優しい方なのだが、リズティア様のことを伝えると異様に冷たくなり、話す使用人にも恐ろしい顔を向けられるので、何か報告しなければならない時はヒヤヒヤするし、
ロズウェル様に関わることに至っては異常なほど執着してくるため、こちらもまた報告するのが面倒だった。
だが、この伯爵家では、主人のロイーズ様があまり家にいらっしゃらないので、政務はロイーズ様がいつの間にかなさった仕事以外はロズウェル様が、
家内の取仕切りは女主人としてマリア様が行い、その取り仕切りの方向性が合っていようが間違っていようが正せる人間がいないため、マリア様の独壇場だった。
今はロズウェル様宛のこの荷物の件を問われるのだろうと予測がついた執事は、内心溜め息をついて、次の言葉を待った。
「それ、あなたの抱えてる荷物。ロズウェルの部屋から持ってきたの?」
案の定だと執事は内心項垂れた。
マリアは美しいドレスの袖をひらりとさせながら腕を軽く持ち上げ、荷物を指差しながら聞いてきた。
「はい、その通りでございます。」
「それは何かしら?お手紙の山のように見えるけれど…どちら様から?まさか、またおバカな子猫ちゃんたちじゃないでしょうね?」
マリアの目がギラリと光る。
マリアはロズウェルに届く手紙をいつも先に確かめていた。
というのも、ロズウェル宛ての手紙には仕事関係のものより、ミーハーな令嬢たちのラブレターらしきものが多く届き、マリアが認める者以外を近寄らせないため、ロズウェルの目に入る前にそのような手紙を処分するためだ。
…親子で似た性質があると言えた。
だから、今回マリアより先にロズウェルのもとに届けられたであろう、その荷物のような手紙が気になったのだ。
「はい、こちらはユークリウス公爵家からのものでございます。ロズウェル様宛に至急目を通してもらいたいとの事でございましたので、急ぎロズウェル様に確かめて頂いたところでございます。」
執事は俯いて礼をしたまま答えると、
「ふ~ん…」
と言いながらマリアの手が伸びてきて、荷物から一枚手紙を抜き取る。
「…?なによ、これ…?」
マリアは中身を確認して目を瞠った。
「まさか、全部そうなの?」
驚きながら手紙の山を指差して問う。
「そのようでございます。」
相変わらず礼をしたままだ。できるだけ早く終わらせたいので、質問されたこと以外は答えない。
「どういうことなの…公爵家からお見合いの仲介⁈
…よくわからないけど、ティアのことで我が家とつながりができたから、長男にもユークリウス家お抱え貴族の中から配偶者を選べということかしら?
まぁ、確かにユークリウス家に敵対しようと思うような間抜けな貴族はさすがにいないにしても、ユークリウス家にとって価値がない家もおありでしょうしね…
…なるほど、で?その荷物どこへ持っていくつもり?私のところへ持ってくるつもりだったのかしら?」
ニコっとしてそういうマリアに、執事の表情は少し怯えながら言う。
「あっ、はい、いえ、そのっ…こちらはロズウェル様より、書斎にしまっておくように仰せつかっておりまして…」
執事は何やら告げ口をしているようで嫌な汗が滲み出る。
「なんてこと!公爵家からの紹介をそのように扱かうなんて、とんでもないわ!
…ロズウェルったら、仕方ないわね
じゃあ、そちらの荷物私が預かりますから、私の私室にあとで持ってきてちょうだい。」
ニコっと微笑んだマリアは歳を重ねても美しく、その姿にドキリとして執事は一瞬固まるが
「承知致しました。」
とまた俯いて、礼の姿勢をとる。
満足気にマリアはまたロズウェルの部屋へと向かって歩き出した。
やれやれ、これはロズウェル様に申し訳ないことをしてしまったかもしれないな…
そう思いながら、内心でロズウェルに謝罪した執事は、向かう先をロズウェルの部屋からマリアの部屋へ変更し、歩き出した。
———かくして、一時は水の泡となりかけたリンドの謀略が、少し意味の取り違えがあるとはいえ、また命を吹き返したのだった———
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