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66話 庇護欲
しおりを挟むコンコン
ロズウェルは目の前の、古いけれど歴史を感じる重厚で趣きのある扉を軽くノックした。
ここアルバインド侯爵家は歴史のある由緒正しい家門で、建物も現在の建築ではなく、何百年か前の建築様式であったため、
学問に明るいロズウェルは、それらを実際に中に入って見ることができ、感動をおぼえていた。
そう、今日はフローラと初顔合わせの日だ。
家格がフローラの方が上位であるため、ロズウェルがフローラの邸まで逢いに訪れたというわけだ。
ロズウェルは玄関で両親に挨拶した後、フローラは応接室にいるそうで、執事に連れられて部屋の前まで来ていた。
「はっ、はい!…あっ、あのっ、どっ、どうぞ!」
元気な声ではあるが
かなりどもったな…
緊張されているのだろうか…
ロズウェルはそう思いながら扉を開け、中へ入る。
「失礼致します。フローラ様。お初にお目にかかります、ロズウェル=マルセルでございます。本日はどうぞよろしくお願い致します。」
胸に手を当て軽く礼をする。
フローラも立ち上がってカーテシーをした。
「こっ、こちらこそっ、あのっ、…よろしくお願い致しますわ」
フローラはそう言って顔を上げると、ロズウェルと目が合ってしまい、咄嗟に恥ずかしさで俯いてしまう。
フローラが耳まで真っ赤に染まってしまったのが、ロズウェルの目に入ってしまった。
なるほど…
ラムの報告通り、たしかに純粋そうで、まぁ、可愛いらしい…かな
あのぎゃーぎゃー系の女性よりはよほど良さそうだ
もちろんティアには劣るけどね
そう思いながら、ソファセットの前にいたフローラの前まで歩み寄ると、2人は向かい合わせにソファに座る。
少しフローラの手が震えているのが見えたロズウェルは、家格が下なことは置いておき、先に話しかけてあげた。
「初めてまして、フローラ様。本日はお招き頂いて、ありがとうございます」
なにせティアの親友なんだから、きちんとしないとな
とロズウェルはティアのためにとフローラを観察しながらも、
(ティアのためという名の自分自身のエゴだとは気づいていないのだが)
おかしな兄と思われてティアに迷惑がかからないように、姿勢を正し、胸に手を当て礼の姿勢を取りながら、至上の微笑みを浮かべて見せた。
その美しい笑みが自分だけに向けられたフローラはあまりの興奮に…鼻からひとすじの血が垂れた…
「フ、フローラ様⁈大丈夫ですか?」
慌てて自分のハンカチを取り出したロズウェルは、急いで立ち上がってフローラのそばへ行き、
「失礼しますね」
と、ハンカチでゆっくり鼻を拭いて、押さえてやる。
「ず、ずビバゼンっ」
恥ずかしさのあまり目を白黒させながら、しどろもどろになるフローラに
「大丈夫だから、気にしないでゆっくりしてて」
ロズウェルは心配気な顔をして、
なぜかティア以外で初めて庇護欲にかられ、優しく背中を撫でてやった。
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