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139話 こっちに来てよ
しおりを挟むコンコン
キースが帰ったその日の夜。
小さなノックの音が、夜中の静かな部屋に響いた。
ティアは、終日ダンスや語学の訓練に励んだせいで、体がクタクタになり、
もう寝ないと…
また明日も朝早くからだから、起きられないと大変だわ
…絶対負けないように、がんばらないとね
リンド様と結婚するには、それしかないんだから!
と思いながら、ベッドに入ったその時だった。
夜中まで語学の本を読んでいたので、けっこうな夜更けになっていた為、驚いて少し身構えた。
黙っていると、もう一度
コンコン
とノックされる。
しかし、そのノックの聞こえてきた扉が、あの秘密の扉だったことに気付いて
ティアは嬉しくなって、扉に駆け寄ると
念のために聞いた。
「はい、…リンド様ですか?」
夜中だし、秘密の扉なので、小声で聞いてみる。
「ああ、そうだよ。起きててくれてよかった。ねぇ、ティア、ここ開けてくれる?」
そう、この扉はティアの部屋側にだけ鍵がつけられていたのだ。
「はい、すぐに開けますわね。少しお待ちくださいませ」
鍵を取りに行き、すぐに開けると、リンドの優しく微笑んだ顔が覗いた。
と、思ったら
すぐに抱き寄せられてしまう。
「ティア…なんでこっちに来てくれないの?
昨日もだったし、今日でもう2日目だけど、どうかした?
俺のこと嫌いになったんじゃ…ない、よな?」
リンドにとって、ティアと離れていた時間はほんの少し。
だから添い寝するのが当然の習慣だと思っている。
しかし、ティアは違う。
一緒のベッドに潜り込んで、冷血公子リンドを怒らせて以来、
すでに3年、一人で寝る生活に慣れてきたのだ。
それに、
ティアは中に精霊リンドが入っていて、抜けている間があの冷血公子だったとは知らないのだから、
今のリンドが昔の優しい、自分を愛してくれるリンドに戻っているとわかっていても、
あの時、自分から扉を開けて男性の部屋に入るのは良くないのだと、またそのような女性を、
はっきりと強く拒否してきた、あの冷血公子を思い出すと、
リンドとまた一緒のベッドで眠りたいと思いつつも、自分から気軽に隣の部屋へ行ける気がしなかった。
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