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70 吾が仕えし姫

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 はい、私は何故か薄暗く壁に囲まれた道を進んでいます。何故でしょう?それもジュウロウザに抱えられています。

 その前には杖をつきながら歩いているお爺さんがいます。

 私、否定したよ。無理だって。駄目だって。なんでこんな事になっているんだ!!



 あの雨の中、私はシンセイに夏王の最後の言葉を言ったのだ。人には出来ないこともあるという意味を込めて、しかし、シンセイは別な方向に捉えてしまった。

 雨に打たれながら、水が溜まった地面に跪くシンセイ。

「ここにおいでにありましたか姫君。探し申しておりました」

 ん?何のこと?ボケ老人の戯言?

「このシンセイ。陛下の命により血を分けし妹を探してまいれと言われ、各地を巡り探し申しておりました」

 なんか、この話はおかしいな。確かゲームで今の夏王は一族を皆殺しにして王位についたはず、それも前王の一番末の子だったはず。妹なんていやしない。

「その王の妹さんの特徴はなんですか?」

「陛下は会えばわかると」

 駄目だ。これは絶対に駄目な部類だ。ちらりとジュウロウザを伺い見る。これ、絶対にジュウロウザと同じで国を追い出されたパターンだ。

 ゲームではボケ老人のシンセイが国を出ている理由が語られることはなかったが、先の夏王に重宝され、己の武器まで与えられた人物だとすれば、現王にとっては鬱陶しい存在だったのだろう。下手に扱えば、周りの者が黙ってはいない、古参の老人の言葉を無視することは出来ない、そんなところか。

「はぁ。わからない人を探すのは大変でしょうが、私には父も母もいますので、その姫君ではありませんよ」

 すると、シンセイは老人とは思えないぐらい素早く、すくっと立ち上がり、私を見て言った。

「姫君は姫君であります。吾が仕えし姫であります」

 その姿に若かりし頃の黒髪のシンセイの姿が私の目に映った。姿は老いぼれても魂は己が仕えた夏王と共に戟を振るい、戦った頃のままだと言わんばかりに。

「モナ殿。この御仁は俺と同じだったりするのか?」

 私とシンセイとの会話でジュウロウザも気がついてしまったようだ。

「仕える主を失った老将の居場所など限られているでしょうから」

 私はジュウロウザの言葉に肯定も否定もしない。私はシンセイがここにいる経緯を知らないのだから。

 ジュウロウザは何かを考えているのか黙ってしまった。

「お爺さん。私はただの村娘ですよ。村は穏やかな時が流れていて、争い事なんてありません。私に仕える意味なんてありませんよ」

「仕える意味を見出すのは吾にあり」

 えー。困るし。村にシンセイが居ても····いや、みんな嬉々として戦いを挑んでいそう。何故か冒険者をしている皆は向上心が旺盛なのだ。恐らくシンセイも村の結界を普通に通ることができるだろう。仕える新たな王に存在しない人物の捜索を命ぜられたのだ。それはもう戻ってくるなと言われたのと同意義。

「モナ殿。ダンジョンにあの御仁の武器を取りに行かないか?」

「は?キトウさん何を言っているのですか?」

 無理だし。私の駄目具合をジュウロウザは百も承知のはず。

「いや、32階層の突き当りというのなら、あの御仁一人で行けるかもしれないが、モナ殿は罠の中と言った。それは、普通では見つけられないということではないのだろうか」

 はっ!確かに!私も偶然見つけてしまっただけだし、普通なら39階層に真っ逆さまだ。
 ん?ということは、私も罠の中に飛び込まないと行けないわけ?7階層分を落下しろと?いや、あの神殿のフリーフォールもどきと比べれば、まだ、高さが低い方か。しかし、でも、そもそも私がダンジョンに入るということ自体無理がある。

「キトウさん。私、ダンジョンで生きていけませんよ?」

「抱えて行けば問題ない」

「なら、吾が先鋒を勤めよう」

 なに普通にシンセイが話に混じってきているんだ!ジュウロウザ!そこで頷かないで!


 そして、翌日私はジュウロウザに抱えられ、薄暗い道を進んでいる。その前には杖をついた老人がいる。すれ違う冒険者達に奇異な目で見られつつ進んでいる。
 ベルーイは流石にダンジョンの中に入れないので、宿でお留守番だ。

「シンセイさん。そこ右です」

 私は時々行く道を指示している。最初は進む道がわからないと思っていたが、レベリングするために何度もダンジョンに潜っていたので、段々思い出してきていた。

「真ん中に落とし穴があるので、壁側を通ってください」

 前方を行くシンセイは杖をついてはいるものの足取りはしっかりしており、飄々とした感じで進んでいく。本当にこれがあのボケ老人なのだろうか。

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