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26章 建国祭

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「シェリーちゃん。南側には魔眼持ちが落ちて行ったのだけど、大丈夫なのよね?」

 オーウィルディアは心配そうにカイルを見てシェリーに視線を向けた。そして、オーウィルディアの言葉にカイルとグレイが慌てた表情をするもシェリーは直に動こうとはしていない。

「大丈夫ではないでしょうね」
「シェリーちゃん!」

 魔眼に対する耐性は得られてはいない。そして、オルクスとリオンを追いかけて行ったのか、いつの間にかスーウェンの姿もなかった。

「まぁ、彼らと居ればこうなることも予想済ですから、問題視することではありません」

 シェリーの言葉にカイルは何とも言えない表情をしている。己の失態をシェリーから突きつけられ、弱いお前が悪いのであって、シェリー自身には関係ないと。シェリーはシェリーで戦うだけだからと。

「俺!止めてくる!」

 グレイはそう言って南側に消えていった三人を追いかけるべく、駆け出した。その駆け出す姿は赤い毛並みの獣となり、地を蹴った瞬間にかき消えた。

「あら?赤い……犬?狼よね?」

 グレイの獣化は一瞬しか見えなかったが、オーウィルディアの動体視力でその姿は捉えられており、金狼の一族とわかっていながらも、犬と言い間違えていた。

「なんだか聞いていた感じと違うわね。私が戦場に出る前に黒狼っていう獣人が次元の悪魔との戦いを率いていたらしいけど、その姿は軍神と言っていいほど雄々しかった聞いていたのに……ねぇ、シェリーちゃん。これは兄上にどう報告すればいいのかしら?」

 オーウィルディアは黒狼クロードの巨大な獣化の話を人から聞いたことがあったようだ。それと比べると子犬と言っていい感じのグレイの獣化だ。叔父としてオーウィルディアは甥の成長を喜ばしいと言うべきところだが、聞いていた話との齟齬に戸惑いがあるようだ。

「あれですか?グレイさんの獣化はナディア様が“可愛いわよね”という感覚だけで、獣化した姿です」

 シェリーの説明は少し違うが、女神ナディアの力によってグレイが大型犬に獣化したことには変わりはない。

「そうなのねー。私は北側にいるから、何かあれば、連絡をしてくれればいいわ」

 オーウィルディアは女神ナディアの所為で獣化した事を知って、ある意味納得して触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに話を打ち切り、自身で転移陣を展開して、この場から姿を消した。

「シェリー。早く次元の悪魔のところに向かわないと」

 一向に行動を起こさないシェリーにカイルは急かすように声を掛ける。もし彼らが操られれば、この公都も甚大な被害を受けるだろう。

「そうですね」

 とは言いつつもシェリーは目をせわしなく動かしながらも、動かない。

 シェリーは斜め上に見えるマップで次元の悪魔の位置を確認しているのだ。それを空間を触れるようにタップする。
 そこにはよくわからない数字の羅列が現れる。これは世界で決められた座標の数値だ。

 ここ最近、移動する距離が尋常でなく、行ったこともない場所に行くこともあった。騎獣を使えばいいのだが、騎獣に負担がある距離感であったり、人族のシェリーには過酷な日程を詰め込まれることもあったので、マップ機能から転移ができないものか、機能の向上を行っていたのだ。

 ただ、使うのは今回が初めてのため、ぶっつけ本番と言っていい状態だ。

 シェリーは鞄から魔石を取り出し、転移陣を展開させ、マップ機能とリンクさせ、よくわからない数値を転移陣に反映させる。

「カイルさん。ついてくるつもりですか?」

 シェリーはしれっと転移陣に入ってきたカイルに視線を向けて尋ねる。カイル的にはついて行くの一択しかない。

「勿論」

「そうですか。今回はどういう状況下で転移されるかわからないので、気をつけてくださいね」

 珍しくシェリーから転移の注意事項を言われたカイルは首を傾げる。恐らく、先ほどおかしな行動をしていたことが関与するのだろうが、どういう状況下でもシェリーを守ることには変わらない。同じ轍を踏むことはしない。

 そう、ギラン共和国のダンジョンマスターの計らいによって戦った完全体の悪魔の模倣と戦ったことが、カイルに自信をつけさせていた。

「わかった」

 カイルのそこ言葉で、シェリーは転移を発動させた。




 一方その頃グレイは直に追いついたスーウェンの前方に立ち、行く手を遮った。

「グレイ、なんです?」

 赤い大型犬に前方を塞がれたスーウェンは急がなければならない状況であるのに、何の用があるのかと、グレイを見下ろしていた。

「わふっ!」

「……」

 獣化したグレイは人語を介すことができなかった。中途半端な獣化である弊害がこんなところに出てしまっていた。

「せめて、獣人の姿になってもらえませんか?」

 スーウェンの冷たい視線が、グレイに己の無力さを感じさせ項垂れさせている。いや、中途半端自分自身に項垂れていたのだった。

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