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女神に『転生トラック』として板についてきたと言われたが、まったくもって嬉しくない。慣れてくると私が人を轢いているという事実に心が沈んでいく。いくら女神の采配で相手もぶつかっても痛くないとはいえ、罪悪感もわいてくる。
今日の仕事を終えて倉庫に戻って来たが、ため息が止まらない。ここ最近はずっとこんな事を考えていてため息ばかり吐いている。
「どうした嬢ちゃん。最近は気分が沈んでいるみたいだが、なんか悩みでもあるのかい?」
「おっちゃん……」
彼はどういう経緯でこのトラックになったのだろう。そして、この仕事についてどう思っているのか……聞いてもいいのだろうか。
「おっちゃんは私がこうなる前は毎日こんなにたくさんの人達を『トラ転』させてきたんでしょう? その、心がおかしくなったりしなかったの?」
「うーん、もともと俺はそのために生まれてきた存在だからなぁ……」
「そっかぁ」
私とは経緯が違うからそんな風に考えたりもしないのか。まぁ、しかたないよね。
「嬢ちゃんは人間だったからなぁ……俺と考えが違うのだろうな。でも、嬢ちゃんの心が壊れちまうのは駄目だ。仕事ばっかりもいけないからな。よし、あの女神さんが明日の分のリストを持って来なかったからゆっくり休んだらいい。なんなら、ただ走ってくるってのもいいかもしれないな」
トラ転させるために走るのではなく、ただただ走るか……それもいいのかもしれない。
「うん。ちょっと疲れているのかも。明日は何にも考えずに走ってみようかな」
「それがいい。女神さんが創った誰もいない道がずっと続いている場所があるからそこで走るといい。俺も付き合おう」
「いいの? おっちゃんはまだ修理中でしょう?」
私にぶつかったせいでまだ修理中だったはずだ。
「これでも大体は治ってきたんだぜ。仕事には復帰できないが走るくらいならできそうだ。俺もこのままじゃあ鈍りそうだしな」
こうして二人、いや二台で走りに行った場所はどこまでも道が続くそんな場所だった。高速道路を走っているかと思ったら緑豊かな田舎風の道だったり海沿いの気持ちいい風が吹く道だったりと、次々と景色が変わっていく。人間はいないが動物や鳥達は生息している。だが、けっして道路に出てくる事はない。二台で並んで喋りながら走ったり、見晴らしのいい場所で停まって休憩をしたりといい気分転換になった。
一日中走り続けて星空の下、私達はいつもの倉庫に戻って二台並んで停まる。
「おっちゃん、今日はありがとう」
「どういたしまして。元気になったみたいでよかった。また一緒に走りに行こうな」
「うん」
これで明日からもまた頑張れそうだ。近くにある机の上に明日のリストが乗っている。それを確認して下まで読めば「いつもありがとう」と綺麗な字で書かれていた。女神からの感謝の気持ちがその文字から伝わる。でも、その隣に描いてある女神のウインクした絵には少しイラっとした。
あれから休みの日にはあの場所をひとりで走ったり、おっちゃんと一緒に走ったりと息抜きをしているので心の安寧が保たれている。
約束の一年まであと少しに迫ってきた。おっちゃんもほぼ回復しているので私もお役御免になるのだろう。
「もうすぐ嬢ちゃんともお別れか……いい事なんだがちっとばかし寂しいもんだな」
「おっちゃんのおかげで何とかこの仕事もやりきれそうだよ。だから、ありがとう」
望みどおりに転生させてくれるならどんな世界がいいだろう。やっぱり元の世界に似た所かなぁ。私は夢だった学校の先生になる事をどうしても叶えたい。
「異世界でも先生になれるかなぁ。学校ってあるんだろうか……」
「そういや、嬢ちゃんの夢は学校の先生だったな。尊敬する先生がいるんだったか」
そう、私が学校の先生を目指す切欠をくれたあの先生のように、生徒達に寄り添って力になってあげられるそんな人になりたい。
「嬢ちゃんならどこに行ってもやっていけるさ」
「うん。頑張るね!」
転生をしたらここでの事は忘れてしまうのだろうか。それは少し寂しいが、記憶に
残らなくてもこの不思議な体験はきっと魂には刻まれるだろう。
『黄昏時の一本道』を今日も私は走り抜ける。そう、走り抜けるはずだった。
今日の仕事を終えて倉庫に戻って来たが、ため息が止まらない。ここ最近はずっとこんな事を考えていてため息ばかり吐いている。
「どうした嬢ちゃん。最近は気分が沈んでいるみたいだが、なんか悩みでもあるのかい?」
「おっちゃん……」
彼はどういう経緯でこのトラックになったのだろう。そして、この仕事についてどう思っているのか……聞いてもいいのだろうか。
「おっちゃんは私がこうなる前は毎日こんなにたくさんの人達を『トラ転』させてきたんでしょう? その、心がおかしくなったりしなかったの?」
「うーん、もともと俺はそのために生まれてきた存在だからなぁ……」
「そっかぁ」
私とは経緯が違うからそんな風に考えたりもしないのか。まぁ、しかたないよね。
「嬢ちゃんは人間だったからなぁ……俺と考えが違うのだろうな。でも、嬢ちゃんの心が壊れちまうのは駄目だ。仕事ばっかりもいけないからな。よし、あの女神さんが明日の分のリストを持って来なかったからゆっくり休んだらいい。なんなら、ただ走ってくるってのもいいかもしれないな」
トラ転させるために走るのではなく、ただただ走るか……それもいいのかもしれない。
「うん。ちょっと疲れているのかも。明日は何にも考えずに走ってみようかな」
「それがいい。女神さんが創った誰もいない道がずっと続いている場所があるからそこで走るといい。俺も付き合おう」
「いいの? おっちゃんはまだ修理中でしょう?」
私にぶつかったせいでまだ修理中だったはずだ。
「これでも大体は治ってきたんだぜ。仕事には復帰できないが走るくらいならできそうだ。俺もこのままじゃあ鈍りそうだしな」
こうして二人、いや二台で走りに行った場所はどこまでも道が続くそんな場所だった。高速道路を走っているかと思ったら緑豊かな田舎風の道だったり海沿いの気持ちいい風が吹く道だったりと、次々と景色が変わっていく。人間はいないが動物や鳥達は生息している。だが、けっして道路に出てくる事はない。二台で並んで喋りながら走ったり、見晴らしのいい場所で停まって休憩をしたりといい気分転換になった。
一日中走り続けて星空の下、私達はいつもの倉庫に戻って二台並んで停まる。
「おっちゃん、今日はありがとう」
「どういたしまして。元気になったみたいでよかった。また一緒に走りに行こうな」
「うん」
これで明日からもまた頑張れそうだ。近くにある机の上に明日のリストが乗っている。それを確認して下まで読めば「いつもありがとう」と綺麗な字で書かれていた。女神からの感謝の気持ちがその文字から伝わる。でも、その隣に描いてある女神のウインクした絵には少しイラっとした。
あれから休みの日にはあの場所をひとりで走ったり、おっちゃんと一緒に走ったりと息抜きをしているので心の安寧が保たれている。
約束の一年まであと少しに迫ってきた。おっちゃんもほぼ回復しているので私もお役御免になるのだろう。
「もうすぐ嬢ちゃんともお別れか……いい事なんだがちっとばかし寂しいもんだな」
「おっちゃんのおかげで何とかこの仕事もやりきれそうだよ。だから、ありがとう」
望みどおりに転生させてくれるならどんな世界がいいだろう。やっぱり元の世界に似た所かなぁ。私は夢だった学校の先生になる事をどうしても叶えたい。
「異世界でも先生になれるかなぁ。学校ってあるんだろうか……」
「そういや、嬢ちゃんの夢は学校の先生だったな。尊敬する先生がいるんだったか」
そう、私が学校の先生を目指す切欠をくれたあの先生のように、生徒達に寄り添って力になってあげられるそんな人になりたい。
「嬢ちゃんならどこに行ってもやっていけるさ」
「うん。頑張るね!」
転生をしたらここでの事は忘れてしまうのだろうか。それは少し寂しいが、記憶に
残らなくてもこの不思議な体験はきっと魂には刻まれるだろう。
『黄昏時の一本道』を今日も私は走り抜ける。そう、走り抜けるはずだった。
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