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第一章 「占拠された花園」
八章 メッセンジャー(3)
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「さて、ご飯食べに行きましょうか」
皐がガヤガヤと周りがうるさくなっている中、当たり前のように言った。
腹は減っているのだが今すぐに平和部の見学に行きたいという熱のこもった想いがあり、メガイラにも会いたいというわがままもある。皐の言うようにしててはしたいことが出来なくなる可能性があるのだ。
しかし皐の提案は今の俺には魅力的に感じる。なんせ朝は少なかったのだ、食欲は大きい。
「そうだな。腹が減った」
「でしょう? 学校の食堂が開いているはずなので今行っても大丈夫です」
皐は教室の壁時計をちらっと見た後、机の脇に置いていた鞄を取った。
さすがの俺も馬鹿ではない。腹が減ったまま見学など行かない。
……待てよ、わざと朝食を減らしたんじゃないだろうな?
「旦那様! 私を忘れてはいませんか! 早く檻に入れてください!」
机の上でギャーギャー騒がしいミーザに急かされて鞄の中の檻を取り出したが、こんな檻にミーザを入れるのかと考えると躊躇してしまった。当たり前だが俺はそれは駄目だろうという意識が生まれて教室の隅のゴミ箱に檻を投げ入れた。
「ああー! 何をするのですかぁー!」
ミーザは怒った。ああ怒って良いともミーザの住処を捨ててしまった俺に憎悪を向ければいい。俺も持ち運びが難しくなって後悔しているからな。
「ミーザ、お前にはあの檻は必要ない」
「何故ですか!」
「お前を閉じ込めるものだからいらないんだよ。鞄の中に入れるぞ、いいか?」
「……むぅ、確かに閉じ込められたくないです。したかったらお好きにどうぞ」
なんともまぁ可愛くないことだ。俺は雑にならないよう慎重に両手の甲を机に着け、手のひらを天井へ向ける。するとミーザは俺の手のひらへ場所を移して正座をするのだが、これが凄く運びづらい。傾きで落ちることの無いようにゆっくりと鞄の中へ入れた。
鞄はチャック式で少し開いてあり、鞄に筆箱と予備の筆箱を重ねて中で埋もれないよう土台を作っておいた。
ミーザはもぞもぞと動くと、少し怒った口調で非難を言う。
「かたいです! これなら檻の方が逆に平らで心地よかったですよ!」
「うう、次は工夫するから勘弁してくれ」
「手で持ってください! 腕でもいいです!」
確かにミーザの立場になればかたいところにずっと座ってるとなると嫌な気分になる。
気を使うのは当たり前なのでもちろん俺は持つ。我慢しろとか言う奴は善人ではない、イキリのガキだ。
腕で持つことにしたが、さすがにミーザから移動してもらうのは難しいので手で持ち上げ 「なにをするだー!」、肘を九〇度に曲げたL字の腕にミーザの尻を乗せ 「許さん!」、足をぶらんぶらんさせる。
これで人間椅子の完成だ。
「ほほう、これならばお尻を触られる心配がなくていいです」
「……良かったな」
お尻って……凄くデリケートなホムンクルスだなぁ……。
この時ふと皐を見るのだが、彼女はむっとして俺を見ていた。
「ど、どうした?」
「なにがですか?」
と思っていたら、いつの間にか自然な笑みを浮かべており、柔らかな声で応答する。
気のせいかもしれないな。気のせいではないだろうが。
「ああいや、行こうぜ」
「そうですね」
空いている右手で鞄を持つと廊下に出るのだが、その時皐は横に並んだ。
あ、フリアエ忘れてた。
教室へ振り返るがフリアエはおらず、フリアエの鞄だけが机の上に置いてあった。
皐がガヤガヤと周りがうるさくなっている中、当たり前のように言った。
腹は減っているのだが今すぐに平和部の見学に行きたいという熱のこもった想いがあり、メガイラにも会いたいというわがままもある。皐の言うようにしててはしたいことが出来なくなる可能性があるのだ。
しかし皐の提案は今の俺には魅力的に感じる。なんせ朝は少なかったのだ、食欲は大きい。
「そうだな。腹が減った」
「でしょう? 学校の食堂が開いているはずなので今行っても大丈夫です」
皐は教室の壁時計をちらっと見た後、机の脇に置いていた鞄を取った。
さすがの俺も馬鹿ではない。腹が減ったまま見学など行かない。
……待てよ、わざと朝食を減らしたんじゃないだろうな?
「旦那様! 私を忘れてはいませんか! 早く檻に入れてください!」
机の上でギャーギャー騒がしいミーザに急かされて鞄の中の檻を取り出したが、こんな檻にミーザを入れるのかと考えると躊躇してしまった。当たり前だが俺はそれは駄目だろうという意識が生まれて教室の隅のゴミ箱に檻を投げ入れた。
「ああー! 何をするのですかぁー!」
ミーザは怒った。ああ怒って良いともミーザの住処を捨ててしまった俺に憎悪を向ければいい。俺も持ち運びが難しくなって後悔しているからな。
「ミーザ、お前にはあの檻は必要ない」
「何故ですか!」
「お前を閉じ込めるものだからいらないんだよ。鞄の中に入れるぞ、いいか?」
「……むぅ、確かに閉じ込められたくないです。したかったらお好きにどうぞ」
なんともまぁ可愛くないことだ。俺は雑にならないよう慎重に両手の甲を机に着け、手のひらを天井へ向ける。するとミーザは俺の手のひらへ場所を移して正座をするのだが、これが凄く運びづらい。傾きで落ちることの無いようにゆっくりと鞄の中へ入れた。
鞄はチャック式で少し開いてあり、鞄に筆箱と予備の筆箱を重ねて中で埋もれないよう土台を作っておいた。
ミーザはもぞもぞと動くと、少し怒った口調で非難を言う。
「かたいです! これなら檻の方が逆に平らで心地よかったですよ!」
「うう、次は工夫するから勘弁してくれ」
「手で持ってください! 腕でもいいです!」
確かにミーザの立場になればかたいところにずっと座ってるとなると嫌な気分になる。
気を使うのは当たり前なのでもちろん俺は持つ。我慢しろとか言う奴は善人ではない、イキリのガキだ。
腕で持つことにしたが、さすがにミーザから移動してもらうのは難しいので手で持ち上げ 「なにをするだー!」、肘を九〇度に曲げたL字の腕にミーザの尻を乗せ 「許さん!」、足をぶらんぶらんさせる。
これで人間椅子の完成だ。
「ほほう、これならばお尻を触られる心配がなくていいです」
「……良かったな」
お尻って……凄くデリケートなホムンクルスだなぁ……。
この時ふと皐を見るのだが、彼女はむっとして俺を見ていた。
「ど、どうした?」
「なにがですか?」
と思っていたら、いつの間にか自然な笑みを浮かべており、柔らかな声で応答する。
気のせいかもしれないな。気のせいではないだろうが。
「ああいや、行こうぜ」
「そうですね」
空いている右手で鞄を持つと廊下に出るのだが、その時皐は横に並んだ。
あ、フリアエ忘れてた。
教室へ振り返るがフリアエはおらず、フリアエの鞄だけが机の上に置いてあった。
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