無想無冠のミーザ

はらわた

文字の大きさ
23 / 40
第一章 「占拠された花園」

一〇章 回帰(3)

しおりを挟む
 ──俺は空を見上げていた。太陽の見えない曇り夜空を。

 今まで、というのかな。あれだけ仲良くなった皐、ミーザ、浅野、その他の数々の絆は一瞬で消えた。

 こういうことを前に経験していたからか、心の空洞は、今回の衝撃を通り抜けてしまったようだ。

 思えば短かったようで、濃厚な日々だった。新たな人生が、これから幕開けようとしている寸前で起こったタイムスリップ。凄い経験をしたはずなのに、どうして虚しいのか。

 現実でなければ、夢であれば諦めも忘却も出来たはずなのに、俺の頭にはしこりのように消え去らない。不安はいつまでも残り続ける。

 俺のパートナー……緋苗で良かったのだろうか。出会ったこともなく、歳すらも知らないミーザが、とても魅力的だからだったからだけれども……それは数ある選択肢にいくつも散りばめられていた。

 何も変わっていなかった皐……ピュセルと一緒に居ると楽しかった。居心地が良かった。俺は間違いなく彼女を選ぶべきだったのだ。

 右手に握り締めた屋上の鍵。誰一人もいない空の下、後悔を捨てた。

「……嗣虎く~ん」

 後ろ、屋上の出入り口から恐る恐るといった感じで声を掛けられ、鉄格子に預けていた体を振り向かせる。

 そこには長年出会っていなかったのではないかと思えるほど、新鮮な気持ちにさせてくれる緋苗の姿。目に残るピュセルの顔が重なるが、あまりに違っていた。

「はは、よく分かったな、ここに俺が居るって」

 ここはフリアエにしか立ち入りが許可されていない秘密の空間。屋上に来ようとする選択肢は緋苗の中に無かったはずだ。

 それを緋苗は苦笑して答える。

「散々歩いて、最後にここにたどり着いたんですよ。例え最初から嗣虎くんがここにいることを知っていたとしても、ちゃんと筋は通してきましたからね」

「何か大変なことでもあったのか?」

「特にないですよ。こんな夜中まで帰ってこない、嗣虎くんのことを入れてもいいんだったら大変かもしれませんね」

 腕時計を持っていないので時間は分からないが、午後の一〇時にはなっていると思う。だが、俺は信じられていなかったのだ。今日は入学式があった日などと……。

「部屋にゃあ、緋苗は居なかったしな。こうして一人になるのもいい気分転換だと思うだろ」

「私が帰ったのは六時です。フリアエちゃんも帰っていたようですし、嗣虎くんも戻るかなぁって思っていたんですけれどね。さぁ、帰りましょう?」

 緋苗に言われては仕方がない。俺は出入り口へ歩いた。


 ──今のところ心を許せるのはフリアエだけ。もう何も信じられない。


 けれど続く。続けていく。


 現実味の薄れた俺の道。きっとこれからなんだと、信じることを一歩から──。







「ふふ、嗣虎くん。面白そうな顔をしてますね」

「なんか変か?」

「私と初めて握手をした時のような、情けない顔をしているよ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...