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第一章 「占拠された花園」
一〇章 回帰(3)
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──俺は空を見上げていた。太陽の見えない曇り夜空を。
今まで、というのかな。あれだけ仲良くなった皐、ミーザ、浅野、その他の数々の絆は一瞬で消えた。
こういうことを前に経験していたからか、心の空洞は、今回の衝撃を通り抜けてしまったようだ。
思えば短かったようで、濃厚な日々だった。新たな人生が、これから幕開けようとしている寸前で起こったタイムスリップ。凄い経験をしたはずなのに、どうして虚しいのか。
現実でなければ、夢であれば諦めも忘却も出来たはずなのに、俺の頭にはしこりのように消え去らない。不安はいつまでも残り続ける。
俺のパートナー……緋苗で良かったのだろうか。出会ったこともなく、歳すらも知らないミーザが、とても魅力的だからだったからだけれども……それは数ある選択肢にいくつも散りばめられていた。
何も変わっていなかった皐……ピュセルと一緒に居ると楽しかった。居心地が良かった。俺は間違いなく彼女を選ぶべきだったのだ。
右手に握り締めた屋上の鍵。誰一人もいない空の下、後悔を捨てた。
「……嗣虎く~ん」
後ろ、屋上の出入り口から恐る恐るといった感じで声を掛けられ、鉄格子に預けていた体を振り向かせる。
そこには長年出会っていなかったのではないかと思えるほど、新鮮な気持ちにさせてくれる緋苗の姿。目に残るピュセルの顔が重なるが、あまりに違っていた。
「はは、よく分かったな、ここに俺が居るって」
ここはフリアエにしか立ち入りが許可されていない秘密の空間。屋上に来ようとする選択肢は緋苗の中に無かったはずだ。
それを緋苗は苦笑して答える。
「散々歩いて、最後にここにたどり着いたんですよ。例え最初から嗣虎くんがここにいることを知っていたとしても、ちゃんと筋は通してきましたからね」
「何か大変なことでもあったのか?」
「特にないですよ。こんな夜中まで帰ってこない、嗣虎くんのことを入れてもいいんだったら大変かもしれませんね」
腕時計を持っていないので時間は分からないが、午後の一〇時にはなっていると思う。だが、俺は信じられていなかったのだ。今日は入学式があった日などと……。
「部屋にゃあ、緋苗は居なかったしな。こうして一人になるのもいい気分転換だと思うだろ」
「私が帰ったのは六時です。フリアエちゃんも帰っていたようですし、嗣虎くんも戻るかなぁって思っていたんですけれどね。さぁ、帰りましょう?」
緋苗に言われては仕方がない。俺は出入り口へ歩いた。
──今のところ心を許せるのはフリアエだけ。もう何も信じられない。
けれど続く。続けていく。
現実味の薄れた俺の道。きっとこれからなんだと、信じることを一歩から──。
「ふふ、嗣虎くん。面白そうな顔をしてますね」
「なんか変か?」
「私と初めて握手をした時のような、情けない顔をしているよ」
今まで、というのかな。あれだけ仲良くなった皐、ミーザ、浅野、その他の数々の絆は一瞬で消えた。
こういうことを前に経験していたからか、心の空洞は、今回の衝撃を通り抜けてしまったようだ。
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現実でなければ、夢であれば諦めも忘却も出来たはずなのに、俺の頭にはしこりのように消え去らない。不安はいつまでも残り続ける。
俺のパートナー……緋苗で良かったのだろうか。出会ったこともなく、歳すらも知らないミーザが、とても魅力的だからだったからだけれども……それは数ある選択肢にいくつも散りばめられていた。
何も変わっていなかった皐……ピュセルと一緒に居ると楽しかった。居心地が良かった。俺は間違いなく彼女を選ぶべきだったのだ。
右手に握り締めた屋上の鍵。誰一人もいない空の下、後悔を捨てた。
「……嗣虎く~ん」
後ろ、屋上の出入り口から恐る恐るといった感じで声を掛けられ、鉄格子に預けていた体を振り向かせる。
そこには長年出会っていなかったのではないかと思えるほど、新鮮な気持ちにさせてくれる緋苗の姿。目に残るピュセルの顔が重なるが、あまりに違っていた。
「はは、よく分かったな、ここに俺が居るって」
ここはフリアエにしか立ち入りが許可されていない秘密の空間。屋上に来ようとする選択肢は緋苗の中に無かったはずだ。
それを緋苗は苦笑して答える。
「散々歩いて、最後にここにたどり着いたんですよ。例え最初から嗣虎くんがここにいることを知っていたとしても、ちゃんと筋は通してきましたからね」
「何か大変なことでもあったのか?」
「特にないですよ。こんな夜中まで帰ってこない、嗣虎くんのことを入れてもいいんだったら大変かもしれませんね」
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「部屋にゃあ、緋苗は居なかったしな。こうして一人になるのもいい気分転換だと思うだろ」
「私が帰ったのは六時です。フリアエちゃんも帰っていたようですし、嗣虎くんも戻るかなぁって思っていたんですけれどね。さぁ、帰りましょう?」
緋苗に言われては仕方がない。俺は出入り口へ歩いた。
──今のところ心を許せるのはフリアエだけ。もう何も信じられない。
けれど続く。続けていく。
現実味の薄れた俺の道。きっとこれからなんだと、信じることを一歩から──。
「ふふ、嗣虎くん。面白そうな顔をしてますね」
「なんか変か?」
「私と初めて握手をした時のような、情けない顔をしているよ」
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