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第二章 「深十島〇〇一作戦」
一章 異常な者達(1)
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今、寝不足によって使いにくくなったこの体に恨みを持つ。
四月の下旬、ついに保健体育が始まった。クラスメートのみんなはもちろん俺も黄色のジャージを身に付け、白壁白床のえらく広い体育館にて集合していた。
教師はリゴレット先生。ハゲで目が険しくて怖そうな先生だ。
隣の緋苗は周りのガヤガヤに合わせて話しかけてくる。
『あの人道徳の先生じゃなかった?』
『人殺しの目をしてるよね』
『あれでしょ? 最終的にボスになる人でしょ?』
『このハゲぇー! ……リゴレット、わざわざ俺に殺されに来たのか。は、はなせぇ……! もう駄目だ、おしまいだぁ……!』
「嗣虎くん嗣虎くん、男女共同なんですね」
「そうだな、人数が少ないからじゃないか?」
「年頃の男の子と女の子が一緒なんですよ、そこが問題なんじゃないのかな。でも、パートナー同士を考えると妥当なんでしょうけれど」
「別に更衣室は別々にあるんだから良いじゃないか」
「嗣虎くんは隙を見て覗いてきそうですけどね」
「する訳ないだろ」
何をおかしなことを言っているのか。男なら覗くに決まっている。
俺の後ろに座るフリアエは特に話している様子は無かったので、俺が構ってやることにした。
「なぁフリアエ」
「何」
「フリアエは体育は得意なのか?」
「普通」
「そ、そっか。小柄だもんな、フリアエは」
「別にやる気がないだけ。興味はない」
嫌なのかどうか、読めない表情のせいで分からず、この会話を続けて好感度が下がったらどうしようと悩んだ。
彼女にとって何が嬉しいのか分からない……。
それを聞いていた緋苗は体をよじる。
「フリアエちゃんはやる気を出せば凄いんだよね?」
「……」
……ニヤリ。
彼女の口角が上がった。その表情は見たことがあるもので、恐らく今のフリアエはフリアエではないだろう。
「後悔しても良いのなら」
対し、緋苗は「ほぅ」と感嘆した。
彼女には複数の人格が存在している。一人目はフリアエ、よく分からない女の子。二人目はエリニュス、とても優秀だがやんちゃな女の子。三人目はアイザ、こちらもよく分からない女の子。
そして、やはりだが、この感じは間違いなくエリニュスだ。
「えー、これから体力テストをします。各自プリントを手に、記録を残してください」
リゴレット先生が喋り出した。ようやく授業が始まったようで、前からプリントがまわってくる。
「はーいどーぞー」
「おー」
ゆるーい口調で手渡され、俺もそれを一枚エリニュスに渡す。
エリニュスは無言で受け取った。
「測定機は用意してある。自由行動だ、好きにしなさい」
すると、リゴレット先生は背を向け、この体育館を去った。
それを合図に各々は立ち上がり、記録を埋めるため動き出す。
俺も同じように行動をすることにした。
「嗣虎くん、まだ体が鈍ってるようですね」
「ああ。眠れてないからな」
「長座体前屈をしましょうか?」
「いや、握力がやりたい」
「そうですか、行きましょうか」
緋苗の心配につくづく良いミーザを選んでしまったなと思いながら、隅の握力計へと歩く。
そこには男子生徒の多くが集まっており、早速己の力が一番と言い張るような熱い戦いが繰り広げられていたのだった。
「ふんぬっ!」
「三八か、まぁまぁだな」
「い、いや! まだ本気が出せていないだけだ……もう一度ふんぬっ!」
「三六だぞ」
「もう三八でいいよ」
ミーザではない普通の人間は、中学でも見た当たり前の光景を見せている。
ではミーザは? そう、ミーザは柄にもなく激しかった。
「私はワールド。好きなものは猫、平和部に入部します……はぁぁ!」
何故か自己紹介をしながら頭に血管を浮かせる背丈の高い男が一人。手に握る握力計は一万もの測定が可能なもので、そこに表された数値は──。
「きゅ、九〇〇〇だと!? 化け物か!」
「皆さん、怖がらないでください」
非常に礼儀正しいが、九〇〇〇というのはさすがに……。
「俺はウルカヌス……好きなものはジュース……部活は園芸部に入るつもりだった……けどよ、この俺よりも力がつえぇなんて認めらんねー……。うあああああああああ!」
「おい! こっちは九〇〇二だぞ!」
「『うおおおおおおお!?』」
「私はワールド、はぁぁぁ!」
「ワールドの奴は九〇〇五だ!!」
「くぁあああああああ!」
「ウルカヌスは九〇一〇に上がった!」
「ばぁあああああ!」
「なっ!? 九五〇〇だぁああ!」
「ごぁあああああ!」
「こっちも九五〇〇ぅううう!」
「『わぁあああ! わぁああああ! どっちも頑張れえええ!!!』」
盛り上がりもまだまだ盛り上がる。いつの間にかクラスメートのほぼ全員が決闘に魅入られている。
その隣で金髪に紫が混じった一人の男は、
「盛り上がってんなぁ……あ、壊れちまった」
と、ワールドとウルカヌスと同じ握力計を握り壊していたが、それに気付いていたのは俺ぐらいなものだった。
四月の下旬、ついに保健体育が始まった。クラスメートのみんなはもちろん俺も黄色のジャージを身に付け、白壁白床のえらく広い体育館にて集合していた。
教師はリゴレット先生。ハゲで目が険しくて怖そうな先生だ。
隣の緋苗は周りのガヤガヤに合わせて話しかけてくる。
『あの人道徳の先生じゃなかった?』
『人殺しの目をしてるよね』
『あれでしょ? 最終的にボスになる人でしょ?』
『このハゲぇー! ……リゴレット、わざわざ俺に殺されに来たのか。は、はなせぇ……! もう駄目だ、おしまいだぁ……!』
「嗣虎くん嗣虎くん、男女共同なんですね」
「そうだな、人数が少ないからじゃないか?」
「年頃の男の子と女の子が一緒なんですよ、そこが問題なんじゃないのかな。でも、パートナー同士を考えると妥当なんでしょうけれど」
「別に更衣室は別々にあるんだから良いじゃないか」
「嗣虎くんは隙を見て覗いてきそうですけどね」
「する訳ないだろ」
何をおかしなことを言っているのか。男なら覗くに決まっている。
俺の後ろに座るフリアエは特に話している様子は無かったので、俺が構ってやることにした。
「なぁフリアエ」
「何」
「フリアエは体育は得意なのか?」
「普通」
「そ、そっか。小柄だもんな、フリアエは」
「別にやる気がないだけ。興味はない」
嫌なのかどうか、読めない表情のせいで分からず、この会話を続けて好感度が下がったらどうしようと悩んだ。
彼女にとって何が嬉しいのか分からない……。
それを聞いていた緋苗は体をよじる。
「フリアエちゃんはやる気を出せば凄いんだよね?」
「……」
……ニヤリ。
彼女の口角が上がった。その表情は見たことがあるもので、恐らく今のフリアエはフリアエではないだろう。
「後悔しても良いのなら」
対し、緋苗は「ほぅ」と感嘆した。
彼女には複数の人格が存在している。一人目はフリアエ、よく分からない女の子。二人目はエリニュス、とても優秀だがやんちゃな女の子。三人目はアイザ、こちらもよく分からない女の子。
そして、やはりだが、この感じは間違いなくエリニュスだ。
「えー、これから体力テストをします。各自プリントを手に、記録を残してください」
リゴレット先生が喋り出した。ようやく授業が始まったようで、前からプリントがまわってくる。
「はーいどーぞー」
「おー」
ゆるーい口調で手渡され、俺もそれを一枚エリニュスに渡す。
エリニュスは無言で受け取った。
「測定機は用意してある。自由行動だ、好きにしなさい」
すると、リゴレット先生は背を向け、この体育館を去った。
それを合図に各々は立ち上がり、記録を埋めるため動き出す。
俺も同じように行動をすることにした。
「嗣虎くん、まだ体が鈍ってるようですね」
「ああ。眠れてないからな」
「長座体前屈をしましょうか?」
「いや、握力がやりたい」
「そうですか、行きましょうか」
緋苗の心配につくづく良いミーザを選んでしまったなと思いながら、隅の握力計へと歩く。
そこには男子生徒の多くが集まっており、早速己の力が一番と言い張るような熱い戦いが繰り広げられていたのだった。
「ふんぬっ!」
「三八か、まぁまぁだな」
「い、いや! まだ本気が出せていないだけだ……もう一度ふんぬっ!」
「三六だぞ」
「もう三八でいいよ」
ミーザではない普通の人間は、中学でも見た当たり前の光景を見せている。
ではミーザは? そう、ミーザは柄にもなく激しかった。
「私はワールド。好きなものは猫、平和部に入部します……はぁぁ!」
何故か自己紹介をしながら頭に血管を浮かせる背丈の高い男が一人。手に握る握力計は一万もの測定が可能なもので、そこに表された数値は──。
「きゅ、九〇〇〇だと!? 化け物か!」
「皆さん、怖がらないでください」
非常に礼儀正しいが、九〇〇〇というのはさすがに……。
「俺はウルカヌス……好きなものはジュース……部活は園芸部に入るつもりだった……けどよ、この俺よりも力がつえぇなんて認めらんねー……。うあああああああああ!」
「おい! こっちは九〇〇二だぞ!」
「『うおおおおおおお!?』」
「私はワールド、はぁぁぁ!」
「ワールドの奴は九〇〇五だ!!」
「くぁあああああああ!」
「ウルカヌスは九〇一〇に上がった!」
「ばぁあああああ!」
「なっ!? 九五〇〇だぁああ!」
「ごぁあああああ!」
「こっちも九五〇〇ぅううう!」
「『わぁあああ! わぁああああ! どっちも頑張れえええ!!!』」
盛り上がりもまだまだ盛り上がる。いつの間にかクラスメートのほぼ全員が決闘に魅入られている。
その隣で金髪に紫が混じった一人の男は、
「盛り上がってんなぁ……あ、壊れちまった」
と、ワールドとウルカヌスと同じ握力計を握り壊していたが、それに気付いていたのは俺ぐらいなものだった。
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