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第1話 パパはなんにも分かってない
分かってない その11
しおりを挟む「パパ…………」
スマホ片手に出てきたパパは靴も履きかけの状態で。
「香凛、お前ーーーー!」
帰って来ない、連絡も寄越さない私を探すために出てきたことは容易に察せられた。
「ひゃっ!」
腕を掴まれて、玄関の内に引き込まれる。
声を上げかけて、時間を思い出したのだろう。ご近所迷惑になってしまう。
「こんな時間までどこで何してた!」
バタン、とドアが閉まるか否やの内に鋭い声が飛ぶ。
「連絡もなしで門限も破って……!」
ごめんなさい、と言う隙はなかった。
「今まであの男と一緒だったのか!」
「ーーーーーーーーは?」
何を言われてるのか全く分からなかった。
あの男?
でも、なおもパパの怒号は続く。
「短気を起こすなよ。スーツ着た大人なら何でも良いのか。ちゃんと自分を大切にしろよ、そういうことはちゃんと好きな相手とってこの間も」
よく分からないけど、自暴自棄になった私が適当な男の人と遊んでたって、そう思われてるらしいことが理解できてくる。
「…………何それ」
怒られるようなことをしたのは私だ。だからお叱りはちゃんと受ける。でも事実でないことは認められないし、心配する気持ちは分かるけど"ちゃんと好きな相手"なんて今のパパが言うのはあまりに無神経だ。
「そんなこと言うなら、じゃあパパが相手してよ」
言ったら、あからさまにパパは怯んだ。
「ちゃんと好きな相手って何それ。そんなの待ってたらあっという間にしわくちゃのおばあちゃんだわ」
別に実際はどんな短気も起こしてない訳だけど、反射的にカチンときて言い返してしまう。
「失恋には新しい恋が効くんでしょ。私がどんな形で恋愛しようと、それは私の自由だよ。考えなしに自分を損なうようなことしてる訳じゃないんだし」
失恋には新しい恋。
そうだ、もういっそのこと本当に新しい誰かを探してしまおうか。世の中好きになれるかもしれないから取り敢えずお付き合いしてみるって選択肢もある訳だし。
案外、本当に好きになれるかもしれない。気持ちをすり替えられるかもしれない。
それができたら、どんなにかーーーー
「門限破ったのはごめんなさい。スマホは、電源落としてた。これからは気を付けます」
掴まれてる腕を振り切ろうとする。
「待て」
でも、強く掴まれた腕をまたぐっと握られ、引き戻されてしまう。
「い、痛い」
訴えると少しだけ力は緩められたけど、依然として解放はされなかった。しっかり鍛えられた大人の男の人の力だ。こんな小娘の細腕じゃ振り解くことも叶わない。
「門限破ったことだけを問題にしてるんじゃない」
怖い声が響く。
「どこまで許した」
「な、何が」
「だから、どこまで許したんだ」
とん、と腰が靴箱に当たる。
追い詰められ、見下ろされると、体格差が大きいから私はすっかり閉じ込められたみたいになってしまう。
「好きだと抜かしたこの唇で、他のヤツに触れたのか」
くい、と顎を掴まれた。
本当に何を言われてるのか分からない。何かものすごい勘違いをされてる気がする。
でもこっちを見下ろすその目があまりに強くて、言葉が喉でつかえてしまう。
「っ……」
伸びてきた親指の腹がもったいつけて私の唇をなぞる。
絶対の絶対に勘違いないんだけど、そこに艶っぽい空気が漂った気がして、思考が止まった。
今、何をされていて、何を責められているんだろう。
「お前の"好き"は軽くないんじゃなかったのか」
それは、唐突だった。
「んん!?」
何が起こったのか分からなかった。本当に分からなかった。
唇に感じる、この違和感は何。視界がパパだけで埋め尽くされてるのは何で。生暖かくも柔らかいこれは、この行為は、親子のすることだったっけ?
唇と唇が重なっている。
私から迫ったんじゃない。パパからされてる。
パパが私に、キスしてる。
ーーーーーーーー何で?
生まれて初めての経験は、喜びよりも混乱だけを与えてくる。
直立不動でそのキスを受け止めた私は、しばらくして唇が離れてから呆然と問いかけた。
「ーーーーど、同情?」
それしか考えられない。
「変な男に引っかかるより、自分が相手した方がまだマシだって?」
何とか解釈を捻り出してみる。でもそれは明後日な方を向いた過保護だ。馬鹿にしないでほしい。
もっと胸が高鳴ってもいいはずのファーストキスは、苦い思い出になりそうだ。
「恋愛初心者が」
泣きたくなる気持ちを抑えていたら、パパは呆れた声でそう言った。
「な、んむっ!?」
そしてまた口を塞がれる。
さっきよりも激しい。それは単に触れるだけのものじゃなくて、私の唇を食み、形を確かめるように表面を舌でなぞっていく。
「っぁ……」
鼻で呼吸すればいいんだってことは分かってるんだけど、実際はそんな簡単なことが全然上手くできなくて、思わず口を開いてしまう。
「んん!?」
開いたら、その隙間に捩じ込むように舌が割り入ってきた。
荒々しく口腔を犯す舌は、頬の内側をなぶり、歯列を隅から隅までなぞり、口の中全てを掌握しようとするみたいに這い回る。
理解が追い付かないまま逃げ惑っていた自分の舌はあっという間に絡め取られ、どこにも逃がさないと言わんばかりに締め付けられる。
抱き締められてるみたいだなんて、馬鹿なことを思った。
「ふぁっ……」
一方的な行為は微かな恐怖を私に与えた。
でも、それ以上に、それを遥かに上回る勢いで、気持ち良さが全身を襲う。与えられる刺激は脳をとろりと溶かすようで、このままされるがままに服従しちゃいたいと願う。
動機は何でもいい。
パパが触れてくれるなら、私に触れてくれるなら、とにかく何でも全部欲しい。そんな風に思う。
ちゅぷ、くちゅ、唾液を絡め取り混ぜ合わせる音が耳に届く。
水音がこんなに淫靡に聞こえたのは初めてだった。
くちゅり、捏ね合わされる度に愉悦が走る。
忙しなく口腔を這いずり回る舌は、恐ろしく情熱的だった。
こちらに与えられるものは全て与えようと、同時に奪えるものは全て奪おうとしてるみたいだった。
「ふっ、んぁ、はうっ」
妙な声が喉から漏れる。すると喉元をしっかりとした指が擽るようになぞる。
「っぁ、はぁ、んん……!」
その指の感触が、またぞくりと得体の知れない何かを引き摺り出そうとする。
「パ、パ…………」
酸素が足りてない、と思った。くらりと揺れる頭は思考する力を手放そうとしている。
もっとされたい。ずっとされたい。
何でもいいから、触れててほしい。
だってこれ、ものすごく気持ちいい。信じられないくらい、気持ちいいの。
首筋に添えられた手がゆっくりとラインをなぞって、ぞくりと肌が粟立つ。
そして散々に口腔をなぶられた後、ゆっくりと舌を抜かれる。
ツっと二人の間に引いた糸を、パパの舌が艶かしく絡め取り引き取った。その光景にまたぞくりとする。
赤い舌の動きから目が離せなかった。あの舌が今まで自分の内側をあれだけ情熱的に舐め回していたのかと思うと、おかしくなりそうなくらいの背徳感が背中を駆け上がる。
ボケッと釘付けになっていたこちらを見下ろして、パパは言った。
「同情と愛の区別もつかないか。今のこれが同情からの行為なら、オレは主演男優賞を余裕で取れるね」
見たこともない、顔だった。
いつものあの、一歩引いて私を受け止めるあの顔じゃない。
大人の男の顔。私を、対等に見る目。庇護対象ではなく、欲望の対象を見る目。
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