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第1話 パパはなんにも分かってない
分かってない その12
しおりを挟む「嘘でしょ…………」
でも、俄には信じられなかった。
「だって、冷静になれって、頭冷やせって」
そう言ったでしょ?
そう言って、私の気持ちをまともに認めてもくれなかった。
「言った。今はオレが大人の男に見えて、カッコいいだとか思ってるのかもしれないが、そんなものはまやかしだ。社会に出て二三年経ってみろ。目の前にいるのはただのオッサンだぞ。オレをそういう対象にしようなんて、お前のためにならない」
至極真面目な声で話す内容は、とても尤もらしい。正しい忠告のような気もする。
でも、違う。
これは単純な憧れなんかじゃないのだ。大人の男の人だから~とか、人生経験豊富で魅力的~とか、そういうよくあるミーハーな憧れじゃない。
抜けてるところも駄目なところもイラッとするところも知ってる。
でもそれを遥かに上回って、ときめきが胸を支配するの。
この先メタボっても白髪が目立つようになっても、老眼鏡掛け出したって、そんなのどうでも良いの。
この十年誰より近くで見てきたその人に、もし一人の女性として愛してもらえたら、それってどれだけ素敵な、幸福なことだろうと思ったの。
一過性の想いなんかじゃない。
憧れだけで六年も片思いは続けられない。
パパは言う。
「お前のためにならないってそう思った自分の判断が、間違いだとは思わない。オレは香凛にとって"パパ"だし、そうあるべきだ」
「じゃあ、なんで」
なんでこんなことしたの。
「……お前が高校を卒業した辺りだったか。オレは自分に理性が必要だって気付いた」
「?」
「自分の心の動きが信じられなかった。だってお前は娘だ。こんな感情、どうかしてる。どうかしてると思ったからこそ、理性が肝要だった」
高校を、卒業した頃。
まさかそんな頃から、何か変化があったと言うのだろうか。
パパが自嘲の笑みを口の端に浮かべる。
「いつか手痛い目に遭うのはオレだし、香凛だって若い時間を浪費したことを後悔するだろうがーーーーだが、どこの馬の骨か分からんヤツに、失恋の痛手を癒すためなんて後ろ向きな理由でお前を奪われるなんて堪らない。何のための理性と自制だったんだ。香凛が心から望むヤツときちんと幸せなるための我慢だったんだぞ」
すり、と親指の腹が頬を滑り行く。
すごいことを、言われている。ものすごいことを。
「ねぇ、パパ」
勘違いなんかじゃないよね?
「さっきから、つまり、何て言ってるの?」
教えて。パパの口から、その声で教えて。
「香凛をーーーー」
それはとってもとっても欲しい言葉だった。ずっとずっと夢見てた言葉だった。
「子どもだなんて思ってない。一人の女として見てる、と」
「……………………」
恋愛対象になれるなんて、そんな夢みたいなこと。
「それ、もっと早く言ってよ…………」
気の抜けた声が出た。
全身を満たしていた絶望感や痛みがどっと溶け出していく。
あの可愛げの欠片もない逆ギレの告白から今日まで、どれだけ苦しかったと思ってるの。
「だから、お前とどうこうなるなんてあり得ないと思ってたし、お前、十六も下の、娘みたいに扱ってきた相手に懸想してるなんてこと、そう簡単に認められて堪るか。何度自分のことを変態なんじゃないか、おかしいんじゃないかって葛藤したことか」
その気持ちは分かった。
せめてただ年の差があるだけなら、抵抗感もいくらか少なかったと思う。私も自分が"パパ"って呼んでるその人のことを好きだなんておかしいんじゃないか、親子の情を勘違いしてるだけじゃないかって、自分の気持ちを疑ったから。
それにこの関係が世間の知るところになった時、より多くの謗りを受けるのは多分パパの方だ。
いい大人のクセに分別がない、あんな若い子に手を出して、娘みたいに育ててきたっていうのに、一体いつからそんな爛れた関係に、一つ屋根の下どんな生活を送ってきたんだか。
何も知らないクセに好き勝手悪く言う人はきっといる。
でも多分、そういうものを全部受け止める覚悟で、今、パパは私に触れたのだ。その心を見せてくれたのだ。
「……あのね、パパ」
「うん?」
「人様からどう思われるだろうとか、不安なことは沢山あるよ。でも、私の気持ちは疑わないでいて。そんなことで不安にならないで。私、こう見えて六年間片思いだったの。相当気合い入ってないと、続けられないよ」
そう言ったら、パパはぎょっとした顔をした。
「六年…………え、十四って言ったら、お前まだ中学生」
「そういうことです」
「ーーーーマジでか」
「若い時間を浪費したことを後悔するって言うなら、もう今の時点で十分浪費してるの。だから、その分これから取り戻させてよ」
パパはどうも私がその内パパに飽きるって思ってるみたいだけど、そんなリスクはお互い様だし、そもそもあり得ないと思っていたチャンスが巡って来た今、私は絶対にそれを手放したりしない。
私を見下ろしたパパが、何か一つ諦めたーーーーいや、覚悟したような表情を浮かべた。
「ーーーーまぁ、いい。例え後悔するところまでセットでも、もう後には引けないしな。とことんお付き合い頂こうか」
「後悔なんてさせないよ」
「言ったな」
笑って、パパがまた一つ、私にキスを落とした。
それは六年間の片思いにおつりが来るくらい、すごくすごく幸福なキスだった。
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