ウラオモテ

日菜

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episode4 ~佐倉麻美side~

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私が夏菜ちゃんに手を差しのべてもらったあの日から1ヶ月がたった。

最初は真姫ちゃんの目が気になって遠慮していたけど
今は真姫ちゃんもたくさんお話ししてくれるようになり、
夏菜ちゃんの奇想天外なコメントにも慣れて楽しく過ごしている。


大宮君と藤崎君とも大分打ち解けてきた。
大宮君はいつも優しく明るく接してくれるし、
藤崎君は私たちの様子を見守ってくれる。


このグループに入れて良かったと心から思う反面、
どうしても気になることがある。
夏菜ちゃんのことだ。


以前、テニス部が夏菜ちゃんについて話しているときに抱いた疑問が私の中で更に深く強くなっていた。

夏菜ちゃんをよく知る人は皆、
夏菜ちゃんの優しさや可愛らしさを知ってるが、
やっぱりよく知らない人は夏菜ちゃんのことをよく思わない人も少なくない。
理由はもちろん、大宮君と藤崎君の側にいるからだろう。
学年トップのイケメンコンビを独占してると思われるのは仕方ないことだ。
実際、2人は夏菜ちゃんのことを他の女の子とは違う扱いをしている。
例えそれが友情だとしてもやっぱり特別なことにかわりはない。
だから夏菜ちゃんの悪口、陰口は後をたたなかった。

廊下を歩くときは毎回、心が痛くなるような言葉が聞こえる。
真姫ちゃんはいつも顔をしかめ、
大宮君はその子達の悪口を止めに行き、
藤崎君はその子達を鋭い目でとらえる。

でも、ただ一人夏菜ちゃんは笑っている。
そして、あのときと同じように聞こえてないかのような反応をするのだ。
聞こえてないはずはないのに。


そのときだけ私は
優しい夏菜ちゃんが、可愛い夏菜ちゃんが、天使と言われる夏菜ちゃんが、
ものすごく恐ろしく感じてしまうのだ。
まるで心のない人形のように。
どんな時も表情を崩さないピエロのように。
私はこんな感情を夏菜ちゃんにも大宮君と藤崎君にもバレないように必死に押し殺した。


「夏菜!麻美!」
廊下を通っていると明るく声をかけられた。
振り返るとそこには舞子がいた。
私は一瞬、動揺する。
私にも声をかけてくれた?
「わ~!舞子ちゃん!久しぶり!」
夏菜ちゃんが嬉しそうに舞子の元へ駆け寄る。
でも決して夏菜ちゃんと舞子が特別に仲がいいわけでも、
夏菜ちゃんが特別に舞子になついているわけでもない。
夏菜ちゃんは誰に対してもこのテンションで駆け寄っていく。
「相変わらず可愛いな~。」
舞子が夏菜ちゃんの頭を撫でると私の方を見た。
「麻美も元気してた?」
屈託のない笑顔に動揺を隠せずに頷く。
「麻美とはね、高校で最初の友だちなんだよ!」
舞子が夏菜ちゃんに説明する。
私はそれが不思議で仕方なかった。
仲直りしようってことなのかな?
夏菜ちゃんは楽しそうに相槌を打ったあと、側にいる真姫ちゃんを見た。
「じゃあ、行こっか!」
舞子と絡みのない真姫ちゃんに気を遣ったのだろう。
「じゃあね!舞子ちゃん!」
「じゃあね!夏菜!麻美!」
舞子はなんのためらいもなくまた私の名前を呼んだ。

しばらく不思議に思いながら歩いていると
ささやくような小さな声で夏菜ちゃんが言った。
「気が付いてないだけだよ。」
ぱっと夏菜ちゃんの方を見ると夏菜ちゃんは心配そうな顔をしてこっちを見ていた。
どういう意味だろう。
私の存在に気づいたから声をかけてくれたんじゃないの?
もう一度夏菜ちゃんを見ると何事もなかったように笑っていた。


その日の放課後、少しだけ夏菜ちゃんを呼び止めた。
夏菜ちゃんは何かを察したのか、
先生に呼び出されたといい、いつも一緒に帰っている真姫ちゃんを先に帰らせた。
真姫ちゃんは出来るだけ早く帰りたいタイプの人間なので待つことはない。
夏菜ちゃんも本来は早く帰りたいタイプなのだが、
私が話し出すのを何も言わず待ってくれた。
「さっきの話なんだけど、何に気付かなかったの?」
夏菜ちゃんは少し驚いたように目を開くと、
今まで見たこともない真剣な顔をして真剣な声を出した。
「麻美ちゃんを傷つけたことだよ。」
優しさを含んだ真剣な声が私を心配している気がした。
「舞子は麻美ちゃんを傷つけたなんて思ってない。」
ここしばらく夏菜ちゃんと一緒にいたから知っている。
彼女は気付いてないふりして周りの変化に敏感に反応する。
例え、違うクラスだったとしても知っていたのか。
「舞子は明るいしクラスの中心タイプでしょ?
今まで外されたこともないはずだし、
友だちから離れる寂しさも知らないはず。
だから、気が付いてないだけだよ。」
夏菜ちゃんは舞子を悪く言わないように言葉を選んで話した。
「麻美ちゃんがそれでいいならいつでも友だちに戻れるし、
あの頃を忘れたくないなら仲直りなんて出来ないよ。」
夏菜ちゃんに言われてすんなり納得した。
舞子の人柄も舞子が今日声をかけてきた理由も全部理解せざるを得なかった。
夏菜ちゃんは優しく微笑んだ。
私の次の言葉を待つ。
「そっか。そう言う意味か。」
気の利いた言葉も出ず、そう呟いた。
別にショックだったわけでも嬉しかったわけでもない。
でもなぜか、涙が頬をつたった。
夏菜ちゃんは何も言わず、私から目をそらして外を眺めた。
そのまま私の涙が止まるまでただただ外を眺め続けた。

また、夏菜ちゃんの優しさに触れて気がした。
私、この人のこと好きだな~。とふと思う。
こんな優しい人に、周りを見れる人になりたいと思った。




ある日、夏菜ちゃんと真姫ちゃんと3人で廊下を歩いていると、
向かいから歩いてくる男子生徒が夏菜ちゃんの耳元で囁いた。

「悪魔」

隣にいた私の耳にも入り、パッと横を見る。






夏菜ちゃんは笑っていた。








後日、彼の名は久保倉竜士という名前だと私は知った。






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