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episode5 ~久保倉竜士side~
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俺と夏菜が知り合ったのは中学2年生の頃だ。
中学生になってから親の都合で転校してきた俺は
2年生の時に初めて同じクラスになり、顔見知りとなった。
夏菜はいつもニコニコヘラヘラしていて、みんなはフワフワしてる子と言っていた。
現に俺も最初はそう思っていた。
女子からは妹キャラとして可愛がられ、
男子からはいじられキャラとして可愛がられていた。
女の子をいじることがあまり好きじゃなかった俺は夏菜と接することはほとんど無かった。
中学3年生になると、受験生ということや成績が落ちていたこともあり、
俺は塾に入ることになった。
勉強は元々出来る方だったため、一番成績のいいクラスに加入した。
そこにはあのフワフワしている夏菜がいた。
正直、驚いた。
意外と頭がいいと噂では聞いていたが、まさかこのクラスとは。
俺らのクラスは女子が4人、男子が8人の少人数クラスだった。
だから男女分け隔てなく仲がよく、自然と夏菜とも喋るようになった。
そのなかで一番仲良くなったのは盛田敦士という同中のやつだった。
いつも優しく素直で真っ直ぐな性格が中学生男子にしては新鮮で一緒にいて心地よかった。
彼の一番の魅力はその一途さで、
中学1年生の頃から変わらずに夏菜に恋をしている。
それは学校でもとても有名で、同じクラスになったことのなかった俺でも知っていた。
「お前、夏菜のどこが好きなの?」
盛田に聞くといつも返ってくる答えは同じだった。
「全部。」
俺はその答えに苦笑する。
「なんだよそれ。例えば?」
「顔もタイプだし、いつも笑顔だし、優しいし、
たまに甘えてくるとことかめっちゃ可愛い。」
去年同じクラスだった蓮は多分夏菜に想いを寄せてるように思えたが、これほどじゃない。
盛田は本気で夏菜に夢中なんだな。と思った。
これは学校でも塾でもみんなが盛田の恋を応援する理由がわかる。
でも、夏菜は蓮や恭平と噂になることが多かった。
俺は塾に入ってから気付いたことがたくさんあった。
夏菜はただニコニコヘラヘラ、フワフワしてるわけではない。
周りの変化にいち早く気づき、手を差し伸べる。
それも周りに気付かれないように。
そして、そんなときに俺と目が合うと決まってキョトンとする。
何かあった?何でこっち見てるの?とでも言うかのように。
こいつは計算高いやつだな。と思った。
純粋なふりをしているだけだと。
最初はそれを悪いことだとは思わなかった。
逆にすごいと思う。
ただ、盛田が振り回されるのは心底腹が立った。
夏菜が寒いそぶりを見せれば、自分の上着を夏菜にかけたり、
夏菜が何か欲しいと言えば、例え自分に言ってなくても買ってあげたり、
バレンタインは何も貰わなかったのに、ホワイトデーは手作りをあげたり、
盛田は夏菜にひたすら尽くした。
夏菜は本当に嬉しそうにその優しさや愛情を受け取る。
でも、盛田が何度想いを伝えても、周りが協力しても、
夏菜は1度も首を縦には振らなかった。
それから、俺は塾で夏菜が計算高い行動をする度に腹を立てるようになった。
その度に夏菜の陰口を叩いた。
あれはわざとだ。とか、計算してるよ。とか。
穏やかで人に合わせることの多い男子は笑って首を縦に振った。
盛田でさえも苦笑しながら頷いていた。
逆に女子は絶対頷かなかった。
陰口を言う俺の事を批判し、夏菜を庇い続けた。
本人を目の前にしては言わなかったが、もちろん夏菜も気づいているようだった。
その証拠にクラスで俺とだけは一切口を利かなかった。
俺も声をかけなかったのだけど。
そんな俺たちのせいで仲の良かったクラスは少しずつこじれはじめた。
そんなある日、夏菜の行動に腹を立て、悪く言うと、盛田が口を挟んだ。
「もう、やめろよ。」
その声は困ったような泣きそうな弱い声だった。
「は?何がだよ。」
俺はお前の為に言ってんだぞ?
わかんねーのか?
「夏菜ちゃんのこと、悪く言うの聞きたくない。」
今度ははっきりと力強い声だった。
「お前が騙されて振り回されてるから言ってんだぞ?
さっさと気付けよ。あんなやつやめろよ。」
「うるせーよ。」
俺は驚いた。
いつも優しく穏やかな盛田がこんな風に声を荒げるなんて。
それでも続ける。
頼むから分かってくれよ。
「あいつは計算高いやつなんだよ。
お前を弄んでるだけだ。」
「だからなんだよ。
夏菜ちゃんの計算高いとこなんてお前が言い出す前から知ってたよ。
それでも好きだし、そんな夏菜ちゃんだから好きなんだ。
自分を犠牲にして相手に優しく出来る人なんて夏菜ちゃん以外いない。」
意味が分からない。美化しすぎだろ。
「自分を犠牲にして相手に優しく出来るのは夏菜じゃなくてお前だろ?
お前は見返りをくれない夏菜のためにどんだけ尽くしてんだよ。」
「俺は夏菜ちゃんのためにしてるんじゃない。
自分のために夏菜ちゃんを助けたいだけだ。
これ以上俺の前で夏菜ちゃんを悪く言うなよ。」
盛田はそのまま席についた。
俺の胸にはぽっかり穴が開いたようだった。
夏菜のせいであいつのせいで盛田に嫌われた。そう思った。
でも、次の日、何でもなかったように盛田は俺に話し掛けてきて今までと何も変わらない素振りを見せた。
ホッとした気持ちはあったが、やっぱり落ち着かなく、
全て夏菜のせいだと思った。
高校に入り、夏菜は天使と呼ばれるようになっていた。
皆、あいつの裏の顔に気付かねーのかよ。
優しいふりをするあいつが、何も気付かないふりするあいつが、
優しく素直で真っ直ぐな盛田を振り回すようなあいつが、天使な訳がない。
いつかあいつの化けの皮を剥がしてやりたい。
俺は、そう思うようになった。
ある日、廊下で夏菜とすれ違った。
まずはお前が自覚しろよ。
お前は天使なんかじゃない。
「悪魔。」
俺は夏菜の耳元で囁いた。
夏菜はいつものように気付かないふりして通り過ぎていった。
中学生になってから親の都合で転校してきた俺は
2年生の時に初めて同じクラスになり、顔見知りとなった。
夏菜はいつもニコニコヘラヘラしていて、みんなはフワフワしてる子と言っていた。
現に俺も最初はそう思っていた。
女子からは妹キャラとして可愛がられ、
男子からはいじられキャラとして可愛がられていた。
女の子をいじることがあまり好きじゃなかった俺は夏菜と接することはほとんど無かった。
中学3年生になると、受験生ということや成績が落ちていたこともあり、
俺は塾に入ることになった。
勉強は元々出来る方だったため、一番成績のいいクラスに加入した。
そこにはあのフワフワしている夏菜がいた。
正直、驚いた。
意外と頭がいいと噂では聞いていたが、まさかこのクラスとは。
俺らのクラスは女子が4人、男子が8人の少人数クラスだった。
だから男女分け隔てなく仲がよく、自然と夏菜とも喋るようになった。
そのなかで一番仲良くなったのは盛田敦士という同中のやつだった。
いつも優しく素直で真っ直ぐな性格が中学生男子にしては新鮮で一緒にいて心地よかった。
彼の一番の魅力はその一途さで、
中学1年生の頃から変わらずに夏菜に恋をしている。
それは学校でもとても有名で、同じクラスになったことのなかった俺でも知っていた。
「お前、夏菜のどこが好きなの?」
盛田に聞くといつも返ってくる答えは同じだった。
「全部。」
俺はその答えに苦笑する。
「なんだよそれ。例えば?」
「顔もタイプだし、いつも笑顔だし、優しいし、
たまに甘えてくるとことかめっちゃ可愛い。」
去年同じクラスだった蓮は多分夏菜に想いを寄せてるように思えたが、これほどじゃない。
盛田は本気で夏菜に夢中なんだな。と思った。
これは学校でも塾でもみんなが盛田の恋を応援する理由がわかる。
でも、夏菜は蓮や恭平と噂になることが多かった。
俺は塾に入ってから気付いたことがたくさんあった。
夏菜はただニコニコヘラヘラ、フワフワしてるわけではない。
周りの変化にいち早く気づき、手を差し伸べる。
それも周りに気付かれないように。
そして、そんなときに俺と目が合うと決まってキョトンとする。
何かあった?何でこっち見てるの?とでも言うかのように。
こいつは計算高いやつだな。と思った。
純粋なふりをしているだけだと。
最初はそれを悪いことだとは思わなかった。
逆にすごいと思う。
ただ、盛田が振り回されるのは心底腹が立った。
夏菜が寒いそぶりを見せれば、自分の上着を夏菜にかけたり、
夏菜が何か欲しいと言えば、例え自分に言ってなくても買ってあげたり、
バレンタインは何も貰わなかったのに、ホワイトデーは手作りをあげたり、
盛田は夏菜にひたすら尽くした。
夏菜は本当に嬉しそうにその優しさや愛情を受け取る。
でも、盛田が何度想いを伝えても、周りが協力しても、
夏菜は1度も首を縦には振らなかった。
それから、俺は塾で夏菜が計算高い行動をする度に腹を立てるようになった。
その度に夏菜の陰口を叩いた。
あれはわざとだ。とか、計算してるよ。とか。
穏やかで人に合わせることの多い男子は笑って首を縦に振った。
盛田でさえも苦笑しながら頷いていた。
逆に女子は絶対頷かなかった。
陰口を言う俺の事を批判し、夏菜を庇い続けた。
本人を目の前にしては言わなかったが、もちろん夏菜も気づいているようだった。
その証拠にクラスで俺とだけは一切口を利かなかった。
俺も声をかけなかったのだけど。
そんな俺たちのせいで仲の良かったクラスは少しずつこじれはじめた。
そんなある日、夏菜の行動に腹を立て、悪く言うと、盛田が口を挟んだ。
「もう、やめろよ。」
その声は困ったような泣きそうな弱い声だった。
「は?何がだよ。」
俺はお前の為に言ってんだぞ?
わかんねーのか?
「夏菜ちゃんのこと、悪く言うの聞きたくない。」
今度ははっきりと力強い声だった。
「お前が騙されて振り回されてるから言ってんだぞ?
さっさと気付けよ。あんなやつやめろよ。」
「うるせーよ。」
俺は驚いた。
いつも優しく穏やかな盛田がこんな風に声を荒げるなんて。
それでも続ける。
頼むから分かってくれよ。
「あいつは計算高いやつなんだよ。
お前を弄んでるだけだ。」
「だからなんだよ。
夏菜ちゃんの計算高いとこなんてお前が言い出す前から知ってたよ。
それでも好きだし、そんな夏菜ちゃんだから好きなんだ。
自分を犠牲にして相手に優しく出来る人なんて夏菜ちゃん以外いない。」
意味が分からない。美化しすぎだろ。
「自分を犠牲にして相手に優しく出来るのは夏菜じゃなくてお前だろ?
お前は見返りをくれない夏菜のためにどんだけ尽くしてんだよ。」
「俺は夏菜ちゃんのためにしてるんじゃない。
自分のために夏菜ちゃんを助けたいだけだ。
これ以上俺の前で夏菜ちゃんを悪く言うなよ。」
盛田はそのまま席についた。
俺の胸にはぽっかり穴が開いたようだった。
夏菜のせいであいつのせいで盛田に嫌われた。そう思った。
でも、次の日、何でもなかったように盛田は俺に話し掛けてきて今までと何も変わらない素振りを見せた。
ホッとした気持ちはあったが、やっぱり落ち着かなく、
全て夏菜のせいだと思った。
高校に入り、夏菜は天使と呼ばれるようになっていた。
皆、あいつの裏の顔に気付かねーのかよ。
優しいふりをするあいつが、何も気付かないふりするあいつが、
優しく素直で真っ直ぐな盛田を振り回すようなあいつが、天使な訳がない。
いつかあいつの化けの皮を剥がしてやりたい。
俺は、そう思うようになった。
ある日、廊下で夏菜とすれ違った。
まずはお前が自覚しろよ。
お前は天使なんかじゃない。
「悪魔。」
俺は夏菜の耳元で囁いた。
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