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episode3 ~大宮蓮side~
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今日はいつも一緒にいる5人でボーリングに来た。
部活の久しぶりの休みに夏菜を誘うと北村と佐倉とボーリングに行くと言う。
夏菜は俺と恭平に行く?と聞いた。
例えそれが社交辞令だとしても俺たちは頷く選択肢しかなかった。
俺が夏菜と仲良くなったのはほんとに小さなきっかけだった。
小学生の頃から同じ学校で顔を見かけることはあったが、
同じクラスになったことはなく、
中学2年生の時に初めて同じクラスになり喋るようになった。
その頃俺は少しだけ、ほんの少しだけ荒れていた。
俺と恭平は一年の頃サッカー部の次期エース候補として期待されていた。
恭平は足が速く、センスはあったが、
小学生の頃はソフトボールをしてたため、
どうしても経験不足が目立っていた。
俺は小さい頃からサッカー一筋だったため、
先輩たちのなかに混ざっても正直、ひけをとならかったとおもう。
しかし、恭平のセンスは本物だった。
最初の頃はうごきに戸惑いがあったものの、
練習や紅白戦を繰り返す度にコツを掴み、
メキメキと頭角を現し、現エースをも脅かす存在になっていった。
ただ俺のなかには大きな焦りや嫉妬はなかった。
それだけ自分に自信を持っていた。
それでこそ俺のライバルだと恭平の成功を共に喜んだ。
2人で朝練をしたり、昼休みもひたすらボールを蹴り、
練習後も近所の公園でボールを蹴り続けた。
こいつと一緒に上に上がっていくと思っていた。
「エースの斉藤が昨日、交通事故に巻き込まれて大怪我を負った。
命に別状は無かったが、選手生命は危うい状態だ。
斉藤にはあいつの人生のためにも手術やリハビリに専念してもらう。」
ある朝、サッカー部は全員呼び出され監督から最悪の報告を受けた。
斉藤先輩は技術だけでなく、明るく優しい人柄で
チームのムードメーカーでチームメイトからも監督からも
絶大な信頼を集めていた。
俺も入部したとき、
「お前にはチームの未来を背負ってもらわなきゃな!
一緒に頑張ろうぜ!」
と最初に声をかけて貰ったことをきっかけに
仲良くさせてもらい、いつも指導してくれた一番の憧れの人だった。
ショックで胸がつぶれそうだった。
「斉藤から伝言がある」
監督の声にそれまで涙を堪え、下を向いていた部員全員が顔をあげる。
「俺の居ないポジションに入るやつには
俺の後継者になって、俺を越えて欲しいと。」
監督はそこで一旦間をおいた。
皆に緊張が走る。
「藤崎。お前だ。」
サッと血の気が引いた気がした。
「斉藤がお前を指名した。」
一瞬、視界が真っ白になり身体がよろける。
俺は必死に足を踏ん張った。
何でだよ。
何で先輩の後継者が恭平なんだよ。
俺はアイツがソフトボールに汗を流してる間もずっと
サッカーにかけてきたんだ。
ずっとサッカーと向き合い続けてきたんだ。
よりによってなんで斉藤先輩が恭平を選んだんだよ。
ずっと慕ってきたのに。
俺は人生で初めて絶望を感じた。
「蓮、練習しようぜ。」
昼休み、恭平が声をかけてきた。
「あー。わりー。
来週テストだろ?俺、今回は勉強で1位目指すつもりだからさ。」
もうサッカーバカなんかなってられっかよ。
笑ってそう言うと恭平は困ったように頷いた。
きっと俺の苛立ちに気付いたんだろう。
それから恭平が俺を誘うことはなかった。
わりーな。恭平。お前が悪い訳じゃない。
でも今は、お前の顔も見たくねーんだ。
俺が恭平と距離を置いてから
俺の苛立ち解消役になったのは夏菜だった。
小学生の頃から男子の間では可愛いと話題だった。
それはルックスだけでなく、
素直で真面目で誰にでも優しい性格も理由のひとつだった。
夏菜が怒るところは見たことがない。
「おい、ブス!」
「ん?」
「なんか笑わせろ」
「えー、私、面白い話今ないよ~?」
夏菜にはひどい言葉もたくさん言ったし、
無茶ぶりもたくさんした。
夏菜はそんな俺に怒ったり泣いたりすることなく、
笑いながら俺の気がすむまでいじられ続けていた。
そしていつも後悔する。
何で俺、夏菜に当たってんだよ。
自分のプライドが恭平に当たることを止めていた。
恭平に当たったら敗けを認めたことになる。
恭平とはずっと距離を保ち続けた。
そんなある日、事件は起こった。
「俺の制服がない。」
体育の授業の後、教室に恭平の声が零れた。
うるさい教室に恭平の声が響くなんてことは今まで1度もなかったが、
そのときは教室にいた男子全員が耳にした。
「おい、制服がないってなんだよ。」
俺はつい恭平の元へ駆け寄った。
恭平はそんな俺に驚くようなこともなく冷静に言った。
「制服がなくなったんだ。」
久しぶりに見た恭平の目は珍しく恐怖に震えていた。
すぐに緊急でクラス会義が始まった。
「藤崎君の制服がなくなりました。
制服を取った人は今すぐ答えなさい。
そうすればこれで終わりです。怒りません。」
担任の若い女の先生がいつもより低い声で言った。
今この場で正直に言うやつがいるかよ。
こんな風にすると逆に言い出しにくくなるだろ。
恭平の制服が返ってこなかったらどうすんだよ。
先生の言葉に俺の苛立ちは最高潮だった。
そのときだった。
「蓮が取ったんじゃねーの?」
クラスの男子の一人がそう言った。
一斉に視線が俺に集まった。
は?意味がわからねー。
その男子は続ける。
「恭平とめっちゃ仲良かったのに急に避け出したし、
恭平にエースの座を取られたんだろ?
お前もずっとエースになりたがってたのにさ。」
俺の方を見ながら名探偵かのように得意気にそいつは言う。
「なんかさっきからイライラソワソワしてるよな。」
「そう言えば今日の日直蓮じゃん。」
「鍵、お前の担当じゃなかった?」
「途中で名簿忘れて取りに行かされてたよな?」
周りの男子が次々に責め立て始めた。
ちげーよ。俺じゃない。
恭平の制服を盗む理由なんかねーよ。
それこそ負け犬のすることじゃねーか。
俺はそんな事しねーよ。
でも、声がでなかった。
こんなに皆から責められたことなんか今まで一度だって無かったから。
先生に助けを求めて視線を送る。
先生は何も言わず、俺を見つめていた。
正直に言いなさい。そしたら怒らないから。
そんな心の声が聞こえてくるかのようだった。
「それに無くなったときに最初に反応したの蓮だったよな。」
うるさい。うるさい。うるさい。
「うるさいな。」
一瞬誰の声か分からなかった。
さっきまでざわついてた教室が静まり返る。
「誰が恭平の制服を盗んだって?」
声の先には夏菜がいた。
何を言われても何をされてもいつもは笑って許す夏菜がいた。
夏菜の表情は夏菜の声は一切の優しさを取り払ったものだった。
「いや、蓮が怪しいじゃん。」
最初に言い出した男子がボソボソと言い返す。
「誰か見た人がいるの?」
夏菜の目がそいつを捉える。
そいつは黙って悔しそうに唇を噛んで首を振った。
「見てなくても怪しいのって蓮だけだし。」
「てか夏菜さ!いつも蓮に意地悪されてんじゃん?」
「そうだよ!何でそいつ庇ってんだよ。」
さっきまで俺を責め立ててた奴らが決まり悪そうに
文句を言う相手を標的を夏菜に変えた。
「そんだけ好きってことじゃん?」
夏菜の声に優しさが戻った気がした。
みんな、訳がわからないと言う顔をする。
「そんだけ蓮は恭平のこと好きってことじゃん。
どんなに傷ついても悔しくても恭平を悪く言えないし、
恭平に意地悪なんて出来ないから、
私でストレス発散するしかなかったんじゃん。
蓮と恭平がどれだけ一緒にいたか、
どれだけ信頼しあってるかみんななら分かるでしょ?」
夏菜の声が震えた。
こんなたくさんの人に意見をぶつけるなんてどれだけ緊張しただろう。
どれだけ大きな覚悟を決めただろう。
その声でやっと気付いた。
プライドや負けとかじゃない。
俺は恭平が大事だったんだ。と。
「俺も蓮じゃないと思う。」
「蓮と恭平はライバルの前に親友だぜ?」
「お前らこいつらがどんだけラブラブか知らねーだろ!」
「朝も昼も夕方も2人でずっとサッカーしてたんだぜ?」
それまで黙っていたクラスのサッカー部の男子たちが勢いよく夏菜に加勢する。
俺は涙が溢れた。
「俺、やってない。」
それまで出なかった言葉がやっと出た。
「知ってる。」
恭平の声がした。初めて聞く声だった。
顔をあげると恭平があの強くてクールな恭平が泣いていた。
「蓮が俺に意地悪なんてするわけがない。」
そう言うと恭平がこっちを向いた。
「お前の口からちゃんと聞きたかった。
俺はお前の言葉を信じてる。」
クラス会義はそこで終わった。
後日、恭平の制服は見つかった。
噂では別のクラスの恭平にフラれた女子がイタズラと
恭平の制服がほしい一心で盗んだらしい。
夏菜が探し出し、解決したらしいが、
その盗んだ女子が誰だったのかは担任と夏菜と恭平、そして盗んだ女子の友だちしか知らない。
その子はちゃんと恭平に謝罪をし、
先生たちがその生徒たちに口止めを頼んだそうだ。
クラスのサッカー部の仲間は俺にひたすら謝った。
お前じゃないと言い出したかったけど
クラスの雰囲気に飲まれて言い出せなかった。と。
夏菜はそんな雰囲気の中で発言してくれたのか。
「夏菜!」
放課後、仲のいい友だちと談笑している夏菜に声をかけた。
「蓮、部活の時間じゃ?」
「うん。すぐ行くんだけど…
味方してくれてありがとう。」
夏菜はキョトンとするとニカッと笑った。
「当たり前じゃん。」
「俺さ!お前になんかあったら絶対助けるから!
俺はずっと味方するから!」
俺はそれだけ言うと急いで教室を出た。
後ろで女子たちが夏菜を冷やかす声がする。
夏菜はどんな顔をしているのか、どんな反応をするのか、
本当は確かめたかったけど
火照った顔を見られないように振り返らずグランドを目指した。
あの日から俺と恭平は夏菜を守ると誓った。
ボーリング中、北村は無意識なのかひたすら佐倉と喋り、独占した。
その姿はかつて彼女がうちのグループに入ってきたとき、夏菜を独占していたときと同じだ。
夏菜はそんな北村と佐倉を見て本当に嬉しそうに笑っていた。
部活の久しぶりの休みに夏菜を誘うと北村と佐倉とボーリングに行くと言う。
夏菜は俺と恭平に行く?と聞いた。
例えそれが社交辞令だとしても俺たちは頷く選択肢しかなかった。
俺が夏菜と仲良くなったのはほんとに小さなきっかけだった。
小学生の頃から同じ学校で顔を見かけることはあったが、
同じクラスになったことはなく、
中学2年生の時に初めて同じクラスになり喋るようになった。
その頃俺は少しだけ、ほんの少しだけ荒れていた。
俺と恭平は一年の頃サッカー部の次期エース候補として期待されていた。
恭平は足が速く、センスはあったが、
小学生の頃はソフトボールをしてたため、
どうしても経験不足が目立っていた。
俺は小さい頃からサッカー一筋だったため、
先輩たちのなかに混ざっても正直、ひけをとならかったとおもう。
しかし、恭平のセンスは本物だった。
最初の頃はうごきに戸惑いがあったものの、
練習や紅白戦を繰り返す度にコツを掴み、
メキメキと頭角を現し、現エースをも脅かす存在になっていった。
ただ俺のなかには大きな焦りや嫉妬はなかった。
それだけ自分に自信を持っていた。
それでこそ俺のライバルだと恭平の成功を共に喜んだ。
2人で朝練をしたり、昼休みもひたすらボールを蹴り、
練習後も近所の公園でボールを蹴り続けた。
こいつと一緒に上に上がっていくと思っていた。
「エースの斉藤が昨日、交通事故に巻き込まれて大怪我を負った。
命に別状は無かったが、選手生命は危うい状態だ。
斉藤にはあいつの人生のためにも手術やリハビリに専念してもらう。」
ある朝、サッカー部は全員呼び出され監督から最悪の報告を受けた。
斉藤先輩は技術だけでなく、明るく優しい人柄で
チームのムードメーカーでチームメイトからも監督からも
絶大な信頼を集めていた。
俺も入部したとき、
「お前にはチームの未来を背負ってもらわなきゃな!
一緒に頑張ろうぜ!」
と最初に声をかけて貰ったことをきっかけに
仲良くさせてもらい、いつも指導してくれた一番の憧れの人だった。
ショックで胸がつぶれそうだった。
「斉藤から伝言がある」
監督の声にそれまで涙を堪え、下を向いていた部員全員が顔をあげる。
「俺の居ないポジションに入るやつには
俺の後継者になって、俺を越えて欲しいと。」
監督はそこで一旦間をおいた。
皆に緊張が走る。
「藤崎。お前だ。」
サッと血の気が引いた気がした。
「斉藤がお前を指名した。」
一瞬、視界が真っ白になり身体がよろける。
俺は必死に足を踏ん張った。
何でだよ。
何で先輩の後継者が恭平なんだよ。
俺はアイツがソフトボールに汗を流してる間もずっと
サッカーにかけてきたんだ。
ずっとサッカーと向き合い続けてきたんだ。
よりによってなんで斉藤先輩が恭平を選んだんだよ。
ずっと慕ってきたのに。
俺は人生で初めて絶望を感じた。
「蓮、練習しようぜ。」
昼休み、恭平が声をかけてきた。
「あー。わりー。
来週テストだろ?俺、今回は勉強で1位目指すつもりだからさ。」
もうサッカーバカなんかなってられっかよ。
笑ってそう言うと恭平は困ったように頷いた。
きっと俺の苛立ちに気付いたんだろう。
それから恭平が俺を誘うことはなかった。
わりーな。恭平。お前が悪い訳じゃない。
でも今は、お前の顔も見たくねーんだ。
俺が恭平と距離を置いてから
俺の苛立ち解消役になったのは夏菜だった。
小学生の頃から男子の間では可愛いと話題だった。
それはルックスだけでなく、
素直で真面目で誰にでも優しい性格も理由のひとつだった。
夏菜が怒るところは見たことがない。
「おい、ブス!」
「ん?」
「なんか笑わせろ」
「えー、私、面白い話今ないよ~?」
夏菜にはひどい言葉もたくさん言ったし、
無茶ぶりもたくさんした。
夏菜はそんな俺に怒ったり泣いたりすることなく、
笑いながら俺の気がすむまでいじられ続けていた。
そしていつも後悔する。
何で俺、夏菜に当たってんだよ。
自分のプライドが恭平に当たることを止めていた。
恭平に当たったら敗けを認めたことになる。
恭平とはずっと距離を保ち続けた。
そんなある日、事件は起こった。
「俺の制服がない。」
体育の授業の後、教室に恭平の声が零れた。
うるさい教室に恭平の声が響くなんてことは今まで1度もなかったが、
そのときは教室にいた男子全員が耳にした。
「おい、制服がないってなんだよ。」
俺はつい恭平の元へ駆け寄った。
恭平はそんな俺に驚くようなこともなく冷静に言った。
「制服がなくなったんだ。」
久しぶりに見た恭平の目は珍しく恐怖に震えていた。
すぐに緊急でクラス会義が始まった。
「藤崎君の制服がなくなりました。
制服を取った人は今すぐ答えなさい。
そうすればこれで終わりです。怒りません。」
担任の若い女の先生がいつもより低い声で言った。
今この場で正直に言うやつがいるかよ。
こんな風にすると逆に言い出しにくくなるだろ。
恭平の制服が返ってこなかったらどうすんだよ。
先生の言葉に俺の苛立ちは最高潮だった。
そのときだった。
「蓮が取ったんじゃねーの?」
クラスの男子の一人がそう言った。
一斉に視線が俺に集まった。
は?意味がわからねー。
その男子は続ける。
「恭平とめっちゃ仲良かったのに急に避け出したし、
恭平にエースの座を取られたんだろ?
お前もずっとエースになりたがってたのにさ。」
俺の方を見ながら名探偵かのように得意気にそいつは言う。
「なんかさっきからイライラソワソワしてるよな。」
「そう言えば今日の日直蓮じゃん。」
「鍵、お前の担当じゃなかった?」
「途中で名簿忘れて取りに行かされてたよな?」
周りの男子が次々に責め立て始めた。
ちげーよ。俺じゃない。
恭平の制服を盗む理由なんかねーよ。
それこそ負け犬のすることじゃねーか。
俺はそんな事しねーよ。
でも、声がでなかった。
こんなに皆から責められたことなんか今まで一度だって無かったから。
先生に助けを求めて視線を送る。
先生は何も言わず、俺を見つめていた。
正直に言いなさい。そしたら怒らないから。
そんな心の声が聞こえてくるかのようだった。
「それに無くなったときに最初に反応したの蓮だったよな。」
うるさい。うるさい。うるさい。
「うるさいな。」
一瞬誰の声か分からなかった。
さっきまでざわついてた教室が静まり返る。
「誰が恭平の制服を盗んだって?」
声の先には夏菜がいた。
何を言われても何をされてもいつもは笑って許す夏菜がいた。
夏菜の表情は夏菜の声は一切の優しさを取り払ったものだった。
「いや、蓮が怪しいじゃん。」
最初に言い出した男子がボソボソと言い返す。
「誰か見た人がいるの?」
夏菜の目がそいつを捉える。
そいつは黙って悔しそうに唇を噛んで首を振った。
「見てなくても怪しいのって蓮だけだし。」
「てか夏菜さ!いつも蓮に意地悪されてんじゃん?」
「そうだよ!何でそいつ庇ってんだよ。」
さっきまで俺を責め立ててた奴らが決まり悪そうに
文句を言う相手を標的を夏菜に変えた。
「そんだけ好きってことじゃん?」
夏菜の声に優しさが戻った気がした。
みんな、訳がわからないと言う顔をする。
「そんだけ蓮は恭平のこと好きってことじゃん。
どんなに傷ついても悔しくても恭平を悪く言えないし、
恭平に意地悪なんて出来ないから、
私でストレス発散するしかなかったんじゃん。
蓮と恭平がどれだけ一緒にいたか、
どれだけ信頼しあってるかみんななら分かるでしょ?」
夏菜の声が震えた。
こんなたくさんの人に意見をぶつけるなんてどれだけ緊張しただろう。
どれだけ大きな覚悟を決めただろう。
その声でやっと気付いた。
プライドや負けとかじゃない。
俺は恭平が大事だったんだ。と。
「俺も蓮じゃないと思う。」
「蓮と恭平はライバルの前に親友だぜ?」
「お前らこいつらがどんだけラブラブか知らねーだろ!」
「朝も昼も夕方も2人でずっとサッカーしてたんだぜ?」
それまで黙っていたクラスのサッカー部の男子たちが勢いよく夏菜に加勢する。
俺は涙が溢れた。
「俺、やってない。」
それまで出なかった言葉がやっと出た。
「知ってる。」
恭平の声がした。初めて聞く声だった。
顔をあげると恭平があの強くてクールな恭平が泣いていた。
「蓮が俺に意地悪なんてするわけがない。」
そう言うと恭平がこっちを向いた。
「お前の口からちゃんと聞きたかった。
俺はお前の言葉を信じてる。」
クラス会義はそこで終わった。
後日、恭平の制服は見つかった。
噂では別のクラスの恭平にフラれた女子がイタズラと
恭平の制服がほしい一心で盗んだらしい。
夏菜が探し出し、解決したらしいが、
その盗んだ女子が誰だったのかは担任と夏菜と恭平、そして盗んだ女子の友だちしか知らない。
その子はちゃんと恭平に謝罪をし、
先生たちがその生徒たちに口止めを頼んだそうだ。
クラスのサッカー部の仲間は俺にひたすら謝った。
お前じゃないと言い出したかったけど
クラスの雰囲気に飲まれて言い出せなかった。と。
夏菜はそんな雰囲気の中で発言してくれたのか。
「夏菜!」
放課後、仲のいい友だちと談笑している夏菜に声をかけた。
「蓮、部活の時間じゃ?」
「うん。すぐ行くんだけど…
味方してくれてありがとう。」
夏菜はキョトンとするとニカッと笑った。
「当たり前じゃん。」
「俺さ!お前になんかあったら絶対助けるから!
俺はずっと味方するから!」
俺はそれだけ言うと急いで教室を出た。
後ろで女子たちが夏菜を冷やかす声がする。
夏菜はどんな顔をしているのか、どんな反応をするのか、
本当は確かめたかったけど
火照った顔を見られないように振り返らずグランドを目指した。
あの日から俺と恭平は夏菜を守ると誓った。
ボーリング中、北村は無意識なのかひたすら佐倉と喋り、独占した。
その姿はかつて彼女がうちのグループに入ってきたとき、夏菜を独占していたときと同じだ。
夏菜はそんな北村と佐倉を見て本当に嬉しそうに笑っていた。
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