ウラオモテ

日菜

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episode7 ~大宮蓮side~

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休み時間、いつもの癖で夏菜の方を確認する。
そこにはせっせと明日提出の宿題に取り掛かる夏菜の姿があった。
声を掛けに行こうか迷う。
俺だってバカじゃない。
俺や恭平が女子から騒がれることがあることも
そのせいで夏菜が悪く言われることがあることもちゃんと分かってる。
俺の目的は夏菜に構うことじゃなくて守ることだ。
だからこそ、簡単に衝動のままに行動してはいけない。
どうしたら守れるか必死に考えているうちに授業開始のチャイムがなる。
夏菜の視線の先には慌てて教室に戻ってきた北村と佐倉の姿があった。
目があったのか、夏菜はニコッと微笑む。
多分、俺の予感は的中している。
さあ、どうやって夏菜の心を救いだしてあげようか。



夏菜の皆からのイメージは素直とか優しいとか純粋とか、
妹とか少女のようなイメージが強いような気がする。
俺も実際、そう思うし、そこが皆から愛される理由だと思う。
でも、夏菜の本当の魅力は違う。
芯の強さだ。
自分の痛みを自分も気付かないところに隠す。
大丈夫。痛くない。と。
守ってあげたいと思わせる緩い雰囲気は、
夏菜自身が自分を守っているから出せるものだと思う。
誰かを傷付けてしまわぬように、
誰にも傷付けさせないように守っているのだ。
悩みなんてないと、天然で何も考えてないと、
そんなキャラを作って守っているのだ。

それをある人は気づき、悪魔だとか責め立てるけど、
決してそうじゃない。と俺は思う。
それは夏菜の優しさだ。強さだ。





夏菜は一人でいた北村に声をかけたときも、佐倉に声をかけたときも
一切の躊躇いもなかった。



北村はクラスでの様子を見る限り、気が強くてワガママな態度が目立っていた。
正直言うと、夏菜の苦手なタイプだったと思う。
でも、北村がクラスで一人になったとき、夏菜は俺に確認した。
「これから北村さんと行動してもいいかな?」
今まで一緒に行動していた俺たちに気を遣ったんだろう。
俺は反対だった。
優しくて我慢しがちな夏菜が振り回されて困らせられるのは目に見えていた。
でも、俺は言えなかった。
夏菜は俺の悪口を言わないところが一緒にいて心地いい。と言っていたからだ。
夏菜に嫌われることはしたくない。
もちろん、賢い夏菜は俺が笑って許すしかないことを分かって
俺に確認したのだろう。
俺が頷こうとすると、助け船が入る。
「お前、絶対気、合わねーよ?」
恭平だ。
夏菜はちぇっと拗ねたふりをする。
だから、恭平じゃなくて蓮に聞いたのにと。
夏菜が俺を見るから笑って2、3回頷く。
恭平の言うとおりだと。
ちゃんと察した夏菜は1度息をついて、微笑む。
「でも、放っておけないでしょ?」
夏菜の表情はとても痛そうだった。
孤独に苦しむ北村の痛みを同じように感じていたんだと思う。
俺たちは頷くしかなかった。
北村は心配してた通りに夏菜を振り回した。
機嫌が悪い日は夏菜はずっとご機嫌取りに回っていたし、
機嫌が悪くならないようにいつもさりげなくフォローしていた。
人に気持ちを見せることをしない夏菜の顔が次第に曇っていくのが俺たちには分かった。



2年になり、佐倉と同じクラスになった。
夏菜が佐倉のことを気にかけているのは一緒にいた俺たち3人はすぐに分かった。
夏菜は北村の時とは違い、何の確認もなしに佐倉を入れた。
多分、それは恭平は夏菜が頼み込めば折れるけど、
北村は絶対に折れないことが分かっていたからだろう。
もちろん、本音を言えば俺たちは反対だった。
女の子が奇数で居ることがどういう事態を巻き起こすのかは
俺たちでさえも容易に判断することが出来る。
北村がどんなに夏菜に甘えてても夏菜のことが大好きでも
いつ、その気持ちは変わるかわからない。
ましてや夏菜のことだ。
北村の愛情をかわし、佐倉と北村が仲良くなれるように努めるに決まってる。
夏菜だって分かってるはず…そのはずなのに。




最近、北村が佐倉を誘うことが増えた。
北村はそのとき決して夏菜は誘わない。
それでも、夏菜は笑って言う。
「真姫と麻美ちゃんが仲良くなったんだよ!」
と。
それはほんとにほんとに嬉しそうに。
胸の奥にある黒いものを一切見せずに。
それが不安なのか、恐れなのか、孤独なのか…
俺にははかり知ることは出来ないけど何かが確かにあった。




本当は今すぐ駆け寄りたい。
話を聞いてやりたい。
弱音を吐き出してほしい。
そして俺が全力で助けてやりたい。


でも、夏菜はそれを望まないから。
夏菜は俺にだって本音を語ろうとはしないから。


俺は小さな決断をし、放課後を待った。




放課後。
夏菜に声をかける。
「夏菜、ちょっといい?」
夏菜はいつものようにほほえむ。
「なになに~?」
その無邪気な笑顔に胸が痛む。
やめろよ。俺にまでそんな顔をするな。
誰もいない廊下まで歩くと俺は振り返り笑って夏菜を見る。
「無理するなよ。泣け。」
そう言って頭に手を置くと夏菜は笑う。
「何が?」
首を少し傾げるとそのまま顔をそらそうとする。
「夏菜、」
もう一度呼ぶと夏菜の瞳が揺れる。
まるで迷子の子供のように不安げな表情だ。
もう一息。
「泣いていいよ。」
するとせきをきったように夏菜の瞳から涙がこぼれ出した。
俺は優しく、振りほどけるように緩く夏菜を抱き締める。
嫌なら逃げてもいい。
でも、嫌じゃないならこのまま俺の腕の中で泣いていいよ。




夏菜は逃げずにだけど受け入れもせずただただ涙をながし続けた。




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