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第43話 目覚め
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栞たちはしばらく調部長とリリックの様子を見ていた。あまりに思い詰めたような感じに見えたので栞が声を掛けるが、調部長から二人にして欲しいと言われて、水崎警部と一緒に病室を退出した。
その途中で荷物を置いて弟の軽部副部長に家の事を任せてきたカルディと会ったので、代わりに調部長たちの事を見守るように頼んでおいた。
それからというもの、調部長は一切リリックから離れようとはしなかった。事情があったとはいえ、大事な妹である。こんな目に遭わされて心配しないわけがないのだ。
途中、カルディが調部長に声を掛けるが、どんな呼び掛けにもその一切を断る調部長。カルディは仕方なく、あまり無理をしないようにだけ言い残すと、病棟で見張りを続けた。
気が付けば外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。窓からは光が差し込み始めていた。どうやら知らない間に朝になっていたようである。
(眠ってしまいましたか……)
いつの間にかベッドに伏すように眠っていた調部長。目を擦りながら体をゆっくりと起こす。
すると、目の前の異変にすぐに気が付いた。布団がめくり上がっており、眠っていたはずのリリックが姿を消していたのである。この事態に調部長は慌てて周りを見回す。すると、陽の差し込むカーテンの側に立つ人影が見えたのだ。
隙間から差し込む光を浴びてキラキラと輝く長い金髪は、空けられた窓から吹き込む風でゆらゆらと揺れている。
「リリ……ック?」
調部長が思わず呟く。窓際に立つ少女の耳にその声が届いたのか、ゆっくりと振り向いた。
「お姉……ちゃん?」
驚いて反応するあたり、ここで初めて、部屋の中の調部長に気が付いたようだ。目を覚まして外の光に反応して立ち上がったようである。
しかし、少なくとも丸4日間は眠っていた体だ。それまでも脚は震えていたので、振り返った勢いで思い切りふらついた。
「危ない!」
調部長はすぐに駆け寄って、リリックの体を受け止める。どうにか倒れる事は避けられたようだ。
「よかった……、目が覚めたのね」
調部長はリリックの顔を確認すると、ぎゅっと優しく抱きしめる。
「お姉ちゃん……、本当に、お姉ちゃんだ……」
弱々しくもリリックは反応して、調部長に抱きついた。そして、そのまましばらく、朝日が照らす中抱き合っていた。
しばらくして看護師が巡回に来た。部屋の前で待機していたカルディを通して部屋の中を確認すると、リリックが調部長の肩に掴まって一緒に一緒に歩いてきた。この様子に、看護師は慌てて医師に連絡を入れた。
その後は午前中を使って再度精密検査となり、異常の有無の確認が行われた。そのために複数人の医師と看護師が、慌ただしく動いている。
その間、調部長とカルディは、連絡を受けてやって来た水崎警部との話し合いとなり、金髪の少女の身元の確認を行う。そこで、二人から『リリック・バーディア』である事を確認し、親に連絡をする事になった。
この日が正式な修学旅行の最終日であったので、調部長は何の気兼ねもなく一連の作業を行う事ができた。
さて、夕方になると学校が再開した事で授業に出ていた栞も病院にやって来た。それを、一日リリックに付き添いきりだった調部長が出迎える。そして、再び栞はリリックの病室へとやって来た。
ベッドで上半身を起こしている少女、それがリリック・バーディアである。改めてその姿を見た栞は驚いた。金髪に緑色の瞳、手足は細く伸びており、栞よりも高い身長。まるでモデルのようである。
栞はつい、調部長にリリックの年齢を尋ねてしまう。
「リリックの年齢ですか? 私より二つ下で、まだ誕生日を迎えていませんので、12歳です。つまり中学一年生にあたりますね」
どうやら栞とは(見かけ上は)同級生になるらしい。ベッドで上半身だけを起こした状態なので詳しくは分からないものの、推定される身長は158cmくらい。栞と並べば頭半分ほどは高い身長となるわけである。栞はどんだけ小さいのだろうか。
「それで、母国の両親と話をした結果、私の側に置く方がよいだろうという事で、草利中学校への編入の手続きを始めました。早ければ来週には通える事になると思います」
なんとも驚くべき話である。行動が早い。
「一応、ああいう事があったので、私と同じように変装をしてという事にはなりますが、無事に転入できた時はよろしくお願いします」
「分かりました」
栞は快く引き受けた。もう毒を食らわば皿までといった気持ちだ。
とりあえずここまで確認したところで、調部長は水崎警部と詰めた話を栞にも話した。協力関係にある以上、情報の共有はしておいた方がいいと考えたからだ。
「それと、今週末なのですが、父のバロック・バーディアが秘密裏にこちらに来られます。元々は私の様子を直に見るためだったのですが、リリックの事がありましたので、急遽話し合いという事になりました」
調部長の顔がすっと真剣なものへと変わる。さっきまでの表情とは明らかに違っていた。
「そこで、高石さんにも関係者の一人として参加して頂きたいのです。どうでしょうか」
この申し出に、栞は正直驚いた。
バーディアという名を聞いてから調べてみたのだが、テキサスに本拠地を置いている元ギャングの貿易会社という事が分かったのだ。その現在の社長というのが、調部長の父親であり、今名前が出たバロック・バーディアというわけである。
こんな大物と会う機会などそうそうあるものではない。栞はこの件もここよく了承する。すると調部長はにこりと微笑んでいた。
「それでは、詳しい日時が決まりましたら、またご案内致しますね」
これをもってこの日の話し合いは終了となったのだった。
その途中で荷物を置いて弟の軽部副部長に家の事を任せてきたカルディと会ったので、代わりに調部長たちの事を見守るように頼んでおいた。
それからというもの、調部長は一切リリックから離れようとはしなかった。事情があったとはいえ、大事な妹である。こんな目に遭わされて心配しないわけがないのだ。
途中、カルディが調部長に声を掛けるが、どんな呼び掛けにもその一切を断る調部長。カルディは仕方なく、あまり無理をしないようにだけ言い残すと、病棟で見張りを続けた。
気が付けば外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。窓からは光が差し込み始めていた。どうやら知らない間に朝になっていたようである。
(眠ってしまいましたか……)
いつの間にかベッドに伏すように眠っていた調部長。目を擦りながら体をゆっくりと起こす。
すると、目の前の異変にすぐに気が付いた。布団がめくり上がっており、眠っていたはずのリリックが姿を消していたのである。この事態に調部長は慌てて周りを見回す。すると、陽の差し込むカーテンの側に立つ人影が見えたのだ。
隙間から差し込む光を浴びてキラキラと輝く長い金髪は、空けられた窓から吹き込む風でゆらゆらと揺れている。
「リリ……ック?」
調部長が思わず呟く。窓際に立つ少女の耳にその声が届いたのか、ゆっくりと振り向いた。
「お姉……ちゃん?」
驚いて反応するあたり、ここで初めて、部屋の中の調部長に気が付いたようだ。目を覚まして外の光に反応して立ち上がったようである。
しかし、少なくとも丸4日間は眠っていた体だ。それまでも脚は震えていたので、振り返った勢いで思い切りふらついた。
「危ない!」
調部長はすぐに駆け寄って、リリックの体を受け止める。どうにか倒れる事は避けられたようだ。
「よかった……、目が覚めたのね」
調部長はリリックの顔を確認すると、ぎゅっと優しく抱きしめる。
「お姉ちゃん……、本当に、お姉ちゃんだ……」
弱々しくもリリックは反応して、調部長に抱きついた。そして、そのまましばらく、朝日が照らす中抱き合っていた。
しばらくして看護師が巡回に来た。部屋の前で待機していたカルディを通して部屋の中を確認すると、リリックが調部長の肩に掴まって一緒に一緒に歩いてきた。この様子に、看護師は慌てて医師に連絡を入れた。
その後は午前中を使って再度精密検査となり、異常の有無の確認が行われた。そのために複数人の医師と看護師が、慌ただしく動いている。
その間、調部長とカルディは、連絡を受けてやって来た水崎警部との話し合いとなり、金髪の少女の身元の確認を行う。そこで、二人から『リリック・バーディア』である事を確認し、親に連絡をする事になった。
この日が正式な修学旅行の最終日であったので、調部長は何の気兼ねもなく一連の作業を行う事ができた。
さて、夕方になると学校が再開した事で授業に出ていた栞も病院にやって来た。それを、一日リリックに付き添いきりだった調部長が出迎える。そして、再び栞はリリックの病室へとやって来た。
ベッドで上半身を起こしている少女、それがリリック・バーディアである。改めてその姿を見た栞は驚いた。金髪に緑色の瞳、手足は細く伸びており、栞よりも高い身長。まるでモデルのようである。
栞はつい、調部長にリリックの年齢を尋ねてしまう。
「リリックの年齢ですか? 私より二つ下で、まだ誕生日を迎えていませんので、12歳です。つまり中学一年生にあたりますね」
どうやら栞とは(見かけ上は)同級生になるらしい。ベッドで上半身だけを起こした状態なので詳しくは分からないものの、推定される身長は158cmくらい。栞と並べば頭半分ほどは高い身長となるわけである。栞はどんだけ小さいのだろうか。
「それで、母国の両親と話をした結果、私の側に置く方がよいだろうという事で、草利中学校への編入の手続きを始めました。早ければ来週には通える事になると思います」
なんとも驚くべき話である。行動が早い。
「一応、ああいう事があったので、私と同じように変装をしてという事にはなりますが、無事に転入できた時はよろしくお願いします」
「分かりました」
栞は快く引き受けた。もう毒を食らわば皿までといった気持ちだ。
とりあえずここまで確認したところで、調部長は水崎警部と詰めた話を栞にも話した。協力関係にある以上、情報の共有はしておいた方がいいと考えたからだ。
「それと、今週末なのですが、父のバロック・バーディアが秘密裏にこちらに来られます。元々は私の様子を直に見るためだったのですが、リリックの事がありましたので、急遽話し合いという事になりました」
調部長の顔がすっと真剣なものへと変わる。さっきまでの表情とは明らかに違っていた。
「そこで、高石さんにも関係者の一人として参加して頂きたいのです。どうでしょうか」
この申し出に、栞は正直驚いた。
バーディアという名を聞いてから調べてみたのだが、テキサスに本拠地を置いている元ギャングの貿易会社という事が分かったのだ。その現在の社長というのが、調部長の父親であり、今名前が出たバロック・バーディアというわけである。
こんな大物と会う機会などそうそうあるものではない。栞はこの件もここよく了承する。すると調部長はにこりと微笑んでいた。
「それでは、詳しい日時が決まりましたら、またご案内致しますね」
これをもってこの日の話し合いは終了となったのだった。
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