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第42話 謎の少女
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少女が発見された翌日の夜。
「ぐはっ!!」
どこかの建物の一室の中で、男が派手に勢いよく吹っ飛んでいた。男が元々立っていた位置には、片足を上げて立つ若い男が居た。
「お前なぁ……、俺らん事を嗅ぎ回るあほぉが居ったら、バラせっちゅうたよなぁ?」
関西弁を話す男は、新聞を片手に怒鳴り散らす。そして、吹き飛んだ男に紙面を見せて叩きつける。
「なんやねん、これは。このガキ、なんで生きとんねんなぁ?」
すごい剣幕に、吹き飛んだ男は痛む体を必死に起こして口を開く。
「も……、申し訳、ござい……ません」
それは苦しそうな顔で謝罪を口にした。
すると、関西弁の男は飛び上がって、うずくまる男を思い切り踏みつけた。
「ぐぼぁっ!」
あまりの衝撃に、男は苦痛の声を上げる。
「お前はあほか。俺が聞いとんのは生きとる理由や。それを謝るだけとか、……いっぺん死ぬか、ぼけぇっ!」
関西弁の男は、更にもう一度男を強く踏みつける。そして、ため息を吐いて部屋を出ていこうとする。扉の所まで移動すると、くるりと振り返ってこう言い捨てる。
「まあ、俺も鬼やないからなぁ、もういっぺんだけチャンス与えたるわ。次ぃしくじったらどないなるか、分かっとるやろなぁ?」
鋭く睨みつけた男は、なんとか顔を上げて震えながら、
「しょ、承知致し、ました……」
声を絞り出して返事をした。
それを聞き届けた関西弁の男は、勢いよく扉を開けて部屋を出ていった。その場には扉が閉まる大きな音だけが響き渡った。
ちょうど同じ頃、栞は部屋で水崎警部からのLISEを受け取っていた。
(うーん、やっぱりあの少女は調部長の身内の可能性が高いのか。話を聞いた調部長は明日一足先に修学旅行から帰ってくるらしいけど、場所を考えると早くてお昼過ぎってところね)
やる事を終えて暇を持て余す栞は、ベッドの上でごろごろしながら考え事をしていた。
昨日美術準備室で発見された少女は、一日以上経った今もまだ意識が戻らないらしい。あのまま生き埋めにしようとしていたのであるなら、それなりに強力な薬物が使われた可能性があるが、それにしてもいろいろと不可解な点が多すぎる。
まず、隠すとしても誰も行かないような山中などではなく、街中の中学校、しかも美術準備室なんていう場所を選んだのか。
そして、殺さずに眠らせた状態で置いていた事。
それと、わざわざ山積みの荷物を押し分けて隠した事。気にかかるのはこの3点だ。
犯人が草利中学校の噂に関係した人物かも知れない。なので、その見せしめとしてあの場所を選んだ可能性はある。
どういう理由にしてもよく分からない事件だった。
(まあ、どうするにしても、明日、調部長たちと合流してからの話になるわね)
そう考えた栞は、夜も遅くなってきた事だし眠りに就く事にしたのだった。
翌日もまだ事件の影響が休校措置が続いていた。実況見分が終わるまでは、校舎内へは一切の立ち入りが禁止されている。そのせいで栞はこの日も暇を持て余していた。何もやる事が無くなった事で、この二日間はとても長く感じられた。
「さて、そろそろ約束の場所に向かいましょうかね」
この日の栞には予定があったので、体を起こした栞は着替えて出掛ける事にした。
やって来たのは浦見市民病院。街の中心にある総合病院なので、かなりの規模を誇っている病院だ。この病院こそがおととい発見された少女が入院している病院で、調部長との待ち合わせの場所である。
ちなみに、例の少女に関しては厳重に場所が秘匿されている。一応、面会謝絶の集中治療室を備えた病棟に入院しており、医師や看護師にも箝口令を出して、外部に漏れないように徹底させてある。被害者保護のためである。
待ち合わせは午後2時。それよりも早く到着した栞は、飲み物を買って飲みながら待っていた。
「高石さん、ただいま戻りました」
ほぼ時間通りに調部長が現れる。修学旅行帰りだというのに、荷物は何も持っていないようである。
「荷物でしたらカルディに預けてあります。いくら数日間の旅行の荷物とはいえ、結構な荷物になりますからね。洗濯物もありますから、病院に持ってくるようなものではないでしょう」
確かにその通りである。
合流した栞と調部長が病院に入っていくと、受付には先に来ていた水崎警部が待っていた。ここからは医師に付き添われて、三人は上履きに履き替えて件の病室へと向かっていった。
本来なら面会謝絶のスペースだが、今回は特別な入室である。病棟入口で消毒を受けた後に、三人は医師の案内で病室に入る。そして、医師には外で待機してもらった。
病室は飾り気のない真っ白な部屋である。そこにカーテンで囲われたベッドが一床あるのみだった。
カーテンを開けると、そこには金髪で長髪の少女が静かに寝息を立てていた。その姿を見た調部長は、両手で口を押さえて驚いていた。
「間違いありません。この少女は、私の妹である『リリック・バーディア』です」
次の瞬間、調部長は駆け寄ってその顔をまじまじと見ていた。そして、水崎警部から医師の診察結果を告げられる。とりあえず、どこにも異常がなく命に別状はないとの事で、調部長はほっと胸を撫で下ろしていた。
ただ、目が覚めない理由は分からないので、まだ予断は許さない状況には違いなかった。それを聞いて、調部長はずっと妹の顔を眺め続けた。
この調部長たちの様子を見ていた栞は、この犯人は絶対見つけ出すと強い怒りに震えていたのだった。
「ぐはっ!!」
どこかの建物の一室の中で、男が派手に勢いよく吹っ飛んでいた。男が元々立っていた位置には、片足を上げて立つ若い男が居た。
「お前なぁ……、俺らん事を嗅ぎ回るあほぉが居ったら、バラせっちゅうたよなぁ?」
関西弁を話す男は、新聞を片手に怒鳴り散らす。そして、吹き飛んだ男に紙面を見せて叩きつける。
「なんやねん、これは。このガキ、なんで生きとんねんなぁ?」
すごい剣幕に、吹き飛んだ男は痛む体を必死に起こして口を開く。
「も……、申し訳、ござい……ません」
それは苦しそうな顔で謝罪を口にした。
すると、関西弁の男は飛び上がって、うずくまる男を思い切り踏みつけた。
「ぐぼぁっ!」
あまりの衝撃に、男は苦痛の声を上げる。
「お前はあほか。俺が聞いとんのは生きとる理由や。それを謝るだけとか、……いっぺん死ぬか、ぼけぇっ!」
関西弁の男は、更にもう一度男を強く踏みつける。そして、ため息を吐いて部屋を出ていこうとする。扉の所まで移動すると、くるりと振り返ってこう言い捨てる。
「まあ、俺も鬼やないからなぁ、もういっぺんだけチャンス与えたるわ。次ぃしくじったらどないなるか、分かっとるやろなぁ?」
鋭く睨みつけた男は、なんとか顔を上げて震えながら、
「しょ、承知致し、ました……」
声を絞り出して返事をした。
それを聞き届けた関西弁の男は、勢いよく扉を開けて部屋を出ていった。その場には扉が閉まる大きな音だけが響き渡った。
ちょうど同じ頃、栞は部屋で水崎警部からのLISEを受け取っていた。
(うーん、やっぱりあの少女は調部長の身内の可能性が高いのか。話を聞いた調部長は明日一足先に修学旅行から帰ってくるらしいけど、場所を考えると早くてお昼過ぎってところね)
やる事を終えて暇を持て余す栞は、ベッドの上でごろごろしながら考え事をしていた。
昨日美術準備室で発見された少女は、一日以上経った今もまだ意識が戻らないらしい。あのまま生き埋めにしようとしていたのであるなら、それなりに強力な薬物が使われた可能性があるが、それにしてもいろいろと不可解な点が多すぎる。
まず、隠すとしても誰も行かないような山中などではなく、街中の中学校、しかも美術準備室なんていう場所を選んだのか。
そして、殺さずに眠らせた状態で置いていた事。
それと、わざわざ山積みの荷物を押し分けて隠した事。気にかかるのはこの3点だ。
犯人が草利中学校の噂に関係した人物かも知れない。なので、その見せしめとしてあの場所を選んだ可能性はある。
どういう理由にしてもよく分からない事件だった。
(まあ、どうするにしても、明日、調部長たちと合流してからの話になるわね)
そう考えた栞は、夜も遅くなってきた事だし眠りに就く事にしたのだった。
翌日もまだ事件の影響が休校措置が続いていた。実況見分が終わるまでは、校舎内へは一切の立ち入りが禁止されている。そのせいで栞はこの日も暇を持て余していた。何もやる事が無くなった事で、この二日間はとても長く感じられた。
「さて、そろそろ約束の場所に向かいましょうかね」
この日の栞には予定があったので、体を起こした栞は着替えて出掛ける事にした。
やって来たのは浦見市民病院。街の中心にある総合病院なので、かなりの規模を誇っている病院だ。この病院こそがおととい発見された少女が入院している病院で、調部長との待ち合わせの場所である。
ちなみに、例の少女に関しては厳重に場所が秘匿されている。一応、面会謝絶の集中治療室を備えた病棟に入院しており、医師や看護師にも箝口令を出して、外部に漏れないように徹底させてある。被害者保護のためである。
待ち合わせは午後2時。それよりも早く到着した栞は、飲み物を買って飲みながら待っていた。
「高石さん、ただいま戻りました」
ほぼ時間通りに調部長が現れる。修学旅行帰りだというのに、荷物は何も持っていないようである。
「荷物でしたらカルディに預けてあります。いくら数日間の旅行の荷物とはいえ、結構な荷物になりますからね。洗濯物もありますから、病院に持ってくるようなものではないでしょう」
確かにその通りである。
合流した栞と調部長が病院に入っていくと、受付には先に来ていた水崎警部が待っていた。ここからは医師に付き添われて、三人は上履きに履き替えて件の病室へと向かっていった。
本来なら面会謝絶のスペースだが、今回は特別な入室である。病棟入口で消毒を受けた後に、三人は医師の案内で病室に入る。そして、医師には外で待機してもらった。
病室は飾り気のない真っ白な部屋である。そこにカーテンで囲われたベッドが一床あるのみだった。
カーテンを開けると、そこには金髪で長髪の少女が静かに寝息を立てていた。その姿を見た調部長は、両手で口を押さえて驚いていた。
「間違いありません。この少女は、私の妹である『リリック・バーディア』です」
次の瞬間、調部長は駆け寄ってその顔をまじまじと見ていた。そして、水崎警部から医師の診察結果を告げられる。とりあえず、どこにも異常がなく命に別状はないとの事で、調部長はほっと胸を撫で下ろしていた。
ただ、目が覚めない理由は分からないので、まだ予断は許さない状況には違いなかった。それを聞いて、調部長はずっと妹の顔を眺め続けた。
この調部長たちの様子を見ていた栞は、この犯人は絶対見つけ出すと強い怒りに震えていたのだった。
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