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第67話 まわる
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時間は午後となり、夏祭りは更に忙しさを増していた。裏方の手伝いをしていた栞や調部長も、ついには店の手伝いに入る事になるなど、あちこちの店でてんやわんやの大忙しの状態となっていた。
一方で出店の手伝いをしている真彩たちの方も、それは溢れんばかりの人の対処に悪戦苦闘していた。なにせ常に10人くらいの待機列ができているくらいだ。捌いても捌いてもまったく人が減らない。そんな中、出店の担当者から指示を貰いながら、あっちこっちと動いていた。
真彩と一緒に行動している詩音は、まだ人に対して苦手意識があるようなので、店の奥の方で護衛のカルディと一緒に各出店の手伝いをしている。備品や食材の補充をしたり、出たゴミをゴミ袋に分別して放り込んだりと、こっちもこっちで忙しそうである。
それにしても、ここでなんとも一番意外だったのは軽部副部長だった。普段のマイペースさはどこへやら、店の前に出て列の整理をしたり、客対応をしたり、かなり臨機応変に動いている。そのおかげか、商店街の道に人の滞留が起こらずに済んでいる。普段がかなり自由奔放といった感じなだけに、売り子の手伝いをしている真彩は、その姿にとても驚いていた。
(人は見かけによらないって、こういう事を言うのね)
だが、驚いてばかりもいられないと、真彩も気合いを入れて売り子の手伝いをこなすのだった。
ようやく陽が傾き始め、夕方となった商店街。学生である栞たちの手伝いは、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
栞は夏祭りの本部で雑務を片付けていると、
「お疲れ様、栞」
突然誰かが声を掛けてきた。誰かと思って振り向いて見てみたら、それは同僚で友人の千夏だった。
「なんだ千夏か。驚かさないでよ。それにしても、よくここが分かったわね」
「うん、夏祭りの様子を見に来ただけなんだけど、途中で栞によく絡んでたおじさんに会ったのよ。そしたら、栞がここに居るって教えてくれたから、こうやって来たってわけよ」
栞が反応を示すと、千夏がここまで来れた理由を話してくれた。
「……ああ、商店街の会長さんか」
栞は目をぱちぱちとさせた後、視線を逸らしながらぽつりと呟く。
「ああ、あのおじさんって、ここの会長さんだったのね……」
栞の呟きを聞いた千夏も、呆れた表情をしながら呟いていた。よっぽど予想外過ぎたようだ。
二人はしばらく話をしながら、本部の掃除をしている。この後は盆踊りが行われる夏祭りの本番が待ち構えているからだ。とにかく地面を掃いたりテーブルを拭いたりと、忙しく動いていた。
「それにしても、栞はよく動いてるわね」
「まあね。一応今の立場は中学生だから夏休みって事にはなってるけどさ、調査員として給料をもらってるわけじゃない。無理しない範囲で動いて当然じゃないの?」
千夏が何気にした質問に対して、掃除して集めたゴミをゴミ袋に放り込みながら栞はそう答えていた。
「はあ、栞ってば本当に真面目人間ね」
「給料もらっといて、1か月間食っちゃ寝で過ごすような性分はないわよ。それに、ここにも噂に関しての情報はあれこれ転がってたみたいだし、収穫があったわよ」
千夏としては茶化したつもりだったが、栞から予想外な答えが返ってきて驚いていた。
「ま、詳しい話はレポートにでもまとめて提出するから。聞きたかったら課長にでも問い詰めればいいわよ。……それに、ここで話せるような事じゃないしね」
栞は周りを見回しながら、千夏にこそこそと話す。
「まぁそうね。また今度にでも聞かせてもらうわ」
千夏も栞の言い分に理解を示した。
「んん~、栞と話もできた事だし、私はこれからお祭りを楽しんでくるわ。いつか二人でゆっくり来れるといいわね」
「まぁそうね」
千夏は伸びをしながら栞にそう言うと、「じゃあね」と挨拶をして夏祭り本部を立ち去っていったのだった。
それからしばらくすると、調部長と会長が揃って戻ってきた。そして、栞と調部長が少し話をしていると、真彩たちも本部に姿を現し、これで新聞部の面々が全員揃う。
「いやぁ、今日一日お疲れさん。実に助かったよ」
会長が栞たちに労いの言葉を掛けてきた。
「本当に嬢ちゃんたちには感謝している。というわけで、これを渡しておくよ」
そう言って会長は、栞たち一人一人に何やら紙きれを渡してきた。
「これは?」
「夏祭りのボランティアをした証明さ。これを出店に見せてやれば、嬢ちゃんたちはタダになるんだ。なに、出店の連中には話はつけてあるから安心してくれ」
どうやら夏祭りの無制限の無料券らしい。なかなかに太っ腹な事をしてくれるものだ。
「せっかくの夏祭りなんだ。しっかり楽しんでいってくれ」
会長はそうやって栞たちを送り出す。栞たちは一応無料券のお礼だけ言って、商店街へと繰り出していった。
日中の長い夏とはいえ、時間的に西の空が少しずつ赤く染まり始めている。これから暗くなって盆踊りも控えている状況なので、どうしても商店街の中は人がごった返してしまっているが、栞たちは精一杯お祭りを楽しもうと、商店街を練り歩く。
「まずはどこに向かいましょうかね」
調部長が切り出すと、
「まずはあそこにしようかと思います」
真彩がどこかを思いついたようで、全員真彩についていく事となった。
一方で出店の手伝いをしている真彩たちの方も、それは溢れんばかりの人の対処に悪戦苦闘していた。なにせ常に10人くらいの待機列ができているくらいだ。捌いても捌いてもまったく人が減らない。そんな中、出店の担当者から指示を貰いながら、あっちこっちと動いていた。
真彩と一緒に行動している詩音は、まだ人に対して苦手意識があるようなので、店の奥の方で護衛のカルディと一緒に各出店の手伝いをしている。備品や食材の補充をしたり、出たゴミをゴミ袋に分別して放り込んだりと、こっちもこっちで忙しそうである。
それにしても、ここでなんとも一番意外だったのは軽部副部長だった。普段のマイペースさはどこへやら、店の前に出て列の整理をしたり、客対応をしたり、かなり臨機応変に動いている。そのおかげか、商店街の道に人の滞留が起こらずに済んでいる。普段がかなり自由奔放といった感じなだけに、売り子の手伝いをしている真彩は、その姿にとても驚いていた。
(人は見かけによらないって、こういう事を言うのね)
だが、驚いてばかりもいられないと、真彩も気合いを入れて売り子の手伝いをこなすのだった。
ようやく陽が傾き始め、夕方となった商店街。学生である栞たちの手伝いは、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
栞は夏祭りの本部で雑務を片付けていると、
「お疲れ様、栞」
突然誰かが声を掛けてきた。誰かと思って振り向いて見てみたら、それは同僚で友人の千夏だった。
「なんだ千夏か。驚かさないでよ。それにしても、よくここが分かったわね」
「うん、夏祭りの様子を見に来ただけなんだけど、途中で栞によく絡んでたおじさんに会ったのよ。そしたら、栞がここに居るって教えてくれたから、こうやって来たってわけよ」
栞が反応を示すと、千夏がここまで来れた理由を話してくれた。
「……ああ、商店街の会長さんか」
栞は目をぱちぱちとさせた後、視線を逸らしながらぽつりと呟く。
「ああ、あのおじさんって、ここの会長さんだったのね……」
栞の呟きを聞いた千夏も、呆れた表情をしながら呟いていた。よっぽど予想外過ぎたようだ。
二人はしばらく話をしながら、本部の掃除をしている。この後は盆踊りが行われる夏祭りの本番が待ち構えているからだ。とにかく地面を掃いたりテーブルを拭いたりと、忙しく動いていた。
「それにしても、栞はよく動いてるわね」
「まあね。一応今の立場は中学生だから夏休みって事にはなってるけどさ、調査員として給料をもらってるわけじゃない。無理しない範囲で動いて当然じゃないの?」
千夏が何気にした質問に対して、掃除して集めたゴミをゴミ袋に放り込みながら栞はそう答えていた。
「はあ、栞ってば本当に真面目人間ね」
「給料もらっといて、1か月間食っちゃ寝で過ごすような性分はないわよ。それに、ここにも噂に関しての情報はあれこれ転がってたみたいだし、収穫があったわよ」
千夏としては茶化したつもりだったが、栞から予想外な答えが返ってきて驚いていた。
「ま、詳しい話はレポートにでもまとめて提出するから。聞きたかったら課長にでも問い詰めればいいわよ。……それに、ここで話せるような事じゃないしね」
栞は周りを見回しながら、千夏にこそこそと話す。
「まぁそうね。また今度にでも聞かせてもらうわ」
千夏も栞の言い分に理解を示した。
「んん~、栞と話もできた事だし、私はこれからお祭りを楽しんでくるわ。いつか二人でゆっくり来れるといいわね」
「まぁそうね」
千夏は伸びをしながら栞にそう言うと、「じゃあね」と挨拶をして夏祭り本部を立ち去っていったのだった。
それからしばらくすると、調部長と会長が揃って戻ってきた。そして、栞と調部長が少し話をしていると、真彩たちも本部に姿を現し、これで新聞部の面々が全員揃う。
「いやぁ、今日一日お疲れさん。実に助かったよ」
会長が栞たちに労いの言葉を掛けてきた。
「本当に嬢ちゃんたちには感謝している。というわけで、これを渡しておくよ」
そう言って会長は、栞たち一人一人に何やら紙きれを渡してきた。
「これは?」
「夏祭りのボランティアをした証明さ。これを出店に見せてやれば、嬢ちゃんたちはタダになるんだ。なに、出店の連中には話はつけてあるから安心してくれ」
どうやら夏祭りの無制限の無料券らしい。なかなかに太っ腹な事をしてくれるものだ。
「せっかくの夏祭りなんだ。しっかり楽しんでいってくれ」
会長はそうやって栞たちを送り出す。栞たちは一応無料券のお礼だけ言って、商店街へと繰り出していった。
日中の長い夏とはいえ、時間的に西の空が少しずつ赤く染まり始めている。これから暗くなって盆踊りも控えている状況なので、どうしても商店街の中は人がごった返してしまっているが、栞たちは精一杯お祭りを楽しもうと、商店街を練り歩く。
「まずはどこに向かいましょうかね」
調部長が切り出すと、
「まずはあそこにしようかと思います」
真彩がどこかを思いついたようで、全員真彩についていく事となった。
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