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第100話 繋がらない点と点
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栞と調部長がやって来たのは、個室のある料理店だった。
個室である座敷に入った栞たちは、とりあえず床に座る。
部屋の中に居るのは、栞、調部長、詩音、カルディの4人である。軽部副部長はお呼びではなかった。
「急なお誘いで申し訳ありません。本来なら私たちだけで決着をつけなければならない話なのですが、高石さんは信用ができると思っていますので、今回来て頂いたという事になります」
注文を済ませた調部長は、栞にそのように打ち明けていた。
「ですが、詳しい話は注文の品がすべて届いてから話させて頂こうと思う」
カルディも横からこの後の流れを説明している。確かに、重要な話というのなら、その方がいいだろう。話の最中に割り込まれては、話の腰が折れてしまうのだ。
「それで、軽部副部長が居ないのはどうしてですかね」
栞はそこが気になった。
「弟は見ての通り、自由であまり事の重要性が理解できない点がございます。それゆえに、このような重要な話の時には呼ばないという暗黙の了解ができてしまったのでございます」
カルディは表情を崩す事なく事情を説明していた。
確かに、神妙な話をしている後ろでスマホを弄ってゲームに興じているなど、その精神構造を疑うような行動だ。こういった場に呼び出されない理由としては、十分なものなのである。単純に信用できないというわけである。
この判断をしたのは調部長と、兄であるカルディの二人だった。この二人はしっかりとした目的をもって日本にやって来ているので、こういう事には本当にシビアなのである。
(身内であっても評価は厳正に、か……)
栞はちらりと詩音を見る。
カルディの評価を聞いたばかりでは、そういう点では詩音はまだ信用できるという事なのだろう。でも、詩音には一度命を狙われたという実績がある。そういう意味では、自分たちの目の届くところに置いた方がいいという判断が下されたと考えらえるのだ。
実際のところの事情は分からないものの、二人にとっての信用の度合いは、軽部副部長は大きく劣るというのは事実なのだった。
適当な話で時間を潰していると、注文した料理がすべて出そろった。
しばらくの間は、カチャカチャと料理を食べる音だけが響き渡る。最初から話に入っては、料理を無駄にしかねない。ある程度は普通に頂くものである。
しばらく食べていると、調部長の手が止まる。
「では、本題に移らさせて頂きます」
その一言だけで、部屋の中の空気が一変した。詩音はその空気に驚いて、栞にすっと抱きついていた。栞はそれに驚きはしたものの、にこりと微笑んで詩音の頭を撫でていた。
「こほん」
調部長は咳払いを一つ下だけで、あえてその状況をスルーした。
「先日ですが、どうやらレオンの方に動きがあったようなのです」
調部長は説明を切り出した。
その説明によれば、レオンが腕の確かな狙撃手をわざわざ呼び寄せたらしいのである。ただし、情報の出所については伏せていた。さすがに栞とはいえどそこまでの情報を明らかにするわけにはいかなかったのだ。
ただ、その身に危険が及ぶ可能性が高くなったので、その点については伝えておかなければならない。調部長とカルディの間でそういう判断があったという事である。
栞は思わず息を飲んだ。
最初はそこまで思っていなかったけれど、さすがに浦見市駅前商店街における狙撃事件からというもの、栞はかなり警戒するようになっていた。だというのに、夏休み中に軽はずみな事をしてしまったのは、十分反省している。
栞の手に力が入る。
「状況次第では、お父様にも力をお貸し頂く事態にもなりかねません。レオンが呼んだ人物というのは、そのくらいに厄介な人物だという事です」
調部長の表情は硬いままだった。その表情の硬さが、栞に状況の深刻さというものを如実に伝えている。
そもそも、レオンという相手自体が厄介だ。一度目を合わせれば、明るいその表情の奥に身も凍えんばかりの冷たさを湛えた瞳が目に入る。見た目の雰囲気とは裏腹のその瞳は、ただただ恐怖そのものなのである。
だが、現状ではカルディの元同僚で何かと暴力的な人物であった事と、今は理恵の父親で運送業で働いている事しか分からない。
危険な人物を呼び寄せたというのはあくまでも伝聞の情報であり、不確かなものなのだ。証拠はない。ましてや、その伝聞の出所も不明とあっては、これだけでレオンをしょっ引くというのは不可能極まりなかった。
「とにかく、慎重に調査をしてレオンの牙城を崩していくしかありません。私たちの周りで起きた事の黒幕は誰なのか、慎重に明かしていくしかないのです」
調部長はそう言って、料理をはむっと食べた。
正直言って、調部長としてももどかしい状況なのだろう。向こうからすれば黒幕の目星がついているのだから。だというのに証拠はないし、出てきたパーツを繋げても目的の人物にたどり着けない。それに加えて、タイムリミットが半年を切っている。これで焦らない方が無理というものなのだ。
重苦しい沈黙に包まれる中、栞たちはただただ食事を平らげる事しかできないのであった。
個室である座敷に入った栞たちは、とりあえず床に座る。
部屋の中に居るのは、栞、調部長、詩音、カルディの4人である。軽部副部長はお呼びではなかった。
「急なお誘いで申し訳ありません。本来なら私たちだけで決着をつけなければならない話なのですが、高石さんは信用ができると思っていますので、今回来て頂いたという事になります」
注文を済ませた調部長は、栞にそのように打ち明けていた。
「ですが、詳しい話は注文の品がすべて届いてから話させて頂こうと思う」
カルディも横からこの後の流れを説明している。確かに、重要な話というのなら、その方がいいだろう。話の最中に割り込まれては、話の腰が折れてしまうのだ。
「それで、軽部副部長が居ないのはどうしてですかね」
栞はそこが気になった。
「弟は見ての通り、自由であまり事の重要性が理解できない点がございます。それゆえに、このような重要な話の時には呼ばないという暗黙の了解ができてしまったのでございます」
カルディは表情を崩す事なく事情を説明していた。
確かに、神妙な話をしている後ろでスマホを弄ってゲームに興じているなど、その精神構造を疑うような行動だ。こういった場に呼び出されない理由としては、十分なものなのである。単純に信用できないというわけである。
この判断をしたのは調部長と、兄であるカルディの二人だった。この二人はしっかりとした目的をもって日本にやって来ているので、こういう事には本当にシビアなのである。
(身内であっても評価は厳正に、か……)
栞はちらりと詩音を見る。
カルディの評価を聞いたばかりでは、そういう点では詩音はまだ信用できるという事なのだろう。でも、詩音には一度命を狙われたという実績がある。そういう意味では、自分たちの目の届くところに置いた方がいいという判断が下されたと考えらえるのだ。
実際のところの事情は分からないものの、二人にとっての信用の度合いは、軽部副部長は大きく劣るというのは事実なのだった。
適当な話で時間を潰していると、注文した料理がすべて出そろった。
しばらくの間は、カチャカチャと料理を食べる音だけが響き渡る。最初から話に入っては、料理を無駄にしかねない。ある程度は普通に頂くものである。
しばらく食べていると、調部長の手が止まる。
「では、本題に移らさせて頂きます」
その一言だけで、部屋の中の空気が一変した。詩音はその空気に驚いて、栞にすっと抱きついていた。栞はそれに驚きはしたものの、にこりと微笑んで詩音の頭を撫でていた。
「こほん」
調部長は咳払いを一つ下だけで、あえてその状況をスルーした。
「先日ですが、どうやらレオンの方に動きがあったようなのです」
調部長は説明を切り出した。
その説明によれば、レオンが腕の確かな狙撃手をわざわざ呼び寄せたらしいのである。ただし、情報の出所については伏せていた。さすがに栞とはいえどそこまでの情報を明らかにするわけにはいかなかったのだ。
ただ、その身に危険が及ぶ可能性が高くなったので、その点については伝えておかなければならない。調部長とカルディの間でそういう判断があったという事である。
栞は思わず息を飲んだ。
最初はそこまで思っていなかったけれど、さすがに浦見市駅前商店街における狙撃事件からというもの、栞はかなり警戒するようになっていた。だというのに、夏休み中に軽はずみな事をしてしまったのは、十分反省している。
栞の手に力が入る。
「状況次第では、お父様にも力をお貸し頂く事態にもなりかねません。レオンが呼んだ人物というのは、そのくらいに厄介な人物だという事です」
調部長の表情は硬いままだった。その表情の硬さが、栞に状況の深刻さというものを如実に伝えている。
そもそも、レオンという相手自体が厄介だ。一度目を合わせれば、明るいその表情の奥に身も凍えんばかりの冷たさを湛えた瞳が目に入る。見た目の雰囲気とは裏腹のその瞳は、ただただ恐怖そのものなのである。
だが、現状ではカルディの元同僚で何かと暴力的な人物であった事と、今は理恵の父親で運送業で働いている事しか分からない。
危険な人物を呼び寄せたというのはあくまでも伝聞の情報であり、不確かなものなのだ。証拠はない。ましてや、その伝聞の出所も不明とあっては、これだけでレオンをしょっ引くというのは不可能極まりなかった。
「とにかく、慎重に調査をしてレオンの牙城を崩していくしかありません。私たちの周りで起きた事の黒幕は誰なのか、慎重に明かしていくしかないのです」
調部長はそう言って、料理をはむっと食べた。
正直言って、調部長としてももどかしい状況なのだろう。向こうからすれば黒幕の目星がついているのだから。だというのに証拠はないし、出てきたパーツを繋げても目的の人物にたどり着けない。それに加えて、タイムリミットが半年を切っている。これで焦らない方が無理というものなのだ。
重苦しい沈黙に包まれる中、栞たちはただただ食事を平らげる事しかできないのであった。
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