ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第138話 謎の廃工場

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 それからの水崎警部の行動は早かった。あっという間に捜査員を編成して、問題の場所へと向かわせたのだ。
 ただ、近くに問題の廃工場があるので、気を付けて向かうようにという指示だけは出しておいた。レオンに気が付かれては意味がないからだ。なので、車と服装はそれと分からないものでとも指示しておいた。
「それにしてもよく見つけたね、こんなものを」
「あたしは必死だったから」
 水崎警部が声を掛けると、わっけーは涙声で答えを返してきた。
 しかし、服を見ただけで誰のものか分かるものなのだろうか。いろいろ疑問はあるものの、続きは捜査員の報告を待ってからでもいいだろう。
「恵子くん、つらいところすまないが、例の廃工場の方へ飛ばしてもらっても大丈夫だろうか」
 気遣いながらも、水崎警部はわっけーに頼みごとをする。
「それは構わないのだ。ちょっと待ってほしいのだ」
 わっけーはそう言うとポケットティッシュを引っ張り出して、鼻をひとかみする。泣きたくなっていたので顔がぐしゃぐしゃなのである。
 水崎警部が持ってきたゴミ箱にティッシュを捨てると、わっけーは改めてパソコンに向かい合った。
「それじゃ、廃工場に向けて飛ばすのだ」
 わっけーは再び飛行機械を操作し始める。
 さっきまで進んできた道のりを戻り始めて1分程度で、件の廃工場へと戻ってきたのだった。
 廃工場はさすが廃工場というだけあって、あちこちに錆やら崩れた跡やらが見受けられる。だが、事務所があると思われるあたりだけはしっかりとした状態が保たれており、改めてその異質さが浮き彫りになっている。
「人が使っていそうっていうくらいにきれいだな」
「確かに、周りに比べれば明らかにおかしいぞ」
 水崎警部もわっけーも、その異質さに驚いている。しかし、いつまでも驚いているわけにはいかない。ここにはあらぬ疑いが掛かっているのだ。
 ちなみにこの廃工場に関しては、持ち主である商店街会長から調査の許可はもらっている。なので、すぐさま調べ始める事が可能なのである。
 わっけーは慎重に飛行機械の高度を下げながら、廃工場の様子を映し出していく。
 手入れされる事もなく、長年風雨にさらされた廃工場の屋根や壁は、あちこちに錆が浮かんでいた。支える柱の鉄筋も錆びてきているのだが、よくこれで崩れないものである。
 中にあった機械類も、再興を考慮してか、大型のものはそのまま残っているようだった。ただ、それ以外のものはほとんど残っていなかった。動かすのが簡単なものだけ処分したという事だろう。
 さすがに中には入れなかったのだが、ところどころにある窓のおかげで中の様子を見る事ができたのである。
「なるほど、確かにあの会長さんの言う通りなのだな。再開したいとか、手つかずだったとか、この状況を見ればよく分かるのだ」
 崩れた場所以外は、これといって散らかった場所が見当たらないあたり、廃業に際してきっちりと片付けをした事がよく分かる。
 工場内を見たわっけーは、事務所っぽい場所へと飛行機械を飛ばしていく。
 こっちはさっきまでとは打って違い、本当にきれいにされていた。こういった放置された場所であれば、階段などに埃などが積もっていてもおかしくはない。ところが、それがきれいさっぱりにないのである。工場部分と比べても錆が明らかに少ない。明らかに誰かが使っていて、手入れしていた事が分かるような状況だった。
「錆び具合からしてみても、誰かが錆止めを塗ってそうな感じだな」
 その違いは水崎警部の目から見てもすぐに分かるくらいだった。
「おじさんの痕跡もこの辺に残っているから、おそらくおじさんが手入れしていたと思うのだ。おじさんは真面目だからな」
 わっけーはそう推測を述べる。
 飛行機械は事務所の2階部分を映し出している。
「ちょっと薄暗いが、見る限り、埃が積もっていそうなようには見えないな……」
 水崎警部は、首を傾げるようにしてその印象を語っている。
 部屋の中が薄暗いのは、この事務所の窓の位置が北側にあるからだ。北半球で北側にしか採光口がないのなら、部屋の中は太陽の光が当たらなくて薄暗くなってしまうのだ。
 だが、そんな状態でも部屋の中の様子を見る事ができる。
 それというのも、わっけーが飛行機械のカメラを操作したからだ。暗視というわけではないが、光の加減を調整したのである。
「やっぱり埃が落ちていないな。普通10年以上も放置されていれば、埃が積もって白っぽくなっているもんなんだがな」
 画面を見た水崎警部が訝しんでいる。
 なにせ会長からは廃工場に出向いた証言は得られていない。となると、引き取った時から立ち入った人員は皆無のはずである。鍵は会長が持っているのだから、他人がおいそれと入れるわけでもない。ただ、敷地内には入れる状態にはなっていた。なので、誰かがピッキングなり合い鍵を作るなどして侵入したという事になるのだろう。
 ますます、この廃工場が怪しさを増していっていた。
 そんな時だった。突如として水崎警部の無線に連絡が入ったのである。
 画面に釘付けだった水崎警部だったが、慌ててその無線に応答するのであった。
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