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新章 青色の智姫
第81話 一年次の合宿の終わり
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その後は大きなトラブルもなく、無事にオリエンテーリングを終える。
スタート地点に戻ってきた学生たちは、慣れない徒歩移動と魔物との戦闘でかなり疲弊していたようだった。一部の学生たちは昼食も逃したようなのでなおさらのようだ。
「よーし、みんな、ご苦労だったな。今日はもう疲れただろうから、屋敷に戻ってゆっくり休め」
「明日には王都に向けて戻るので、しっかり休んで疲れを取っておくようにな」
「はーい……」
ガレンとグール教官の言葉に、学生たちは元気なく返事をして宿泊所となっているアクアマリン子爵の別邸へと移動していく。
そんな中、シアンたちのグループはしばらくその場に残っていた。
「もう、こういうのは嫌ですよ……」
「僕もですね」
ブランチェスカとココナスの二人は、完全に参っているようだった。正直言って、魔物との戦闘なんて考えていなかったからだ。
「いや、正直言ってウルフだけの相手でとどまったのはよかったですよ。お母様が学生の頃なんて、ケルピーなどの魔物を相手にしたようですからね」
「ケルピーだって?!」
シアンの言葉に大きな声で反応したのはゴーエンだった。
「ご、ゴーエン?」
急な大声に、さすがのシアンもびっくりして心臓をバクバクと言わせていた。
「いやぁ、私の父親もその時ちょうど学生でしてね。ケルピーと戦う王妃様たちの雄姿を見ていたのですよ」
ゴーエンがいう王妃様とは、ペシエラのことである。
ペシエラがケルピーと対峙したのは、今のシアンたちと同じ一年次の合宿の時だった。なるほど、ゴーエンの親はロゼリアたちと同級生だったようだ。
ゴーエンが武術タイプになったのも、その時が原因なのだそうだ。
「来年にはペシエラ様のお子様、王子殿下と王女殿下がご入学される。私はその護衛騎士を目指す所存なのですよ」
長々と家のことを話していたかと思うと、短く自分の将来の夢を語っていた。
「おう、お前のところもか。俺の家も代々騎士の家だからな。護衛騎士とまではいかなくても王国騎士団に入るつもりだ」
クライはゴーエンの夢に同調するように話を始める。以前聞いた話では、クライの家であるミドナイト男爵家は代々騎士の家系だったと聞いているので、本人の口で間違いない事が確認されたのだった。
(まったく、アイヴォリー王家は相変わらず愛されていますね)
二王制という状態が崩れても、王国民の王家への忠誠は変わっていないのだ。モスグリネだって大差はないのだろうが、こうやって直に聞くとどういうわけか羨ましく感じてしまうものだった。
「シアン様?」
「わっ!」
プルネがひょっこりと顔を覗き込むので、思わず仰け反ってしまうシアン。
「あ、申し訳ございません、驚かせてしまいましたね」
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです。気にしないで下さい」
驚かせたことを謝罪するプルネだったが、シアンはまったく咎める気はなかった。
「それはそうと、プルネ様ってばあんなに戦えたのですね」
ブランチェスカが胸の前で両手を組んで目をキラキラとさせている。ちょっと勢いよく迫ってきてたじろいだものの、プルネは事情を説明し始める。
「お母様や侍女の方から、護身術として叩き込まれただけです。この制服もその能力を活かせるようにと、お母様の制服を元に新しく作って頂いたのです」
「そうそう。お母様の制服は、今は私が着ていますけれどね」
「お姉様」
シアンたちの話が耳に入ったのか、プルネの姉であるフューシャが口を挟んできた。
「見ていたわよ、プルネ。なかなかな暗器から魔法の連携だったわ」
「そ、そんな……。見てたんですね、恥ずかしい」
「私から見ても見事な動きだったわ。もっと誇りなさい」
「は、はい」
フューシャから褒められて、恥ずかしそうにしているプルネである。暗殺者の技術だけに、ちょっとプルネは誇れないようだった。
「何も恥ずかしがることはないのですよ。陰からアイヴォリー王国を支える技術なのですからね」
「はい、お姉様」
フューシャに肩を叩かれて、思わず下を向いてしまうプルネなのだった。
話が一段落すると、体を休めるためにシアンたちは別邸の中へと入っていき、合宿の全日程を終わらせたのだった。
―――
「ふむ、終わったようだね」
「いやぁ、プルネお嬢様ったらかっこよかったわね」
近くから見守っていたライとキャノルである。プルネの戦い方は、ライからはかなり高評価のようだ。
「小さい頃から教え込んだだけのことはあるな。これでいざって時は、心強い存在になれるだろうね」
「そうね。ただ、デーモンハートの影響を受けているようだったから、そこだけが心配ね」
「ああ、あの不気味な石か。ライの魔法がなきゃ、あたいも影響されてたんだろうな」
「間違いなくね」
プルネの強さを評価しながらも、懸念点が気になってしまうライである。
「とはいえ、その宝珠のこともある。明日、学生がアクアマリン領を発ったら、あたいらは大急ぎで王都に戻るよ」
「ええ、分かったわ」
合宿での見守りを終えたキャノルとライは、翌朝一番に王都へ向けて出発したのであった。
スタート地点に戻ってきた学生たちは、慣れない徒歩移動と魔物との戦闘でかなり疲弊していたようだった。一部の学生たちは昼食も逃したようなのでなおさらのようだ。
「よーし、みんな、ご苦労だったな。今日はもう疲れただろうから、屋敷に戻ってゆっくり休め」
「明日には王都に向けて戻るので、しっかり休んで疲れを取っておくようにな」
「はーい……」
ガレンとグール教官の言葉に、学生たちは元気なく返事をして宿泊所となっているアクアマリン子爵の別邸へと移動していく。
そんな中、シアンたちのグループはしばらくその場に残っていた。
「もう、こういうのは嫌ですよ……」
「僕もですね」
ブランチェスカとココナスの二人は、完全に参っているようだった。正直言って、魔物との戦闘なんて考えていなかったからだ。
「いや、正直言ってウルフだけの相手でとどまったのはよかったですよ。お母様が学生の頃なんて、ケルピーなどの魔物を相手にしたようですからね」
「ケルピーだって?!」
シアンの言葉に大きな声で反応したのはゴーエンだった。
「ご、ゴーエン?」
急な大声に、さすがのシアンもびっくりして心臓をバクバクと言わせていた。
「いやぁ、私の父親もその時ちょうど学生でしてね。ケルピーと戦う王妃様たちの雄姿を見ていたのですよ」
ゴーエンがいう王妃様とは、ペシエラのことである。
ペシエラがケルピーと対峙したのは、今のシアンたちと同じ一年次の合宿の時だった。なるほど、ゴーエンの親はロゼリアたちと同級生だったようだ。
ゴーエンが武術タイプになったのも、その時が原因なのだそうだ。
「来年にはペシエラ様のお子様、王子殿下と王女殿下がご入学される。私はその護衛騎士を目指す所存なのですよ」
長々と家のことを話していたかと思うと、短く自分の将来の夢を語っていた。
「おう、お前のところもか。俺の家も代々騎士の家だからな。護衛騎士とまではいかなくても王国騎士団に入るつもりだ」
クライはゴーエンの夢に同調するように話を始める。以前聞いた話では、クライの家であるミドナイト男爵家は代々騎士の家系だったと聞いているので、本人の口で間違いない事が確認されたのだった。
(まったく、アイヴォリー王家は相変わらず愛されていますね)
二王制という状態が崩れても、王国民の王家への忠誠は変わっていないのだ。モスグリネだって大差はないのだろうが、こうやって直に聞くとどういうわけか羨ましく感じてしまうものだった。
「シアン様?」
「わっ!」
プルネがひょっこりと顔を覗き込むので、思わず仰け反ってしまうシアン。
「あ、申し訳ございません、驚かせてしまいましたね」
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです。気にしないで下さい」
驚かせたことを謝罪するプルネだったが、シアンはまったく咎める気はなかった。
「それはそうと、プルネ様ってばあんなに戦えたのですね」
ブランチェスカが胸の前で両手を組んで目をキラキラとさせている。ちょっと勢いよく迫ってきてたじろいだものの、プルネは事情を説明し始める。
「お母様や侍女の方から、護身術として叩き込まれただけです。この制服もその能力を活かせるようにと、お母様の制服を元に新しく作って頂いたのです」
「そうそう。お母様の制服は、今は私が着ていますけれどね」
「お姉様」
シアンたちの話が耳に入ったのか、プルネの姉であるフューシャが口を挟んできた。
「見ていたわよ、プルネ。なかなかな暗器から魔法の連携だったわ」
「そ、そんな……。見てたんですね、恥ずかしい」
「私から見ても見事な動きだったわ。もっと誇りなさい」
「は、はい」
フューシャから褒められて、恥ずかしそうにしているプルネである。暗殺者の技術だけに、ちょっとプルネは誇れないようだった。
「何も恥ずかしがることはないのですよ。陰からアイヴォリー王国を支える技術なのですからね」
「はい、お姉様」
フューシャに肩を叩かれて、思わず下を向いてしまうプルネなのだった。
話が一段落すると、体を休めるためにシアンたちは別邸の中へと入っていき、合宿の全日程を終わらせたのだった。
―――
「ふむ、終わったようだね」
「いやぁ、プルネお嬢様ったらかっこよかったわね」
近くから見守っていたライとキャノルである。プルネの戦い方は、ライからはかなり高評価のようだ。
「小さい頃から教え込んだだけのことはあるな。これでいざって時は、心強い存在になれるだろうね」
「そうね。ただ、デーモンハートの影響を受けているようだったから、そこだけが心配ね」
「ああ、あの不気味な石か。ライの魔法がなきゃ、あたいも影響されてたんだろうな」
「間違いなくね」
プルネの強さを評価しながらも、懸念点が気になってしまうライである。
「とはいえ、その宝珠のこともある。明日、学生がアクアマリン領を発ったら、あたいらは大急ぎで王都に戻るよ」
「ええ、分かったわ」
合宿での見守りを終えたキャノルとライは、翌朝一番に王都へ向けて出発したのであった。
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