庇護欲をそそられる物静かな彼女には秘密があった~浮気を見て見ぬ振りをするようなマヌケで終わりたくない俺の奮戦記または新たな恋への追走記~

こまの ととと

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第8話 目撃する逢瀬

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 こんなことをつい考えてしまうのは、今が昼休みでいつもなら一緒に飯を食ってるはずの女の元へと行かずに、結局逃げ腰になって校舎の片隅で弁当食ってるからか? 
 余計なことばかり考えて、箸も禄に進まない。口に入れても味もしない。……ああ! また暗いこと考えてやがる!! 俺って男はこんなに女々しい人間なのか? はぁ……。

「こんな調子で別れを告げられるのか? そもそも俺は本当に別れたい……いや別れたいはずだ流石に! これから先も自分の彼女が他の男とキスをしたりするかもしれないなんて、そんな心配をしながら生活をしたくない。間違いないのはこんなことでグダグダ悩むなんて無駄な時間でしかないってことだな。そして、無駄だってわかっていながら悩むのをやめられないってことだ。傍から見たらただの間抜けだぜ」

 自嘲気味に吐き捨てるが、そういうところも含めて間抜けなんだよ。なんて自分で自分を責めたところで自体が好転するわけでもなく……。

 スマホで別れをつけるより、やっぱり直接会って別れを告げた方がかっこがつく、とか考えて今だ実行することができないんだ。ダサいなぁ。

 ため息を一つ吐いても格好がつくわけないか……ん?

 不意に人の気配を感じた。こんな校舎の片隅にわざわざやってくるやつがいるなんてな。ちょっと気まずい。
 そう思って弁当箱片手に物陰に隠れることにした。

 大きくなってくる足音。二人いるな。じっと息をひそめてそいつらがやってくるのを待つ。……スパイ気取りか何かか? そんなこと考えても物陰に隠れてしまったんだから、せいぜいスパイごっこを楽しむことにしよう。

 やってくるのは誰だ……? そんな悠長なことを考えていたが、すぐに後悔することになる。

(あ、あいつらは!?)

 やってきたのは男と女。男の方は見たことがある、いつぞやの祭りの男だ。そして当然、その隣にいるのは――今となってはどういう感情を向ければいいのか――俺の元恋人予定の女、ちかりだ。

(あいつら、こんな人気のないところで何の用だ?)

 さっき以上に慎重になる俺。
 男の方はこの学校の生徒だったのか。しかしなんだあの野郎は? 本人じゃ気づいてないかもしれないがヘラヘラしてやがる。あれは美少女と話ができてるからってレベルじゃないな。きっと今まで女の子と会話すらしたことないような奴なんだろう。見た目地味だし、モテるような男に見えない。

 それに対してちかりの方は、いつものように無表情。相槌に加えて二、三言と話すだけだ。……俺に対してもそうしたように。

 俺にはわかる、それなりに長いこと恋人だったんだ。ちかりの無表情の中には表情があるんだ。それがわかる俺だからこそあいつと恋人になれたんだぞ。あんなヘラヘラしてるような男と楽しそうにして……!

 耳をかっぽじってあいつらの会話を聞き逃さないように、俺は息を殺しながら物陰から二人を睨みつけた。……もちろんバレないようにだ!

「は、晴空さん! こ、こうしていると僕達って周りからどう思われるんだろうね?!」

 テンパり過ぎだろあいつ。これで間違い無い、あの男は非モテで女子との会話に慣れてない野郎だ。会話の入りが不自然過ぎる事に気付いてない。
 それに対してちかりの方は、ただ首をかしげるだけだ。質問の意図を読み取れて無いんだろうな。

「そんなの、その人の勝手だと思うけど……」

「そ、そうだね。周りがどう思うなんてどうでもいいよね……。ははは……」

 あの男、調子を崩されて乾いた笑いしか出てないな。まぁ、あんな返しをされたら仕方がないか。

「うん……で、でもさ! 晴空さんは僕と付き合ってるって思われてもおかしくないよね?」

(……は? お前とちかりが釣り合うわけないだろ。ちょっとキスしたぐらいで、身の程知らずにもほどがあるだろうが)

 そんな俺の心の中の突っ込みなど聞こえるわけもなく、今度はちかりが口を開いた。

「ん、確かにあなたの呼び出しに付き合ってる」

「い、いやそういう事を言ってるんじゃなくて」

「?」

「あ、いや、だから……」

 ちかりの方は相手の男の言葉の意味を理解出来ずにいるようだ。
 相手も元が気の弱い奴だからなのか、それ以上はボソボソ聞こえないような声で何かを言っているが、ちかりには届かない。

 結局そのまま、その二人はこの場を去って行った。
 その肩を落とした野郎の背中には、哀愁が付きまとっているようだ。

 はははは! ざまぁないぜ。あの野郎全く相手にされてないじゃないか。
 あの野郎が、ちかりと釣り合うわけない。だってそうだろ? ちかりは俺の……!


 ……………何やってんだろ、俺?


 昼の終わりを告げるチャイムが、俺の脳髄を殴り起こした。
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