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第9話 別れを告げる男
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それからもつつがなく、本当につつがなく授業を終えてもう放課後だよ!
どうしよう?
いざって時にビビって、ちかりに別れたいと言えてない。
あいつが近づいてくる気配を感じた途端に隠れたり逃げたり、自分で言うのもなんだが俺は別れる気あるのかと……。情けない話だ。
ああどうしよう? このまま帰ろうかな? そうすれば胸の嫌なドキドキともおさらば出来る。根本的な解決には全くならないが。
となれば、やっぱり今日別れを告げてあいつとの恋人関係にピリオドを打つしかない。それ以外に俺が楽なる道は無い、というのに考えるだけで吐き気すら感じる。
何が決意だ、馬鹿野郎俺。
教室を出てトボトボ重い足を引きずる無様な姿が、先日まで彼女との夏休みを妄想して浮かれていた俺の今である。
笑わば笑え! ……やっぱ今の状態を笑われるのは素直にキツいや。
「はぁ……。溜息をついても」
「何してるの?」
一人、と続けようとした時、不意に声が掛けられた。
この声、小さいのに不思議と通りの良い小鳥のさえずりにすら例えられるような女の声は……。
振り返るとキョトンとした顔のちかりが居た。
マズい……、何の覚悟もして無いぞ。
「……あ、いや、その」
「? どうしたの?」
不思議そうに首を小さく傾けるちかり。その仕草は見る人間取っては可憐かもしれんが、今はそれどころじゃない。心臓がバクバクと高鳴ってうるさい。
落ち着け、今から別れを告げるなんて無理があるぞ!
ああでも……このまま何も言わなければ、また同じことを悩み続けるんだ。
喉が急速に乾いていく、目がちりちり滲んで痛い。
「あ、あのさ……。その……」
「……ん」
俺の喉から絞り出された声は、自分でもわかるほど震えていた。
そんな俺を馬鹿にするわけでも茶化すわけでもなく、ただじっと待ってくれるちかり。
その仕草に、今は可愛げよりも逃げ出したい感情を揺さぶられる。
に、逃げてどうする!? この女は俺という彼氏が居ながら知らん男とキスをしていたとんでもないアマだ。しっかりしろ俺の足!
ぐぐっと足に力を込める。地面に縫い付けるように、足の裏から根をはるように、しっかりと。
「……別れよう」
「……」
俺の唐突な言葉に、ちかりが息をのむのがわかった……ような気がする。ごくわずかに、そんな気がする。
ああやっぱりだ……俺は情けない男だ。なんでこう、決定的な言葉を言う時に声が震えてしまうのか。やり遂げた実感を感じない。
で、でも遂に言えたんだ。これで彼女の浮気に苦しむ人生ともおさらば出来る。新しい恋に向かって走れるんだ!
ふぅ、そう思えばなんか落ち着いて来た……ような気がする。ごくわずかに、そんな気がする。
さしものちかりとはいえ、急に俺がこんな事言ったせいで戸惑いを――。
「ん、わかった」
「……え?」
と、戸惑いを……!
「じゃあねバイバイ」
と、戸惑いを……っ! 感じてる様子も無くあっさりと去って行ってしまった。
え? あ、あれ、おかしくない? なんであんなにあっさりなんだ? 浮気するにしてももう少しこう、何かあるだろ……? そんなつもりじゃなかったの! とか。好きなのはあなただけ、あなたと一緒じゃなきゃ生きていけないわ! とか。お願い捨てないで!! とか。
それを見て悦に浸って、お前が悪いんだぞ! 後悔しても遅いんだ!! とか言って、すがるちかりを振り払って新たな恋を探しに行くという勧善懲悪なストーリーが展開されるはずじゃないのか?
何あっさり受け入れてんだよ!? ……何だよそれ? お前にとって俺はその程度の存在だったのか……?
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 駄目だ駄目だこんな考えじゃ!!!
折角関係を清算出来たんだ、過去を振り切って未来に待つ新しい彼女を探しに行くべきだ! それが生産的だ! そうだ、そうしよう!!
俺は間抜けじゃない、だから今胸が苦しいのも気のせいなんだ。そうだそうなんだ。
俺は再び歩き出す、この校舎を出て家路へと。
その足取りは先ほどよりも軽くなった……ような気がする。ごくわずかでは無く、そんな気がする!
……俺は鉛のような足を引きずるように、その場から去って行った。はぁ。
「またね」
どうしよう?
いざって時にビビって、ちかりに別れたいと言えてない。
あいつが近づいてくる気配を感じた途端に隠れたり逃げたり、自分で言うのもなんだが俺は別れる気あるのかと……。情けない話だ。
ああどうしよう? このまま帰ろうかな? そうすれば胸の嫌なドキドキともおさらば出来る。根本的な解決には全くならないが。
となれば、やっぱり今日別れを告げてあいつとの恋人関係にピリオドを打つしかない。それ以外に俺が楽なる道は無い、というのに考えるだけで吐き気すら感じる。
何が決意だ、馬鹿野郎俺。
教室を出てトボトボ重い足を引きずる無様な姿が、先日まで彼女との夏休みを妄想して浮かれていた俺の今である。
笑わば笑え! ……やっぱ今の状態を笑われるのは素直にキツいや。
「はぁ……。溜息をついても」
「何してるの?」
一人、と続けようとした時、不意に声が掛けられた。
この声、小さいのに不思議と通りの良い小鳥のさえずりにすら例えられるような女の声は……。
振り返るとキョトンとした顔のちかりが居た。
マズい……、何の覚悟もして無いぞ。
「……あ、いや、その」
「? どうしたの?」
不思議そうに首を小さく傾けるちかり。その仕草は見る人間取っては可憐かもしれんが、今はそれどころじゃない。心臓がバクバクと高鳴ってうるさい。
落ち着け、今から別れを告げるなんて無理があるぞ!
ああでも……このまま何も言わなければ、また同じことを悩み続けるんだ。
喉が急速に乾いていく、目がちりちり滲んで痛い。
「あ、あのさ……。その……」
「……ん」
俺の喉から絞り出された声は、自分でもわかるほど震えていた。
そんな俺を馬鹿にするわけでも茶化すわけでもなく、ただじっと待ってくれるちかり。
その仕草に、今は可愛げよりも逃げ出したい感情を揺さぶられる。
に、逃げてどうする!? この女は俺という彼氏が居ながら知らん男とキスをしていたとんでもないアマだ。しっかりしろ俺の足!
ぐぐっと足に力を込める。地面に縫い付けるように、足の裏から根をはるように、しっかりと。
「……別れよう」
「……」
俺の唐突な言葉に、ちかりが息をのむのがわかった……ような気がする。ごくわずかに、そんな気がする。
ああやっぱりだ……俺は情けない男だ。なんでこう、決定的な言葉を言う時に声が震えてしまうのか。やり遂げた実感を感じない。
で、でも遂に言えたんだ。これで彼女の浮気に苦しむ人生ともおさらば出来る。新しい恋に向かって走れるんだ!
ふぅ、そう思えばなんか落ち着いて来た……ような気がする。ごくわずかに、そんな気がする。
さしものちかりとはいえ、急に俺がこんな事言ったせいで戸惑いを――。
「ん、わかった」
「……え?」
と、戸惑いを……!
「じゃあねバイバイ」
と、戸惑いを……っ! 感じてる様子も無くあっさりと去って行ってしまった。
え? あ、あれ、おかしくない? なんであんなにあっさりなんだ? 浮気するにしてももう少しこう、何かあるだろ……? そんなつもりじゃなかったの! とか。好きなのはあなただけ、あなたと一緒じゃなきゃ生きていけないわ! とか。お願い捨てないで!! とか。
それを見て悦に浸って、お前が悪いんだぞ! 後悔しても遅いんだ!! とか言って、すがるちかりを振り払って新たな恋を探しに行くという勧善懲悪なストーリーが展開されるはずじゃないのか?
何あっさり受け入れてんだよ!? ……何だよそれ? お前にとって俺はその程度の存在だったのか……?
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 駄目だ駄目だこんな考えじゃ!!!
折角関係を清算出来たんだ、過去を振り切って未来に待つ新しい彼女を探しに行くべきだ! それが生産的だ! そうだ、そうしよう!!
俺は間抜けじゃない、だから今胸が苦しいのも気のせいなんだ。そうだそうなんだ。
俺は再び歩き出す、この校舎を出て家路へと。
その足取りは先ほどよりも軽くなった……ような気がする。ごくわずかでは無く、そんな気がする!
……俺は鉛のような足を引きずるように、その場から去って行った。はぁ。
「またね」
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