異世界の花嫁?お断りします。

momo6

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椿達がのんびり夕食を食べている頃。
王宮では、はぁはぁと息を切らしながら走っている衛兵がいた。
勢いよく扉を開けた為、談話していた人達がピタリと話すのをやめ、中に入ってきた衛兵をヒソヒソと話しながら見ている。

その人達には目もくれず、息を整えながら、奥にいた王様の所まで一直線に歩き出す。

「報告します!例の施設患者達が治ったと連絡が来ました!」
「なんだと!!?」

ガタンッ
報告を受けた王が驚き、椅子から勢いよく立ち上がった。
周りにいた重役達も騒めく。

「もう一度!もう一度初めから報告してくれ!!」
「はい!例の施設、ピンインの患者達を収容していた施設に定期検査に行った所。多くの患者の症状が完治しており、数名は施設より出たとありました。シュール所長によると神に祈りが届いたと話しており、理由は分からないようです。」

「そんな…馬鹿な、あれほど不治の病と言われていたのが治っただと?」
信じられないと王は頭を抱えた。
「ただ、もう1つ報告がーー」
「何だ?話してみろ」

ギロリと見つめる王に威圧されながらも、報告を続けた。

「はい。見慣れぬ2人組みが目撃されています。ピンインが治った時期と何か関係があるのではないでしょうか?」
「なに?見慣れぬ者が何故そこにいたのだ?」
「シュール所長によりますと、旅の人だといいます。収容施設から抜け出した子供を連れ戻してくれたようで、しばらく滞在していると話しておりました。」

「連れ戻した?だと?何故しっかり管理をしていないのだ!他の者にうつったりしたらどうするのだ!!」
「っっ申し訳ございません!!!」
「よく、教育をするように伝えろ!引き続き調査を続けて、小さな事でも報告するように。それと…2人組も調べるように。」
「はっ!畏まりました!」

周りがざわつく中、衛兵は踵を返して部屋を出て行く。
残された者達は聞き耳を立てていたのか、口々に王に囃し立てる。
「王様!ピンインが治ったと話していましたが、本当なんでしょうか?」
「何が原因か分かったんでしょうか?」

あまりにもザワザワと話すので、王は「黙れ!!」と怒鳴ってしまったが仕方ない。
シーンと静まり返ったが、その顔は言いたくて仕方がないと口元をウズウズしていた。王は見て見ぬ振りをして、“他言無用”だと話し下がらせた。

1人になった王は、どうして急に治ったのか不思議でしょうがなかった。誰もいない部屋でポツリと独り言のように繰り返す。
「何が原因だったんだ?本当に治ったのか?」




王宮にピンインが治ったと知らせがいっているとは知らない椿は、満腹になったお腹をさすりながら、帰っているところだ。
「はぁ~もう食べれない~」
「ったく、食べ過ぎよ?あんなに食べて。少しは控えなさいよ?」

呆れながらに話すエマに、ニコニコしながら椿は浮かれていた。
自分の思い違いであんなに怒っていた自分が恥ずかしい、エマと普段どおりにご飯も食べれて幸せ。とルンルン気分でいたのだ。


施設に着くと、サラが入り口で待っていた。不思議に思い近くと2人に気付いたサラが駆け寄ってきた、その顔は少し暗かった。

「どうかしましたか?」
「あっ!ローラさん、申し訳ございません」
「?」
「何かあったんですか?」
深々と頭を下げて謝罪するサラにエマは不穏な空気を感じた。

「それが、偵察に来た衛兵に報告する義務があるんですが…」
「完治したと話したんですか?」
エマが鋭い眼光で聞くと、びくりと肩を震わす。

「はい…でも!治った理由は話していないです!神に祈りが届いたのではないか。と報告しましたが、お二人の姿を目撃されてさしまい…旅の方が滞在しているとは伝えてありますが…」
「そう、怪しまれているって事ですね。」
「はい。明日にでも偵察の方が見えるので、」

サラは申し訳ないと頭を下げて、謝罪するもサラが悪いわけでは無いのに。と椿はエマを見る。
エマも同じ考えだった様で、椿の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ、後数名でしたよね?今から案内してもらえますか?全員治してから出て行きます。」
思いがけない椿の言葉にサラは涙を浮かべた。
衛兵が来るかもしれないのに、治療を続けてくれるなんて思いもよらなかったのだ。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

感謝の言葉を言われ、照れくさそうに椿をエマは優しい眼差しで見つめていた。


「では、早速ですが案内をお願いします」
「あっ!はい!そうですよね、こちらです」
いそいそと早歩きで案内をするサラ、玄関からそう遠くない部屋のドアをノックし中に入る。
大人3人部屋の様で、2人は就寝中で1人が起きておりサラの後ろから入ってきた椿とエマに驚いていた。

「ローラさん、こちらの3人で最後になります。ハイドゥ、今から病気を治療しますよ。」
ハイドゥと呼ばれた男性は25歳ぐらいだろうか、戸惑いを隠せない様でオドオドしている。サラは、テキパキとハイドゥを椅子に座らせた。向かい合わせに椿が座るとハイドゥの青紫になっている手を優しく掴む。

「すぐに治りますからね、いたいたいのとんでけ~いたいたいのとんでけ~」
椿のかけ声に合わせて、青紫が薄くなり肌色が見えてきた。
その光景にハイドゥは言葉を失った、込み上げてくる涙を拭いながら自分の腕を見る。
「はい、もう治ったよ。悪い病気は無くなったから安心してね。」

「っっっ」

ありがとう。と言いたくても声が出ない、涙で椿の顔が滲んでいる。震える手で椿の柔らかい手を握る。
サラが、「辛かったですね、もう大丈夫ですからね」とそっと握りしめた手を解き、ベットへと促す。残りの2人は起きそうに無いので、寝たまま治療を進めた。

「いたいたいのとんでけ~いたいたいのとんでけ~」
鑑定を使い、完治した事を確かめると部屋を出る。続けて、サラが出てくると深々と2人にお礼を言う。
「本当にありがとうございます。何から何まで…本当に…」

今までの辛かった思いがサラの頭をよぎる。
頭を下げながら、涙が頬を伝っている。

「これで、全員治りましたね。後は食事や適度な運動をして下さいね」
そう伝えると、椿は立ちくらみを起こし体がふらついた。エマに支えられながら魔力切れだと感じる。ウルは、食事の時から影の中にいる為、出てこれず魔力を供給出来ないのだ。

「では、これで私達は失礼するよ。この事は他言無用だ」
エマがサラに口止めするとコクリと頷いた。

「部屋の荷物を持ってから出て行くわ」
そう言うと、ふらつく椿をお姫様抱っこで持ち直し部屋へと歩いて行く。
朦朧とする中、椿はエマの顔を見た。

(また、心配かけちゃったね…)
スゥーっと目を閉じた椿は意識を手放した。









新年おめでとうございます。
本年もよろしくお願いします^_^

更新が遅くなりまして、申し訳ございません。
中々休みが取れない日々…
書きだめが追い付かない状況になってしまいました(汗

まだまだ書きたい事があるのに(泣
更新が不定期になってしまっています(´;ω;`)

こんな未熟な私ですが、今後もよろしくお願いします!!
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