異世界の花嫁?お断りします。

momo6

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ピチャーーーー

冷たい物が椿の顔に触れた。気を失っている椿の顔を拭いているのだ、砂埃で汚れた顔を優しく拭いている。

何の音?不思議に思い目を開けると、まっ暗い部屋に閉じ込められていた。
「!!どこ!?エマ!ウル!!」
叫ぶが静まり返った部屋からは返事は無かった。恐怖で体が震えて部屋の隅に移動すると、暗闇に目が慣れてきたのか人影が見えた。

「だれ!?」
「ーーー大声を出しても無駄。ここからは逃げられないんだ」
「えっ?どういう事?」
「あなた、今日連れてこられた人?」

女は椿に話しかけながら、近寄ってきた。顔も何も見えない怖さから後ずさりしてしまう。
「私達は売られてしまうんだ」
「ーー私達?売られるってーー」
「そう。私達、ここは盗賊のアジトだと思う。私達は売られる」
女はそういうと、優しく椿の顔を撫でてきた。その手は微かに震えていた。
「なんで、あなたはその事を知ってるの?」
詳しすぎる。連れ攫われたにしては、可笑しいと椿は不審に思い聞いてしまった。顔もよく見えないので、信じることが出来なかった。

「私はーーー親に売られた。その時に話しているのを聞いた」
親に売られた。そう話す女は辛そうに教えてくれた。それ以上は、何も聞く事が出来ず沈黙が続く。

入口の方から灯りが揺らめきながら近づいてきた。
ぼうっと明るくなるにつれ、椿がいる部屋は石造りで出来た床に壁、鉄格子で塞がれた牢屋だった。
明かりを持っている人の顔を見ると「ゲヘ、こんなに綺麗な女達がなぁゲヘゲヘ」と下品に舌舐めずりをしながら見渡していた。この顔に椿は見覚えがあった。
(あの時の、私を掴んだのは攫おうとしたから?)
それは、先程街中で腕を掴んできた男だった。ウルが助けてくれたがなぜここにいるのか、と思ったがその考えは消えた。盗賊の仲間だったのだ。

震える女達に、男は灯りにしていたランタンを壁にかけた。
「ゲヘ、お前達は大金に変わるからな~それまでにここで大人しく待ってろよ~ゲヘゲヘ」
灯りで男に見られないように椿は顔を伏せた。灯りを置いたまま男は戻っていく。暗闇では分からなかったが、部屋の中には女達が身を寄せ合っていた。よく見れば、皆椿より幼い子供がほとんどだった。
そして、気付いた。自分の首に首輪の様な物がしてある事に。
ガシャン「何これ!?」外そうとするが中々思うように行かない。
「やだやだやだ!外して!ウル!エマーー!」
混乱し、叫ぶが力が吸い取られるような感覚がした。

「落ち着きなよ!他の子も我慢してるんだ、みんな怖いんだからーー落ちついて」
叫ぶ椿を抱きしめて話す女に、ハッとした。先程は暗がりで分からなかった。口調からして大人だと思っていた女は少女だったのだ。自分よりも幼い少女に慰められ、冷静になる。周りの人たちも泣きたいのを我慢しているのが分かった。
「ごめんね、ありがとう。私は椿。あなたは?」
「私?私はアマンサ。」
「そう、アマンサちゃんって言うのね。取り乱してごめんね」

椿はアマンサを抱きしめた。大人ぶっている口調だが、12歳ぐらいだろうか?痩せている為幼く見える。他の子も売られて来たのだろうか、同じく痩せている子が多くいた。

(怖い、逃げられないの?何か無い?私に出来る事ーーあっ!魔法が使える!何とか出来るかもしれない)
首輪を外そうと念じるが力が吸い取られるような感覚で何度やっても発動しない。

「あれーー?おかしいな、」
ボヤきながらも諦めず何度もやるが、ピクリとも鎖は動かない。
「何してるんだい?」アマンサに聞かれて、「この首輪を外そうと魔法をつかってるんだけど、うまく発動しないんだよね」そう話したらアマンサが椿の口を手で抑えた。
「しーー!つばきは魔法が使えるのか?」
「えっ?そうだけど、、、」
「それに独身ーーだから狙われたのか」1人納得するアマンサは小声で話してきた。

「この国には、魔法が使える人はとても貴重なんだ。この暑さだから、その昔 魔法で楽をしようとした人が居たんだが、みんなから疎まれて追い出されてしまった。それから、魔法が使えても隠したり、他国に行ってしまうからーーー今は盗賊しか、魔法を使える人はいないんだ。だから、誰も盗賊には逆らえない。」
「そんな事があったのねーーーでも、独身って何でわかるので?結婚してるかもしれないでしょ?」
ムッとしながらも、椿は言い返すとアマンサは首を横に振りながら「それは、男を知らない女が攫われる。盗賊の中にそれを見分ける事が出来る魔法があるって聞いた。だから、椿は独身だ」

なんだその魔法は、呆れて言葉が出ないとアマンサが続けて話す。
「買った時に、自分色に染めていくのが楽しい。だから、男に奪われないように母が守った。そう言われた」
なんって事を教えたんだ。こんな少女に卑猥な事を言うとは。椿は見知らぬアマンサの母親に苛立ちを覚える。

「その首輪は、魔法が使えないようになってる。だから何も出来ない」
「そんな…」
何となくそんな気はしていたが、絶望感が椿を襲った。

アマンサと話をしていたら、話し声が近づいてきた。
先程の下品な男とニタニタ笑う2人の男が鉄格子の前に立ち、椿達を物色していた。
怯える少女達に「1~2~ほぉ、今回は美人が多いな。1人ぐらい襲ってもバレないよな?俺はアイツがいいな」そう言って下品な男は椿を指差した。他の2人も「あぁ、美人だな。ゴクリ、早くヤっちまおうぜ」そう言いながら、ギラギラした目で鉄格子の鍵を開ける。中に入ると、「ヒィー!」と少女達は壁側へと逃げていく。椿も震える足を抑え、少女達の前に出る。

「狙いは私でしょ!他の子には触れないで!」
「ゲヘ、お前。威勢がいいな、ゲヘゲヘ。俺が見つけたんだ、味見ぐらいさせてもらおうか、ゲヘ」
今にも叫びたいのを我慢して椿は耐えた。鉄格子が空いている。この男達を振り切って逃げだしたい、だけど残った子達は?どうなるの?売られる前に乱暴されてーーー絶対にダメだ。

椿は葛藤しながらもネットリと舌舐めずりしながら腕を触ってくる男に耐えた。ゾワゾワと背筋に鳥肌が立つが我慢する。



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