牢獄の天使は愛を知らない

momo6

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第一章

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しばらく待っていると「これよーー!!!」と大声が聞こえてきた。
ビクッと体を震わせ声の方を見るとマリアンが何やら黒い服を抱えて近づいてくる。


「ほら!これとこれを使えばいいじゃない!」
見せられたのは、黒いピッタリした上着にズボンだった。それに短い髪で茶色のウィッグもある。

「この服は着たら分かるわよ~ほら!こっちで着替えてみなさいな!」
マリアンにグイグイと奥に連れて行かれ、パッパと手際よく着替えさせられる。
いつの間にか髪型も変えられており手際の良さに感心する。

「あら!女の子に見えないわね~でも可愛いのはバレちゃうわよ?」
「ウフフ♡これで分からないでしょ?」
マリアンがティアの額に黒いレースの布を付けた。瞳が隠れて、レースの先に付いたガラス玉がキラキラと風で動いていて綺麗。

「なるほどね~考えたわね。これなら女の子って分からないわ~」

アマンサがうんうん頷いているとティアは自分の姿が見たくなった。
「どうなってるの?」
「ほら、これでバッチグーよ♡」
マリアンが鏡を持ってきてくれて、驚いた。
そこには、小さな男が立っている。

「・・・凄い」
鏡に映る自分は、あの豊満な胸が目立たなく。ハイネックから足首まで全身黒い服に包まれている。ピッタリしているのに、見た目はスッキリしていて、茶色い髪の間からは黒い布で視線が見えなく、変わりにキラキラとガラス玉が光って幻想的だ。

「この上から指示があった服を着れば大丈夫よ!変な服なんか着せないでしょ~上位より目立たない服のはずよ?」
アマンサがそう話すので、安心する。
これならやれそう。緊張するな、、イワンセス様に見つかりませんようにーーー

ティアが考えこんでいるのをアマンサはジッと見ている。何か隠しているのは分かるがティアが言うのを待っているのだ。
だが、ティアは何も言わず。ふにゃっと笑いながらお礼を言う。
「あっ、お金は少し持ってきたんですが足りますか?」

小さな袋から手探りでお金を数えていると頭をポンポンと優しく撫でられた。
「・・・そうね~なら、銅貨1枚でいいわよ。」
マリアンがニッコリ微笑むとティアは驚き「えっ、安くないですか?」と驚いた。

「銅貨1枚も充分高いわよ?まだティアは何も報酬が無いんでしょ?その中からお金を支払うのはとても大変な事よ?それで私は充分。」
優しく話す言葉に涙が出そうになる。

なんて優しい人達なんだろう。
サリーお母さん、良い人達に出会えたよ!早く会って伝えたい。会いたいな、、、

「ーーーでは、、、お言葉に甘えて。ありがとうございます、、っ」
涙声になりながらも銅貨を渡すと、ギュッと抱きしめられた。

「いいのよ!必要なのがあればいつでも来なさいよ?」
「っっ!はい!」

お礼を言いながらお店を出ると、
「お金を持っていたの?」
アマンサに不思議そうに聞かれた。
「はい。お母さんが、、あっ、育てのお母さんなんですけど。私の母は物心ついた時には亡くなっていて、覚えてないんです。それで、サリーお母さんが少ないけどってお金を準備してくれていてーーー生活も大変だったのに、、、って?アマンサ?」
ティアがポツリポツリ身の上話をすると、隣には目を赤くしたアマンサが涙を堪えていた。

沢山の人の可哀想な話を聞いてきたが、ティアが何で愛情に無関心なのか少し分かり切なくなった。静かに「帰りましょ」と手を繋ぐ。
買った服やウィッグは、皮袋に入れて大事に抱えて歩くティアを見て、アマンサは(私が守らないと)と心の中で誓う。

部屋まで送って貰いながら、最後まで目が赤いアマンサは「しっかり寝るのよ!頑張りなさい!」と喝を入れてくれた。
優しいな。と素直に受け止める。





◆◆◆


しばらくの間、アマンサが迎えに来てくれて。いつもの朝が始まる。
ビクトリア達とお昼を食べながらも基礎の訓練を行う。
大会まであと2日。
身体を鍛えようとティアは夢中になっていた。

しばらくはランガと会えない日が続いたが、これが普通なんだと実感する。だって、ランガはAランク。
Eに構うほどの立場では無いんだから。現にランガとルイ以外は、ほとんど顔を合わせない。食事に並ぶ場所が違うから当たり前。ランガがどれだけ気を使っていたのか身に沁みる。

「・・・ランガさん大丈夫かな?」
ボソリと声が漏れたティアにアマンサ達は顔を見合わせた。
「ちょっと聞いた?ティアは自覚無いのかしら?」
「あんなにアピールしてるのに、気付かないんでしょ?」
「はぁー、お気の毒に。」
ヒソヒソ話す声が聞こえないティアは、ボーとどこかを眺めている。

食事も上の空で食べていると、中央にある銅像が目に入る。
確かバロフ様って話してたのを思い出し見つめているとやはり、頭には2本の角があった。
耳の上に渦を巻き、先は鋭利に真っ直ぐ空に向かって伸びている。
体格はがっしりしており、所々にだが皮膚に凹凸が見えた。何かの模様?
顔は銅像で見づらいが、整った顔のように見える。

熱心に見ていると、アマンサに「ほら、片付けて訓練に行くわよ~後2日で大会だから気を引き締めなくちゃ!衣装も取りに行かないとね。明日は大会前で訓練は休みだけど、ティアは何かするのかしら?」

「ん?」

「あらやだ!何も考えてないの?!ティアったら~大会の手紙はキチンと見たの?大会前は前夜祭をやるってあったじゃない~年に一度の盛大なお祭りよ?Aランクの方達も来るから良い人に出会うチャンスじゃない!?グフフ」

「ーー私は別に」
「ランガ様も来るわよ?とびきり可愛くしなくちゃね♡」
「っっっ!!可愛くしなくてもいいよ!いつもと同じ格好にするから。」

ランガの話になりそっぽを向いたティアは耳が赤くなっていた。
(あらあら、可愛いわね)
「ほら!早く行こう!」

足早に歩くティアにアマンサは「はいはい」と顔が緩む。「衣装はどこで受け取るのかな?」変なのじゃない事を祈りながらティアは不安を隠せずにいた。
「訓練官から預かるはずよ?さーてどんな衣装か見ましょうね~」
ドキドキと緊張をしているティアが可愛いと思いながらアマンサはご満悦で歩き出す。


訓練所では、いつもよりピリピリした空気で皆真剣だった。
その中で負けじと基礎訓練を始めたのだった。
訓練が終わると衣装を貰いに訓練官に着いていくと、渡された衣装に2人は絶句した。
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