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【急募】亜人を監視してくれる人材
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3人の女性が立体映像とはいえ、こうして集まるのは久しぶりだ。
1人は青い髪の美しい美女。
1人は紅い髪の美しい美女。
2人とも目鼻立ちが整っており、人間離れした美貌の持ち主ではあったが、残る1人は彼女たちすら霞んで見える美を備えていた。
彼女がいれば、真っ白な空間でさえ一瞬で華やかな色に染まる――そう誰もが幻視してしまうほどである。
白金の髪を持つ美女。
その彼女が、他の2人の美女から鋭い眼差しを向けられていた。
『邪神の方に力を割いとるせいでウチらは勇者に自由に干渉できん。そのせいで勇者が好き勝手に動く、これ自体はええ。問題なんは召喚した勇者が魔王討伐に行かんどころか、邪神を崇める亜人どもと手を組もうとしたっちゅうことや』
紅い髪の美女が言った。
『そうですね。今回は私の勇者ヨシトやベルガストに住む人間の頑張りもあって事なきを得ましたが、一歩間違えば人間の国が滅んでしまうところでした』
続けて青い髪の美女が言った。
2人の言葉には非難が込められていたが、当の本人は意に介していない。
召喚したことは紛れもない事実だが、暴挙に出たのは召喚された側である。
どちらの非が大きいかは明白だ。
しかしながら、まったく非がないとは彼女も思っていなかった。
『迷惑をかけてしまってごめんなさいね』
だからこそ白金の髪の美女は、その黄金の瞳を細め、わずかに頭を下げた。
その行動に2人の美女は少なくない驚きを覚えていた。
彼女たちの記憶の中で、白金の髪の美女が頭を下げて謝る姿を見たことは一度も無い。
紅い髪の美女は頭を掻きながら軽くため息を吐く。
『……別にええよ。もともとお前を責めようと思って集まったわけやないしな。アシュタルテもやろ?』
青い髪の美女――女神アシュタルテが頷く。
『ええ。勇者は人形ではありません。意思を持った人間です。こちらの思い通りに動いていただけないのは当然のことですから』
勇者に自由に干渉できない以上、勇者を使って魔王を討伐するという計画は最初から綻んでいるのだ。
うまくいけばそれでよし、ダメならうまくいくまで何度でも新たな勇者を召喚しよう。
彼女たちは最初からそう決めていたのだ。
ただ、まさか敵対している亜人たちに寝返るとは想定していなかった。
これは3人の落ち度である。
『そう言ってもらえると助かるわ』
白金の髪の美女がにっこり笑う。
『シュンについては、与えた恩恵の一部を返してもらったから安心してちょうだい。まあ、そんなことをしなくてもアシュタルテの勇者がいれば大丈夫なんでしょうけど』
『ま、まあ私の勇者は優秀ですからね! でも、フローヴァ。恩恵の一部って獲得経験値3倍ですか? それとも属性耐性?』
アシュタルテは白金の髪の美女――女神フローヴァに問いかけるも、彼女は微笑を湛えるだけだった。
『どの恩恵を返してもらったとか、どうでもええやんか。大事なんはこれからの話や』
『それもそうですね、イシュベル』
紅い髪の美女――イシュベルはホッとした。
実際のところ、イシュベルも気になっていたが、自身も2人には内緒で3つ目の恩恵をコウタロウに与えていたので、話の流れを変えたかったのだ。
『今までは魔王さえ倒してしまえばいい、そう思うとった。せやけど今回のことで亜人たちにも注意しとかなあかんと思うんやけど、どないや』
イシュベルの言葉に、アシュタルテが頷く。
『私たち女神を崇める人間と違い、亜人は邪神を崇めていますからね。ですが、私たちが干渉すると、その間は邪神の封印が弱まってしまいます』
重い空気が漂う。
アシュタルテをはじめとした女神3人は、人間や亜人を凌駕する力を持っているが、その力の大部分を邪神の封印に割いている。
彼女たちが直接干渉することでもしも邪神が復活したら、再び封印を施すことは難しいだろう。
何故なら、邪神は封印され眠りについた状態ながら、少しずつ力を増しているのだ。
前回は3人の力でなんとか封印できた。
だけど、力を増した状態ではどうか。
きっと分が悪い。
3人はそう考えていた。
干渉するというのは、どうにもならなくなったときのための最終手段だ。
『私に良い考えがあるわ』
そう切り出したのはフローヴァだった。
『なんや、ホンマか?』
『ええ、そのためにはアシュタルテ。貴女にお願いがあるのだけれど』
『わ、私にですか?』
『そう、貴女にしかできないことよ』
そんなことがあったっけ、とアシュタルテは首を傾げる。
『貴女のもとに現れた――エリカ、だったかしら。彼女を呼んで欲しいの』
『エリカさん、ですか』
『ええ。自力でベルガストにやってくるくらいだもの。呼びかければ反応してくれるんじゃないかしら』
『そうか! そいつに亜人どもを監視してもらおうっちゅうわけやな?』
フローヴァの考えを理解したイシュベルは目を輝かせている。
確かにエリカならば、亜人の監視など容易いだろう。
それどころか、亜人を殲滅することもできるかもしれない。
しかし、である。
『うぅん……』
アシュタルテは整った表情を歪め、小さく唸り声をあげた。
『何か問題でも?』
『良い考えだとは思います。ですが、彼女が私たちのお願いを素直に聞き届けてくれるかどうか心配で……』
『言うこときかんのやったら、一発どついたらええんちゃうか?』
イシュベルが女神らしからぬ発言をする。
『無理ですよ! 私じゃ返り討ちにあっちゃいますって!』
『そういえば、とんでもなく強いって言ってたわね』
アシュタルテが神妙な顔をして頷く。
『いいですか? 呼びかけてみますし、亜人を監視してくれないか頼んでみますけど絶対に刺激しないでくださいよ、絶対!』
アシュタルテの鬼気迫る表情に、2人は反射的に頷いていた。
『本当にお願いしますよ。じゃあ呼んでみますね』
アシュタルテはエリカに呼び掛けようと意識を集中させる。
不意に、トントンと後ろから肩を叩かれた。
せっかく集中していたのに邪魔をされた気分だ。
なんなのよ、と憤ったところでアシュタルテは気付く。
ここには私しかいないではないか。
なら、私の肩を叩いたのはいったい誰なの。
ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは――。
「ごきげんよう、アシュタルテ様」
今まさに呼び掛けようとしていたエリカ本人だった。
1人は青い髪の美しい美女。
1人は紅い髪の美しい美女。
2人とも目鼻立ちが整っており、人間離れした美貌の持ち主ではあったが、残る1人は彼女たちすら霞んで見える美を備えていた。
彼女がいれば、真っ白な空間でさえ一瞬で華やかな色に染まる――そう誰もが幻視してしまうほどである。
白金の髪を持つ美女。
その彼女が、他の2人の美女から鋭い眼差しを向けられていた。
『邪神の方に力を割いとるせいでウチらは勇者に自由に干渉できん。そのせいで勇者が好き勝手に動く、これ自体はええ。問題なんは召喚した勇者が魔王討伐に行かんどころか、邪神を崇める亜人どもと手を組もうとしたっちゅうことや』
紅い髪の美女が言った。
『そうですね。今回は私の勇者ヨシトやベルガストに住む人間の頑張りもあって事なきを得ましたが、一歩間違えば人間の国が滅んでしまうところでした』
続けて青い髪の美女が言った。
2人の言葉には非難が込められていたが、当の本人は意に介していない。
召喚したことは紛れもない事実だが、暴挙に出たのは召喚された側である。
どちらの非が大きいかは明白だ。
しかしながら、まったく非がないとは彼女も思っていなかった。
『迷惑をかけてしまってごめんなさいね』
だからこそ白金の髪の美女は、その黄金の瞳を細め、わずかに頭を下げた。
その行動に2人の美女は少なくない驚きを覚えていた。
彼女たちの記憶の中で、白金の髪の美女が頭を下げて謝る姿を見たことは一度も無い。
紅い髪の美女は頭を掻きながら軽くため息を吐く。
『……別にええよ。もともとお前を責めようと思って集まったわけやないしな。アシュタルテもやろ?』
青い髪の美女――女神アシュタルテが頷く。
『ええ。勇者は人形ではありません。意思を持った人間です。こちらの思い通りに動いていただけないのは当然のことですから』
勇者に自由に干渉できない以上、勇者を使って魔王を討伐するという計画は最初から綻んでいるのだ。
うまくいけばそれでよし、ダメならうまくいくまで何度でも新たな勇者を召喚しよう。
彼女たちは最初からそう決めていたのだ。
ただ、まさか敵対している亜人たちに寝返るとは想定していなかった。
これは3人の落ち度である。
『そう言ってもらえると助かるわ』
白金の髪の美女がにっこり笑う。
『シュンについては、与えた恩恵の一部を返してもらったから安心してちょうだい。まあ、そんなことをしなくてもアシュタルテの勇者がいれば大丈夫なんでしょうけど』
『ま、まあ私の勇者は優秀ですからね! でも、フローヴァ。恩恵の一部って獲得経験値3倍ですか? それとも属性耐性?』
アシュタルテは白金の髪の美女――女神フローヴァに問いかけるも、彼女は微笑を湛えるだけだった。
『どの恩恵を返してもらったとか、どうでもええやんか。大事なんはこれからの話や』
『それもそうですね、イシュベル』
紅い髪の美女――イシュベルはホッとした。
実際のところ、イシュベルも気になっていたが、自身も2人には内緒で3つ目の恩恵をコウタロウに与えていたので、話の流れを変えたかったのだ。
『今までは魔王さえ倒してしまえばいい、そう思うとった。せやけど今回のことで亜人たちにも注意しとかなあかんと思うんやけど、どないや』
イシュベルの言葉に、アシュタルテが頷く。
『私たち女神を崇める人間と違い、亜人は邪神を崇めていますからね。ですが、私たちが干渉すると、その間は邪神の封印が弱まってしまいます』
重い空気が漂う。
アシュタルテをはじめとした女神3人は、人間や亜人を凌駕する力を持っているが、その力の大部分を邪神の封印に割いている。
彼女たちが直接干渉することでもしも邪神が復活したら、再び封印を施すことは難しいだろう。
何故なら、邪神は封印され眠りについた状態ながら、少しずつ力を増しているのだ。
前回は3人の力でなんとか封印できた。
だけど、力を増した状態ではどうか。
きっと分が悪い。
3人はそう考えていた。
干渉するというのは、どうにもならなくなったときのための最終手段だ。
『私に良い考えがあるわ』
そう切り出したのはフローヴァだった。
『なんや、ホンマか?』
『ええ、そのためにはアシュタルテ。貴女にお願いがあるのだけれど』
『わ、私にですか?』
『そう、貴女にしかできないことよ』
そんなことがあったっけ、とアシュタルテは首を傾げる。
『貴女のもとに現れた――エリカ、だったかしら。彼女を呼んで欲しいの』
『エリカさん、ですか』
『ええ。自力でベルガストにやってくるくらいだもの。呼びかければ反応してくれるんじゃないかしら』
『そうか! そいつに亜人どもを監視してもらおうっちゅうわけやな?』
フローヴァの考えを理解したイシュベルは目を輝かせている。
確かにエリカならば、亜人の監視など容易いだろう。
それどころか、亜人を殲滅することもできるかもしれない。
しかし、である。
『うぅん……』
アシュタルテは整った表情を歪め、小さく唸り声をあげた。
『何か問題でも?』
『良い考えだとは思います。ですが、彼女が私たちのお願いを素直に聞き届けてくれるかどうか心配で……』
『言うこときかんのやったら、一発どついたらええんちゃうか?』
イシュベルが女神らしからぬ発言をする。
『無理ですよ! 私じゃ返り討ちにあっちゃいますって!』
『そういえば、とんでもなく強いって言ってたわね』
アシュタルテが神妙な顔をして頷く。
『いいですか? 呼びかけてみますし、亜人を監視してくれないか頼んでみますけど絶対に刺激しないでくださいよ、絶対!』
アシュタルテの鬼気迫る表情に、2人は反射的に頷いていた。
『本当にお願いしますよ。じゃあ呼んでみますね』
アシュタルテはエリカに呼び掛けようと意識を集中させる。
不意に、トントンと後ろから肩を叩かれた。
せっかく集中していたのに邪魔をされた気分だ。
なんなのよ、と憤ったところでアシュタルテは気付く。
ここには私しかいないではないか。
なら、私の肩を叩いたのはいったい誰なの。
ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは――。
「ごきげんよう、アシュタルテ様」
今まさに呼び掛けようとしていたエリカ本人だった。
応援ありがとうございます!
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