呪鬼 花月風水~月の陽~

暁の空

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第三話 廃神社

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「⋯また来てしまった」
 ガクりと頭を下げた。
 (別にやましい)気持ちはないんだけどなぁ⋯なんでか気になるんだよなぁ)
 その時、コンコンと窓が叩かれ顔を上げるとそこには百月が立っていた。
「おはようございます。今日はなぜこちらに?」
「一応、捜査協力してもらってるんで」
 そう言い訳地味たことを言うと千桜は車の扉を開け百月が乗ったのを確認すると、千桜は車を滑らせた。
 2人が廃神社の下につくと、そこには見上げるほどの階段が上に永遠とのびていた。
「わぁお」
 千桜は空までのびてそうな階段を見ると思わず漏らした。その横を涼しい顔をして百月は涼しい顔してのぼりはじめた。その背中を見て千桜もため息をつきのぼりはじめた。
 2人はぜーはぁひーぜぇ言いながら階段を上がって行くと、鳥居には苔が生え雑草は2人の腰あたりまでのびているほほど荒れ具合の神社が現れた。
「ひでぇな」
 ガサガサと草をかき分けながら歩いていると、百月は本堂の脇にある道をスタスタと歩きはじめた。千桜もその背中について歩いて行った。
 道の先には大きなしめ縄が巻かれた立派な樹が紙垂しでを風に揺らしながら立っていた。そしてその樹の下には、男女の死体とその死体を見下ろす白いローブの男。そして、その遺体をむさぼり食う高校生ぐらいの男の子がいた。その異様な光景に2人はその場に射抜かれたかのように動けなくなってしまった。すると、ロープの男は招かれざる客の気配に気づいたのかゆっくり振り返り2人を見ると、ニヤリと笑い何か青年に囁いた。すると、今まではこちらに見向きもしていなかった青年がゆっくりとこちらに振り返った。それは⋯捜査資料で見た「吾妻光輝」だった。しかし、その姿は、まるで鬼のように目つきは鋭く頭から角が生え、口からは牙が生え低い唸り声をあげていた。光輝は野獣のような声をあげ2人に駆け寄りその鋭い爪のある手を振りあげた。千桜は、百月を突き飛ばした。そして、襲いかかった光輝をヒラリとかわしその腕を掴むと後ろにひねりあげた。すると、その体はふわりと舞いそして地面に叩きつけられた。千桜はそのまま光輝をうつ伏せにすると腕を後ろにまわした。
「逃げろ!百月!」
 千桜が叫ぶと百月は困ったような表情を浮かべながら千桜を見ていた。
「行け!」
 暴れる光輝を取り押さえながら千桜は刺すような声で言うと、百月は身を翻し来た道を走って行った。その背中を見送り、御神木に目を向けると、2体の亡骸はそのままだが、フードの男は消えていた。
「逃したか。まぁーいい。一対一だぜぇ。仲良くやろーや」
 ニヤリと笑っていたがその顔に影がかかった。横を見ると泥人形のような物がクワァと口を開けその鋭い牙を千桜に迫っていた。思考が止まり千桜は動けずにいたが、その牙が届く前に泥人の体が真っ二つに割れた。見ると、そこには袖をたすき掛けし、薙刀を手にした百月が立っていた。砂の山と化した仲間を見たからか、もう2体いた泥人形は「くわぁぁぁ」と叫び声あげ百月に襲いかかるが、百月はまるで舞を舞うかのように華麗に避けそして、その体に風穴をあけた。
「おー。お見事!」
 千桜が感嘆の声をあげた時、千桜の下でゴキゴキと音がし、光輝がわざと両腕を脱臼しスルリと千桜から逃げ出すと、無防備な千桜の腹を蹴り飛ばした。千桜はまるで鞠のようにゴロゴロと地面を転がった。
「千桜さん!」
 泣きそうな百月に光輝は鋭い爪を振り上げた。
「逃げ⋯ろ⋯百⋯月」
 体中の痛みで息も絶え絶えに言う千桜の声は届かないのか、百月は恐怖に表情を引き攣らせたままその場に立ち尽くしていた。
 (気をひけ。なんでもいい。気をひけ)
 千桜が地面を探ると、手に収まるほどの石に触れた。千桜は石を掴むとかろうじて動く腕を振り光輝に石を投げ、その石は光輝の頭に当たった。すると、光輝は千桜に視線を向けまるで獣のように「グルル」と唸り、両手をぶら下げたまま迫ると、牙を千桜の首元に突き立てた。
「千桜さん!」
 走りよる百月の目には大粒の涙をため千桜を見ていた。
 (あぁ⋯泣かしちった⋯)
 涙を拭こうと腕を上げようとするが、その腕は動かない。その時、背後から百月にはずれていたはずの関節を自力で治したのか、光輝は太くなった腕を振り上げていた。しかし、その腕が振り下ろされる前にゴロリと光輝の首が体から外れそのまま落下して行った。驚愕に声すら出ないでいる2人の前で、光輝の体は灰色の砂に変わりやがて原型を失った砂はその場に崩れ小さな砂の山を作った。
「大丈夫ですか?!」
 呆気に取られている千桜が顔を上げるとそこには、背中から漆黒の翼を生やした青年と、その隣には小柄な青年が立っていた。
「甘美瑛さん、瓶を!」
 青年が横を見ながら言うと、小瓶が青年の手元に飛んできた。青年は両手で包み込むようにキャッチするとすぐに蓋をあけ、千桜の上半身を支え起こした。
「これを飲んでください。⋯大丈夫ですおかしな物ではありません。飲んだら痛みが引きますし傷も治りますから」
 意識が朦朧としてきていた千桜は瓶に入っていた液体を飲んだ。すると、先ほどまであった体中の激痛が嘘のようになくなり、呼吸も楽になってきた。その安堵感で千桜の気が遠くなっていった。
 
 「⋯て⋯ぇ⋯き⋯い⋯ちゃ⋯」
 途切れ途切れに誰かわからない女性の声は泣いているのか震えていた。
 (なんか今日はよく泣かせるなぁ)
 伸ばした腕を誰かが握った。

 ハッと目を開けると、瞳からポロポロと涙を流しながら千桜が伸ばした手を握っていた。
「よかったぁ⋯よかったぁ」
 その言葉をひたすら繰り返し百月に千桜は苦笑いをすると、体を起こし百月の頭をポンポンと撫でた。
 「ったく。逃げろって言っただろ」
「逃げましたわ。でも、階段をおりたはずなのにまたこの神社に戻ってきてしまうんです」
「迷子になってとかじゃないよな?」
すると、ぶぅと百月は頬をふくらませた。
「ただ階段をおりるだけなのに、どうやって迷子になるんです?」
「それは、この神社に結界が張られてたからたね」
 クスクスと笑いながら二人の会話を聞いていた小柄な青年が言った。
「それはどうゆうことですの?」
「ん?ここには結界といって見えない壁が作られていたんだ。だから、君は同じところをグルグルさせられていたんだ」
 「へぇ。⋯で、それどうしたんだ?」
 千桜は百月が手にしていた薙刀を指さした。
「蔵みたいなところにありましたわ。⋯まぁ、有名な弁慶が奉納した薙刀が所蔵されている神社もありますし、他にも薙刀が奉納されている神社はありますから、同じように奉納された薙刀がそのまま残されてたとしても⋯本来は決してあってはならないことではありますがあってもおかしくはありません」
「⋯よくわからないけど⋯まぁ無事でよかったわ」
 千桜が言い頭を搔いた。
 「それはこちらのセリフですわ。こちらの甘美瑛あまびえさんが治してくださらなければ⋯」
「あー!悪かった悪かったから泣くなって!」
 またクシャリと顔を歪める千桜は慌てて言った。
「お疲れ様です。鴉飛うひとさん。本部からですか?」
 そんな2人にニコニコしながら甘美瑛はこちらに足早に来た鴉飛と呼ばれた青年に声をかけた。すると鴉飛は頷いた。
「とりあえず、明日にも本部に来てもらうように話してほしいそうです」
「あの⋯失礼ですがどちらさまですか?」
 百月が尋ねると2人は慌てて胸元から警察手帳を出し見せた。
「すみません。申し遅れました。僕は早瀬警察署第四課 所属の鴉飛うひとです。こっちは同じく四課の甘美瑛あまびえです」
 甘美瑛はニコニコしながら手をヒラヒラと振って見せた。
「で、ですね、上司が明日でいいので今から言う警察署に来て話を聞きたいと言っていまして。お手数ですが来ていただけないでしょうか」
 そう言うと困ったような顔をすると鴉飛は千桜と百月を見た。
「まぁ俺は構いません」
「私もですわ」
 そう話すと2人は鴉飛に頷いて見せた。
 「ありがとうございます。では明日こちらにお願いします」
 志鷹が言うと、鴉飛は警察手帳を開きサラサラサラと何かを書き破ると2人にわたした。そこには「早瀬警察署」その早瀬警察署の住所と電話番号が書かれていた。
  「では明日」
 そう言い鴉飛は灰の塊がある場所に歩いて行った。甘美瑛も一礼するとそのあとに続いた。
「さて、俺たちも帰りますか。さっすがに疲れたわ」
 首をコキコキ鳴らしながら千桜が言うと元きた一本道を辿り再び長い階段をおり始めた。その途中、「あっ」と呟くと百月は足を止めた。
「光輝さんのこと⋯なんて凛さんに説明したらいいのかしら」
 千桜は苦笑いをすると数段、のぼると百月の隣に行くと、ポンと百月の背中を軽く叩いた。
「とりあえず、車の中で考えようぜ。さっすがに日が暮れてきて冷えてきた。なんなら俺がうまいこと説明してもいいさ。ほら、行くぞ」
 階段をおり車内であーでもないこーでもないと話しながら、紺色のグラデーションが広がる師走の空の下を百月探偵事務所に車を走らせた。
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