夜神の使徒

丹転淋

文字の大きさ
7 / 13
オーダー・巫女の妹の命を救え

7・初めての朝

しおりを挟む



「んー。アラームが鳴ってる。もう6時か……」

「おはようございます使徒様。この音は、神器から聞こえているのでしょうか」

「うん。スピーカーなんてないから半信半疑で設定しといたパソコンのアラーム、目覚ましの音だね。ドアを開けてればこっちの部屋にまで聞こえるみたい。それより体調は? ほんとに大丈夫?」

「おかげさまで。昨日までとはまるで違うくらいの調子のよさです。使徒様のお力ですね」

「僕はなにもしてないけどね。じゃあアラームを止めるついでに添い寝で正気度が回復したか見てくる。ニルちゃんは、妹さんの朝ゴハンとかのお世話もあるでしょ。パソコン部屋で待ってるから、妹さんの準備が出来たら教えて」

「ですが、まずは使徒様の朝食を」

「後でいいって。なんならいらないくらいだし」

「ならせめて豆茶を」

「昨日? さっき? 寝る前にハーブティーみたいなのとお水を持ってきたでしょ。飲み物ならそれがあるから平気だって。それより妹さんの部屋に早く」

「ありがとうございます。では、なるべく早くお迎えにまいりますので」

「ゆっくりでいいって」

 そう言ったのにニルちゃんは急いで身を起こし、手櫛で髪を軽く梳いてからベッドを降りる。

 ここで手か肩を捕まえておはようのキスをできないのは悔しい。
 ニルちゃんはほんの少しだけ腕枕から頭を起こすのを残念そうにしていたので、初回ボーナスの事さえなければと悔やまれる。

 出会ってまだたった数時間。
 それなのに僕は、もしかしたら白衣を身に着けながら何度か僕を見ていたニルちゃんも、最愛の恋人との逢瀬を終えるような気分を抱えて別々のドアへ向かう。

「はいはい。もう起きたって。神器なのに音声認識もないの?」

 プレイルームにしか見えない広い部屋に寝ていても聞こえるくらいの音量なので、パソコン部屋に入るとアラームがやかましくて仕方ない。

 まずアラームを止め、硬い椅子に座ってモニターに視線を移す。
 画面は寝る前とまったく同じ。
 まず僕が、そしてそれを伝えるとニルちゃんが、思わず声を上げるほど驚いた通知は夢じゃなかったらしい。



 初回ボーナス
 処女状態で喉奥射精絶頂
 両者に5ステータスポイント付与

 初回ボーナス
 ファーストキスより先に全身リップ
 両者に1ステータスポイント付与

 初回ボーナス
 ファーストキスより先にフェラチオ
 両者に1ステータスポイント付与

 初回ボーナス
 ファーストキスより先に口内射精
 両者に1ステータスポイント付与



「これでステータスポイントは僕もニルちゃんも30か。とりあえず消費ポイント10に有用なのがないか確認していこうかな。いろいろ調べるのはそれからだ」

 そういえば、洗顔と歯磨きってどうすればいいんだろう。

 寝る前は僕が唾液で全身が、ニルちゃんが精液で上半身の結構な部分がベタついていたので、お風呂に浸かる時間もないしと、生活魔法の一種だというもので一瞬にして清潔にしてもらい腕枕をしながら眠った。

 こちらの世界ではもしかしたら、洗顔や歯磨きもあの魔法で済ませるんだろうか。
 だとしたら、男の人にとっては生きづらい世界だ。

 ニルちゃんは水属性であるという属性魔法を持っている。
 属性魔法を得れば、生活魔法も自動で使えるようになるらしい。

 人間も亜人も、男はスキルを持って生まれてくる。
 その有用さや数は人それぞれ。
 1つしかない人もいれば、2つ3つと持って生まれてくる人もいるらしい。

 不公平な気もするけれど、人生なんてそんなもの。

 財産や生活環境を含めて、言い方は悪いけど親のアタリハズレというのは絶対にある。
 先天性の病気や障害、身長や体格、顔だとかナニかの大きさだとか、僕のいた世界でもそれらに不満があって神様を恨んでいた人もたくさんいるだろう。

「でも男はスキルなのに、女の人は間違いなく1つは属性魔法を持って生まれてくるってのはちょっとなあ」

 一瞬で僕達2人の体を清潔にした魔法だけじゃない。
 初回ボーナスの存在を疑いながらも順番にパソコン部屋に移動してから済ませた寝る前のトイレの後だって、ニルちゃんの生活魔法で汚物を消していた。

 それらが女の人にしか使えないなら、この世界の男の人は肩身が狭くって仕方ないだろう。

「んで、僕は生活魔法を使えるようになるのかなあ。消費ステータスポイント5から念入りに見ていこう」

 ……あった。
 
 消費ステータスポイントは10。
 これを取得してしまえば、僕も生活魔法というのを使えるようになれるらしい。

 たとえばノービス水属性魔法を持って生まれればその人のレベルが5に上がると同時にノービスが初級になるらしい。
 そしてそこからレベル25になって初級が中級に上がるまでにランダムで最低10個が取得できるという初級魔法、それに分類される【ウォーターボール】単体を取得するだけで10もポイントを消費。

 それなのに生活魔法はそのすべてが【生活魔法】と一括りにされているのだから、破格の安値なんだろう。
 取らないという選択肢はない。 

「その下の、なんだこれ。【視界投影型簡易デバイス】? ……うっわ。これも欲しー」

 同じく消費ステータスポイントは10。
 このパソコンのモニターに映るのとほぼ同じ情報を僕の視界に自由に投影して表示できるそうだ。

 ステータスポイントを使用したり、もちろん信徒をクラスチェンジをさせたりはできない。
 けれどベッドだろうがどこだろうが、このパソコンの前にいなくても興奮度や快感度を見れるし、ログの出現にも気づけるとなれば是非とも欲しい。





「お待たせしました、使徒様」

 そう声をかけながらニルちゃんが戻ったけれど、まだ妹さんの部屋に向かって30分も経っていない。

「ずいぶん早いけど大丈夫?」

「はい。朝食はいつも簡単なものですし、朝の身支度も魔法ですぐ終わるので。それより使徒様のお体や口腔内を清潔にするのを忘れていました。申し訳ありません」

「へーきへーき。んで、その手に持ってるのは僕の服だったりする?」

「はい。亡くなった父のお下がりで申し訳ありませんが、夜神教の神官服となります」

「そっか、お父さんはもう。お悔やみ申し上げます」

「妹が生まれるとほぼ同時、もう12年ですので。ですがお心遣いありがとうございます」

 魔法で体や口の中を清潔にしてもらい、いかにも夜を司る神様を崇める宗教らしい黒を基調とした神官服というのを身に着ける。
 左胸に神様と思われる小さな肖像、背中に大きな紋章が金糸銀糸で刺繍された貫頭衣だ。

「めっちゃスカートっぽいんだねえ。まるで女物のワンピースだ。それに、上も下もスリットがすんごい。腰の横をちょっと縫ってあるだけじゃんこれ。上は乳首、下はムスコが見えちゃってそう……」

 さすがの僕でも女装させられてセックスをした経験なんてないから、初めて着るワンピースみたいな服はどうにも落ち着かない。

「まだ春先ですし、夏までは肌着と黒い長ズボンを中に穿いてもいいかもしれません。後で採寸して注文してきますね」

「いやいいっていいって。お金もかかるだろうし」

 僕は無一文。
 それどころか今はただの居候だ。
 というか、僕がこの世界でお金を稼ぐ手段なんてあるんだろうか。

「ですが」

「いやほんと大丈夫。それにこの服なら、ニルちゃんを押し倒せばすぐに致せそうで便利じゃん?」

 ニルちゃんが顔を真っ赤にしてキョドる。
 昨日はあんな事までしたのに、ウブでかわいいなあほんと。

「……お口に合わないとは思いますが、1階に朝食を用意してあります。まいりましょう、使徒様」

「それなんだけどさ、使徒ってこの世界でも珍しい存在なんだよね?」

「それはもう」

「じゃあやっぱり、使徒様呼びは禁止だねえ。妹さんだってムダに混乱するだろうし」

「そうでしょうか。……そうかもしれませんね。どのみち、使徒様が街に出られるようになれば隠さなければいけませんし。それでは、この地下の外では神官様とお呼びします」

「名前で、ユウキって呼び捨てでもいいんだけどなあ」

「そ、それはその、心の準備が必要といいますか、そういったものが、はい……」

「やっぱかわいいなあ」

 パソコン部屋からプレイルームへ。
 そしてカモフラージュのためにか繋がっている、倉庫のような部屋を抜けて、数時間前に2人で駆け上がった階段で1階へ向かう。

「そういえば、僕が街に出るのって大丈夫なの? この世界に国があるのかすら知らないけど僕は戸籍もないし、この街に入った記録だって残ってるはずないよね」

「まあそこはその、カマラ神様のお力で」

「神様の力で不法入国かあ」

「神様方のなさる事はすべて人類の法の上を行きます。お気になさらず」

「そっかあ。で、僕は自由に街に出てもいいの?」

「朝食を召し上がっていただきながら、それもご説明します」

 床や壁や天井は当たり前に石造りではあるけれど、木製のテーブルと椅子が並んだダイニング。

 そのテーブルの上に用意されていたのは、あまり恵まれた環境にいなかった僕から見ると、だいぶ豪勢で手間のかかった朝食だった。

 湯気の上がるスープ。
 生野菜のサラダ。
 マンガで見るような穴の開いたチーズ。
 輪切りにした茹で卵とソーセージのようなもののお皿には、豆と野菜を煮込んだような料理も載っている。
 そしておそらく主食になるピタパンのような、小麦粉に水を加えて焼き上げたと思われるものが5枚も。

「僕はもっと簡単なものでいいんだけど、いつも朝ゴハンはこんな感じ?」

「はい。こちらでは一般的な朝食になります」

「一人前しかないけど、ニルちゃんのゴハンは?」

「その、朝はなにかとバタバタしていますので、私は妹の分を準備しながらこのパンの一種、ペタにすべてを挟んでそのまま。行儀が悪くて恥ずかしい話ですが」

「僕の世界じゃ珍しくない食べ方だけどな。じゃあ、ありがたくいただきます」

「はい。それで使徒様、ではなく神官様の外出ですが……」

 見た目だけじゃなく味もいい朝ゴハンをいただきながらニルちゃんの説明を聞く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...