夜神の使徒

丹転淋

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オーダー・巫女の妹の命を救え

12 礼拝堂




 なーにが素晴らしいのと言いながらニルちゃんを縛って鞭でほっぺたでも撫でてあげたいところだけれど、今は時間がもったいないので準備に取り掛かる。

「縄はこれでいいよね。鞭もこの一番ゴツイのを借りてっと。ニルちゃんが変態さんで助かったー」

「恐縮です」

「褒めてないけどね。じゃ、ニルちゃんも準備して」

「準備、ですか? 服は着ましたし、これ以上は特に必要ないと思いますが」

 自分の体を見下ろしながら不思議そうにニルちゃんが言う。
 もしかして天然なのかなあ、この子……

「首輪。リードも付けっぱなしだから。そんな恰好で人前に出ちゃダメでしょって」

「そ、そんな。せっかく使徒様に着けていただいたのに」

「後でまたするから、今は外しとこ。ね?」

「むー。でも……」

「いいから外す」

「はい……」

 いかにも不承不承、といった感じでニルちゃんが首輪を外す。
 それを確認してから僕の方の準備も開始だ。

 テーブルに黒と赤の2色があったどう見てもSM緊縛用の細い縄をベルトのように腰に巻いて結び、重い鞭を神官服の内側の腰の後ろに差して、何度かその鞭を取り出してみる。
 なんでこんなに膝下からからほぼ腋までが開いてるんだと呆れるしかなかった神官服のスリットが、意外な形で役に立ってくれているのはちょっと悔しい。

 本当に僕がこんな物で人を殴れるんだろうか。
 到底できるとは思えないのだけれど、この子を、ニルちゃんを守るためなら簡単にできるような気もする。

「おし。じゃ、礼拝堂? に案内お願い」

「はい」

 2人でプレイルームを出る。

 縄術スキルの説明には、『レベル1でも手の届く距離にいる人型生物ならばスキルを行使するだけで縛り上げられるが、人型モンスター最弱のゴブリンでも瞬時にそれを引き千切る事が可能』とあった。

 鞭の方も『攻撃力はスライムですら一撃では倒せない程度。しかし一瞬ではあるが必ず敵を怯ませる。さらに相手が女性や女性型のモンスターであれば攻撃力と怯ませる時間にボーナス』と書いてあった。

 一瞬だけでも動きを阻害できるスキルが2つ。
 となればもし冒険者さんと敵対するような事があっても時間を稼いで2人で逃げるくらいはできるはず、だと信じたい。

「へえ。神官用の個室に繋がるドアもクローゼットに隠されてるんだねえ」

「はい。神器を持ち去ったり破壊できる盗賊などいないとは思いますが、用心は必要ですので。もちろん施錠も可能です。この部屋から廊下に出て右に行くと礼拝堂になります」

「なるほど。というか、1階に上がる階段がないなら教会は地下に?」

「はい。使徒様にはまだお見せできていませんが、この街にはいくつもの水路が張り巡らされているのです。その船着き場はもちろんだいぶ低い場所になります。そして、その1つの船着き場の目の前が教会の入り口ですね」

「なるほどねえ。まあ異世界観光も楽しみだけど、今はニアちゃんの病気をどうにかするのが先だ」

「ありがとうございます。このドアの向こうが礼拝堂ですが、教会の入り口等も見ておきますか?」

「今はいいかな。僕はこの礼拝堂で待ってればいいんだよね」

「はい。すぐに母が呼んだ冒険者を連れてまいります」

 ゆっくりでいいよという僕の言葉を聞いていなかったかのように、ニルちゃんが小走りで来た道を戻ってゆく。
 薬師のニルちゃんが教会から出ていくのを見られるのは問題なのか、自宅の方から街へ出て冒険者さんを迎えに行くようだ。

「教会なんて初めて入るや。失礼しますよっと」

 礼拝堂へのドアを開け室内に足を踏み入れる。

 広い。
 プレイルームよりもだいぶ。
 シャンデリアのような光源が高い天井から吊り下げられているので明かりはあるにはあるけれど、それはニルちゃん達の生活する家の物よりは光量が少ないのか、それともこの部屋が広すぎるのか、礼拝堂の中はかなり薄暗い。

 そしてその広い礼拝堂の入り口から見て最奥の壁には、闇夜と三日月を背負うように描かれた女神様と思われる大きな絵画が飾ってあった。

「はじめまして、神様。スケベオヤジじゃなくって女神様なのか。あなたはいったい、僕になにをさせたいんです?」

 絵の前に立って訊ねてみても、当たり前に答えは返ってこない。

 どれほどその絵を眺めていたんだろう。
 まるで映画の演出のように木製の大きな扉が軋む音が鳴り、次に2つの足音が絵画を見上げる僕の耳に届く。

「お待たせしました」

 ニルちゃんの声。
 それを聞いて振り返る。
 すると僕よりかなり入り口に近い床に跪く人影と、その後ろに立つニルちゃんの姿が見えた。

「お初にお目にかかります。こうして猊下にお目にかかれる光栄、我等がカマラ神様に心からの感謝を……」

 跪く人影、ポンチョかマントのような物でほぼ全身を隠す見事な銀色の髪の女の人が畏まったセリフを吐く。

 ニルちゃんが正統派美少女なら、この人はクール系美女って感じだ。
 この世界って美人さんしかいないんだろうか。

 片目を隠す銀色の髪はボブカットに切り揃えられていて、その髪型がよく似合っている。

「その言い方だと、僕の事は先代の巫女から?」

「はい。聞かされております。猊下の、使徒様の入国記録を細工するには城勤めの役人だけでなく、護衛役として同行した事になっている私のような冒険者も必要でしたので」

「それは。だいぶ面倒をかけたみたいですね」

「とんでもございません。使徒様のお役に立てるのならば、どのような、たとえドラゴンを倒すほどの困難にでも喜んで立ち向かって見せましょう」

「ではさっそくですが、1つだけお願いが」

「はっ。なんなりとお申し付けください」

「じゃあ遠慮なく。その堅っ苦しい話し方、なしにしましょう。跪いたりするのもなし。あ、あと敬語もなしで。なんかこう、ムズムズするし」

「それは……」

 冒険者さんが顔だけニルちゃんに向けて確認している。
 ニルちゃんが微笑みながら頷くと、冒険者さんは溜め息を零してからゆっくりと立ち上がった。

「ありがとうございます、ジーンさん」

「敬語なしってんなら、そっちもなしにするのが筋ってモンだろ。じゃなきゃアタシも敬語を使うよ?」

「あー。りょーかいだけど無理だと思うなあ。ジーンさんって23歳でしょ。僕、年上の人には常にこんな話し方だし」

「まあ楽なのが一番だろう、お互いにさ。にしても、つい先日23になったばっかのアタシの年齢を言い当てるとは。それも使徒の能力なんだろうね」

「あ、はい。特にスキルとか使わなくっても、視界に入った人の名前と年齢と性癖は僕にしか見えないタブレットの待機画面に表示されるっぽくって」

「せ、性癖だって!?」

「そうなんですよ。僕らの神様ってのはなーにを考えてるんでしょうねえ」

「使徒様。ジーンさんは神器の事すら説明を受けていない状態です。なのでまずは応接室に場所を移して、それらの説明からしないと混乱するだけかと」

「なるほど。じゃあそうしよっか」

「はい。では行きましょう」

 ニルちゃんが先に立って神官用の個室なんかに続く廊下へ。
 その廊下にある一番手前のドアの向こうが応接室になっていた。
 長らく使われていなかったにしてはホコリの一つも見当たらない。

「あのー。なんで応接室なのに、こんなおっきなダブルベッドがあるん?」

「ここに通されるのは信徒のみ。しかも本当に信用できる者達だけです。正気度や支配度の事もありますし、ベッドは必要かと。父が神官をしていた頃にはなかったはずなので、おそらくカマラ神様の指示だと思われます」

「なるほどねえ」

 豪華ではないけれど座り心地の良いソファーに腰を下ろし、ニルちゃんが隣にあるらしいキッチンで淹れてくれた豆茶を飲みながらジーンさんへの説明を開始。
 特に使徒というものになった僕ができる事を中心に、なるべくわかりやすく、そして詳しく話してゆく。

 銀髪クール美人のジーンさんはかなり驚いていたけれど、最後には呆れ顔で目頭を揉みながら天井を見上げ大きな溜め息を吐いた。

「やっぱ使徒ってのはとんでもない存在なんだねえ。凄すぎて笑えてくるよ」

「ですね。数年前に太陽神の使徒が100年も続いた戦乱を終わらせたというのも頷ける話です」

「へえ。僕の他にも使徒っているんだ?」

「大陸の反対側、東海岸の聖王国にね。まあ流れてくる噂がまるで神話の類だってんで、ほとんどの人間は話半分の噂話程度にしか思っちゃいない。けど、それと同じ存在が目の前にいるとなると。あっちのも信じるしかないのかもね」

「僕がウソを言ってるとは思わないんですか? パソコン、じゃなくって神器の説明は僕しか読めないのに」

「はっ。ナメてもらっちゃ困るね。レベル50超えの冒険者であるアタシはもちろん、魔法医免許を持つニルだってウソを見抜けるスキルくらい持ってるに決まってるだろ」

「マジっすか」

「当り前だっての」

 ほんとなの?
 と問いかける代わりにニルちゃんを見る。
 困ったような笑顔で頷かれたところを見るに、どうやらそれは本当であるらしい。

「じゃあこの世界じゃ詐欺なんて犯罪は起こりすらしないのか。めっちゃ平和じゃん。すんごいねえ」

「ただそんなのは、法に守られてる街の中だけの話さ。塀の、街を守る防壁の外は酷いもんだよ。それこそ、出会う人間をすべて疑ってかからなくっちゃならないくらいにね」

 そっか。
 どれだけ人間を信じてみても、実際には犯罪者がいない国も土地もありはしない。
 平和な街にだって犯罪者になってしまう人が出てきて当たり前。
 そうなれば犯罪者や、そういう行為でお金を稼ごうと思う人は、自然と街から出て獲物を探すだろう。

「モンスターがうじゃうじゃいる世界だって聞いてたけど、冒険者の敵はそれだけじゃないんですねえ」

「ああ。でも、だからこそ……」

「ステータスの上昇と魔法やスキルの貸与は魅力的、ですか」

「この上なくね。で、アタシ達はなにをすりゃあそれを与えてもらえるってんだい?」

「えっと、それなんですけどね。今回の、ジーンさんにステータスポイントを付与するオーダーっていうのがかなりぶっ飛んでまして」

「聞かせてもらおうじゃないか。これでも夜神教の巫女に名指しで依頼をされるくらいには名が通ってるし、腕に自信もある。並大抵の試練じゃ驚きもしないよ」

「試練とかじゃないんですよ。えっと。今回のオーダーは、『先代の巫女が呼び出した信徒の冒険者を味見してから初めての使徒オーダーを発令せよ』です」

「は?」

「そうなりますよねえ。ほんと、僕達の神様って大丈夫なんでしょうか」

 特にアタマが。
 とまでは言わないでおいた。

 支配度の上げ方とか正気度の回復方法とか、エロ系のステータスとか、初回ボーナスとか開発ボーナスとか。
 おかしいでしょうと言いたくなる事はたくさんあるけれど、サブとはいえオーダーに冒険者を味見しろとか書かれてるとさすがにそのアタマの中を疑ってしまう。

 どうなってるの僕らの神様。


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