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一度目の人生、夫は優しかった
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「さっさと部屋の掃除をすませなさい」
「はい、お母様」
夜会に出かける継母と義姉を見送り、冷めてしまった食事を片付ける。継母たちに用意した食事は冷めてしまい、残り物を食べようと思っていた時に、準備をしろと急かされたからだ。手に触れるとあかぎれが酷く、残っているクリームを薄く伸ばし手につけた。実験で作ってみたと、薬師の友人リアがくれた物だ。
新しいドレスをどうやって手に入れたのだろうか。またツケを支払う事になると思うと憂鬱になってしまう。
私ベアトリクス・フィールダウンは10歳の時に母が流行病で亡くなり、継母と義姉がやってきた。その後に父が亡くなり、家を乗っ取られてしまった。そこからは転がるように転落人生を歩んでいる。
伯爵家の実子だけれど、財産の管理は継母に任せると父の遺言書に書かれていた。
家の財産は使い尽くされてしまい、使用人たちを雇うお金すらない。そのうち当たり前のように、私が使用人の代わりに働くようになっていた。
惨めで恥ずかしくて情けなくて。亡き母が生きていたらと何度も思うようになっていた。母は侯爵家出身で、父と結婚する前は婚約者がいた。父が夜会に一度だけ参加した母に一目惚れし、当時功績を上げた父に褒美を与える形で王命により結婚させられた。婚約者と無理やり別れされられ、母は悲しみにくれた。両親は政略結婚だったから愛し合ってはいなかったが、母は私に優しかった。
『あの時、夜会に行かなければよかった。あなたは好きな人と結婚しなさい。絶対に手放してはいけないわよ』
『はい、お母様』
母に抱かれた幼い私は何度も同じ話を聞いていた。その中でも印象的だったのは、魔女の話だ。
昔、侯爵令嬢の母の実家に薄汚い老婆がやってきた。その老婆は何日も食べ物を食べていなかったらかったが、汚いので母は追い返してしまった。
その後、婚約解消し父と結婚した。母の元婚約者は平凡な男爵令嬢と結婚した。その男爵令嬢と身分が釣り合わない相手。気になった人達が彼女に聞くとこう答えた。老婆が屋敷にやってきたのだが、可哀想に思った彼女と男爵様は一緒にもてなした。
老婆は杖を振ると目の前で消え、その日から男爵令嬢はモテるようになった。
母に何度も繰り返し言い聞かされた。今の私はパーティーに参加するドレスもないから、母の遺言を守っている。
実はドレスは1着だけ隠し持っている。サイズの合わない豪華なドレスで、亡き母が父に見初められた時に着ていたドレスだ。困った時に売ればいいとタイミングが掴めず、ずっと手元に置いていた。社交界デビューもしていない私は、名ばかりの伯爵令嬢。昔は爵位目当てで近づいてきた男性も近づいてこない。
爵位を返上し平民になるのも時間の問題だ。体面、面目を維持するための金がない。社交は果てしなく金がかかるからだ。
もうすぐ18歳になる。継母は私に賭博の借金を背負わせ、何処かに売るつもりだと話しているところを聞いてしまった。
お腹が空いて考えがまとまらず、このまま抵抗せずに売られてもいいかと目を閉じる。
諦めることに慣れきってしまった。
大きな屋敷にひとりでいると気が滅入ってしまう。
玄関からノックの音が聞こえ、継母たちが戻ってきたのかと思いドアを開けた。そこに居たのは、見知らぬ老婆で物乞いのようだった。今まで対応したことがなく、どうしたらいいのか狼狽えてしまう。
「お嬢様、どうかお恵みを頂けませんか?お腹が空いて、もう動けないのです」
――母が話していた薄汚い老婆だわ。もしかしたら魔女かもしれない。今の状況が良くなるかもしれないわ。
「食事でよろしければ、用意が出来ます。温めますので、部屋に入ってください」
表情が明るくなった老婆を屋敷に招き入れると、継母たちに用意した食事を人肌程度に温め始めた。
心の中で美味しくなれと呟き、老婆の前に用意すると無言で彼女は食べ始めた。食べ方から察すると、老婆は元は貴族の人なのだろう。物乞いにしては動きが綺麗だった。2人分の食事を食べ終えると、彼女は悩み始めた。
何か渡さないと出ていないものなのだろうか。悩んで母の遺品のドレスを渡すとこれを売ってお金にしたらいいと伝えた。
「心優しいお嬢様。しかし、あんたは着る服も食べる物にも困っているだろう」
確かにそうだ。しかし、これを売っても数ヶ月食べる物に困らないだけ。見つかったら取り上げられるし、目の前にいる魔女を救った方がいい。
「住む家があるので十分ですよ。あの、そろそろ出て行かないと継母達が戻ってきてしまいます。彼女たちが何をするのか分からないので、会わない方がいいです」
「その人たちに何をされているんだい?」
「お金が無いのに沢山使うんです。お金が無いせいで使用人も雇うことが出来ません。私のことを借金の肩代わりで売るつもりです。このままだと私の人生食い潰されてしまうわ」
最後は長年溜めていた胸の内の言葉を吐き出していた。
どうして人生上手くいかないのだろう。私が何かしたの?普通の生活を送りたいだけなのに。
「よし、決めた。食事を振舞ってくれたお礼に優しいお嬢様の願いを叶えてあげよう」
急におかしな事を言い出し、老婆は杖を振る。目の前に何も無かったのに、アップルパイと温かいお茶がテーブルに置かれていた。私が食べたかった食べ物が突然現れ驚いて声を上げる。
「お嬢様が強く願うと願いが叶うようにしてあげました」
「強く願うってそんな事した事がないから分からないわ」
「心の奥底で思っている事が現実になりますよ。しかし、魔力が尽きるまでと決まっています。願う時は絶対に人を傷つけないと誓ってください」
「強く、願う」
ドレスを持った老婆が裏口から出て、入れ替わるように継母たちが戻ってきた。
酔っ払っているため老婆がいた事はバレずに済んだ。困った顔をした御者が、賃金の支払いが済んでいないと口にした。
お金が無いが、御者を雇う時は事前に支払っていた。きっとお金を継母が使い込んだのだろう。
「どうか、今までの継母達が作った借金を自分で返済してくれますように」
今までの分を含めて、使うものは自分で支払って欲しい。そう思って眠ると継母達は次の日になると着ない服や宝石を売るために集め始めた。
その中の1つが亡き母の遺品で、私は2人に詰め寄った。
「正直に話して下さい」
怒りが凄まじく、私は事実が知りたくて強く願った。すると、2人は視線が合わず人形のようになり答える。
「これはあんたの父親がくれたのよ。腐るほどあるから、無くなってもどうせ分からないって」
「仕送りも沢山くれたわ。おかげでたくさん贅沢ができたの。税金も上げて私たちに送ってくれたのよ。」
「なんですって、母の物だけに飽き足らず領民まで苦しめたのね。許せないっ!」
部屋に閉じこもり泣いてしまった。信じていた父親が長年裏切っていたのだ。
暫くすると買取業者がやってきた。急ぎの買取だと安く買い叩くのに、継母と義姉と3人で部屋に閉じこもる。私は外で掃除をするように言われているため、何があるのか分からない。
「気持ちよかったですぞ。また贔屓にしてやろう。旦那がいなくなって、生娘のような締まりだった」
「うふふ、またいっぱい出してくださいね」
たまに男性がやってきては2人とも相手にする。
彼女たちは何処からか手に入れたお金で借金を返し始めた。今まで彼女たちが作った借金の返済が終わり、貯金まで出来てしまった。
そんな時に、伯爵家に手紙が届いた。いつもは継母が受取るが、私が直接受け取り手紙を読んだ。王命により、私とレジェスという人が結婚する事が決まったからだ。
この時の私は、周囲と断絶されていて情報を手に入れる事が出来なくなっていた。だから、最初に彼の名前を聞いた時に誰の事か知らなかった。
あれよこれよという間に夫になった彼の元に嫁ぐことが決まり、結婚式も2人だけで署名するだけで終わってしまった。
レジェスは優しかった。虐げられていた私と結婚し、使用人たちと共に温かく出迎えてくれた。自信の無い私に毎日声をかけ、寄り添い抱きしめてくれる。
夫婦の仲は良かったが、抱かれることは無かった。そんなことを気にせず私たちは一緒に過ごしていた。
レジェスは国を救った英雄だった。国の領土を荒らす悪竜を討伐した彼が求められたのは、血を引き継いだ子供を作ること。それを彼は嫌がり、私もそれを強制することはしない。彼が彼らしく生きる方がいいと思ったからだ。
食べる物も着る物も全て最上級の物を与えられた。子供の時に与えられなかった父性の愛情を彼は注いでくれる。亡き母の実家に行こうと提案され向かうと、すっかり弱ってしまった侯爵閣下に会う事になった。ずっと祖父は結婚させたことを後悔していたと聞き、もっと早くに会えばよかったと後悔した。
私達はあの時こうしていればと話すことがあった。強く思えば願いが叶う。でも時間を戻して、彼と過ごした日々が消えるのは嫌だった。もっと早く出会いたかったと夫と私は毎回最後に話す。
結婚して3年目。突然離縁することになった。神託により聖女と結婚する事が決まったからだ。
神託で聖女と結婚することになっても恨んだりしなかったのは、彼が結婚してから誠実に向き合ってくれた。
実家に戻れないので、修道院に行く事になった。そこで沢山の知識を得ることが出来た。
聖女と結婚した彼にすぐに子供が出来たと新聞で読んだ。彼が女として見てくれなかった事に傷ついた。
彼との子供はさぞかし可愛いだろう。もしも見ることが出来れば、おめでとうと言葉をかけたい。
でもそれは叶わなかった。私はその後すぐに事故で亡くなってしまった。
消え行く意識の中で、今までの走馬灯が流れていく。きっとレジェスの子供は可愛いだろう。そこでふと疑問に思う。レジェスが性欲があるなんて信じられない。彼は男性器に触れさせてくれなかったし、女性説も流れていた。
男性器の名前を【おちんちん】というらしい。修道女たちが、たまに漏らしていた言葉だが私は見た事がない。
こんな事になるなら。レジェスのおちんちんを確認しておけばよかったと後悔した。英雄のおちんちん、おちんちんが見たかった。腹筋の下にあるおちんちんが、みたいよ。
お願いします。神様。レジェスのおちんちんを見せてくださいっ!
だから、二度目の人生であんなことになるなんて知らなかったのだ。
「はい、お母様」
夜会に出かける継母と義姉を見送り、冷めてしまった食事を片付ける。継母たちに用意した食事は冷めてしまい、残り物を食べようと思っていた時に、準備をしろと急かされたからだ。手に触れるとあかぎれが酷く、残っているクリームを薄く伸ばし手につけた。実験で作ってみたと、薬師の友人リアがくれた物だ。
新しいドレスをどうやって手に入れたのだろうか。またツケを支払う事になると思うと憂鬱になってしまう。
私ベアトリクス・フィールダウンは10歳の時に母が流行病で亡くなり、継母と義姉がやってきた。その後に父が亡くなり、家を乗っ取られてしまった。そこからは転がるように転落人生を歩んでいる。
伯爵家の実子だけれど、財産の管理は継母に任せると父の遺言書に書かれていた。
家の財産は使い尽くされてしまい、使用人たちを雇うお金すらない。そのうち当たり前のように、私が使用人の代わりに働くようになっていた。
惨めで恥ずかしくて情けなくて。亡き母が生きていたらと何度も思うようになっていた。母は侯爵家出身で、父と結婚する前は婚約者がいた。父が夜会に一度だけ参加した母に一目惚れし、当時功績を上げた父に褒美を与える形で王命により結婚させられた。婚約者と無理やり別れされられ、母は悲しみにくれた。両親は政略結婚だったから愛し合ってはいなかったが、母は私に優しかった。
『あの時、夜会に行かなければよかった。あなたは好きな人と結婚しなさい。絶対に手放してはいけないわよ』
『はい、お母様』
母に抱かれた幼い私は何度も同じ話を聞いていた。その中でも印象的だったのは、魔女の話だ。
昔、侯爵令嬢の母の実家に薄汚い老婆がやってきた。その老婆は何日も食べ物を食べていなかったらかったが、汚いので母は追い返してしまった。
その後、婚約解消し父と結婚した。母の元婚約者は平凡な男爵令嬢と結婚した。その男爵令嬢と身分が釣り合わない相手。気になった人達が彼女に聞くとこう答えた。老婆が屋敷にやってきたのだが、可哀想に思った彼女と男爵様は一緒にもてなした。
老婆は杖を振ると目の前で消え、その日から男爵令嬢はモテるようになった。
母に何度も繰り返し言い聞かされた。今の私はパーティーに参加するドレスもないから、母の遺言を守っている。
実はドレスは1着だけ隠し持っている。サイズの合わない豪華なドレスで、亡き母が父に見初められた時に着ていたドレスだ。困った時に売ればいいとタイミングが掴めず、ずっと手元に置いていた。社交界デビューもしていない私は、名ばかりの伯爵令嬢。昔は爵位目当てで近づいてきた男性も近づいてこない。
爵位を返上し平民になるのも時間の問題だ。体面、面目を維持するための金がない。社交は果てしなく金がかかるからだ。
もうすぐ18歳になる。継母は私に賭博の借金を背負わせ、何処かに売るつもりだと話しているところを聞いてしまった。
お腹が空いて考えがまとまらず、このまま抵抗せずに売られてもいいかと目を閉じる。
諦めることに慣れきってしまった。
大きな屋敷にひとりでいると気が滅入ってしまう。
玄関からノックの音が聞こえ、継母たちが戻ってきたのかと思いドアを開けた。そこに居たのは、見知らぬ老婆で物乞いのようだった。今まで対応したことがなく、どうしたらいいのか狼狽えてしまう。
「お嬢様、どうかお恵みを頂けませんか?お腹が空いて、もう動けないのです」
――母が話していた薄汚い老婆だわ。もしかしたら魔女かもしれない。今の状況が良くなるかもしれないわ。
「食事でよろしければ、用意が出来ます。温めますので、部屋に入ってください」
表情が明るくなった老婆を屋敷に招き入れると、継母たちに用意した食事を人肌程度に温め始めた。
心の中で美味しくなれと呟き、老婆の前に用意すると無言で彼女は食べ始めた。食べ方から察すると、老婆は元は貴族の人なのだろう。物乞いにしては動きが綺麗だった。2人分の食事を食べ終えると、彼女は悩み始めた。
何か渡さないと出ていないものなのだろうか。悩んで母の遺品のドレスを渡すとこれを売ってお金にしたらいいと伝えた。
「心優しいお嬢様。しかし、あんたは着る服も食べる物にも困っているだろう」
確かにそうだ。しかし、これを売っても数ヶ月食べる物に困らないだけ。見つかったら取り上げられるし、目の前にいる魔女を救った方がいい。
「住む家があるので十分ですよ。あの、そろそろ出て行かないと継母達が戻ってきてしまいます。彼女たちが何をするのか分からないので、会わない方がいいです」
「その人たちに何をされているんだい?」
「お金が無いのに沢山使うんです。お金が無いせいで使用人も雇うことが出来ません。私のことを借金の肩代わりで売るつもりです。このままだと私の人生食い潰されてしまうわ」
最後は長年溜めていた胸の内の言葉を吐き出していた。
どうして人生上手くいかないのだろう。私が何かしたの?普通の生活を送りたいだけなのに。
「よし、決めた。食事を振舞ってくれたお礼に優しいお嬢様の願いを叶えてあげよう」
急におかしな事を言い出し、老婆は杖を振る。目の前に何も無かったのに、アップルパイと温かいお茶がテーブルに置かれていた。私が食べたかった食べ物が突然現れ驚いて声を上げる。
「お嬢様が強く願うと願いが叶うようにしてあげました」
「強く願うってそんな事した事がないから分からないわ」
「心の奥底で思っている事が現実になりますよ。しかし、魔力が尽きるまでと決まっています。願う時は絶対に人を傷つけないと誓ってください」
「強く、願う」
ドレスを持った老婆が裏口から出て、入れ替わるように継母たちが戻ってきた。
酔っ払っているため老婆がいた事はバレずに済んだ。困った顔をした御者が、賃金の支払いが済んでいないと口にした。
お金が無いが、御者を雇う時は事前に支払っていた。きっとお金を継母が使い込んだのだろう。
「どうか、今までの継母達が作った借金を自分で返済してくれますように」
今までの分を含めて、使うものは自分で支払って欲しい。そう思って眠ると継母達は次の日になると着ない服や宝石を売るために集め始めた。
その中の1つが亡き母の遺品で、私は2人に詰め寄った。
「正直に話して下さい」
怒りが凄まじく、私は事実が知りたくて強く願った。すると、2人は視線が合わず人形のようになり答える。
「これはあんたの父親がくれたのよ。腐るほどあるから、無くなってもどうせ分からないって」
「仕送りも沢山くれたわ。おかげでたくさん贅沢ができたの。税金も上げて私たちに送ってくれたのよ。」
「なんですって、母の物だけに飽き足らず領民まで苦しめたのね。許せないっ!」
部屋に閉じこもり泣いてしまった。信じていた父親が長年裏切っていたのだ。
暫くすると買取業者がやってきた。急ぎの買取だと安く買い叩くのに、継母と義姉と3人で部屋に閉じこもる。私は外で掃除をするように言われているため、何があるのか分からない。
「気持ちよかったですぞ。また贔屓にしてやろう。旦那がいなくなって、生娘のような締まりだった」
「うふふ、またいっぱい出してくださいね」
たまに男性がやってきては2人とも相手にする。
彼女たちは何処からか手に入れたお金で借金を返し始めた。今まで彼女たちが作った借金の返済が終わり、貯金まで出来てしまった。
そんな時に、伯爵家に手紙が届いた。いつもは継母が受取るが、私が直接受け取り手紙を読んだ。王命により、私とレジェスという人が結婚する事が決まったからだ。
この時の私は、周囲と断絶されていて情報を手に入れる事が出来なくなっていた。だから、最初に彼の名前を聞いた時に誰の事か知らなかった。
あれよこれよという間に夫になった彼の元に嫁ぐことが決まり、結婚式も2人だけで署名するだけで終わってしまった。
レジェスは優しかった。虐げられていた私と結婚し、使用人たちと共に温かく出迎えてくれた。自信の無い私に毎日声をかけ、寄り添い抱きしめてくれる。
夫婦の仲は良かったが、抱かれることは無かった。そんなことを気にせず私たちは一緒に過ごしていた。
レジェスは国を救った英雄だった。国の領土を荒らす悪竜を討伐した彼が求められたのは、血を引き継いだ子供を作ること。それを彼は嫌がり、私もそれを強制することはしない。彼が彼らしく生きる方がいいと思ったからだ。
食べる物も着る物も全て最上級の物を与えられた。子供の時に与えられなかった父性の愛情を彼は注いでくれる。亡き母の実家に行こうと提案され向かうと、すっかり弱ってしまった侯爵閣下に会う事になった。ずっと祖父は結婚させたことを後悔していたと聞き、もっと早くに会えばよかったと後悔した。
私達はあの時こうしていればと話すことがあった。強く思えば願いが叶う。でも時間を戻して、彼と過ごした日々が消えるのは嫌だった。もっと早く出会いたかったと夫と私は毎回最後に話す。
結婚して3年目。突然離縁することになった。神託により聖女と結婚する事が決まったからだ。
神託で聖女と結婚することになっても恨んだりしなかったのは、彼が結婚してから誠実に向き合ってくれた。
実家に戻れないので、修道院に行く事になった。そこで沢山の知識を得ることが出来た。
聖女と結婚した彼にすぐに子供が出来たと新聞で読んだ。彼が女として見てくれなかった事に傷ついた。
彼との子供はさぞかし可愛いだろう。もしも見ることが出来れば、おめでとうと言葉をかけたい。
でもそれは叶わなかった。私はその後すぐに事故で亡くなってしまった。
消え行く意識の中で、今までの走馬灯が流れていく。きっとレジェスの子供は可愛いだろう。そこでふと疑問に思う。レジェスが性欲があるなんて信じられない。彼は男性器に触れさせてくれなかったし、女性説も流れていた。
男性器の名前を【おちんちん】というらしい。修道女たちが、たまに漏らしていた言葉だが私は見た事がない。
こんな事になるなら。レジェスのおちんちんを確認しておけばよかったと後悔した。英雄のおちんちん、おちんちんが見たかった。腹筋の下にあるおちんちんが、みたいよ。
お願いします。神様。レジェスのおちんちんを見せてくださいっ!
だから、二度目の人生であんなことになるなんて知らなかったのだ。
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