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子猫と隻眼
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オズワルドのベッドで一緒に眠った私は、いつの間にか彼の胸に抱かれていた。鍛え上げられた胸筋が上下し、汗ばんでいる。毛が濡れて目を覚ました。
「やめろ、離せ……」
苦しい声が聞こえ、飛び上がって避けると銀色の蛇にオズワルドは拘束されていた。
「オズワルドに何をする!」
蛇に噛み付くと一瞬ひるんだがもっと拘束を強くする。特に頭の拘束が強く、オズワルドは奥歯を噛み締め声を抑えている。
何とかしないといけないと思い、ドアを開けて助けを呼ぼうとしたが人間に戻ることが何故か出来ない。魔道具の首輪は何処かに落としてしまったらしい。あれには対フレイアの武器が入っていたのに。
可愛い歯と肉球で対抗出来る手段はない。どうしようかと悩んだが、変身魔法の極意の中にあった変身また変身のページを思い出した。
人間に戻れなくても違う何かになれるかもしれない。田舎で暮らす同僚がニワトリが蛇を食べた話をしていた。小学生の時に餌やり当番をしていたし、ニワトリなら見たことがあるから変身できる。
えいっと気合を入れるとニワトリに変身でき、「こけ~」と鳴くと銀色の蛇が固まり強力な顎で噛み砕いた。
暴れ回ったが、ニワトリが強いことを思い出し足蹴りをした。
何匹も蛇はいたが、固まっているうちに確実に仕留めた。頭を拘束する蛇は隻眼の中に半分身体が入っていたので、引きずり出した。
全部で蛇は10匹いたが、全部倒すことが出来た。
原作小説でオズワルドは転生悪役令嬢がチート聖女パワーで蛇を1匹だけ倒される。「身体が楽になった」と口にするが、実際は楽にならないだろう。
北部の領地に戻ってから出番はないが、彼はいつから蛇に苦しめられているのだろう。蛇の家紋を持つのはフレイアの一族。執念深くしつこい彼女たちにピッタリの紋章だ。
ベッドを汚してはいけないためガウンをはだけさせると蛇をお腹に乗せた。蛇が取れたおかげでスッキリした顔をしている。ニワトリから子猫に戻って二度寝した。
「うぎゃゃゃゃゃあああああああぁぁぁああああ」
叫び声で目を覚ますと腰を抜かしたメイドたちやギブソンが顔面蒼白で立っていた。太陽の光が部屋を満たし、部屋中血まみれでオズワルドのお腹に蛇の死体が乗っていたのだから驚くに決まっている。
「何があったのだ。ネコ、君は血塗れじゃないか。怪我はしていないか?」
――銀色の蛇を倒したんだよ。褒めて欲しいね。
猫の鳴き声で聞こえないと思い、オズワルドの腕に抱きつくと一瞬静かになった。
「ネコ、お前は話せるのか。この蛇は君が倒したのか?」
「そうです。公爵様の身体を拘束していた蛇を倒しました」
「ねこ、ねこっ、君ってやつは」
「お腹空きました。お肉が食べたいです」
手のひらに乗せられると頭を擦り付けてきた。
「これはギブソンもビックリの体験です。血まみれの毛を綺麗にしましょうか。メイド達、こちらのおニャン子様は長年主人を苦しませた邪蛇を倒した。手入れをしてあげなさい。さて、私は狩りに出ます。お風呂から上がったら最上級の食事をご用意しましょう。ふんっ!」
ギブソンは目の前から一瞬で消えると蛇を持って消えてしまった。血塗れの子猫を持つことに抵抗しているのか誰も傍に来てくれない。
「私がネコを洗うから君たちは下がりなさい」
「しかし」
「私の側仕えは血に慣れている者にする。メイド長から詳しい話を伝えよう。とにかく今は彼女とふたりにして欲しい」
部屋からメイド達が出ていくと、とても長くオズワルドは息を吐いた。
隻眼だった右目は眼帯が外れ、左目と同じ目がそこにあった。
「世界って美しいのだな。なんの声も聞こえない。雑音が消えたよ」
オズワルドはガウンを脱ぐと浴室に一緒に入った。私の身体を丁寧に洗うとタオルで包み、自分の身体を洗い始めた。
たまに思い出したかのように笑い、とても楽しい様子だった。オズワルドの尻尾も揺れ、彼のあれを初めて直視したが結婚相手が大変な目に会いそうだと他人事のように思った。
お風呂から上がると先程と違うメイドがやってきた。一瞬で出来るメイドだと分かり、魔法を使って温かい風で毛を丁寧に乾かしてくれる。
しっとり濡れていた毛がふわふわになり、レースで出来た首輪には宝石が着けられている。
「おネコ様、湯冷ましのお水でございます」
用意された小さなテーブルと椅子に乗せられ、水を飲んでいると着替えたオズワルドがやってきた。
ラフな服装な彼は胸元が見えすぎている気がする。
「おネコ様、こちらはツウェリン家御用達の牛肉でございます」
ギブソンは約束通り肉を用意してくれ、オズワルドが目の前で肉を切ってくれた。
「前公爵様は奥様に沢山のお肉を食べさせて結婚を承諾させた事を思い出しますね。奥様は肉好きで、こだわりがとてもあるため餌から水まで全部管理したのです。こうして作られた品種の牛は、とても貴重で公爵様以外に口に出来るのは限られた者だけです」
目の前に用意された肉に期待をして1口食べる。待ち焦がれていた久しぶりのお肉の味。咀嚼して飲み込むと正直な感想が出てしまいそうになる。
――筋が多いし、切り方が雑。久しぶりのお肉でこれだとガッカリしたわ。伯爵家の肉の方が美味しい。
一般市場に出回っている肉の方が食べなれているため、脂身の多くサシが多い肉だと最初の一口しか美味しくないと言葉にできない。
「美味しいですよ」
どうしよう。公爵家の食事は期待していたよりも美味しくない。肉でこれなら他の料理も期待出来ないし出て行こう。
肉をきっかけに公爵家を出て行こうと考えている事は誰にも言えない。
食事で1番美味しかったのはギブソンが注いだミルクで、次の食事もあの肉が出されて心が折れた。
「やめろ、離せ……」
苦しい声が聞こえ、飛び上がって避けると銀色の蛇にオズワルドは拘束されていた。
「オズワルドに何をする!」
蛇に噛み付くと一瞬ひるんだがもっと拘束を強くする。特に頭の拘束が強く、オズワルドは奥歯を噛み締め声を抑えている。
何とかしないといけないと思い、ドアを開けて助けを呼ぼうとしたが人間に戻ることが何故か出来ない。魔道具の首輪は何処かに落としてしまったらしい。あれには対フレイアの武器が入っていたのに。
可愛い歯と肉球で対抗出来る手段はない。どうしようかと悩んだが、変身魔法の極意の中にあった変身また変身のページを思い出した。
人間に戻れなくても違う何かになれるかもしれない。田舎で暮らす同僚がニワトリが蛇を食べた話をしていた。小学生の時に餌やり当番をしていたし、ニワトリなら見たことがあるから変身できる。
えいっと気合を入れるとニワトリに変身でき、「こけ~」と鳴くと銀色の蛇が固まり強力な顎で噛み砕いた。
暴れ回ったが、ニワトリが強いことを思い出し足蹴りをした。
何匹も蛇はいたが、固まっているうちに確実に仕留めた。頭を拘束する蛇は隻眼の中に半分身体が入っていたので、引きずり出した。
全部で蛇は10匹いたが、全部倒すことが出来た。
原作小説でオズワルドは転生悪役令嬢がチート聖女パワーで蛇を1匹だけ倒される。「身体が楽になった」と口にするが、実際は楽にならないだろう。
北部の領地に戻ってから出番はないが、彼はいつから蛇に苦しめられているのだろう。蛇の家紋を持つのはフレイアの一族。執念深くしつこい彼女たちにピッタリの紋章だ。
ベッドを汚してはいけないためガウンをはだけさせると蛇をお腹に乗せた。蛇が取れたおかげでスッキリした顔をしている。ニワトリから子猫に戻って二度寝した。
「うぎゃゃゃゃゃあああああああぁぁぁああああ」
叫び声で目を覚ますと腰を抜かしたメイドたちやギブソンが顔面蒼白で立っていた。太陽の光が部屋を満たし、部屋中血まみれでオズワルドのお腹に蛇の死体が乗っていたのだから驚くに決まっている。
「何があったのだ。ネコ、君は血塗れじゃないか。怪我はしていないか?」
――銀色の蛇を倒したんだよ。褒めて欲しいね。
猫の鳴き声で聞こえないと思い、オズワルドの腕に抱きつくと一瞬静かになった。
「ネコ、お前は話せるのか。この蛇は君が倒したのか?」
「そうです。公爵様の身体を拘束していた蛇を倒しました」
「ねこ、ねこっ、君ってやつは」
「お腹空きました。お肉が食べたいです」
手のひらに乗せられると頭を擦り付けてきた。
「これはギブソンもビックリの体験です。血まみれの毛を綺麗にしましょうか。メイド達、こちらのおニャン子様は長年主人を苦しませた邪蛇を倒した。手入れをしてあげなさい。さて、私は狩りに出ます。お風呂から上がったら最上級の食事をご用意しましょう。ふんっ!」
ギブソンは目の前から一瞬で消えると蛇を持って消えてしまった。血塗れの子猫を持つことに抵抗しているのか誰も傍に来てくれない。
「私がネコを洗うから君たちは下がりなさい」
「しかし」
「私の側仕えは血に慣れている者にする。メイド長から詳しい話を伝えよう。とにかく今は彼女とふたりにして欲しい」
部屋からメイド達が出ていくと、とても長くオズワルドは息を吐いた。
隻眼だった右目は眼帯が外れ、左目と同じ目がそこにあった。
「世界って美しいのだな。なんの声も聞こえない。雑音が消えたよ」
オズワルドはガウンを脱ぐと浴室に一緒に入った。私の身体を丁寧に洗うとタオルで包み、自分の身体を洗い始めた。
たまに思い出したかのように笑い、とても楽しい様子だった。オズワルドの尻尾も揺れ、彼のあれを初めて直視したが結婚相手が大変な目に会いそうだと他人事のように思った。
お風呂から上がると先程と違うメイドがやってきた。一瞬で出来るメイドだと分かり、魔法を使って温かい風で毛を丁寧に乾かしてくれる。
しっとり濡れていた毛がふわふわになり、レースで出来た首輪には宝石が着けられている。
「おネコ様、湯冷ましのお水でございます」
用意された小さなテーブルと椅子に乗せられ、水を飲んでいると着替えたオズワルドがやってきた。
ラフな服装な彼は胸元が見えすぎている気がする。
「おネコ様、こちらはツウェリン家御用達の牛肉でございます」
ギブソンは約束通り肉を用意してくれ、オズワルドが目の前で肉を切ってくれた。
「前公爵様は奥様に沢山のお肉を食べさせて結婚を承諾させた事を思い出しますね。奥様は肉好きで、こだわりがとてもあるため餌から水まで全部管理したのです。こうして作られた品種の牛は、とても貴重で公爵様以外に口に出来るのは限られた者だけです」
目の前に用意された肉に期待をして1口食べる。待ち焦がれていた久しぶりのお肉の味。咀嚼して飲み込むと正直な感想が出てしまいそうになる。
――筋が多いし、切り方が雑。久しぶりのお肉でこれだとガッカリしたわ。伯爵家の肉の方が美味しい。
一般市場に出回っている肉の方が食べなれているため、脂身の多くサシが多い肉だと最初の一口しか美味しくないと言葉にできない。
「美味しいですよ」
どうしよう。公爵家の食事は期待していたよりも美味しくない。肉でこれなら他の料理も期待出来ないし出て行こう。
肉をきっかけに公爵家を出て行こうと考えている事は誰にも言えない。
食事で1番美味しかったのはギブソンが注いだミルクで、次の食事もあの肉が出されて心が折れた。
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