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別棟がなくなった日
しおりを挟む別棟がなくなった。
「日差しが、直射日光が、畑に降り注いで熱いですねえ」
もうすぐ本格的な夏が来る。別棟があることで、日陰になっていた場所がなくなった。
どうして
どうして
「クロエ、どうしたのだ」
クロエを見つけたサイラスがやってきたので、挨拶をしてサイラスを見た。
「別棟がなくなってしまったので、思い出していました初めてここに来た時のことを……」
クロエ初めて来た時の事なんて思い出していなかった。
別棟。
心の支えだった。いつか戻ると思っていた。本館の監視生活を我慢できたのは、別棟生活が待っていると思っていたからだ。
部屋の近くにキッチンがあるのが好きだった。
自室にシャワーがあるのが好きだった。
実家の狭い家を思い出せる、大きなクローゼットの中で眠ることが好きだった。
畑に近いのが好きだった。
思い出してみたらそれくらいしかない
大きな天蓋のベットは正直要らなかった。
部屋に持ち運べる鏡台があったけれど、壁にくっついていた方が好きだった
キッチンも最新式の温度調整が楽なタイプの方がいい。
所々変な段差があるので躓くこともあった。
無料だから住んでいたが、正直住みにくい家だった。本館暮らしの方が快適で暮らしやすかった。人の家だから言えないが、もう一度住めと言われたら住みたくない。最新魔道具に慣れてしまったので、元の生活に戻れなくなっていた。
目の前にある更地見ても、何が良かったのか思い出せなくなっていた。なくなってせいせいした晴れやかな気持ちになった。日差しくらいなら帽子や長い服を着ていれば日焼けせずに済むので問題はない。さっきの言葉を思い出して言い繕った。
「思い出になるくらい好きな場所でした。」
思い出になるくらい。過去の出来事になった。
「そんなにっ……好きだったのか……」
「慣れないこと(設備が古い、使いにくい)もありましたが、色々な思い出が詰まった場所でした。」
「クロエ、離れを急いで建てるから待っててくれ」
「どうして更地になったんですか?」
「それは……」
「白アリキングが出たからだ」
白アリキングとは白アリの王様。家具や家財を食べつくす白アリで、専門業者がいるくらいだ。ここ数十年出ていないが、木材に魔法付与して白アリが食べられないようにしている。昔の家は木材を食べられるので、後付けで魔法付与して食べられないようにする。白アリキングは増殖するので、見つけ次第殺さないといけない。
「それは焼却しないといけないですね。私が出て行った後に見つかったんですか?」
「そうだ、急いでいたので丸ごと焼かないといけなかった。」
「焼いたんですね。……土が焼かれた跡がないのですが」
「業者に回収して貰ったんだ。何があるか分からないからな」
サイラスは騎士団の仕事があるからと屋敷に戻っていく。サイラスの引き締まった身体をしているので見ていると、欠伸をして涙を流した。砂ぼこりで目が痛い。
(朝早く起きるのもしんどくなってきたわ。)
息を吸うと砂埃が気管の入ってはいけない場所に入りかけたのでむせた。息がひゅっとひいて、嗚咽を出して泣いているような声が出てしまった。むせたら不味いと思った咄嗟の行動だった。
「クロエ、すまない。そんなに好きだったのか、次の別棟は同じものを建てるから。」
(同じ家?もう一回アレに住むの?絶対にヤダ!住みやすく快適な家にしてください)
「おなじものなんてっ、見ても辛いだけです!はなれでくらしたくない……。」
最後は涙声で濁った声で言っていた。離れじゃなくて別棟だったわと思っていると、サイラスの表情が驚いた表情をしていた。その表情は咳き込んでいるクロエに見えなかった。サイラスは背中をさすって落ち着かせようとしていた。
すぐにメイドのミシェルとサリがやってきてクロエに水を飲ませるとサイラスはいなくなっていた。
「砂埃がひどいので落ち着くまで畑の手入れはやめましょう。庭師に任せましょう。」
ヒイヒイ、クロエは泣いて自分に癒しの力をかける。効いているか分からないが、苦しさから解消されたくてやっていた。
自室に戻ったサイラスはベットに仰向けになっていた。
「離れたくないのか……。私と……。聞き間違いだろ」
サイラスは勘違いをしていた。訂正する機会がなかったので、このまま勘違いしたままになる。
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