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リュシアンヌ・ニスト

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『アルフレッドと結婚して、そして死んで』

 元のエルヴィラが恐れていたリュシアンヌだが、彼女は公爵令嬢でひとりっ子だ。カリスマ性があり社交界でも中心の人物。銀髪に青い瞳の美しい少女で、その姿を見たものは青薔薇の公女と口にする。

 (リュシアンヌは転生者に間違いないわ。小説が元になっている世界で、アルフレッドに溺愛されるはずがエルヴィラが横取りしたと思い込んでいる。エルヴィラが虐められていたのは絶対にリュシアンヌのせいだから、ざまぁしたい。まず初めに財産を全部没収して無一文にして、娼婦館に売り飛ばす。好きな男の前でプライドをズタズタにするセックスをする。そして――)

「焼きたてのクッキーをお持ちしました」

 アフタヌーンティーの用意が整うとすぐに部屋からメイドが出ていった。あのまま妄想を続けていたら、悪役令嬢が娼婦館から助け出されて見染められる話が始まるところだったわ。

「助かったわね。焼きたてのクッキーに感謝する時が来るわ。焼きたてのアップルパイも美味しいけれど、クッキーも美味しい。ハードタイプが好きだから、この味は最高だわ。転生してよかった。お菓子が美味しい」

 酪農に力を入れているから、バターや牛乳といった物が手に入りやすい。最近味が向上し、ますます食事が楽しみになっている。痩せていた身体が肉づき始めると、おしりの弾力が良くなった。以前は座っていると尾てい骨が痛くなりしんどかったのだ。

 ベッドで横になっていたのはそのせいだ。決してダラダラしていたわけじゃない。

 毎日牛乳を飲んでいると胸が大きくなり、ドレスも新しいものが用意される。独占欲の強いアルフレッドは自分の色を着て欲しいと、黄色や赤のドレスを用意されると思っていた。色とりどりのドレスが用意され、宝石も小ぶりな物や大きな宝石まで様々な物があった。

 暇なので屋敷の中で着飾ると気分が上がる。元のエルヴィラが貰った宝石やドレスが視界に入ると嫌な気持ちになる。これが独占欲かな。

 最近帰りが遅いアルフレッドだが、私は毎日同じ生活を繰り返す。
 お茶会やパーティがなくても、公爵夫人として生きていける。コスパが我ながら良すぎると感心する。

 貴族として0点だけれど、アルフレッドが全部準備したら横に立つくらいならしてもいい。

 ♢

「何あれ、世紀末か何か?」

 目隠しを外されて初めて眼にする外の景色の感想だ。外に出たいと言っていたのに無視をされていたので、話さないようにしていたのに突然出掛ける事になった。誘拐されても逃げられるように、町娘みたいな服装をしてシンプルな馬車に乗る。家紋つきの馬車を窓から見ていたので、何も装飾のない馬車に乗るという事は娼婦館で売られるのかなとぼんやり考えていた。

 実際に着いた場所は地上最悪の貧民街。この馬車で貧民街の近くを通るツアーだった。

 布切れを着ている平民たちが群がって来るけれど、魔道具の見えない壁があるせいで近づけない。薄汚い浮浪者を見た事があるが、あっちの方が100万倍マシだ。なんせこっちの浮浪者はあちこちに穴が開いた服で、ほぼ裸だ。着続けている薄々の服よりもひどく、リアルでつぎはぎだらけの服を眼にして驚いた。それでもほぼ全裸で、男性のモノも女性もガッツリ見てしまう。

「あれか?リュシアンヌ・二スト公爵が無理な増税をしたせいで、土地を手放した農民が流れ込んできているんだ。働き口もなくなると妻や子供を売り払い、市民権を手放そうとする人もいるが何とか食い止めている」

「領主ごとに税金が違うということは、近隣の領地も同じ事になっているのでは?」

「それが何故か知らないが、うちの領地だけ多い」

 目から光が消えかけて痩せている人達が、助けて欲しいと懇願する。赤ちゃんも痩せていて可哀想だ。ガスが溜まってお腹が膨れている。

「助けてあげないの?」

「1度助けたら最後まで縋るからな」

「ふーん」

「安心してくれ。貴族の暮らす場所と平民の暮らす場所は分けている」

 家がなくて震えている子供や屋台の近くで食べ物を拾っている人もいる。一生懸命生きていたはずなのに、こうやって暮らしているのはおかしいと思ったが異世界だ。
 異世界のルールに沿って生きていかなければいけない。むやみやたらに助けた結果、痛い目に私もあっている。仕事をしょっちゅう休む同僚の代わりに出勤しても、当たり前と対応されたし代わりに休んでくれた事もない。仕事のしわ寄せは真面目な人に及んでいる。

 結局、娼婦館で売られる事がなく屋敷に戻ると少し私は考える。リュシアンヌが何をやろうとしているのか探りを入れたい。

 屋敷に戻ると担がれて部屋に向かった。突然始まった謎の行動だが、ベッドに降ろされると興奮した目をしている。

「町娘の服装をしているから、誘拐したての小娘みたいだ」

 人がせっかく真剣に考えているのに、アルフレッドは中で出す。胸をはだけさせて、おっぱいを吸おうとしている。彼は行為をした後に胸を吸うのが癖になっていて、最近そのまま眠ってしまう。体格差があるのでモノが抜けてしまうが、早起きして朝立ちを挿入して寝たふりをして気を遣っている。

「おっぱいは吸わせません。1度吸ったら最後まで吸われるので」

「何っ、昼の発言をまだ覚えているのか!」

 今まで性行為を断った事がない私が否定すると物凄く落ち込んでいる。でも決して謝らないし彼は悪いとも思っていない。

「突然、あんな光景を見てトラウマになったのかい?それとも胸を吸いたいのか?」

「そうじゃなくて」

「何が言いたい?はっきり言わないと分からないぞ」

「エルヴィラが貰った宝石やドレスを売って、手に入れたお金で奉仕活動出来ないかなと思ったんです。他の女の物があるなんて、夫婦の住む場所じゃない。あれを売って貧民街の給付に使って記憶から消したい。そうじゃないと、アルフレッドは一生エルヴィラを思い出しちゃうじゃない」

「そんな事を考えていたのか」

 真剣な眼差しで見つめられると真面目な事しか言えなくなってしまう。今までの私が飄々としているから、自分しか好きじゃないと悩んでいる時に聞いてしまった言葉。
 下肢に手を伸ばして触れると跳ねのけられたけれど、しつこく身体に触れると諦めた。

「ほら先走りも出てますね。どうしました?私だってここにいなかったら、物乞いになっていたかもしれませんよ。他の男の慰み者になり、それで赤ちゃん妊娠して未婚で育てるんです」

「そうなったら君ごと僕が引き取ろう。他の男の子供でも大切に育てられる」

「他の男もの子供でも」

「だって生まれた子供は君の子供だ。産んでいなくても君の子供だと思う子がいたら大切にする。その逆もあるさ」

「私はアルフレッドが他所で子供を作ったら可愛がれないよ。その子を見るたびにウンザリするし、一緒になんて暮らせない」

「独占欲が強くて気持ちいいね。君以外子供は作らない」

 この日はいつも以上にイチャイチャして一緒に眠った。

 アルフレッドは行動が早く、貧民街の人達に対して奉仕活動をしてくれる事になった。朝からドアの外で物音がする。アルフレッドと一緒にドレスや宝石の取捨選択をすることになり、クローゼットの中にリュシアンヌが触れた忌々しいドレスをすぐ持って行ってもらう。業者に話しかけられ別室に行くと、違う人と一緒に選ぶ事になった。
 その他にも記憶の中で覚えている宝石付きのドレスやウエディングドレスも業者に渡した。結婚式に着たタキシードもついでに渡す。

 業者の人の妻が側に来ると涙目で感謝をされた。彼女は栗毛に白髪が混ざっている女性で、ハツラツとした性格であるためか機敏がいい。

 一緒にお茶を飲むとリュシアンヌの悪口を言い出した。

 女性同士の会話で知らない人物が出てくるときは大抵悪口だ。しかも彼女はリュシアンヌと長く付き合っているせいか悪口の内容も、身内でしか知らない内容で心の中でニヤニヤしてしまう。

 聞き役なら向こうの世界でも慣れていて、適当に相槌を打てばいいだけ。

 この人から聞いたリュシアンヌという人間は、独裁者のような人だという事だ。リュシアンヌは何をしても上手で、神童だと褒め称えられていた。立ち振る舞いが完成されていて、まるで大人のようだと周囲は噂する。小さな少女から紡がれる言葉は未来を予言し、4歳の時に王子と婚約した。
 婚約していた王子は何者かに殺されたが病死の扱いにされ、彼女は新しい婚約者が出来たが陰で苛め抜き水難事故で亡くなった。

 最初は犬や猫を虐めるサイコパスが多いが、最初から人間に手を出すのは中身が大人だから?
 という事は彼女は転生者で、見境のない性格。

 元のエルヴィラが見えた未来はリュシアンヌによって殺される夢だったかもしれない。

 今は要らない人間たちを排除する行動をしている。私達の動きを監視し、どう出るかによって貴族の取捨選択をしている。次に出るのは粛清という名の大掛かりな行動に出るだろう。

 話を終えたアルフレッドが部屋の中にある服を見ると驚いた表情をする。自分たちの結婚式で使った物も売る事にしたからだ。

「何もそこまでしなくても」

「お下がりのウエディングドレスを着て結婚式を挙げるなんて考えてない」

「えっ……」

「私達はまだ夫婦じゃありませんからね。誓約書に署名していないし神の前で誓っていないもの」

「それは、つまり」

「もう彼女が戻ってこないのであれば売って下さい。彼女が必要な物だけ残したり、男爵家に返す物があれば取っておいてください」

 男爵家から持たされたものは泥で汚れたドレスだけ。それも何処かに行ってしまった。
 アルフレッドは売ってしまうとクローゼットの半分の荷物がなくなるとスッキリした。
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