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第十二章 新たな問題
14 ジェナス王子と取り巻き
しおりを挟むブレイブス号はショウの旗艦に相応しい航海をして、サリザンの港に着いた。
あの黄金の蛇を見て、ご機嫌を損ねないだろうか? ワンダー艦長は、蛇嫌いのショウが港から真っ正面に見える神殿の上の彫刻で、気分を害するのではと心配した。
「ゼリア王女様は、お幾つになられたのですか?」
艦の手すりにもたれて、サリザンの街を眺めているショウの気をそらそうと、あれこれ話しかける。蛇神様の正体を知っているので、巨大な金色の蛇を見ても、ショウは平気なのにと、ワンダー艦長の気遣いを苦笑する。
『ショウ! 私が護ってあげる』
ピイィと、肩に舞い降りながら叫ぶ真白に、ありがとうと伝える。
『でも、むやみに蛇を襲ってはいけないよ。それと、デスとロスは絶対に襲っては駄目だ』
さっさと大使館へサンズと飛んで行きたいが、レーベン大使が迎えに来るのを待つ。
「父上は、大使を待ったりされないのになぁ……」
ワンダー艦長は、次の女王になるゼリア王女の許婚として、格好をつけなくてはいけないのだろうと、レイテからの指示に従うようにと忠告する。到着したら、そのまま王宮へ挨拶する予定になっていたので、礼服に着替えていたのだ。
「えっ! もしかして、ゼリア王女が出迎えに港まで来たのか?」
港に輿が到着し、どうやらレーベン大使がゼリアに挨拶をしているようだ。
「輿ごと小船に乗るみたいだけど、危険じゃないのかな?」
アルジェ王女と神殿へ行くときに、輿ごと船に乗ったが、それは川の話だ。湾とはいえ、海なのにと、ショウは見てられないと思った。
「止める為に、サンズで港に行きます!」
ワンダー艦長は、礼服でサンズに飛び乗るショウを止めようとしたが、バサッと舞い上がる。
港では、許婚がサンズと飛んで来るのを、ゼリアが輿の中で見つけた。
「ショウ様! 少しでも早く会いたいと、港までお出迎えに来てしまったの……」
ゼリアは船に乗ろうとしていた輿を担いでいる召使いを止めて、下に降ろさせる。
「ショウ王太子、ゼリア王女が折角お出迎えに来られたのに……」
お婿さん扱いのショウの立場を強くしようと、港まで出迎えに来て貰うように交渉したレーベン大使は苦情を言う。しかし、久し振りに許婚に会えたゼリアは、そんな駆け引きなど知ったことではない。
「ショウ様! お久しぶりです」
輿から降りて、ショウに抱きつく。
「ゼリア様、お久しぶりですね」
この前会った時は、可愛い女の子だったゼリアが、綺麗な美少女になっていた。腰よりも下まである黒髪は、艶やかで、花の香りがする。黒い瞳は、やっと会えた喜びで輝いている。
「ゼリア様、とても美しくなられましたね」
ポッと頬を赤らめたゼリアがショウに抱きつくのは、見ていて微笑ましいが、レーベン大使は港なのにラブラブ展開は困ると咳払いして制する。
「ウォッホン! ショウ王太子、ゼリア王女様とアルジェ女王に御挨拶をしに、王宮へ向かわなければ」
ゼリアは、自分の輿で一緒にと、ショウの手を離さない。しかし、ショウはできたら輿は避けたかった。
「二人も乗ったら、重すぎるよ」
輿のゼリアが座っていたクッションの上には、大きく成長したロスが鎌首をもたげて、こちらを見ていたのだ。
「でも、母上とは一緒の輿に乗られたのでしょう?」
可愛いゼリアだが、アルジェ女王の娘だ。にっこりと可愛く微笑むが、拒否は許してくれそうにないと、ショウは覚悟を決める。ゼリアをエスコートして輿に乗り込む。
『ショウ、お久しぶり』
『ロス、大きくなったね……』
ロスは自分を苦手なショウに遠慮して、ゼリアの腕に巻き付かないで、反対側へと移動する。輿が持ち上げられる時、少し揺れたので、ゼリアはショウの胸に顔を埋める。
「お会いしたかったのです……」
こうしてショウの胸の中にいると、今までの不安が解けていく。
「ゼリア様? 何かあったのですか?」
涙ぐむゼリアが、自分との再会を喜んでいるだけでは無いと、ショウは気づいた。健気に笑うゼリアを抱きしめて、こんな風に不安を感じさせる原因はジェナスしか考えられないと、ショウは調査する必要を感じる。
「ふん! 折角のチャンスだったが……ショウ王太子め! 余計な真似をして……」
港の近くの建物の二階で、キリキリと形の良い爪を噛む男がいた。
東南諸島連合王国のレーベン大使が、ゼリアにショウを出迎えて欲しいと交渉しているのを知ったジェナスは、輿の乗った船に他の船をぶつけて転覆させる計画をたてたのだ。
「ジェナス王子様、今回は邪魔が入りましたが、いずれは……さぁ、このような無粋な場所は、我が王子様には相応しくありません。東南諸島などとかいう商人風情の血が、神聖なスーラ王国の王族の血を汚す前に始末いたしますから、お心をお静め下さい」
蛇神様の神官の官服は白の麻なのに、金糸の豪華な服を着た妙に美しい男が、ジェナスの手をとって、爪を噛むと形が悪くなりますと宥める。
「ヘリオス、そなたの言う通りだ。スーラ王国の王座には、商人風情の血は相応しくない! 我が妹ながら、趣味が悪い……ほんの少し顔が麗しいからと、あんな船乗りに血迷って! しかし、マリオ公国のヘルナンデスも、彼奴の顔を賛美していた……なぁ、私の方が美しいだろう? どうだ?」
日に当たったこともない真っ白な肌に、化粧を施したジェナスは、くねくねとヘリオスに向かって身をよじらせる。
生涯独身の誓いをたてた筈の神官だが、内密に女や男を囲うのは公然の秘密だ。ヘリオスは、ジェナスの剣など持ったこともない華奢な手に口づけて、貴方様ほど美しい王子はおりませんと呟いた。
ヘリオスは、こんな雑な計画が、初めから上手くいくとは考えてなかったが、やはりゼリア王女を害するのに失敗したジェナスに呆れていた。
ジェナスがこんな馬鹿な真似をしていたら、いくら母親とはいえ、アルジェ女王に殺されてしまう! ヘリオスは、妹が、蛇神様と話せる能力のある子を産むまでは、この馬鹿王子を大人しくさせておかなければならない。
ザイクロフト卿にサリザンへ来て、ジェナス王子を諌めて欲しいと願う。
ヘリオスは蛇神様の締め付けが厳しくなって、少しジェナスから目を離した隙に、ゼリアを害する計画をたてていると聞いて、驚いて止めに来たのだ。
同じ輿に揺られて、ジェナスにしなだれ掛かられるのを、内心では迷惑に感じながら、次の王の外戚として、スーラ王国を支配する為だと我慢する。
「なぁ、ヘリオス? 本当に、ショウ王太子より、私の方が美しいか? お前は……まさか、あの男に惚れたのでは?」
ネチネチ嫌味を言いながら、輿が揺れるのが怖いなどとしがみつく。
「まさか、私の心はジェナス王子様のものです」
少なくとも、能力のある子どもが産まれるまでは、馬鹿な真似をして殺されないように保護しなくてはいけないのだ。
ヘリオスは、アルジェ女王はジェナス王子が、贅沢な宴会や、女遊び、そして、良い顔はしないが男遊びをしようと殺したりしないと踏んでいた。
「さぁさ、気晴らしに、パァッと宴会を開きましょう!」
贅沢好きなジェナスは、ゼリアを害するのに失敗した憂さ晴らしも良いなと上機嫌だ。
「なぁ、ヘリオス……そなたも泊まれるのだろうな……この頃、神殿に籠ってばかりではないか……」
媚びを売るジェナスに、ヘリオスは内心で毒づきながら微笑んだ。
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