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第十二章 新たな問題
13 ゼリア王女の悩み
しおりを挟むブレイブス号の甲板で、ショウがサンズに寄り掛かって眠っている。その風景はショウの旗艦なのだから、皆も見慣れているのだが……今回は全員が足音にも気を使って、静かにしていた。
「ショウ様が二日酔いとは珍しいな……」
ワンダー艦長は子どもの頃からショウを知っているが、これほど不機嫌なのは見たことがなかった。
「それにしても、酒臭い! 昨日、出航の予定だったが、王宮でアンガス王に宴会でもてなされて、日程は延びた。スーラ王国に行くのを、それほど急ぐ理由があるのだろうか?」
大使館で酔いを醒まし、お風呂で酒を抜いてから、出航しても良いはずなのにと、ワンダー艦長は何か急ぐ理由があるのだろうと、士官達に帆の調整を静かに命じる。
「おーい! もっと帆の角度を変えろ!」
士官達は二日酔いのショウに気を使っていたが、士官候補生はつい忘れて大声を出した。
ショウは大声が頭に響いて、目を覚ます。
『ショウ、大丈夫? 飲み過ぎだよ~』
眉をしかめるショウに、大声を出した士官候補生はビクンと飛び上がった。
『サンズ? 二日酔いをなおしてくれたの?』
頭痛がスッとひいていったので、ショウは騎竜が絆の竜騎士の体調を回復したのだと気づいて礼を言った。
『あまりお酒は強くないのだから、無理して飲まなきゃ良いのに』
飲まなきゃいけない状況だったんだよ! 本当にヤバかったと、ショウは溜め息をついた。
『変なの? それより、二日酔いがなおったのなら、水浴びをした方が良いよ』
ショウはそんなに酒臭いかな? と、立ち上がって、自分の服の匂いを嗅ぐ。
ふと、周りを見渡して、バージョンがその士官候補生に注意をしているのを、ショウは苦笑して止めた。
「バージョン、そんなに気を使わなくて良いよ。二日酔いは自業自得だし、それに、もうなおったから」
その士官候補生には見覚えがあるなと、ショウは少し考えて、ドーソン軍務大臣の孫のベンソンだと思い出した。ひよっこだった士官候補生達も、乗組員達に指示を出せるようになったのだと頼もしく微笑む。
『ねぇ、海水浴をしようよ! ショウもお酒臭いし』
サバナ王国では真白は狩りに同行したが、サンズはセドナへ視察に行った他は大使館で留守番が多かった。それに、スーラ王国でも鷹は王宮に連れていけるけど、竜は無理だろうと頷く。
「ちょっと、サンズと海水浴に行って来るよ」
ワンダー艦長は護衛を連れて行って下さいと、空に向かって叫んだが、無視されてしまった。真白がちゃっかりとサンズの後ろから着いていくのを見て、ワンダー艦長は珍しく毒づいた。
「しまった! ピップスを連れてくれば良かった」
しかし、ピップスはシリンが子竜の側から離れたがらないので、レイテに留まっているのだと思い出して、溜め息をつく。
「竜で飛び回る王太子の警護は大変だ! まぁ、こんな草原なら大型肉食獣しか危険はないし、竜がいれば近づかないだろうが……」
首都のリアンを離れると、雨も止んでいたので、ショウはサンズと海水浴をのんびりと楽しんだ。草原で太ったウサギを捕まえて食べた真白に、スーラ王国での注意をしながら、ゼリア王女に会うのは久しぶりだなと、砂浜に寝ころぶ。
「もうすぐ十四歳になるのか? 暫く会ってないけど、綺麗になってるだろうな」
ここまでは良かったが、この二年でゼリア王女が愛しているヘビのロスも大きくなっただろうと想像して、ゾクッとしたショウだった。
その頃、スーラ王国の首都サリザンでは、ゼリアがロスに悩みを打ち明けていた。
『ねぇ、近頃、御母様は時々深い溜め息をついていらっしゃるの……ロスはデスから何か聞いていない?』
小さかったロスも、この二年で成長して、ゼリア王女の袖の中には入らなくなった。ゼリアの座る前のテーブルの上にゆったりと長くなっていたが、頭をもたげて顔を近づけた。
『きっと、ジェナスのことで悩んでいるのだろう』
神経質に尻尾を上にあげて、ビリビリと小刻みに震わせる。
『ジェナス兄上は何をして、御母様を悩ましているの?』
年よりおっとりしていると評判のゼリアだが、次代の女王としてスーラ王国を背負っていかなければならないのだ。
『蛇神様もジェナスには不快を感じている。アルジェも早く悪い芽は摘んだ方が良いとはわかっているのだが、自分の産んだ子どもだから悩んでいるのだろう』
ゼリアは年の離れたジェナスとは遊んだ経験もないし、可愛がって貰った記憶もない。
『御母様ができないのなら、本当は私がしなくてはいけないのかも……ジェナス兄上の取り巻きの神官達は腐りきっているわ! 兄上には手出しはできないけど、取り巻きの神官ぐらいなら……』
ロスは何の力も持たないゼリアが、腐敗した神官に立ち向かうのは無理だと止めた。
『彼奴らの始末は、蛇神様に任せておけば良い。腐りきっているから、何をするかわからない!』
世間知らずのゼリアに、ロスは下手な手出しをしたら、危険だと言い聞かせる。
『でも、私も何か御母様のお手伝いをしたいわ……いえ、しなくてはいけないのよ! ショウ様も私の年には、外交とかされていたわ』
ロスはショウとゼリアでは違うと考えたが、それを言っても焦っているのを悪化させるだけだと話を変える。
『そういえば、ショウがもうすぐ着くはずだよ』
パッと顔を輝かせたゼリアだが、スッと暗い顔になる。
『サバナ王国には、アンガス王の王女が何人もいると聞いているわ。今頃、ショウ様は女豹と戯れておられるのかも……』
ロスはサバナ王国の豹と聞いて、赤い舌を出して威嚇する。
『私の姉を殺したのは、サバナ王国の豹なんだ! 大使が全く躾けてない獣を、ローラン王国の皇太子の結婚式に連れて来るから!』
豹のことは蛇の前では禁句だったと、ゼリアは慌てる。
『大丈夫よ! ショウ様はサバナ王国の王女なんてお嫁さんにしないわ……』
そうは言ったものの、ゼリアは自分がショウに嫁入りできない立場なのにも苦悩していた。
『ゼリア、そんなに先のことまで思い悩まなくていい。ショウとの間に、強い子どもができたら、他の男と結婚する必要もなくなるさ』
肉食系のアルジェ女王と違い、おっとりしているゼリアは、ショウ以外の男と結婚するなんて考えるのも嫌だった。
『蛇神様へ会いに行くわ! 腐敗した神官の件もあるけど、私はショウ様以外と結婚したくないと頼みたいの』
ロスは蛇神は大好きだし、ゼリアの無謀な考えを止めてくれるだろうと賛成した。
『それがいいよ! きっと、蛇神様ならゼリアがすべきことを教えて下さるよ』
小さかった時のように袖の中には入れなかったが、ゼリアの腕に巻き付いて、ロスは神殿へと向かった。
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