19 / 40
第十五章 躍進
百二十九話 花園の棘
しおりを挟む
私が厄介に巻き込まれているとしても、漣(れん)さまには関係のないこと、と言わんばかりに。
「うち、寝とったから知らんし。あんたらと紅(こう)ちゃんで勝手にやってえな」
お祈りの後でそう言って、すべての処置を塀(へい)貴妃に丸投げした。
今日は、小さな積み木をどれだけ高く積めるかにチャレンジしているようだ。
いちいち話しかけるな、というオーラがぷんぷん出ている。
想定の範囲内ですので、今さら驚きませんよ。
と言うわけで、憂鬱そうな顔をした塀貴妃を中心に関係者が集まり、事情聴取である。
皮切りに塀貴妃が話す。
「やったことは疑いもないこととして、どうしてこんなことをしたか、という話になりますけど」
下手人の若い侍女を困惑の目で塀貴妃は見つめる。
一方的に非難しているのではなく、まず事情を聞きたいという真摯な姿勢が滲み出ていた。
そしてこの場にはひとつ、問題がある。
「欧(おう)美人は、まだいらっしゃらないのですか」
「主人は、朝がことのほか弱くございますれば……」
孤氷(こひょう)さんの冷たい問いに、欧美人の部屋から来た別の侍女が狼狽して答えた。
おそらくはこんなことをけしかけた指示者であろう欧美人が、話し合いの場に来ていないのだ。
やった本人が怯えて泣いてだんまりを決め込んでいる以上、親分に登場いただかねば話が進まない。
もっとも、彼女の来室が遅い理由にも、多少の心当たりがある。
「環(かん)貴人がおられない今、朱蜂宮(しゅほうきゅう)で第一の艶麗は私なの」
欧美人がどうやら本気でそう思っているという噂話を、私はチラリと耳にしたことがある。
大方、今も急に朝早く呼びつけられたせいで、化粧や衣服の合わせに必死なのだろう。
確かに見た目はなかなか、いやかなり綺麗な人だけれどね。
べっぴんさんが多い後宮の中で、そこまで突出しているかなあ、というのが私の感想。
玉楊(ぎょくよう)さんほどの、美しさによる「圧」はないと思うよ。
あれは調整アプデが必要なくらいのチートだ、チーターや、ビーターや。
マジ世の中はクソゲー。
私は可愛いのよ! と思い込む力は、女子として大事なことだけれどね。
他人を貶めなければ、という前提。
「来るのが遅いってことは、自分たちに有利な言い訳を考えて、裏工作を今からでもしようと悪あがきしてるのでは」
私が問いかけると、孤氷さんは「そんなバカな」と言いたげな呆れた顔で首を振った。
「南苑を統括されている塀貴妃がここにいるのに、これ以上どう小細工しようと言うのです」
「確かに。正義と公平はこの部屋にあり、です」
塀貴妃は誠実な人だから、変に事実を捻じ曲げることはしないであろう。
私たちがこのように、勝利を確信していると。
「みなさま、遅れて申し訳ありません」
ちっとも悪びれていない声で、欧(おう)鈴風(りんぷう)美人が、部屋に入って来た。
その顔には笑みすら浮かんでいた、そんな彼女は後ろに。
「なにか良くないことが、あったようですね」
正妃殿下、素乾(そかん)柳由(りゅうゆう)さまと、その侍女たちを、伴っていた。
ふっざけんなよ、オイイイイイイィィィィィ!?
こいっつ、自分たちの立場が悪くなりそうな話し合いだからって、正妃さまに泣きつきやがった!!
権威パワーで事実や責任の所在を有耶無耶にして、結論をグチャグチャにするつもりかよォォォォォォ!?
正妃殿下は病み上がりのためか、少しやつれた顔をしている。
乙さんが話していたように、復活はしたようだけれど、本調子でもないようだ。
私が最初にお目にかかったときより、頬の肉が若干、削げているように見受けられた。
下痢が続いたのかしら、なんて失礼な推測をする私。
「これはこれは、柳由さまにお越しいただくようなことでは。汚い部屋でまことに見苦しい限りでございます」
恐縮しながら、塀貴妃が正妃さまに上座の席を奨めた。
これで、昨夜に起こった刃傷沙汰の是非を問う主導権が、正妃さまに完璧に移ってしまった。
単なるオブザーバーだとすれば、中心奥、欧美人の近くには座るまいよ。
塀貴妃と侍女頭さんは、昨夜に南苑中庭で発生した事件のあらましを、過不足なく正妃殿下に説明した。
「指の跡が出ている以上、麗侍女の狂言ではありませぬ。仕掛けたものははっきりしているので、なぜこんな凶行に及んだのかと言う点が、焦点となると思われます」
慎重な面持ちで塀貴妃が述べるのを、正妃さまはうんうんと静かに頷き。
「そんなに、麗が憎かったのですか? 知恵が回るという話を聞いて、嫉妬したのでしょうか」
刃物を飛ばした若い侍女に向き合って、そう訊いた。
おい!
私とそいつの、個人的な怨恨に帰結させるんじゃねー!
こちとらそんな簡単な話で終わらせるわけには、いかねーんだ!!
歯ぎしりして目を血走らせる私の隣で、孤氷さんも忌々しさを隠さない顔をしていた。
しかし、正妃さま相手にどう反駁していいものか。
脳みそをこねくり回しながら顔を歪めていると。
「この子、少し癇癪持ちですの。ねえ、許してあげてくれないかしら? 幸いにも大した怪我ではなかったのでしょ」
にやけた顔の欧美人が、いけしゃあしゃあとそう言った。
翔霏(しょうひ)なら、反射的に机の上の花瓶で欧美人のドたまをブチ殴っていたと思われるほどの、腹の立つ顔と言い草だった。
ぐうう、ダメだ、鎮まれ私の右手!
こんなところでヤケを起こしては、翠(すい)さまが目覚めても合わせる顔がないぞ!!
しかしそんな彼女らの言い分に、疑義を呈してくれた人がいる。
塀貴妃だった。
「なにか意地悪したいとして、石や茶碗を投げつけるくらいならまだわかります。けれど、投げられたのは鋭い刃物なのです。目や喉元に刺さったらどうするのですか。鬱憤がたまっていた、かっとなったという話で済ませるわけにはいきません」
正妃さまの顔色を窺いながらも、正しい調べと裁きを行おうとする塀貴妃の実直さが、私にはありがたかった。
ピキッ、と顔を引き攣らせながらも、欧美人は余計な口を挟まない。
徹頭徹尾、正妃柳由さまの後ろから石を投げる役割に徹しようと決め込んでるな、こやつめ。
何人もの女の視線を受け、問い詰められ。
はじめて、刀を投げた侍女が、まとまった具体的な釈明を口にした。
「え、えと、麗侍女は、素性も怪しいのに、お偉方の覚えがいいと言うだけで、あと、ええと、お役人のお兄さんたちの噂にもなってて、それでぇ、調子に乗って大きな顔をしているので、お、思い知らせ、あれ? あ、鼻っ柱を折ってやろうと思って、わた、私、あんなことを、ご、ごめ、ごめんなさい、許してください……」
誰かに言わされてる感、満載じゃねーか!
目もあっちこっち泳いでるし、言い淀んで噛みまくってるし、次に喋る内容をいちいち考えてるし。
これが本心だと思うボンクラが、どこにいるんだ!?
しかし座を支配している正妃さまは、この女に同情するように深く頷き。
「誰でもつい、魔が差してしまうことはありますもの。許してわかり合うことが大事ではないでしょうか。ねえ、麗、あなたもそう思わなくて?」
そんなお花畑な台詞を、おホザきあそばされた。
思わねーよ!
玉楊(ぎょくよう)さんがいなくなった途端に、環家(かんけ)の隅をつついてイジメ抜いてるあんたが、それを言うのか!?
もう私は、はらわたも脳みそも沸騰してひっくり返りそう。
キレるのか、麗央那?
ここでキレて暴れて、二度目の後宮生活を台無しにしてしまうのか!?
ぶっちゃけ、その気になれば私、ここにいる全員を、毒の串で殺せる!!
さすがにそんなことまではしないけどさ。
怒りの矛先をどうしたものか、憤懣やるかたない気持ちをぐつぐつと滾らせている、そのとき。
「ごめんやっしゃー」
袖を振り振り、頭を揺ら揺ら、腰をくねくねさせて。
話し合いの場に、いきなり漣さまが割り込んできた。
場にいる全員が「いや、お呼びでないんだけど、なにしに来たの?」と言う顔をしている。
真面目な聴取や裁きにおいて、漣さまがいかに役に立たないと周囲に思われているのか、それが如実にわかる反応だった。
「漣さま、なにかご不便がありましたか?」
孤氷さんが席から立ち、来訪の意図を窺う。
部屋には他の侍女が詰めているわけで、不便などありはしないはずだ。
孤氷さんから話しかけられても、漣さまは上の空で。
「あ、素乾の大妃(おおきさき)さんや。ごきげんよろしゅう」
「はい、ごきげんよう」
にこやかに正妃さまと挨拶を交わされた。
雰囲気から察するに、両者の関係は、良好らしい。
って、いやいや、用がないなら、帰って?
今、大事なお話の最中なの、わかってちょうだい?
困惑する私をよそに、緩い表情のまま、漣さまは私に小刀を投げた侍女を見つめ。
「春にな、後宮で悪いことが起こるって、占いで出てん」
先日に行われた、希春(きしゅん)の祭事の結果を、唐突に口にした。
南苑の多くの妃、侍女が参加した儀式なので、その話は広く知れ渡っている。
「な、なにが言いたいのかしら、除葛(じょかつ)どの」
睨みを向ける欧美人に、漣さまはこともなげに返した。
「あんたんとこの部屋で、ご不幸がなければええな。うち、今日のお陽さんにお祈りしとくわ」
不吉なことを告げられて一瞬、欧美人はたじろぐ様子を見せた。
部屋の空気をいくぶんか、ざわめかせて。
「二人とも、さっさと戻ってきいや。部屋にゴキブリがおんねん。他の子ら、怖がってよう退治せえへんのや」
私と孤氷さんにそう言い残し、出て行った。
お前らの話し合いより、ゴキブリ駆除の方が大事なんだ、とでも言うかのように。
難しい顔で溜息を吐き、塀貴妃が言う。
「詳しい話はまた、後日にしましょう。柳由さまもわざわざご足労、ありがとうございました」
「いえ、私も元は南苑の女ですから。困ったことがあればいつでも言ってください」
来ないでください、マジで。
話を曖昧な霧の中に放り込めなかった欧美人。
悔しそうに舌打ちして、震える侍女を小突きながら部屋に戻って行った。
今に見てろよ、次は追究のネタをしっかり揃えて相手してやらあ。
私たちも漣さまの部屋のお勤めに戻り、ゴキブリを始末したり、お祈りしたり、ご飯を食べて。
その翌朝。
「欧美人は、南苑を出てご実家にお戻りになることに、あいなりました」
宦官の銀月(ぎんげつ)さんが私たちの部屋に来て、そう教えてくれた。
どうしてそうなった。
「うち、寝とったから知らんし。あんたらと紅(こう)ちゃんで勝手にやってえな」
お祈りの後でそう言って、すべての処置を塀(へい)貴妃に丸投げした。
今日は、小さな積み木をどれだけ高く積めるかにチャレンジしているようだ。
いちいち話しかけるな、というオーラがぷんぷん出ている。
想定の範囲内ですので、今さら驚きませんよ。
と言うわけで、憂鬱そうな顔をした塀貴妃を中心に関係者が集まり、事情聴取である。
皮切りに塀貴妃が話す。
「やったことは疑いもないこととして、どうしてこんなことをしたか、という話になりますけど」
下手人の若い侍女を困惑の目で塀貴妃は見つめる。
一方的に非難しているのではなく、まず事情を聞きたいという真摯な姿勢が滲み出ていた。
そしてこの場にはひとつ、問題がある。
「欧(おう)美人は、まだいらっしゃらないのですか」
「主人は、朝がことのほか弱くございますれば……」
孤氷(こひょう)さんの冷たい問いに、欧美人の部屋から来た別の侍女が狼狽して答えた。
おそらくはこんなことをけしかけた指示者であろう欧美人が、話し合いの場に来ていないのだ。
やった本人が怯えて泣いてだんまりを決め込んでいる以上、親分に登場いただかねば話が進まない。
もっとも、彼女の来室が遅い理由にも、多少の心当たりがある。
「環(かん)貴人がおられない今、朱蜂宮(しゅほうきゅう)で第一の艶麗は私なの」
欧美人がどうやら本気でそう思っているという噂話を、私はチラリと耳にしたことがある。
大方、今も急に朝早く呼びつけられたせいで、化粧や衣服の合わせに必死なのだろう。
確かに見た目はなかなか、いやかなり綺麗な人だけれどね。
べっぴんさんが多い後宮の中で、そこまで突出しているかなあ、というのが私の感想。
玉楊(ぎょくよう)さんほどの、美しさによる「圧」はないと思うよ。
あれは調整アプデが必要なくらいのチートだ、チーターや、ビーターや。
マジ世の中はクソゲー。
私は可愛いのよ! と思い込む力は、女子として大事なことだけれどね。
他人を貶めなければ、という前提。
「来るのが遅いってことは、自分たちに有利な言い訳を考えて、裏工作を今からでもしようと悪あがきしてるのでは」
私が問いかけると、孤氷さんは「そんなバカな」と言いたげな呆れた顔で首を振った。
「南苑を統括されている塀貴妃がここにいるのに、これ以上どう小細工しようと言うのです」
「確かに。正義と公平はこの部屋にあり、です」
塀貴妃は誠実な人だから、変に事実を捻じ曲げることはしないであろう。
私たちがこのように、勝利を確信していると。
「みなさま、遅れて申し訳ありません」
ちっとも悪びれていない声で、欧(おう)鈴風(りんぷう)美人が、部屋に入って来た。
その顔には笑みすら浮かんでいた、そんな彼女は後ろに。
「なにか良くないことが、あったようですね」
正妃殿下、素乾(そかん)柳由(りゅうゆう)さまと、その侍女たちを、伴っていた。
ふっざけんなよ、オイイイイイイィィィィィ!?
こいっつ、自分たちの立場が悪くなりそうな話し合いだからって、正妃さまに泣きつきやがった!!
権威パワーで事実や責任の所在を有耶無耶にして、結論をグチャグチャにするつもりかよォォォォォォ!?
正妃殿下は病み上がりのためか、少しやつれた顔をしている。
乙さんが話していたように、復活はしたようだけれど、本調子でもないようだ。
私が最初にお目にかかったときより、頬の肉が若干、削げているように見受けられた。
下痢が続いたのかしら、なんて失礼な推測をする私。
「これはこれは、柳由さまにお越しいただくようなことでは。汚い部屋でまことに見苦しい限りでございます」
恐縮しながら、塀貴妃が正妃さまに上座の席を奨めた。
これで、昨夜に起こった刃傷沙汰の是非を問う主導権が、正妃さまに完璧に移ってしまった。
単なるオブザーバーだとすれば、中心奥、欧美人の近くには座るまいよ。
塀貴妃と侍女頭さんは、昨夜に南苑中庭で発生した事件のあらましを、過不足なく正妃殿下に説明した。
「指の跡が出ている以上、麗侍女の狂言ではありませぬ。仕掛けたものははっきりしているので、なぜこんな凶行に及んだのかと言う点が、焦点となると思われます」
慎重な面持ちで塀貴妃が述べるのを、正妃さまはうんうんと静かに頷き。
「そんなに、麗が憎かったのですか? 知恵が回るという話を聞いて、嫉妬したのでしょうか」
刃物を飛ばした若い侍女に向き合って、そう訊いた。
おい!
私とそいつの、個人的な怨恨に帰結させるんじゃねー!
こちとらそんな簡単な話で終わらせるわけには、いかねーんだ!!
歯ぎしりして目を血走らせる私の隣で、孤氷さんも忌々しさを隠さない顔をしていた。
しかし、正妃さま相手にどう反駁していいものか。
脳みそをこねくり回しながら顔を歪めていると。
「この子、少し癇癪持ちですの。ねえ、許してあげてくれないかしら? 幸いにも大した怪我ではなかったのでしょ」
にやけた顔の欧美人が、いけしゃあしゃあとそう言った。
翔霏(しょうひ)なら、反射的に机の上の花瓶で欧美人のドたまをブチ殴っていたと思われるほどの、腹の立つ顔と言い草だった。
ぐうう、ダメだ、鎮まれ私の右手!
こんなところでヤケを起こしては、翠(すい)さまが目覚めても合わせる顔がないぞ!!
しかしそんな彼女らの言い分に、疑義を呈してくれた人がいる。
塀貴妃だった。
「なにか意地悪したいとして、石や茶碗を投げつけるくらいならまだわかります。けれど、投げられたのは鋭い刃物なのです。目や喉元に刺さったらどうするのですか。鬱憤がたまっていた、かっとなったという話で済ませるわけにはいきません」
正妃さまの顔色を窺いながらも、正しい調べと裁きを行おうとする塀貴妃の実直さが、私にはありがたかった。
ピキッ、と顔を引き攣らせながらも、欧美人は余計な口を挟まない。
徹頭徹尾、正妃柳由さまの後ろから石を投げる役割に徹しようと決め込んでるな、こやつめ。
何人もの女の視線を受け、問い詰められ。
はじめて、刀を投げた侍女が、まとまった具体的な釈明を口にした。
「え、えと、麗侍女は、素性も怪しいのに、お偉方の覚えがいいと言うだけで、あと、ええと、お役人のお兄さんたちの噂にもなってて、それでぇ、調子に乗って大きな顔をしているので、お、思い知らせ、あれ? あ、鼻っ柱を折ってやろうと思って、わた、私、あんなことを、ご、ごめ、ごめんなさい、許してください……」
誰かに言わされてる感、満載じゃねーか!
目もあっちこっち泳いでるし、言い淀んで噛みまくってるし、次に喋る内容をいちいち考えてるし。
これが本心だと思うボンクラが、どこにいるんだ!?
しかし座を支配している正妃さまは、この女に同情するように深く頷き。
「誰でもつい、魔が差してしまうことはありますもの。許してわかり合うことが大事ではないでしょうか。ねえ、麗、あなたもそう思わなくて?」
そんなお花畑な台詞を、おホザきあそばされた。
思わねーよ!
玉楊(ぎょくよう)さんがいなくなった途端に、環家(かんけ)の隅をつついてイジメ抜いてるあんたが、それを言うのか!?
もう私は、はらわたも脳みそも沸騰してひっくり返りそう。
キレるのか、麗央那?
ここでキレて暴れて、二度目の後宮生活を台無しにしてしまうのか!?
ぶっちゃけ、その気になれば私、ここにいる全員を、毒の串で殺せる!!
さすがにそんなことまではしないけどさ。
怒りの矛先をどうしたものか、憤懣やるかたない気持ちをぐつぐつと滾らせている、そのとき。
「ごめんやっしゃー」
袖を振り振り、頭を揺ら揺ら、腰をくねくねさせて。
話し合いの場に、いきなり漣さまが割り込んできた。
場にいる全員が「いや、お呼びでないんだけど、なにしに来たの?」と言う顔をしている。
真面目な聴取や裁きにおいて、漣さまがいかに役に立たないと周囲に思われているのか、それが如実にわかる反応だった。
「漣さま、なにかご不便がありましたか?」
孤氷さんが席から立ち、来訪の意図を窺う。
部屋には他の侍女が詰めているわけで、不便などありはしないはずだ。
孤氷さんから話しかけられても、漣さまは上の空で。
「あ、素乾の大妃(おおきさき)さんや。ごきげんよろしゅう」
「はい、ごきげんよう」
にこやかに正妃さまと挨拶を交わされた。
雰囲気から察するに、両者の関係は、良好らしい。
って、いやいや、用がないなら、帰って?
今、大事なお話の最中なの、わかってちょうだい?
困惑する私をよそに、緩い表情のまま、漣さまは私に小刀を投げた侍女を見つめ。
「春にな、後宮で悪いことが起こるって、占いで出てん」
先日に行われた、希春(きしゅん)の祭事の結果を、唐突に口にした。
南苑の多くの妃、侍女が参加した儀式なので、その話は広く知れ渡っている。
「な、なにが言いたいのかしら、除葛(じょかつ)どの」
睨みを向ける欧美人に、漣さまはこともなげに返した。
「あんたんとこの部屋で、ご不幸がなければええな。うち、今日のお陽さんにお祈りしとくわ」
不吉なことを告げられて一瞬、欧美人はたじろぐ様子を見せた。
部屋の空気をいくぶんか、ざわめかせて。
「二人とも、さっさと戻ってきいや。部屋にゴキブリがおんねん。他の子ら、怖がってよう退治せえへんのや」
私と孤氷さんにそう言い残し、出て行った。
お前らの話し合いより、ゴキブリ駆除の方が大事なんだ、とでも言うかのように。
難しい顔で溜息を吐き、塀貴妃が言う。
「詳しい話はまた、後日にしましょう。柳由さまもわざわざご足労、ありがとうございました」
「いえ、私も元は南苑の女ですから。困ったことがあればいつでも言ってください」
来ないでください、マジで。
話を曖昧な霧の中に放り込めなかった欧美人。
悔しそうに舌打ちして、震える侍女を小突きながら部屋に戻って行った。
今に見てろよ、次は追究のネタをしっかり揃えて相手してやらあ。
私たちも漣さまの部屋のお勤めに戻り、ゴキブリを始末したり、お祈りしたり、ご飯を食べて。
その翌朝。
「欧美人は、南苑を出てご実家にお戻りになることに、あいなりました」
宦官の銀月(ぎんげつ)さんが私たちの部屋に来て、そう教えてくれた。
どうしてそうなった。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる