この広いセカイでもう一度貴方に出会えたら

ニノハラ リョウ

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もう離れない その4

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「ちわーなのにゃ! ユエにゃんはいるかにゃー?」

「ドア開いてるんだからいるだろうよ。何せここは彼女の店だ」

「熊吉にゃんは様式美とか挨拶って言葉知ってるにょかにゃ?」

「あと無粋という言葉もナリよ」

「殺気(コロッケ)にゃんイイ事いうにゃん。
 あっ! リンにゃんもいるにゃー!
 相変わらずラブラブにゃ!」

 騒々しく入ってきた三人に、慌ててリンとの距離を取る。

「い、いらっしゃいませー」

「あー、ユエ殿のそれを聞くと帰ってきたーって気がするナリなぁ」

「だにゃん」

 うんうんと頷き合う二人に思わず苦笑する。
 どうやら、私の『いらっしゃいませ』のイントネーションは独特らしい。

「無事のお帰り何よりです。それにしても肉球堕天使にゃんまた装備強化した?」

「おぉ! 流石ユエにゃん! お目が高いにゃん!
 ダンジョンでレアドロしたから色々変えてみたにゃん!」

 くるりと一回りしてポーズを取るのは猫耳が愛らしいゴスロリ姿の少女だ。

「最近ダンジョンもほぼ最下層ばっか行ってるから、レアドロがレアじゃなくなりつつあるなぁ」

 そう言って苦笑を浮かべるのは、スキンヘッドに筋骨隆々の言葉がふさわしい、どちらの世紀末からいらしたのか聞いてみたくなる御仁だ。どちらかと言えば荒事が得意そうな見た目だが、彼はこの世界を最前線で攻略する冒険者の多くが所属するクランの長を務めている熊吉さんだ。
 様々な性格の人が在籍するクランの長ともなると、実力のみならずコミュ力や調整力に長けていないとならないので、この世界でもトップクラスのクランの長である熊吉さんは、見た目に依らず面倒見が良く、気配りの人だ。

「そうナリなぁ。ラスボス・たかはーたも近いナリ。
 そこでユエちゃんにお願いがあるナリよ」

 そう言っていそいそとアイテムボックスから薬草の束を次々と取り出すのは、熊吉さんのクランでトップの攻撃力を持つ殺気さんだ。因みに殺気と書いてコロッケと読む。
 ひょろりとした痩躯を着流しに包み、刀を差したその姿は一見浪人風だが、顔を隠すペストマスクがそれを裏切っている。

「……もしかしてラスボス用のポーション作製の依頼ですか?」

 ばっさばっさと小山の様にカウンターに積み上がっていく薬草の束の多さに思わず頬が引きつる。

「せいかいナリー」

「そろそろ行けそうにゃんだにゃー。そこで必要にゃのがユエにゃんの万能ポーションって訳にゃっ!
 って、リンにゃんも考えてる事は一緒にゃん?
 こっちの薬草はリンにゃんからにゃん?」

 ついついと肉球付きグローブに付いた爪先で先ほどリンが置いた薬草束を突く肉球堕天使にゃん(にゃんって付けて呼ばないと返事してくれない)

 それに苦笑を浮かべながら是を返すリン。

「まぁ、考える事は誰も一緒だな。お前らローズデヴァンが一番乗りだ。おめでとう」

「リン、お前が一番乗り……あぁ、ユエの恋人である自分は別枠って事な。
 へぇへぇ相変わらずお熱いこって」

 熊吉さんがニヤニヤとこちらに視線を送るので、恥ずかしくなってカウンターに置かれた薬草束に視線を落として熊吉さんの視線から逃れた。

「なんだ熊吉のおっさん。やきもちか?
 それにしても、その見た目でクラン名が洒落たフランス語とか相変わらず似合わねぇな」

「けっ! ほっとけ!
 もしかしたら中の人はおフラーンスでトレビアーンな人間かもしれないだろ?」

「ないな」

「にゃいにゃい」

「ないナリよ」

「お前らひでぇな」

 そんなやり取りに思わず笑いが零れる。

「大体、どんなにキャラ設定しといても、人間本性が出るもんだ。
 熊吉のオッサンの粗野さは、生来のもんだろ。
 猫娘だって、戦闘中ピンチになると『にゃ』付けるの忘れて悪態付いてるしな」

「それは言わにゃい約束にゃっ!!」

 したり顔でそんな事を言うリンに、肉球堕天使にゃんが肉球付きグローブの爪を立ててシャーと威嚇する。

「ふふっ」

 そんな肉球堕天使にゃんの仕草に思わず笑みが零れる。

「うにゃにゃん」

 私の笑いにつられたのか、皆も笑い出す。
 本当にこの世界は楽しい。
 もちろん、辛い事だって色々あって、引きこもりの私以外の皆は常に死と隣り合わせだけど、それでもあちらの世界よりよっぽど息がしやすい。

「……かえりたくないなぁ」

 ぽつりと口の中で転がすように呟いた言葉は、皆に聞こえなかったはずなのに、いつの間にかリンに握られていた指先にぎゅっと力が込められた。

「そいや聞いたか? チーターの噂」

「……あぁ、初期装備でラストダンジョンに現れたとかなんとか」

 一頻り笑いあった後、ふと真顔で熊吉さんが告げた。

「でもチーターなんてどうやって……?」

 二人の会話に思わず首を傾げる。
 閉ざされたこの世界にそんなモノが存在できるのだろうか?

「ま、あくまで噂だし、チーター本人と言葉を交わした奴もいないから、本当に存在しているかも怪しいんだがな」

 首の後ろを掻きながら熊吉さんがそう告げると、顔を顰めた肉球堕天使にゃんが口を開いた。

「ここまで来て今更チーターとかありえにゃいにゃっ!
 あたしたちがどれだけ頑張ってここまで来たと……っ!! どれだけのものを失ったかと……っ」

「……そうナリなぁ。今更ナリなぁ」

 悔し気に顔を歪めたままの肉球堕天使にゃんの頭を撫でつつ、遠い目をする殺気ころっけさん。

 最前線を走る彼らにすれば、数多の犠牲を払って到達した場所に、苦も無く現れた存在が許しがたいのだろう。
 特に彼らは既に大事な存在をこの世界で失っているのだから。
 例えチーターの存在によってこの世界からの解放が早まると言えども、割り切れない思いがあるのだろう……。

 しいんと静まり返った店内に、ポコポコとポットの中のお湯が沸騰する音が響く。

「……ま、何は兎も角もうすぐラスボスに挑むんだ。この世界ともとっととおさらばしたいところだな。
 とゆーわけで、すまないがユエ、ポーションの作成を頼む」

 気を取り直すように頭を振った熊吉さんが、私に視線を送る。
 それにコクリと頷きを返す。

「もちろん! でも流石に量が多いから、納品は三日後で大丈夫かしら?」

「あぁ、構わない。
 本当はユエにもボスレイド参加してほしいところなんだが……」

 ちらりとこちらを見やる熊吉さんの言葉に、ずきりと胸が痛む。
 きゅっと黒いロングワンピースの胸元を握り締めると、反対の手が再びリンの大きな掌に包まれた。

「……ごめん、それは……」

「あぁ、すまん!回復職ヒーラーはいくらいても良いって話だから、無理にとは言わねぇよ。
 作ってもらうポーション達がお前さんの代わりに活躍すっから心配すんな!
 じゃあまた三日後に来るからよ。よろしくなー」

 そう言ってにっかり笑った熊吉さんは、未だ昏い雰囲気のままの肉球堕天使にゃんと殺気さんを連れて店を出ていった。
 彼らを追いかけるようにちりんとドアベルが小さな音を立てた。
 
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