この広いセカイでもう一度貴方に出会えたら

ニノハラ リョウ

文字の大きさ
8 / 27
side M

もう離れない その7

しおりを挟む
 黒スーツの男性曰く、今回の件を引き起こした開発者・高畑氏の共同研究者だった人物が、およそ一年を掛けて、高畑氏の手によってガチガチにプロテクトさ固められていたゲームサーバへの侵入ハッキングを果たし、ゲーム内へと侵入はいり込み、ラスボスだった高畑氏の討伐に成功したらしい。

 その話を聞いて、その人物が熊吉さん達が話していたチーターだったのかなぁとちらりと思った。
 けど、会ったこともない相手に何も思うことはなかった。

 そして無事に解放されたテストプレイヤー達は、保護されていた病院で次々と目を覚ましたらしい。

 因みに、悪趣味なデスゲームが始まった段階で、テストプレイヤーの身体は指定された各病院に搬送され、ありとあらゆる生命維持の手段を取られ、手厚く保護されていたらしい。高畑氏の指示で。

 そこまで手を回すなら、そもそもデスゲームなぞするんじゃない! と声を大にして言いたい。

 更には、寝たきりとなっていたテストプレイヤーに対してそこそこの慰謝料も支払われるそうだ。高畑氏の私財から。
 どうやら開発者の高畑氏は非常に天才的な人物らしく、数々の特許を持っていて大変な資産家なのだそうだ。なので、入院費やら慰謝料やらを支払っても全然余裕らしい。

 そんな才能があるなら、そもそもデスゲームなぞ以下略。

 因みにだが、面倒ごとに巻き込まれた私を血の繋がった家族達は早々に捨てたそうだ。
 縁を切った後に慰謝料が支払われると聞きつけて、大金が手に入ると押しかけてきたらしいが、高畑氏が手配していた管財人にすげなく追い払われたとか。
 はっ! ざまぁ!

 高畑氏の手厚い保護はまだあって、寝たきりになった事による社会的な補償も適切に行われていたらしい。
 例えば会社員だったら、就業できない間の補償金が企業に対して支払われたり、目覚めた後の復職が可能なように手配されているとか。
 今回の事件で一体どれだけの金銭が動いたのかと……。

 そんな財産があるなら、そもそもデスゲ……以下略。

 因みにだが、面倒ごとに巻き込まれた私を就職先のブラック企業は早々にクビにしたそうだ。
 クビにした後に補償金が支払われると聞きつけて、大金が手に入るとクビを撤回しようとしたらしいが、これまた管財人にすげなく追い払われたそうだ。更にはこの管財人が違法な勤務形態とクビ切りを労基にチクったらしく、最早会社自体がなくなったとか。くどいかもしれないが敢えて言おう。
 はっ! ざまぁ!

 という話を徒然と聞いていると、あっという間に十五分は過ぎ去り、黒スーツの人は明日また来ますと去って行った。

 怒涛の展開に未だ動きの鈍い思考は回らず、ぽかんとするばかりだった。

 そんなこんなで、黒スーツの人との話し合いを重ね、リハビリを行い、何とか人並の生活が送れるようになったと太鼓判を押され退院する頃には、更に一年近い月日が流れていた。

 退院してからも、最早寄るべき家族も職場も無くなった私は、支払われた慰謝料にはなるべく手を付けないようにしながら、早急に生活基盤を整える事にした。
 そうして見つけたのが、あのカフェでの仕事だった。

 『ユエ』としてだったが、培った接客業のスキルは、カフェの仕事とも相性が良かった。
 何故か目の敵にしてくる同僚ユイちゃんもいたが、そんな事は些末な事で。

 当たり障りのない人間関係を築いて、穏やかに緩やかに日常を営もうと、平穏で退屈な日々がずっと続くようにと、必死に足掻いていた。
 胸の奥で燻る、あの人への想いを忘れられないままに。

 でもそれでもいいと思っていた。どうせリン以上に好きになれる人なんてこの世界現実にいないのだから。
 あの、いつ死ぬかもわからない、いつ世界が終わるかもわからない極限の状況だったから、私は私の恋心に素直になれた。
 現実の美月とは違う、そこそこ高レべの元回復職ヒーラーでそこそこ有能なポーションを作る魔女の『ユエ』として在ったから、キラキラ眩しいばかりの彼に素直に想いを告げられた。
 
 それが今はどうだろう。穏やかで緩やかで平穏で……つまらない現実の中で、私はあれほどまでに素直に気持ちを表せるのだろうか。
 ……それは否としか言えなかった。だってこの世界の私には誇れるものもスキルも何もない。だから私は……。
 結べる方が楽だからと何となく伸ばしたカラーもした事ない黒髪を、これまたありきたりな黒い髪ゴムで纏めて、そこまで悪いわけでは無い視力を矯正するありきたりな眼鏡で顔を隠して、もう二度と恋なんてできないと諦めながら現実を生きていく。


 はずだったのに……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...